竹森俊平の発言 (予算委員会公聴会)

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○竹森公述人 慶應大学の竹森俊平と申します。
 国会で発言するのは初めてで、しかも財政の問題というのは日ごろ話すことは余りないんですが、お呼びがかかりましたので、割とテーマは自由でいいというふうに聞きましたので、いろいろと話させていただきます。
 私は、非常に不勉強ですが、昨年十二月に財務省で次年度の予算の説明会があって、珍しく出席しましたけれども、そのときに財務省の方が、今回は誇りを持って出せる、自慢ですというようなことをおっしゃいました。
 そういうふうにおっしゃるのは、ある意味ではわかって、それほど違和感はなかったんですが、ただ、予算が本当によかったかどうかというのは、ある意味では事後的にわかる。本当は結果の数字を見ないとわからない部分がありますから、そういうことも含めてきょうはお話をしたいと思うんですね。
 恐らく財務省が自信があると言ったその理由というのは、一般会計は六・三兆円ですか、増加したんですが、しかし、新規国債の発行を二・四兆円削ることができた。安倍政権ができた二〇一二年度と比較して、十兆円近く削れている、減額できているということだろうと思います。
 その理由を考えてみると、税収増が非常に大きいわけであります。これはちょっと日経からとった数字ですけれども、一二年度決算から十三・六兆円ふえていて、一四年度の消費税八%の増税効果を除いても七・三兆円の増収がある。これがポイントだというわけですね。
 事後的に誇れるものになるかどうかというのは、この税収についての予想というのか、それから、成長についての予想がどうなるか。政府の予想というのは、二十八年度が、GDPの実質が一・七%程度の成長で、名目が三・一%程度の成長だという予想ですけれども、それが実現できるかどうかということだろうと思います。
 私は、先ほど、本当に武田さんが見事に全てを網羅した説明をしていただきまして、基本的に私は全てその点に賛成ですから、それほどつけ加えることはないんですが、やはり円安の効果というのが大きかっただろうと思います。
 一ドル八十円から一ドル百二十円になりますと、一ドル分売って五〇%手取りがふえるわけですね。まず、企業収益が膨れ上がるわけです。その企業収益が賃金に回るようになれば、賃上げになって、これでデフレが終わるし、一番大事なことは、先ほど武田さんもおっしゃいましたけれども、設備投資に回るようになれば、これで成長率が高くなるわけですね。それで低成長を抜け出られる。これまでのところ、一応そういうシナリオ自体はできてきたんだろうというわけですね。
 ところが、ちょっと済みません、急いで書いたのでいいかげんなレジュメを配りましたけれども、今の問題というのは、円高が進行している。けさ見ましたら百十一円まで進行したみたいですけれども、一体これがどうなるかということが非常に大きいわけです。
 つまり、今までの好循環というのは、円安、企業収益の増加、それが賃上げもしくは投資の増加につながる、そういうサイクルであったものが、その一丁目一番地である円安というのが消えてなくなると、このサイクル自体が消えてなくなる危機があるということであります。
 昨今の円高というのは、私は、多分に外的要因が大きくて、政府が放置しているとかいう問題ではないんだろうと思います。これは、一言で言って、セーフヘイブン効果ですね。これは何と日本語で訳すのか、安全地帯と訳すんでしょうか、安全地帯効果というのがあるわけです。日本はセーフヘイブン効果というのが物すごく強いんですね。
 ちょっと一つ例を挙げますと、二〇一一年の三月の地震、津波、原発事故、これが重なったとき、皆さん覚えていらっしゃると思いますけれども、私は、あれが起こったときは、さすがに日本もだめになるから円安が進むだろうと思ったら、何が起こったかというと、史上最高の円高になったんですね。これは一種のセーフヘイブンというか、要するに、何か問題が起こるとそれをカバーする仕組みがあって、この場合は、企業が外国にためている資産を日本へ持ってくるわけですね。ドルを円に直すわけですから、それでばあっと円高になるというような、そういう効果があったわけです。
 そういうことがあって、これからこのセーフヘイブン効果がどうなるかというのは、先ほど武田さんも挙げましたような要因で、三つ、世界的な要因として注目すべきなのは、今まで世界の鉄の半分をつくっていた中国が減速し出して、そうすると、資源とエネルギーの消費が減るので新興国が困っているというのが、これが第一ですね。それから二番目に、どうも怪しくなってきたなというので、米国連銀が利上げするはずだったのがしなくなっている、これが二番目ですよね。それから三番目が、金融規制を強化したんですが、ちょっと進め過ぎたためにアメリカやヨーロッパの銀行がちょっと困っていて、その影響が出ているわけです。
 このどれをまとめてみても、中国が一番大きな要因なんですが、ここで中国が成長率が下がると、これは国家の存亡問題ですから、そうはしないだろう。中国さえ何とか乗り切れれば何とかなるというのが私は割と現実性が高いシナリオだと思いますけれども、ただ、ヨーロッパでは、もう金融政策も財政政策も目いっぱいやっていて、もう一回危機が起こったらちょっと打つ手がないかもしれないというようなことを心配していますので、下振れは大きな問題。
 今後、円高が進んでいる一因として、日銀が、量的緩和もマイナス金利も、これが目いっぱいだろうというふうにマーケットが予想しているところがあるわけですね。これが、さらに一歩を打ち出せるかどうかというのが非常に大きな問題で、日銀の役割は非常に重要だと思います。
 これは武田さんがおっしゃったことをもう一回私も後づけ的に言うわけですが、これだけ不安があると、設備投資が本当に盛り上がるかどうかということですね。それは、減税策とかいろいろやっているけれども、一番大事なのはやはりシナリオであって、投資をするシナリオが頭の中に浮かばなければ企業は投資しない、それはどうだろうかという問題であります。
 恐らく、私がお呼びをかけられたのは、消費税のことに関して何か書いたのを読んでいただいたということを公明党の方から言っていただいたので、ちょっと消費税のことについてお話ししたいと思います。
 日本の財政状態は先進国で最悪だということはよく知られていますけれども、戦争以外の理由でこれだけ公債残高がGDPに対して上がったという例は余りないんですね。イギリスは、二〇〇%になったのが十九世紀に一回と二十世紀に一回ありますけれども、それはどっちも戦争が理由なんです。戦争以外でこれだけ上がったというのはないわけです。戦争で上がった場合は、要するに、戦争をやめれば大分楽になりますから簡単なんですけれども、戦争以外でこれだけ上がっているものをどうするかというのは大きな問題なんです。
 それで、消費税増税ということを今議論されていて、これからも議論されていくんだろうと思いますけれども、しかし、それが財政状態の改善につながるかどうかというところで、一つキーポイントになるのは財政乗数なんですね。財政乗数がどうか、ここに尽きると思うんです。
 IMFなんかが、ある国の財政状況が持続可能かどうかということを見るために、公債残高とGDPの比率を見ます。これから公債残高比と呼ばせていただきますが、それを見ます。その二つをつなぐものが財政乗数でありまして、今、十兆円公債残高を減らしたとして、それで十兆円GDPが減った場合、これは財政乗数が一であります。同じだけGDPが減るというわけです。
 財務省や何かの議論では余り出てこないんですが、この間、IMFのセミナーがあったときに行って、日本について財政乗数はどれぐらいと考えているのかと聞いたら、すぐ教えてくれて、公共事業で一だろう、消費税は三分の二と見ていたけれども、ちょっとそれは少なかったと今反省しているというようなことを言うわけですね。
 一と聞いたときに、私はちょっと落ち込んで、二週間、ちょっと暗い気持ちになったんですけれども、何でかということを考えてみると、今、簡単な経済を考えてみて、GDPが百兆円、公債残高が二百兆円で、比率をとると、二、二〇〇%という経済があったとします。
 今、公債残高から十を取ると、上は百九十になります。GDPからも十を取ると、九十になります。九十分の百九十というのは、九十の二倍は百八十ですから、二より大きいわけですよ。つまり、その場合、財政再建をしようとして、かえって公債残高比は高くなっちゃうという問題があるわけですね。
 私は、最近の財政学者の議論を見ていて、私は財政学者グループには属していないので、彼らがどんなことを言っているのか見たんですけれども、ちょっと疑問に思ったのは、彼らは公債残高比が一〇〇%より低い国の経済を考えて議論をしているんじゃないかと思うわけです。
 アメリカでもイギリスでも、かなり性急な財政再建をやりましたけれども、どちらも、アメリカもイギリスも、公債残高比は一〇〇%より低いですから、たとえ財政乗数が一でも公債残高比を減らせるわけですよ。ところが、今挙げた数値例でわかると思いますけれども、日本の場合は二倍以上ですから、〇・五でもうだめなんですね。
 ということは、いろいろな議論が出ていて、いつまでに財政支出をどれだけ削るとか、いつまでに何々をしろとかいう議論が出ていますけれども、それをやって大事なことは、公債残高のGDP比がどうなのか。
 まず、IMFが債務の持続性を言うときにこれを見ます。それから、今、ヨーロッパで新財政協定を言うときもそれを見ます。日本でも当然それがまず議論されるべきだし、二番目に、その際に財政乗数についてどういう仮定をしているのかということを明らかにするべきだ、今後の議論はそうなってくるべきだ、それをちょっと一つ言いたくて、きょう来たようなわけであります。
 それから、最後の点として取り上げたいのは、軽減税率であります。
 私がこの間どなたかと話したら、経済学者の何と九割が軽減税率反対だということで、私のような者は仲間内に入れてもらえないのかもしれませんけれども、恐らく公明党さんが呼んでくれたのは、日本で珍しく軽減税率に賛成している経済学者というので呼んでいただいたのかもしれません。
 ただ、私はへそ曲がりなので、いろいろ読んでみて、まず、財政の理論で、消費税についての理論で、一番基本的で、どんな教科書でも一番出だしに書いてあって、今でも一番基礎になるものは、フランク・ラムゼーという経済学者が一九二七年に書いた論文にあるものです。
 彼のルールというのはラムゼー・ルールといって、恐らく公務員試験とかにそれぐらい出てくるんだろうし、いろいろな人をつかまえて、ラムゼー・ルールを言ってみろと言ってみれば、それは消費の弾力性の逆数だろうとか、それぐらいはみんな知っているんですね。
 ところが、私はいろいろな人に聞いてみたんですが、何でラムゼーは一律税率を否定したのかということを聞いてみて、答えられる人は少ないんですね。恐らく、日本の経済学者を全部試験してみたら、ちゃんと答えられる人は一%いないんじゃないかと思います。恐らくそれが、九割が軽減税率反対だという理由なんだろうと思います。
 ラムゼーが何で一律税率を認めないかというと、我々は消費をするということもある、その反対に、何にもしないでだらだらしているということがあるわけですよ。ごろんとうちの中で寝ているということがあるわけですよ。これを経済学でレジャーというんですけれども、レジャーを選ぶことはできる。消費については課税をすることができるけれども、ごろっとして何もしないことに対して課税できないというんですね。
 ラムゼーのすごいところは、もし仮に、何もしないことに課税できたらどうなるか。そのときは一律税率がいいんですよ。いいですね。ところが、もし何もしないことに対して課税できないならどういうことが起こるかというと、もし消費税がかかると、一部の消費はごろごろしていることに取ってかわられるわけですよ。
 例えば、ごろごろしていても、おなかはすきますよね。だから、食品が代替されるということは余りないんですね。食事が代替されるということはない。だけれども、映画に行くとか美術館に行くとか本を読むとかいうのは、これはごろごろしていることと簡単に代替できるわけですよ。
 ラムゼーに言わせると、そういうものに消費税を同率で課すと、つまり食品と同率で課すと、そういうものは消費がうんと減ってしまう、それが経済に対するゆがみをつくるというのが彼の基本的な考えなんですね。恐らく、そのことをわかっている経済学者は、日本の中で一%もいないと思います。
 ラムゼーの結論というのは、だから、食品に対しては高い消費税率で、趣味、芸術に対しては低い税率をということなんですけれども、そのことを日本の財政学界はどう扱うかというと、見てごらん、これは逆進的な意見だろう、食品に税率をかけるというのは逆進的だろう、累進性を考えたらこれは間違っている、だけれども、累進性とラムゼーと、間をとって、二で割って、では一律税率だったらどうだ、そういう理屈で一律税率を進めているというのが財政学者の考え方なんですね。
 私は、めちゃくちゃな議論だと思います。よく考えてみたら、何でそんなことが今までまかり通ってきたのかと思うぐらい、めちゃくちゃな議論だと思います。
 今、消費税の軽減の中に、新聞と、本が入るかどうか、書籍が入るかどうかですよね。書籍と新聞について見ますと、これは代替されるものとして、ごろごろしている以外にも、もっと強力なものがあるわけです。それは何かというと、スマホであります。皆さんは、みんな、何か最近、本を読まないでスマホをして、スマホをしているから本を読む時間がないんだねと、そうじゃないんです。スマホで情報がとれるんです。スマホで情報をとるときにはただだと思っていて、本を買うと消費税まで払わなきゃいけないんですね。
 最近、自民党の松島さんのブログを見ていたら、何か、林真理子さんが、本が本当に売れない時代になった、急に売れなくなったということを書いているわけですね。それは、無料な媒体と比べて有料な媒体が非常に不利になった結果、本屋に行ったって、千五百円を超える本なんか全然置いていないです。このまま二〇%いったら、本当に本なんかなくなりますよ。本棚に何もなくなる。
 それで、何が起こるかというと、その場合は、スマホや何かの情報ですけれども、これは広告収入でファイナンスされている情報だけが行くことになるんです。広告収入でファイナンスされるというのはどういうことかというと、結局、スポンサーは、アクセスの多い情報は喜ぶけれども、少ない情報は喜ばないわけです。ですから、真面目な議論というのは全部消えてなくなって、それで本当に、ベッキーがどうだとか清原がどうだとかいう情報ばかりが出回るような世の中になると思います。
 この点はぜひ議員の方々に真剣に考えてもらいたい。それは、面倒くさいからというので消費税率を一律にして、たとえ本がなくなったとして、ああ、日本人は勉強しないからしようがない、我々のせいじゃないと言うことはできるかもしれないけれども、明らかに消費税の効果はあると思っています。
 一律税率を原則としないのであれば、それ以外のいろいろな考え方もあると思うんですが、例えば食品にしても、低所得者にとっては食品の比重が大きい。ということは、食品の費用が大きくなった場合どうなるかというと、それは貯蓄を減らすか、ほかの消費を減らすかですよね。貯蓄を減らすのは余り減らせないから、となると、ほかの消費を減らすということで、結局それも書籍に行くんだろう。本なんか読めないよ、俺は貧乏人で、食費も上がったから、本なんか読まないよ。結局は、やはり日本の文化の問題につながっていくと思うんですね。
 ということで、私は、これは日本みたいな文化国はやはり真面目に軽減税率を取り上げるべきで、フランスもドイツも文化予算については軽減税率を認めているということを最後に言いたいと思います。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 竹森俊平

speaker_id: 33101

日付: 2016-02-24

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会