川出敏裕の発言 (法務委員会)

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○参考人(川出敏裕君) 皆様、おはようございます。
 まず最初に、このような機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
 私は、今回の法案の基となりました答申を決議しました法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会に幹事として参加をいたしましたので、特別部会の議論を踏まえまして、法案に賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。
 また、時間も限られておりますので、本日は、通信傍受法の改正案に絞ってお話をさせていただきます。
 今回の改正案の主たる内容は、通信傍受の対象犯罪の拡大と、通信傍受の手続の合理化、効率化です。
 まず、対象犯罪の拡大の点ですが、この当否については、それが憲法上許されるのかという観点と、仮に合憲であるとしてその拡大に合理性があるのかという二つの観点から考えてみる必要があると思います。
 まず第一の点ですが、これは、通信傍受が通信の秘密やプライバシーを侵害するものであることから、それが憲法十三条及び二十一条二項に反しないと言えるためには、それに見合うだけの重大な犯罪でなければならないという観点から問題とされるものです。
 通信傍受法の制定前に検証許可状によって電話傍受したことの合憲性が問題とされた事件において最高裁は、電話傍受は一定の要件の下では捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであるとした上で、それが憲法上許容されるための要素の一つとして、重大な犯罪に係る被疑事件についてなされたものであるということを挙げていました。この決定は覚醒剤の営利目的譲渡事件を対象としたものでしたので、判例上は、覚醒剤の営利目的譲渡は電話傍受の合憲性を認め得る重大な犯罪であるという立場が取られていることになります。
 通信傍受が合憲であるためには対象犯罪が重大なものでなければならないとする考え方は、通信傍受法の下においても同様に妥当します。
 そして、通信傍受法は、判例上合憲性を認め得るとされた覚醒剤の営利目的譲渡を含む現在の四種類の犯罪は、この意味での犯罪の重大性を満たすものだという前提で制定されたものであるわけですから、そうだとすれば、少なくとも、これらの罪に匹敵するような重大性を持った犯罪に対象を拡大したとしても合憲と言い得ることになります。
 そして、この意味での犯罪の重大性は、要は、通信の秘密やプライバシーの権利を制約しても、その事実を解明し、犯人を処罰すべき必要性が認められるかどうかによって決まるわけですから、重大な犯罪に当たるか否かは、罪名や法定刑だけで判断されるものではなく、その犯罪が国民の権利利益を侵害する程度が大きいかどうかという観点から、その社会的有害性や危険性をも考慮して判断されるべきものだと言えます。
 その観点から見ますと、今回対象犯罪として加えることが予定されている罪は、いずれもそれに見合ったものであると言えると思います。これは、暴力団によってその意に沿わない行動を取る一般市民を標的にその生命、身体に対して危害を加えられる事案はもちろんのことですが、多数の国民の老後の蓄えを奪うような振り込め詐欺の事案、さらには、児童の心身に計り知れない危害を及ぼす児童ポルノの組織的な製造、提供事案などが、侵害される権利利益の性質やその侵害の程度から見て、薬物の密売事案と比べて重大性に劣るということは到底言えないと思います。
 もっとも、例えば窃盗や詐欺などについては、その罪名だけからはこの意味での重大性を持たない軽微な事案が対象に含まれる可能性があります。そこで、改正法案では、重大な犯罪が対象であることを明確にするため、新たに対象犯罪に加えられる罪については、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものという組織性の要件を付加しています。
 特別部会における議論では、こういった要件を付加しなくても、数人共謀の要件と補充性の要件を満たす場合というのは、実際には組織によって行われるものに限定されるのだという意見もありました。現実にはそうであるのかもしれませんが、しかし、そうなるという保証はありませんので、それを法律上も担保するためにこの要件が入ったという経緯がございます。
 他方で、これだけでは組織犯罪に限定するには不十分であり、例えば組織的犯罪処罰法でいう組織や団体の定義を適用すべきだという意見もありました。しかし、組織的に行われる犯罪の中には、ここでいう組織や団体の定義には当てはまらない形態もありますし、また、改正案の組織性の要件というのは、捜査機関として傍受令状を請求する時点で疎明ができるぎりぎりの線を規定したものです。したがって、これ以上のことを要求すると傍受制度自体が機能しなくなるおそれがあります。また、実際問題としても、単発に行われる共同正犯のような軽微な事案を外すという点からは、今回の改正案の要件で十分であろうと思います。
 以上のように、今回の対象犯罪の拡大は憲法に適合したものであると言えると思いますが、その上で、次の問題は、現行法が四種類の罪に限定していることとの関係で、対象犯罪を拡大することに合理性があるのかということです。
 現行法上、対象犯罪が四種類の罪に限定された経緯を見ますと、政府提出法案では、一定の重罪と組織的に敢行されることが多い犯罪を広く通信傍受の対象としていたのですが、その時点では通信傍受制度を導入することへの反対論が強かったということもありまして、国会審議において、その当時の犯罪情勢に照らしてこの捜査手法が必要不可欠と考えられる最小限度の範囲に限定されたという経緯をたどっております。四種類の罪の中に、その当時深刻な問題とされていた集団密航が含まれている点にそれはよく表れています。
 そうであるとしますと、その後の犯罪現象の変化を踏まえて、既存の対象犯罪に匹敵するだけの必要性が認められる犯罪を通信傍受の対象に加えることは十分に合理性が認められるはずです。そして、振り込め詐欺事案を典型として今回対象犯罪に加えるものとされている罪については、現時点において、この意味での必要性が認められると言えると思います。
 以上が対象犯罪の拡大の問題です。
 次に、通信傍受の手続の合理化、効率化の方に移ります。
 現在の通信傍受は、通信事業者の施設で事業者の立会いの下にリアルタイムで行う形になっています。このことが捜査機関、事業者双方にとって大きな負担となっているということが特別部会のヒアリング等でも紹介されました。そして、負担が大きいということだけならまだしも、それが通信傍受に対する事実上の障害となっているとの指摘もなされています。例えば、深夜に傍受を行うということは立会人の確保という観点から困難であることは容易に想像が付くところですし、ましてや、二十四時間体制で傍受を行うのは事実上不可能です。また、傍受を行う場所の準備や立会人の確保のためには、捜査機関と通信事業者との間での協議と通信事業者側の準備期間が必要となりますので、緊急に傍受を行う必要が生じたとしてもそれには対応できないということになります。
 こうした点を考えますと、これまでは、本来傍受できたはずの犯罪関連通話が傍受できないままに終わっていた例が少なからずあったものと推測されます。しかし、傍受の必要性があり、かつ法律上の要件が備わっているにもかかわらず事実上の理由から傍受ができない、実施できないというのは適当ではありませんので、それに対しては何らかの対応をする必要があると思います。
 これに対しては、他方で、通信事業者の施設で事業者の常時立会いの下にリアルタイムで傍受を行うことが必要とされていることにより運用上通信傍受の実施が抑制され、そのことが補充性の要件を担保してきたのであるから現在の制度を維持すべきだという意見もあります。
 しかし、通信傍受法で求められている補充性の要件というのは、通信傍受以外の捜査方法によっては犯人の特定や犯行状況、内容の解明が著しく困難であるということを意味していまして、事実上の制約から実施を差し控えることは補充性とは全く関係がないことです。この意見は、傍受の実施は少なければ少ないほどよいという考え方を背景として、誤った要件解釈を行っているものと言わざるを得ないように思います。
 そこで、さきに述べた問題を解決する必要があるわけですが、今回の改正法案では、そのために、大きくは三つの点で新たな傍受の仕組みを設けるものとしています。第一に、一時的保存による傍受の仕組みをつくり、捜査機関がリアルタイムではなく一旦保存された通信を事後的に再生していくことができる形も取れるようにしています。それから第二に、通信事業者の施設で傍受をするのではなく、通信事業者から通信を送信させ、捜査機関の施設でそれを傍受することができる形を取り入れています。第三に、特定電子計算機を用いた捜査機関の施設での傍受については、それを立会いなしで行うことができるものとしております。
 こうした三つの新たな傍受の方法を導入することについては、それぞれに問題となり得る点がございますが、ここでは、最も多くの懸念が表明されています最後の立会いなし、立会人なしの傍受の問題について意見を申し上げたいと思います。
 通信事業者による立会いをなくすことについては、これにより不適正な傍受がなされるのではないかという懸念が表明されております。この点につきましては、そもそも現行法の下で立会人にはどのような役割が期待されており、それが今回の新たな仕組みによって代替し得るのかということが問題となります。
 立会人の主たる役割は、通信の外形的な状況についてチェックすることです。具体的には、第一に、傍受のための機器を接続する通信手段が傍受令状により許可されたものに間違いないのかどうか、第二に、傍受令状により許可された傍受ができる期間や時間等が遵守されているか、第三に、傍受すべき通信か否かの該当性判断のための傍受、いわゆるスポット傍受が適正な方法で行われているか、第四に、傍受をした通信について全て録音がなされているか、この四つの点がチェックの対象になります。
 これが今回取り入れられることになる新たな仕組みによって代替できるのかということですが、まず、一点目と二点目については、新たな仕組みの下では通信事業者が傍受令状によって許可された傍受実施期間内において令状で対象とされた通信手段を用いて行われた全ての通信を暗号化した上で捜査機関の施設にある特定電子計算機に送るということになりますので、これは、通信事業者自身によってこの二つの点の適正は担保されることになります。
 それから四点目についても、特定電子計算機は傍受ないし再生させた通信をそれと同時に全て自動的に暗号化して記録するように設定されておりますので、この点も代替し得るということになります。
 また、三点目のスポット傍受のチェックについても、特定電子計算機にスポット傍受の形でしか傍受ないし再生を行うことができない機能を装備することが予定されているというふうに伺っておりますので、これにより代替が可能となります。
 更に言いますと、現行法の下でも立会人は通信の内容を聞くことはできませんので、立会人がなし得ることは外形的にスポット傍受と思われる措置を捜査機関が行っているかどうかのチェックにとどまります。スポット傍受の適正さを担保する核となるのは、むしろ傍受の経過が全て記録されることによりそれを事後的に検証できるということにあるわけでして、この点は新たな仕組みの下でも担保されておりますので、立会人がいる場合と差異はないと言うことができます。
 以上が外形的な状況のチェックということですが、それと並ぶ立会人のもう一つの役割は、傍受の終了後に裁判官に提出する記録媒体を封印することです。この趣旨は、記録の改ざんを防ぎ、傍受が行われたか否かを事後的にチェックできるようにすることにあります。これについても、新たな仕組みの下では、特定電子計算機が傍受をした通信の全てと通信の経過を自動的にかつ暗号を掛ける形で改変できないように記録することになっておりますので、封印に代わる機能を果たし得るということになります。
 以上のとおり、現行法の下で想定されている立会人の役割は新たな仕組みによって代替し得るものと考えられますが、これに対しては、立会いには人の目があることにより捜査機関が違法行為を行いにくくなるという事実上の効果があり、立会いを廃止することによってそれが失われてしまうという批判もあります。こういった事実上の効果は法律が立会いの機能として予定したものではありませんが、立会いがそうした効果を持つ、そのこと自体はそうであろうと思います。
 そこで、立会いをなくすことによってこうした抑止効果がなくなることをどう考えるかということが問題となりますが、その前提として、こうした抑止効果、そこで抑止が想定されていた違法行為とは一体何であるのかということを具体的に考えてみる必要があるだろうと思います。
 まず、新たな仕組みの下では、そもそも現在立会いによって事実上抑止されると想定されている違法行為自体が想定できなくなる場合があります。例えば傍受期間の不遵守といったことは、これは、先ほど申し上げましたように、通信事業者が傍受令状によって許可された傍受実施期間内の通信だけを送信しますので、そもそもあり得ないということになります。
 さらに、違法行為をしても無意味となるという場合もあります。例えば、指定された特定電子計算機に他の電子計算機を接続することによって通信事業者から伝送された通信を二重に傍受するということ、これは違法であるわけですが、こういうことをやったとしても、暗号鍵というのは特定電子計算機でしか利用できないようにする技術的措置が施されておりますので、捜査機関は二重に傍受した通信を復号化することができず、そういったことをしても意味がありません。したがって、そういう違法行為というのはやらないだろうということです。
 それから、問題はそれ以外の場合ですが、例えば無関係な通信の傍受といったことですけれども、これも、先ほど申し上げましたように、傍受をした通信の全てと傍受の経過が自動的に記録され事後的に検証可能である以上、その過程で捜査機関が違法行為をすれば当然に発覚するということになりますので、そのことが立会いがなくとも抑止効果として機能するであろうと思います。
 以上のとおり、新たな仕組みの下では立会いをなくすことが不適正な傍受につながることはないという理解の下に特別部会でも合意が得られております。もちろん、それは暗号化や特定電子計算機が想定どおりに機能するということを前提とするものですので、そこが担保される必要がありますが、特定電子計算機については仕様書が公開されると伺っておりますし、さらに、改正法の下ではこうした新たな仕組みを使った傍受を行うかどうかも裁判官の審査対象になりますので、それを通じて装置等の適正さが担保されるということになると思います。
 早口でしたが、以上で終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 川出敏裕

speaker_id: 16985

日付: 2016-04-26

院: 参議院

会議名: 法務委員会