林健二郎の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(林健二郎君) おはようございます。林でございます。
 本日は、このような機会を頂戴いたしまして、感謝しております。よろしくお願いします。
 平成二十八年度予算案を支持する立場から、予算案の評価を含めて、経済の現状と展望について、課題等について御報告申し上げたいと思います。
 日本経済は、御案内のとおり、アベノミクスの効果で回復に転じましたが、ここに来て、足取りが鈍っているようであります。主な原因は二つあります。一つは、世界貿易が縮小して我が国の輸出が減少していること、第二は、予想以上に消費税引上げの影響によって消費が停滞しているからであります。
 まず、輸出減少の背景として世界経済をどう見るかということについて御説明させていただきます。資料を御覧ください。
 先月末のG20財務相・中央銀行総裁会議で金融、財政、構造改革の政策総動員ということが合意されたわけでありますが、リーマン・ショックから九年間、九回の会議を振り返りますと、御案内のとおり、様々な対策を実施してまいりましたが、依然不安定な状況が続いているということであります。
 第一回会合では、金融、財政など政策総動員を決めまして、それによって金融危機を回避はいたしましたが、その結果、先進国の中央銀行のバランスシートが膨張し、中国は膨大な過剰設備を抱え、資源国は原油の供給過剰という三つの過剰を抱えて、リーマン・ショックの後遺症が依然残っているという状況であります。昨今、中国の経済についてその失速が懸念されておりますが、先進国も一%程度のGDPギャップを抱えておりまして、依然デフレから脱却できていない状況と考えられます。
 まず、アメリカでありますが、昨年の十二月、金融正常化に向けて利上げに踏み切りましたが、雇用と物価は依然改善道半ばでありまして、なお一%以上の需給ギャップを抱えております。
 問題は、利上げを織り込んでドルが四割高騰したことでありまして、その結果、景気が減速しております。これまで、ドルが四割、実効レートでありますけれども、四割以上高騰して景気が失速しなかった例は過去にございません。この点で、ドル高はアメリカ経済のみならず世界経済にも深刻な影響を与えることでありますので、今後のアメリカの金融政策の運営に当たっては十分な配慮が求められるところであります。
 次に、中国でありますけれども、四兆元の財政出動の後遺症で膨大な過剰設備を抱えているわけでありますが、稼働率から見て、現在の過剰設備の解消には十年以上掛かりそうであります。今回、全人代で第十三次五か年計画が発表されまして、供給サイドの構造改革を推進すると同時に、財政金融政策で景気の下支えをしようとしておりますが、貿易が急減少しておりまして、人民元レートのある程度の切下げが必要と見られますので、為替投機等を回避しながら経済のソフトランディングを果たすのはなかなか容易ではないというふうに考えられます。
 原油価格につきましては、一年半の間に約百ドルから二十ドル台に、四分の一に暴落いたしましたが、過去四十年間の動きから見て、ほぼ大底に達した模様であります。今後、緩やかな回復が予想されますが、膨大な過剰設備を抱えておりまして、原油の低価格時代はしばらく続きそうであります。
 とはいえ、光もございます。景気の先行指標である世界主要四十五か国の通貨供給量は昨年九月にプラスに転じまして、今年一月は前年同期比で三%程度の回復に転じた模様であります。世界の通貨供給量は、世界のGDP、世界貿易及び国際商品市況とかなりの相関関係がありますので、通貨供給量が増えれば、やがてGDPも増え、世界貿易も回復し、国際商品市況の底入れも可能であると考えられます。
 原油価格が大底を打ち、ドル高もそろそろ転換点に来ているのではないかと思われます。中国も財政金融構造改革で経済の再建に取り組んでいるところであります。世界の主要国が金融・為替政策で緊密に協調して金融市場の動揺を抑えることができれば、世界経済は安定を取り戻すことができると期待しております。
 次に、我が国の経済でありますけれども、昨年十—十二月は実質でGDP前期比年率一・一%のマイナスでございました。世界貿易が昨年後半から数量ベースでマイナスに転落すると同時に我が国の輸出もマイナスになり、生産が停滞しております。昨年十—十二月の寄与度で見ると、家計消費はマイナス二%でありまして、消費停滞の影響が大きかったことが分かります。家計調査で見ると、さきの消費税引上げ後の消費支出が大幅に落ち込みまして、一三年の一〇〇に対して今年一月、名目九五・九、実質九二・一で、消費税引上げ前の水準から大きく落ち込んでおります。GDP統計で見ても、実質家計最終消費支出を見ると、二〇一三年の二百五十四・四兆円に対して、一五年は二百四十六・八兆円で、七・六兆円下回っております。消費税引上げの家計消費への負担は約六兆円と見られますので、消費停滞の約八割がこれで説明されます。
 消費税の引上げの影響が予想以上に大きかったのは、GDPギャップを抱えて需要が供給を下回る中で、消費税の引上げで財布のひもが一層締まって消費性向が低下したためと考えられます。この消費停滞に加えて、輸出の減少で景気の足取りはしばらく鈍い状況が続きそうであります。
 幸い、原油を始め国際商品価格の下落で交易条件が大幅に改善いたしました。一三年の燃料輸入額は二十七・四兆円で、円建て燃料輸入価格が一三年の一五四・八から一六年一月の七七・八に五〇%下落しましたので、我が国は十三・六兆円の価格効果を得たことになります。
 それにもかかわらず原油下落効果が余り現れていないのはなぜでしょうか。これは、原油が暴落すると、当初は原料価格の低下で業績が浮上しますが、製品価格への転嫁が進むにつれて売値が下落して業績が悪化します。しかし、原料価格の転嫁が終わって、原油安に見合った新しい価格体系に移行しますと、業績が回復し景気が浮上するというこれまでの経験則が当てはまっているのではないかと思われます。
 目下のところ、原油安効果のほとんどが企業と家計の貯蓄にとどまっているようであります。この価格転嫁には大体一年間ぐらい掛かりますから、交易条件の改善効果が現れるのは平成二十八年度後半に遅れるのではないか、そういう可能性が高そうであります。
 この原油安効果を最大限に生かすためには、円安の是正も必要であります。
 円安は、輸出産業にはプラスですけれども、輸入にはマイナスであります。この原油安効果を最大限生かすためには、行き過ぎた円安の是正が求められます。平成二十八年度の日本経済は、前半は低空飛行だと思われますが、年度後半には徐々に明るさが出るのではないかと期待しております。
 このデフレ脱却の指標であるGDPギャップを御覧いただきますと、アベノミクス効果もありまして、一二年十月から十二月のマイナス二・四%から、昨年十—十二月はマイナス一・六%に改善しつつあります。過去十五年間のGDPギャップとの相関係数を見ますと、企業の付加価値額は〇・七七、設備投資は〇・八三と高く、人件費との関係は〇・五〇であります。需給ギャップが解消すれば経済活動が活発化して賃金が増え、消費も増えて景気の好循環が始まると考えられますので、GDPギャップの解消こそが当面の急務と考えます。
 景気の回復には為替の安定も必要であります。
 アメリカは金融の出口戦略のために利上げをしたがっている、日本と欧州はデフレ脱却のためマイナス金利政策を取り、中国のハードランディングを回避するためにはある程度の人民元安が必要と考えられます。現状を放置すると、国際金融市場が不安定になりかねません。その意味で、さきのG20の蔵相・中央銀行総裁会議の合意を基に、伊勢志摩サミットに向けて金融・為替安定のための国際協調行動のリーダーシップを是非発揮していただきたいと思います。
 日本経済が抱えるもう一つの課題は、所得格差の拡大であります。
 内閣府の家計調査によると、世帯主の定期収入五分位階級別の世帯当たりの年間収入は、表で御覧のとおり、過去十五年間で第一分位から第五分位に至るまでこのような数字になっております。この意味で、中低所得層の減少が明確であります。格差拡大を抑制するためにアベノミクスの下で様々な施策が講じられておりますが、消費税再引上げに当たっては、この点にも十分な配慮が必要であります。
 言うまでもなく、財政再建も重要な課題であります。
 幸い、消費税の引上げと予算を上回る税収で公債等残高の対GDP比がピークアウトしつつあります。この流れを確かなものにするためには、経済を再生すると同時に消費税再引上げが必要でありますが、それによって景気が失速することがあってはならないわけであります。この意味で、さきの消費税引上げで消費が失速した教訓を生かすことが肝要であります。
 そのために、第一は、平成二十八年度中にGDPギャップの解消を図ること、そのためには予算案の早期成立と速やかな執行及び原油安効果を最大限生かすことでありまして、第二は、消費税引上げに際して軽減税率の導入を行うことが適切と考えます。
 御案内のとおり、消費税には、消費水準に応じて比例的に負担を求めることができる反面、所得に対する負担割合が逆進的となることに対する対策が必要であります。さきの消費税引上げに際して簡素な給付措置を講じられましたが、消費支出に対する食料の比率、エンゲル係数は所得が低いほど高いわけでありますから、食料を中心とした軽減税率の導入が効果的と考えられます。
 最後に、六ページで御覧いただきましたように、過去百年余の国際商品価格の歴史を振り返りますと、ほぼ三十年に一度、三倍程度に高騰することを繰り返しております。いずれも新興国の台頭と国際紛争などを背景にして高騰し、暴落の後に新しい国際秩序が形成されております。今後、世界経済が回復するにしても、従来の延長線上ではなく、技術革新、金融、資本力をバックにした通貨の安定、人材、文化力などを背景に新しい国際秩序が形成されると見るべきではないかと思います。
 この点で、我が国は、技術革新で世界をリードし、人材を育て、豊かな文化を発信することによって世界経済の新しい秩序づくりに貢献するチャンスであります。そのためにも、一日も早くデフレから脱却し、一億総活躍社会の実現を目指すための予算成立とその執行を期待しているわけであります。
 以上であります。

発言情報

speech_id: 119015262X00120160310_002

発言者: 林健二郎

speaker_id: 21227

日付: 2016-03-10

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会