西村幸三の発言 (法務委員会)

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○参考人(西村幸三君) 私は、平成十三、四年頃から闇金融対策や振り込め詐欺対策に関わってまいりましたが、やくざ同然の闇金融業者と対峙し続けてきた中で、余りの悲惨な被害に目を覆うしかないような経験を何度も味わいました。
 法外な利息により膨大な借金を背負わされるだけではなく、その過酷な取立てから家族関係を壊されたり、身も心も追い詰められ、実際に亡くなった方もいました。また、私自身も、闇金融業者から脅迫まがいの暴言を受けたことは一度や二度ではありません。こんな理不尽な暴力がまかり通るのかと憤りを感じると同時に、組織犯罪の陰湿さ、その隠蔽性の高さも実感したのです。
 そして、このような被害を少しでも減らしたいとの思いから、携帯電話不正利用防止法の立法の必要性も訴える活動もしてきました。それでも、昨今の情勢でも被害が減っていきません。逃げ得を決め込む組織犯罪集団を上層部まで摘発し、被害を元から断つにはどうすればよいのか、私自身の経験からずっと問題意識を持ち続けてきました。
 現在、私は、日弁連の民事介入暴力対策委員会幹事も務めておりますが、本日申し上げることは、所属する組織としてではなく、あくまで個人の知見と経験に基づき、犯罪組織の壊滅のために何が必要なのか、どうすればよいのかといった観点から、主に改正通信傍受法について御意見を申し上げたいと思います。
 振り込め詐欺対策を始めとする特殊詐欺は、認知件数、被害総額共に増加傾向にあります。被害者の多くはお年寄りです。家族を思う心に付け込んで老後の資産を奪い、あるいはまだ未熟で弱い若者に恐怖心を植え付け金品を詐取するなど卑劣な犯罪で、その被害は深刻です。また、振り込め詐欺被害に遭われたお年寄りが家族から嘆かれ、叱られ、被害を申告することすらつらく、後悔でさいなまれて心が折れてしまう事例も見てきました。幸せだった老後が、お金も家族関係も奪われ、残された人生そのものが奪われてしまうのです。
 犯罪組織から追い込まれたある家族の悲劇を私は忘れることができません。知的障害を持ったお嫁さんが闇金に手を出してしまい、追い込まれましたのをおしゅうとめさんがかばい、二人で約七十件の闇金から恐喝された事例がありました。怖くて家に帰れないというので日中は私の法律事務所に居続けてもらい、励ましながら、私自身も脅迫を受けながら何日も闇金業者に電話を掛け続け、ようやく脅迫電話が止まってきたので、もう大丈夫ですよと言って帰っていただいたその翌日の朝におしゅうとめさんが脳溢血で亡くなっていました。御主人から掛かってきた電話口での号泣ばかりは、今思い出しても胸が締め付けられます。何とか救えたと思った命が救えなかった、今でも思い出すたびに無念でなりません。
 このような弱者を食い物にする振り込め詐欺等の犯行を行うグループは、リーダーや中枢メンバーを中心として、掛け子や受け子など役割を細分化して分担し、組織的に犯罪を敢行しています。出し子や受け子などの末端のメンバーであれば、現金の受渡しの場面やATMでの引き出しなどの場面である程度被疑者を割り出すことは可能でしょう。しかし、彼らは上位者から口止めされていたり、そもそもグループの構成やリーダーを把握していないこともあるため、このような末端被疑者が判明したからといって犯行グループの中枢の関与までが判明することは非常にまれなことです。摘発という点でも被害回復という点でも、組織犯罪の中枢が捜査の追及を逃げ切ることで多くの被害者は泣き寝入りしてきたのです。犯罪組織によるトカゲの尻尾切りがまかり通ってしまっている現状には大変理不尽さを感じます。
 次に、暴力団犯罪という観点でお話しします。
 御存じのとおり、暴力団は、その威力を背景として経済的利益を追求し、様々な不法、不当な活動を行っています。最近では山口組が分裂したことにより対立抗争と思われる事件も頻発していますし、過去には暴力団排除活動に賛同した事業者襲撃事件も発生しており、その存在はまさに国民生活の平穏や安全を脅かすものです。
 私は、平成七年に発生した山口組と会津小鉄との対立抗争事件で警察官が射殺された事件、いわゆる藤武事件の遺族代理人として、暴力団組長に対するいわゆる使用者責任を求める訴訟に原告側弁護団の一員として加わってまいりました。
 この訴訟は、最終的には高裁、最高裁で勝訴いたしましたが、地裁では敗訴しており、まさに薄氷の勝利と言えるほど暴力団幹部に民事上の責任を認めさせるのは困難なことでした。擬制血縁関係に基づく絶対的な服従統制など強固な組織性の下、上層部からの指揮監督や組員同士の連絡は携帯電話などを隠れみのにして行われ、機動的かつ隠密裏に組織犯罪が遂行され、末端組員は上層部の組織的関与を一貫して否認します。関与が隠蔽される中で暴力団上層部に対する責任を立証することは極めてハードルが高いのです。
 我々原告弁護団は、暴力団の強固な組織性や指揮監督関係の立証に大変苦しみました。証拠の優越によって判断がなされる民事訴訟においてすら、膨大な資料を一つ一つ積み上げ、暴力団という特殊な組織性、事業性を立証してようやく使用者責任を認めさせることができたのですから、刑事事件の立証となれば、そのハードルは更に高くなることは必至です。現に、襲撃事件や抗争事件における暴力団幹部の刑事責任の追及は余り進んでいないとも聞いています。
 今回の改正で傍受の対象となる殺傷犯、窃盗、詐欺などの新たな罪種については、現行法上も規定されている厳格な要件に加えて更に組織要件が課されることとなっており、組織犯罪に焦点を絞った改正と理解します。
 弁護士としての活動を通じて、国民の多くは、振り込め詐欺などの被害がない、暴力団から平穏な生活が脅かされない生活を望んでいることを痛感しております。地元府警の捜査員からも、振り込め詐欺や暴力団関連事件での捜査で組織実態を解明する捜査の困難性を伺ってきました。振り込め詐欺グループや暴力団が通信手段を隠れみのに利用して、その実態の隠蔽を図りつつ組織的に犯行を繰り返している以上、組織犯罪捜査に通信傍受を活用し、その実態を解明することが被害の撲滅につながると考えております。
 弁護士の中には今回の通信傍受の拡大について反対意見を主張される方も多く、その内容もおおむね承知しております。もちろん、制度の運用においては、今後も引き続きその運用の適正性に関する検証を続けることは大切だと思います。
 とはいえ、例えば中高生の万引きにも通信傍受が適用されるといった情緒的批判も目に付きました。倉庫荒らし、商店荒らし、事務所荒らしといった侵入盗の被害のすさまじさは大変なものがありますし、そういった組織窃盗団の犯行の組織性、隠蔽性に照らせば、通信傍受の対象罰条に組織的な窃盗を加えることには十分な根拠があると思います。
 しかしながら、中高生がする万引きで組織的窃盗団が見せるような強い組織性や隠蔽性を持っていたり、活動の広域性を持っていたりすることはほとんど考えられず、通常の捜査方法では共犯関係などの解明が困難と言えるほどの事件はほとんどないか、あっても極めてまれでしょうから、通信傍受の法定の要件である補充性の観点から裁判所が令状を出さないのではないかと思いますし、それ以前に、捜査機関がわざわざ捜査方法として大掛かりな通信傍受を選択しないと思われますから、中高生の万引きに通信傍受という批判は、的外れで現実的ではないと思います。
 本論からは余談となりますが、万引きについて、たかが万引きともう言わんばかりに引き合いに出されることに私は大変強い違和感がありまして、万引きが町の商店の方たちにとって大変に深刻な被害をもたらしているという現実は是非御理解いただきたいと思います。
 例えば、書店の経常利益率は、最近の書店経営指標という統計では平均一%をかなり割っています。つまり、一冊万引きされてしまえば百冊以上余分に売り上げないとその損を取り戻せません。一方、平成十四年十月と少し前ですけれども、経済産業省の統計では、書店の売上げに占める万引き被害額の割合は推計で一%から二%に上ります。そのほかの資料でも似た数値が出ており、漫画や写真集の被害が多いとされています。つまり、万引き被害で利益が吹き飛んでいるわけです。
 万引きで店が潰されてしまうというのは、町の書店から実際に上がっている悲痛な叫び声です。書店のみならず、スーパー始め町の商店での万引き被害も深刻だということも、被害を受ける側がどれだけ苦しめられているのかという目線でよく御理解いただきたいと思うのです。私自身も弁護士として刑事弁護事件を真摯に扱ってまいりましたが、犯罪を行う者が適正かつ効果的に検挙され、被害をなくせるような法制度を築いていくことが、弁護士法一条にも言う人権擁護と社会正義の実現にとって大切なことと考えます。
 少々話は変わりますが、平成十六年、私は、米国におけるテレマーケティング対策、通信手段利用詐欺対策について訪米調査を行う機会がありました。その際、日本で機運が高まっていた携帯電話不正利用防止法のアイデアを話題にしたところ、米国の捜査官から、日本では通信傍受ができないから犯罪に使用された携帯電話を止めるという発想になるようだが、米国なら通信機関はその携帯電話を傍受する、そうして組織の実態を解明し、犯人たちを検挙すると言われました。
 通信傍受に対する批判の中に、通信傍受は犯罪検挙の役には立たないから反対だという批判もありますが、これは批判としては当たらないのではないかと感じます。
 被害者と向き合う立場としては、日本と米国との法制度の違いにより犯罪組織への追及の強さに差が生じてしまうことにはじくじたる思いがあります。法制審議会においても諸外国との比較調査があったと承知しております。例えば、先ほども例に挙げたアメリカでは、対象犯罪も百以上、組織要件は設けられておらず、年間実施件数も約三千六百件に上ると聞きます。このように、通信傍受が捜査手法としての有用性も認められ、高く評価されており、米国以外の諸外国と比較しても、日本での今回の改正は、慎重と評しこそすれ、安易な拡大という批判も当たらないと考えています。
 さらに、新制度における通信傍受では、暗号技術を活用し、記録の改変等ができない機器を用いるなどの技術的措置が講じられ、これを通じて通信傍受の合理化が図られているものと理解しております。十分な強度を有する暗号技術は、近年の国際商取引などの基盤ともなる信頼性の高いものです。通信事業者の立会人がなくなることについて懸念を示す意見も承知しておりますが、暗号などの技術は十分に信頼に足りるものとして既に広く実用化されていますし、機械的なシステムにより人為的な管理ミスが防止され、事後検証の客観性も含め、少なくとも現行制度の立会いと同等の手続の適正性が担保されると考えています。
 また、通信傍受の合理化は、現状の通信事業者や遠隔地の捜査機関の過大な負担を軽減し、機動的、効果的な通信傍受捜査の実施につながるものです。貴重な国民の税金を限られた資源として使う上で、合理化できるところは合理化し、信頼できる技術は活用すべきです。犯罪集団の側が高度に発展した通信手段を利用して犯罪を遂行している現実がある以上、摘発する側の法執行機関もまた時代に即し法制度を整備していかなければ立法のサボタージュとなってしまいます。
 繰り返しますが、私自身、弁護士としての活動を通じて、振り込め詐欺や暴力団犯罪の被害に遭わない平穏な生活の実現を国民が切に願っていることを実感しており、組織犯罪捜査に通信傍受をより積極的に活用していく必要性も高まっているのではないかと感じております。諸外国の状況も踏まえ、自白に過度に頼らない捜査の在り方を目指す一連の改正の中で、今回の通信傍受法の改正は時宜を得たものと考えております。
 以上です。

発言情報

speech_id: 119015206X01020160426_005

発言者: 西村幸三

speaker_id: 15446

日付: 2016-04-26

院: 参議院

会議名: 法務委員会