鈴木宣弘の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)
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○鈴木参考人 皆さん、おはようございます。鈴木でございます。よろしくお願い申し上げます。
配付資料も配付いただいておりますので、それも参照しながらお話をさせていただきます。「TPPに係る懸念事項の再検証」というタイトルの配付資料でございます。
まず、国民の格差是正、自由貿易見直しの声が巨大なうねりとなって、大統領候補も全てTPP反対という形になっておるアメリカのみならず、参加国は一国としてTPP関連法案をいまだ可決しておりません。国民のさまざまな懸念が噴出し、それを受けとめて政治、行政も慎重な対応をしているからでございます。
我が国でも、これから示すように、多くの懸念事項が、国会決議との整合性も含め、納得のいく説明が得られているのかどうかが厳しく問われている状況であるというふうに思います。
まず、基本的な論点として一つ申し上げたいのは、TPPで雇用がふえ賃金が上がるという議論ですが、これは冷静に考えれば、ベトナムの方の賃金は我々の二十分の一から三十分の一でございますから、投資が自由化されて人の移動が自由になれば、日本人やアメリカ人の高い賃金の方をいかに首を切るか、あるいは、それが嫌ならば短期雇用で雑巾のように使うぞという議論になりかねないというのが現実でございまして、まさにアメリカがこのことで大変な大きな反対のうねりが出ているわけでございます。このことについて、なぜもう少し日本の中できちんと議論が行われないのか。
ただ、日本の内閣府のモデルなどでは、農家の方が失業しても、瞬時に例えば自動車産業の技術者になれる、こういうモデルで計算しておるので、失業というものがそもそも存在しない、完全雇用を前提にしたモデルだということ、まずここが机上の空論になっているということももう一度問われなければいけない。
それからもう一点、重要な論点として、ISDSがございます。
人の命や環境よりも企業の利益の方が優先されてはいけない、そういうふうな訴訟は防止しなければいけないという議論が日本でもありました。
端的に言えば、御案内のとおり、例えばアメリカの企業が水銀を垂れ流すような設備で日本で操業しようとしたら、当然日本は規制をします。ところが、それに対して、アメリカの企業は、それによって生じるアメリカの企業の損害を賠償しろと国際法廷に訴えて、損害賠償させられ、そのルールも取り壊されてしまう。こういうことが、起こるはずがないようなことが起こるのがISDSだ。だから、国会決議でも、濫訴防止策がとられていないような、国の主権を損なうようなISDSには反対すると決議しているわけです。
濫訴が防止できたというふうに政府は説明しておりますが、問題のTPP協定九・十六条は濫訴防止にはなっていないというのが、世界、日本も含めての法律家の解釈です。この点について、きちんとした説明があるでしょうか。
こういうことをそのままにしておりますと、韓米FTAで起きたように、遺伝子組み換え食品を使わないとしたソウル市の学校給食条例が不当なアメリカ差別に当たるとして、損害賠償で提訴するとおどされて、韓国政府は、アメリカに損害賠償させられ、訴訟費用も払うぐらいなら、先にやめた方がいいという判断をせざるを得なくなった。こういうことが日本でも懸念されるということについて、きちんと検証されているでしょうか。
そのアメリカでも、全米の法学者、環境保護団体などが、ISDSは国家主権の侵害だと。それから、ヨーロッパ、フランス、ドイツ全土でも、ISDSに対する猛烈な拒否運動が起こっている。これが世界の現実で、日本もオーストラリアとの自由貿易協定ではISDSを入れていないんですよ。
だから、日本政府の解釈には無理があると言わざるを得ず、国会決議違反という疑いは拭い得ない。
それから、農業に関する問題で、食の安全基準は何ら影響を受けないというふうに政府は説明しておりますが、これは全くの間違いです。
アメリカは、二〇一一年の十二月のアメリカ議会での公聴会で、当時のマランティス次席通商代表が、TPPでは、日本のような国が科学的根拠に基づかずに国際基準以上の規制措置をとっているのを国際基準に合わさせるのがTPPだとはっきり言ってきたわけです。条文にはそのとおり書いてある。それは、TPP協定七・九条の二項です。これを見れば、そのようにして科学的根拠が示されない限りは、それを緩めさせるということがどんどん起こるということです。
しかも、実際に既に日本はもう緩めているわけですよね。BSEですよ。
BSEは、TPPに日本が入れてもらいたいならば、前もって入場料として緩めろと言われて、二十カ月齢を三十カ月齢まで緩めました。そしてさらに、今起こっていることは、アメリカは一応BSEの清浄国ということになっているものですから、アメリカから、科学的根拠が示せないならば月齢制限を撤廃しろと言われているわけですよ。それに対して、既に日本は前もって、もういつでも撤廃できるように、食品安全委員会は準備を終えているわけですよ。
だから、このことを考えれば、食品の安全基準が影響を受けないということはもう既に満たされていない。国民に対する説明と全く矛盾しておるわけです。
それは、防カビ剤の問題もそうです。
防カビ剤、これはポストハーベストの農薬ですね。収穫後に農薬をかけることは日本では禁止。しかし、アメリカからカビが生えないように運んでくるには農薬をかけなきゃいけない。そこで、無理やりこの防カビ剤を食品添加物と二重の分類をして、わざわざ認めてあげた。それに対してアメリカは、食品添加物に分類されるとパッケージに表示をしなきゃいけない、これが不当なアメリカ差別であるから、これを改善しろと言い始めた。
これは二国間の並行協議でもう既に改善を認めた。日本政府は、その時点、三年前ですか、一切そんなことはやっていないと主張しましたが、今回TPPが成立して、その附属文書を見てみると、そこに、その時点で日本がアメリカの要求に応えて改善を認めたというふうにちゃんと書いてあるわけですよ。
こういうふうに、TPPに関する日米の二国間の協議というのは三段階ありまして、まず事前の、国民には単なる情報交換だというふうにごまかされましたけれども、この時点で入場料をたくさん払った。
それから、TPPの十二カ国間の交渉が始まった中で、日本だけ積み残し分を別途並行協議という場でやらせる。そこで決まったのが先ほどの防カビ剤ですよ。
それから、TPPが決まったこれからは、アメリカがTPPを批准するために、各国の制度がきちんとそれに適合しているかを審査して、合わせさせるということがもう始まっているわけですね。その中で、既に輸入牛肉の月齢制限は撤廃するということを日本は完全に準備しているということですよ。
だから、食品の安全基準が影響を受けないということは全く説明になっていないということになります。
それから、国民に十分に説明したというふうに政府は言っておりますが、これも国会決議でもそういうことがきちんとうたわれているわけですけれども、三ページの十行目ぐらいのところを見ていただきますと、私も全国を回りました。全国キャラバンで説明に行かれたと言いますけれども、ほとんどまともな説明ではなくて、まともに回答もしてもらっていない、これが全国の声です。
それから、都道府県知事、四十七知事に対するアンケート調査では、どちらとも言えないという答えが多いんですけれども、確かなことは、TPPに関する政府の説明は十分と答えた知事はゼロ、国会決議が守られたもゼロ、試算が現実的もゼロ、こういう数字があるということですね。これは重く受けとめざるを得ないということです。
それから、TPPの経済効果は非常に大きくて農家への影響はないんだというのが今回の試算でございます。この件は、国会決議の一番目、農産物についての聖域を守るという議論とも絡んで、非常に大きな問題です。
そもそも、政府の全体の試算も、二〇一三年には、GDPは三・二兆やっとこさっとこふえると言っていたわけですよ。これも水増しだったんですけれども、今回は、それより減るはずのものが、何と十四兆ですよ。四倍以上に膨れ上がる。そんなことはあり得ないわけですね。
その三・二兆についても、これはドーピングですよ。何が行われたかというと、生産性向上効果というものです。要するに、TPPで製品価格が十円下がれば、みんなも頑張るからコストも十円下がると置けば、マイナスは出てこないわけですよ。そこでやっとこさっとこ三・二兆と言っていたのが、何で四倍になるんですか。今度は、価格が十円下がれば、何と、みんなもっともっともっと頑張ってコストは五十円下がるとか勝手に置いて、十四兆になるように数字を合わせればいいわけですよ。こういう分野を専門にしている私が言うんだから間違いないですけれども、まあ、要するにその程度のものだということですね。
それから、農業についても大変でした。私は所管官庁にも同情したい。何とか政府の中で食料、農業を守るということで抵抗すると言って、最初は被害四兆円と言った。それが、外務省さん、経産省さんから、そんなに多くないだろうと言われて、三兆まで減らした。だけれども、三兆だった。それが今度は一千三百とか二千百億って、二十分の一以下ですよ。これは、所管官庁の中でも大変もめましたよ、こんな恥ずかしい数字を出すのかと。だけれども、やはり幹部は骨抜きにされてしまった。
今の政権は、反対する声を押し潰していく巧妙な策略が大変上手でございます。人事権を握られたということは大きい。今回の一連の人事も、刃向かう者は全て飛ばすですよ。これによって全て、正論を言う人を押さえつけていく、これによって所管官庁は物が言えなくなってしまったわけですよ。こんなことが続けば、食料も農業も農業関連組織も、所管官庁自体も、これはもう全部葬式を上げるのかという話になるわけですよ。こういうことを続けることが許されるのかどうか。
そして、具体的に言いますと、まず、農水省の影響試算については、本来ならば、影響がこれだけあるから対策はこれだけやらなきゃいけないという議論をしなければいけないのに、それを逆にして、対策を出したから影響ない、要するに、影響がないように対策するから影響はないと言っているだけなんですよね。
例えば、わかりやすいのは、酪農について、政府も、加工原料乳は、バター、脱粉向けの牛乳価格はキロ七円下がるというふうに出しているわけですよ。ところが、七円下がったら酪農家は潰れますよ。なのに、酪農家の所得も生産量も変わらないと言うんですよ。そんなことあり得ますか。いや、生クリームに補給金をつけるから大丈夫だと言う。生クリームに補給金をつけただけで七円補填されますか。いやいや、そんなことはない、畜産クラスター事業を頑張れば七円コストが下がるんだと。どこにそんな保証があるのか、ちゃんと根拠を示してくれということですよ。そういうことが山のようにあって、全く説明になっていない。
それに加えて出てきたのが、SBS米の偽装でございます。これによって完全に、国内価格と輸入米の価格は同じであるから影響はないと言っていた前提が崩れたわけですから、影響試算は残念ながらやり直さざるを得ないというのが、ここで出てくる話だと。
それから、我々の試算では、もし本当にきちんと合理的な方法で計算して、その損害を差額補填で相殺するとすれば、毎年八千億円の予算が必要だと出てきます。十年で八兆円ですよ。
今考えているつけ焼き刃の予算は、大半がそもそもこれまでの政策の焼き直しですし、とても、本当に現場がこれから受けるであろう被害をきちんと相殺できるものではない。これで十分だと言っていたら、本当に現場は、どんどんTPPの影響が出てきたらゆでガエルになっちゃいますよ。それで本当に大丈夫なのか。
日本政府は、収入保険があるから大丈夫だと。収入保険はセーフティーネットではありません。これは、五年間の米価が平均で六十キロ五千円になったら、五千円との差額は補填するから大丈夫だと言っているだけなんですよ。こんなものでつくれる人がおりますか。
アメリカの政策をまねした、これもうそですよ。アメリカは、一俵四千円で売っても、一俵一万二千円との差額は、九割は全部払うというぐらいの政策をやっていて、つけ足して収入保険があるだけなんですよね。そのつけ足しの部分だけを持ってきて、これでいいんだと言えば、これは完全なミスリーディングになります。
そういうことも含めて、今の議論されている政策も、全くTPP対策としては不十分である。
そして、既に現場の農業は苦しいんですよ。この状態で、TPPも何も影響がないといってセーフティーネットも外して、大丈夫だと言っていたら、本当につくれる農家の方はいなくなりますよ。家族経営は全滅状態ですよ。それでもいいんだと言うんですよ。
政府の諮問会議に属しているような流通企業の大手の方々が農業をやりたいと言っているから、条件のいいところだけそういう人たちがやって、そこで利益が上がれば所得倍増だというわけですよ。では、残り九九%の地域はどうするんですか。そんなところには人が住むな、伝統も文化もコミュニティーも、そんなものは非効率だから要らない、極端に言えば、こういう議論になってきているわけですよ。
これで国民の食料を守ることができますか。武器である食料の安全保障を追求していながら、食料自給をないがしろにする議論は、全く国家安全保障の本質を理解していない議論だというふうに言わざるを得ません。
欧米は、きちんと農産物の価値を、多様な機能を評価して、国民がどうやって負担していくかというシステムをつくり上げています。アメリカは、さっき言ったとおり、生産者に必要な最低限の水準との差額は補填するという仕組みをつくっているわけですよ。そうやって、国民の大事な食料を、自分たちの命を守る食料をみんなで守る、これが食料を守るということなわけですよ。
そういう議論がきちっと日本で行われていますか。そのことを考えても、TPPの国内対策の議論も全く不十分だということで、以上のように考えれば、国会決議との整合性も含めて、まだまだ議論すべき点が山のように残っている。こういう状況で拙速に採決をするということがもしあれば、誰のために政治、行政をやっているのか、日本の民主主義が問われる、日本の歴史上大きな禍根を残すと言わざるを得ないというのが私の意見でございます。
以上でございます。(拍手)