内田聖子の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)
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○内田参考人 御紹介いただきました、NPO法人アジア太平洋資料センター、私どもは小さな市民団体です。しかし、国際NGOとして、私自身、六年以上TPPの問題に、他国の市民団体や労働組合、環境運動、それから医療者の団体、たくさんの人たちとTPP交渉をウオッチして、その問題点を国内外で発信をしてきました。
今、TPPの参加国の市民社会は、本当にこの協定の中身に対して強い懸念を持っております。それがとりわけ強いのがアメリカだというふうに言えようと思います。御存じのとおり、もはや大統領候補二人をしてTPPには反対すると言わなければ通らないというところにまで進めてきたのは、やはりとりわけアメリカの場合、労働運動、一人一人の労働者たち、それから、環境問題、消費者団体等々の人たちの努力があるわけです。
私はその一員として、特に二〇一三年三月から、日本が交渉に参加する前からになりますが、交渉会合の現場に何度も足を運びまして、秘密交渉でしたので大変情報がない中で、他国の団体と協力をしてきて、中身も分析したという点で今回お招きをいただいたと思っておりますので、経験の中から幾つか御指摘さしあげたいと思っています。
資料をお配りしております。時間が限られておりますので、ポイントだけ絞って言います。
きょうは、主に食の安心、安全というテーマですが、その前提となるTPP協定全体に関する大きな懸念点を幾つか述べさせていただきたいと思います。
まず、このTPPというのは、やはりかつてない特異な性質、性格を持っていると思います。その一つが、最大の一つが、極度な秘密主義だと思っています。これまで日本がさまざまな貿易協定、通商交渉をやってきたわけですが、それらと比較してもここまでの秘密であった交渉はないということです。これは、我々国民、市民社会にとっては大変大きな問題だと思っています。
具体的に言えば、日本が二〇一三年七月に交渉に参加しましたが、その際に、他国と保秘契約という契約書、これを交わさなければ入れないので、当時、鶴岡首席交渉官がサインをした。私もその交渉会合の現場に市民としておりましたけれども。
問題は、この保秘契約書という中身も秘密なんですね。ですから、皆さん、国会議員の方々も、一体その秘密の定義が何であるのか、その規定を破ったらどういう罰則なりあるのかということがわからないまま国会の審議がどんどん進んでいる。これは私たち国民からすれば大変に怖いことです。
ですから、後ろにも書きましたが、まずこの保秘契約書の中身を明らかにするということが議論の大前提であろうかと思います。
それから、その下に二つほど書きましたが、交渉官の方々も大変厳しい守秘義務ということを課せられておりまして、このことは、当時のTPP担当相でありました甘利明氏も、ほかの交渉ではあり得ないほど厳しいんだということをおっしゃっておりますし、国会の中でも、先ほどの保秘契約にサインをするような協定はあったのかという御質問を紙智子議員がされた際に、外務省の齋木尚子経済局長が、TPP以外に例はないとはっきりと御答弁されています。
つまり、今国会でも、外交上の問題、秘密ということでお答えできませんという発言を多々私どもも聞いておりますが、その際は、外交上の秘密という内容や定義、これは普遍的なものではないということです。
そして、なぜTPPがここまでの秘密なのか、ほかの協定と比べてどうしてTPPがこんなに秘密なのかという理由について、私たちは説明を全く聞いたことがありません。ですから、このあたりは説明をしていただかなければやはり納得ができない。かつては知り得たレベルの情報が、今回、TPPでは何もわからないという状態です。
私も交渉会合に行って、農業団体の方、畜産の方、たくさんお会いしますけれども、皆さん言っておられるのは、WTOの交渉の際には、現地に来て、政府やいろいろな各国の人と話せば、ある程度中身はわかった。交渉のテキストもわかった。しかし、今回、TPPでは本当に教えてくれないんですね、どうしてなんでしょうと皆さんお困りでした。
ですので、この保秘契約書を開示していただいた上で、そして可能な限りの開示説明ということが大前提になるんだろうと思っております。
次に、ここが一番大きな、きょうお伝えしたいポイントの一つなんですが、TPP協定文というのは、今審議されている内容というのは、資料でおつけしましたが、この細かい表ですね。
このたび、私は改めてページ数を数えてみました。そして、日本政府がそのうちどれだけの分を訳しているのかということも数えてみました。そうすると、細かい表なんですけれども、三ページ目、トータルで八千三百二十ページありました。膨大です。そして、そのうち何ページ分を政府が訳されているのかというと、隣の数字、二千三百二十八ページ、これは三分の一弱というか四分の一強というか、大変にボリュームとしては訳していない分が多うございます。ここも議論のポイントだと思います。
各国の関税譲許表は膨大です。これは訳す必要がなしというふうに理解して訳していないのだというふうに私ども解釈していますが、ただ、それで本当にいいんだろうかという疑問も一方であります。
ともあれ、このような膨大な協定文を今皆さんは御審議されているわけですけれども、ただ、TPPの協定文、条文の解釈を、この間、私どもも数カ月かけてやってきましたが、結論から言えば、TPPの中身というのは、今後、常にどんどん変わっていくということなんです。このことが余りにもこの国会審議の中で前提となっていないような気がしております。
具体的に書きましたけれども、協定文における再協議や見直しの規定というのが、既に協定文の中に何カ所も条文として書かれています。
例えばですけれども、冒頭のTPP委員会を設置というところでは、発効から三年以内に協定の改正または修正の提案を検討する。これはTPP協定全体です。個別分野ではありません。発効して三年以内に見直しがなされるという可能性がはっきりと規定されている。それからあとは関税撤廃の時期の繰り上げですとか、よく問題になります七年後の農産物の再協議、あるいは国有企業や政府調達分野に関しては、具体的に三年や五年という年数を書いて、再交渉していくんだと、もうあらかじめ書かれているんですね。
ですから、今、国会の中でも、アメリカから再交渉を要求されたらどうするんだという議論をされていますが、その問題はもちろん重要ですが、それがなかったとしても、TPPというのは発効した後にも交渉が行われる、そして中身は変わっていくということです。
ですから、このことを踏まえて議論をしなければ、今出されている協定文の中身、水準で大丈夫だ、もう変わらないということを主張されても、協定文にも規定されている中身を見れば、変わり得るということが明確に規定されていますから。
疑問としては、その都度、批准をし直すのだろうかということがあります。これは法的にどうなんだろうかということがありますし、もしそうやって変わっていくのであれば、今国会で、時間が非常に限られて、拙速に議論していますが、その中身というのが変わってしまえば、今私たちは何について、何に確証を持って議論をしているのか、それを聞いているのかという根本的な疑問が生じます。
そしてもう一つは、日米並行協議の問題。これは国会でも野党の議員の方が追及されていましたけれども、たとえTPPが頓挫しても、ここはどうなるのかというのを私たちも非常に懸念をしていました。
日本政府のこれまでの見解は、日米並行協議は、万々が一TPPが発効できなければ、これは無効になるという御説明を私たちも聞いてまいりましたし、野党の皆さんもそう聞いてきたと思います。あるいは、日米のFTAというのは結ばない、結ぶつもりはないということを政府の見解として伺ったことがあります。
そうすると、日米並行協議というのは、TPPが発効する前までにさまざまな手続を完了していくという話になっているので、仮に発効しなかった場合、これは全部、原状復帰というか、日米並行協議がなかった状態まで本当に戻せるのだろうか。戻すという話を今政府はされているわけですけれども、そういうことも論点の一つかと思います。
それから、ちょっと急ぎますけれども、アメリカには承認手続というものがアメリカ独自の制度としてあります。
これはそこにも書きましたけれども、条約の批准から発効するまでの長い長いアメリカのプロセスの中で、相手国の国内法をチェックしまして、当該する協定内容の水準に達しないものについては口を出して、国内法を変えてほしいということを要請したり、場合によっては、アメリカの交渉担当官が相手国に出かけていって、そこの国内法の改正を協力してやっていくということを既にやっております。
主には、九〇年代後半から二〇〇〇年代、中南米諸国、グアテマラとかコスタリカというような国々とのFTAの中で、かなりの分野でこれをやっております。その中に、食の安心、安全というのも入っておりますし、さまざまな国内の規制緩和という方向で国内法を改正させています。
ですから、これはいわゆる今言っている再交渉とは全く別の話として、今後、日本にもそのような要求というのが十分来るであろうということを私たちは分析しておりますし、そのことが非常に大きな懸念材料として挙げられます。
では、次の(二)というところですけれども、私は、交渉のプロセスに参加する上で、その中で大変たくさんのグローバル企業がTPP交渉に関与してきたという実態を見てまいりました。きょうは食の安心、安全が大きなテーマですので、そこをトピックとして挙げたいと思います。
皆さんに資料でつけましたのが、どなたでも御存じのモンサント、これは、巨大な食糧メジャーであり、農薬そして遺伝子組み換えの巨大な、世界最大のメーカーです。最近、バイエルという会社に合併という話もありましたが、いずれにしても巨大な企業です。
こうしたモンサントのようなバイテク企業がもうかなり早い段階からアメリカ政府に対して、TPPでこういうことを実現してほしいという要求をやってきました。
その一例として、きょう原文をつけさせていただきましたけれども、原文で恐縮なんですけれども、これは、二〇〇九年三月に、バイオというロビー団体がアメリカ政府に対して出したTPPへの要請書です。
ポイントをかいつまんで言いますと、下の項目のようなことが書いてあります。大変率直でわかりやすい内容だと思います。TPP協定の中もこのぐらい率直にグローバル企業の要求を書いてもらえば、批准の審議も楽だと思いますけれども。
具体的には、遺伝子組み換え作物を規制しないこと、それから、表示義務も課さないこと、それから、規制も各国がばらばらでやらなくて統一的にやりなさい、そして、ある国が遺伝子組み換えをもう輸入しないという場合にはアメリカ政府にお伺いを立ててほしいと。ちょっと普通では単純に理解しがたいような要求が次々と挙げられていて、交渉の過程を見る限り、こうした企業の意向というのをやはりアメリカ政府はしょって交渉に参加をしてきているということは確証を持って申し上げられると思います。
ですから、こういう現実がある以上、この後、山浦先生からTPPでの細かい懸念というのは語られますけれども、そして、TPPの中身が変わるんだ、今後もどんどん企業の発言力が強まって変わっていく、そのことをあわせて考えた際に、とても私たちはこのTPPで食の安心、安全が守られるということを信じられないという思いが率直にいたします。
そして、もうやめますけれども、最後の(四)というところです。ISDの問題は、先ほど鈴木先生たちも触れられましたので、触れません。
今、国際社会の議論というのは、行き過ぎた企業や投資家の自由なビジネスの横行、これは租税回避という現象としてもあらわれていますし、ISDで多額の賠償金を得るということも一つですが、これに対して、いかに環境や人権、食の安心、安全というようなところの原理原則を貿易や投資の中に埋め込んでいくかという議論をやっています。アメリカでもEUでもそうした議論をやっています。
ですから、今、いわゆるメガFTAと言われるアメリカとEUのTTIP、それから、EUとカナダの連携協定等々が立ち行かなくなってきているというのは、皆がこの三十年間の歩みを一旦立ちどまって反省をして、新しいルールをつくろうということなんですね。
具体的には、そこにたくさん挙げましたが、国連の報告書ですとか人権委員会の指摘、それからUNCTADなども、やはり環境やそれから遺伝子組み換えの問題等々、いかに上手に規制をして適切な貿易・投資のルールをつくるかという議論をしています。
ですから、そういう中にあって、日本はなかなかここの議論が弱いと思いますし、パリ条約の批准がTPPより後回しにされているという現状こそ、やはり国益を損なうもの以外の何物でもないというふうに私自身は思っております。
ですから、拙速な審議は一旦ストップをしていただいて、何が本当の日本の国益であり国民益であるかということを、多角的な検証をぜひしていただきたいと思っております。
済みません、長くなりまして。
以上、終わります。(拍手)