土肥一史の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○土肥参考人 ただいま御紹介を頂戴いたしました土肥でございます。
 私は、七月までは日本大学の大学院知財研究科というところに籍を置いておりましたけれども、つい最近定年を迎えまして、こちらには一橋大学名誉教授ということでお届けをさせていただいておる者でございます。
 私は、知的財産法を長年研究しておりましたけれども、環太平洋パートナーシップ協定、いわゆるTPP協定関連の著作権法改正の検討を行いました文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会において主査を務めさせていただきました経緯から、主として著作権法に関する法律案をどう考えるのかという意見を申し述べさせていただくため、さらには御質問にお答えいたしますためにお呼びいただいたものと承知をしております。本日は、かかる機会を頂戴いたしましたことに厚くお礼を申し上げます。
 まず、最初に結論から申し上げますと、私は、今回の著作権法改正案に賛成の立場でございます。
 TPP協定承認に係る著作権法の見直しは、御案内のように、大きく分けまして五項目に及んでおります。一つが、著作物等の保護期間の延長の問題、二つ目に、著作権等の侵害罪の一部を非親告罪化すること、三つ目に、著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段、いわゆるアクセスコントロールを導入する、そういう問題、それから四つ目が、配信音源の二次使用において新たに使用料を認める件、それから最後に、法定の損害賠償に係る制度整備、この五項目でございます。
 いずれも著作権法の根幹にかかわる重要な問題であるわけでございますけれども、ここでは、しばしば巷間取り上げられておりますところの保護期間延長問題についてのみ意見を申し上げ、残る非親告罪化等々の問題につきましては、後ほど御質問にお答えする形で申し上げさせていただきたいと思っております。
 さて、これからの時代はメガFTAの時代とも言われておりますけれども、TPPは我が国が初めて締約国となる重大な協定と位置づけられております。また、TPPルールは、今後一層の交渉進展が期待されておりますRCEPのようなメガFTAルールの先駆けともなり、二十一世紀の国際基準となると予想されております。
 こうしたTPPルールの意味及びその重要性を受けまして、著作権法の改正における審議では、TPPルールを所与のものとしつつ、同時に、我が国の法制度及び法律上の慣行の範囲内で整合性を確保するという観点から検討を進めた結果が今回の著作権法改正案でございます。
 そこで、著作物等の保護期間の延長問題でございますけれども、この問題については、著作物が公有に落ちる期間を二十年先送りいたします。そういう結果になるところから、否定的な御意見とか消極的な評価も承知しているところでございます。
 例えば、著作物の利用に伴う権利処理コストを高める結果となりかねない。あるいは、ボランティア団体がパブリックドメインに落ちた著作物のデジタル化を進めておいでになるわけですけれども、この二十年の延長に伴いまして、そうした作業のインセンティブが失われてしまいかねない。こういったもので、いずれももっともな御心配であると承知をしております。
 権利処理コストの問題、ひいては孤児著作物の問題は確かに深刻な問題でございます。ドイツのさきの司法大臣であったザビーネ・ロイトホイサーシュナレンベルガーは、ベルリンの講演におきまして、二十世紀の文学作品の八〇%は権利者の探知が困難になる、このように指摘をしております。権利処理コスト、取引費用は少ないにこしたことはございません。
 現在、この問題を解決するために想定されておりますことは、権利者の許諾にかわる文化庁長官の裁定制度を一層改善するということでございます。
 この裁定制度を利用するためには、まず、権利者との連絡をとるために相当な努力を払っていただくことが求められております。裁定の前提となるこの相当な努力というのは、インターネット時代を迎えまして、一昔前に比べますと確かに格段に改善されてまいりましたし、現在利用されている制度でございますから、まずここから着手することに異論はございません。
 ですが、この制度は、年間数件という時代にあっては十分機能したと思いますけれども、これからはそうはいかないというふうにも思われるところがございます。何といいましても、文化庁長官の裁定という仕組み自体が重いというふうにも思われるからであります。
 思い切ったライセンススキームへの転換が必要ではないかとも思います。
 例えば、現状では、使用料は最終的に国庫に入ってまいります。しかし、こうした供託金というものは、当該著作物等を創作したクリエーターの属する部門の充実発展のために、特に、その部門の新たな人材育成の資金として考えられてもいいようなものではないかと思っております。世界の状況を見渡してみましても、こうしたことを可能にするようなパラダイムの変換が進められているように認識しております。
 また、著作権消滅後の文学作品のデジタル化を進めておられるボランティア団体の活動への影響でございますけれども、大事なことは、一般読者に文学作品へのアクセスが確保されているかどうかだと思っております。
 延長によりデジタル化ができなくなるということで御心配になっている作品のほとんどは、商業出版によるアクセスが依然として期待できるものが多いように思います。我が国には、よい文学作品でありながら、商業出版会社が振り向かず、現在アクセスできなくなっている作品はたくさんあるように思います。ボランティア団体の方々には、ひとまずこうした作品に注力いただいて、公衆の文学作品への一層のアクセス改善に御貢献いただけないものかと期待しておるところでございます。
 一方、TPP協定は、実質的には、太平洋を取り囲む十二の国から成る市場の形成を目的にした協定と言うことができましょう。市場の形成という目的のために必要なことは、商品やサービスが可及的自由に流通できる制度の枠組みでございます。各締約国の法制度はできるだけハーモナイズしていることが望ましい、このようなことが市場にとっては有益であると思っております。保護期間をできるだけそろえるということは、まさにこうしたことに資するものと考えております。
 多国間の国境を越える単一市場の例で恐縮ですけれども、欧州共同体の経験を申しますと、欧州の単一市場は一九九三年にスタートいたしましたけれども、ベルヌ条約、ローマ条約が著作権及び隣接権の保護期間の下限を定めておりますために、当時、ドイツやフランスでは七十年、残りの十の構成国は多くが五十年、一国だけが六十年だったんですけれども、こういった保護期間のハーモが確保されていないがゆえにコンテンツの自由流通を損なうような事態も生じ、結局、二〇〇六年に、欧州理事会の指令をもって著作権と隣接権の保護期間を七十年に統一しております。
 このとき、ドイツ、フランス以外の国は五十年の保護期間を採用しておったわけでありまして、数からすると五十年とする国の方が圧倒的に多かったのですけれども、現実的な問題といたしますと、保護が承認されている権利を切り捨てることはなかなか難しいということもございまして、七十年で統一されたというのが実情でございます。
 TPPでは、保護期間は著作者の生存期間及び著作者の死後少なくとも七十年としておりまして、保護期間の下限を定めているわけでございますけれども、それであっても、コンテンツの自由流通という市場の観点からいたしますと有益である、このように考えております。
 さらに、今回の著作権法改正によりまして七十年とすることで、OECD加盟全三十四国の保護期間がそろうということも、国際調和という観点から望ましいものと確信しておるところでございます。
 したがいまして、今後取り組むべきは、保護期間の延長に伴う不利益の解消でありましょう。これを解消することを通じて、文学作品を初めさまざまな著作物を、文化的な遺産とするのではなく、文化的な資源として、文化産業の創出に向けた活用がなされることが期待されるわけでございます。
 著作物に関する権利の帰属とその所在を明らかにして市場の透明性を高めるデータベースの充実を初め、拡大集中権利管理制度といった思い切ったライセンススキームの導入に向けた検討に着手すべきときではないかと考えております。
 また、保護期間問題に関して必ず取り上げられます我が国特有の問題であります戦時加算問題も、米国、カナダ、豪州及びニュージーランド政府との間で交換文書が取り交わされ、相当程度、問題の解決に向けた進展が期待されておるところでございます。この問題を解消するために、官民を挙げて関係者の一層の尽力を期待しておるところでございます。
 他の四つの改正事項を含め、いずれもTPP協定の求めるところを踏まえ、審議に当たっては、国内の関係二十六団体の要望も伺いながら今般の改正法案に取りまとめられたものでございまして、この改正法案の内容は、我が国の法制と法律上の慣行に照らし整合性を保つものとなっていることを御理解いただきますようお願い申し上げまして、冒頭の私の意見発表とさせていただきます。
 御清聴いただき、どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 土肥一史

speaker_id: 4316

日付: 2016-10-31

院: 衆議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会