福井健策の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○福井参考人 福井でございます。本日は、お招きいただきましてありがとうございます。
 TPP関連知財法案についての私見を述べよという御依頼をいただきまして、幾つかのポイントについてお話をさせていただきたいというふうに思います。
 お手元の資料、ちょっと大き目に印刷されておりますが、一枚目に随分たくさんのメニューが並んでおりますが、一枚進めていただきまして、その前提として、まず、情報革命と知財制度という状況のお話を差し上げたいというふうに思います。
 少子高齢化を迎える我が国にとりまして、今後、情報・コンテンツ立国ということが非常に重要な課題であることは恐らく異論のないところだろうというふうに思います。そして、知財制度というのは、その情報・コンテンツ立国にとっては最も基幹的なルールと言っても過言ではないでしょう。
 翻って、世界を見ますと、現在、世界では、ITネットワーク革命と言えるようなかなり急速な変化が起きている状況にあろうと思います。
 資料でごらんいただいているのは、企業の時価総額の世界ランキングということになります。直近のものです。フィナンシャル・タイムズのデータですけれども、ちょっと驚くべき状況が生まれておりますね。ごらんいただくと、一位から五位までが全て、いわゆる米国西海岸発のITプラットホームと言われるようなネット関連企業で占められるという状況です。
 日本のトップはトヨタ自動車でありますけれども、今や残念ながら三十一位ということで、わずか二年前に抜き去られたフェイスブックの株価総額の半額以下という状況になってしまっております。まさに我々は、ITネットワーク革命と言えるような急速、激烈な変化の中に身を置いているということが言えようかと思います。
 さて、これをコンテンツの面から見ると、流通するコンテンツやデータの量がまさに爆発的に増大しているという現象がこのITネットワーク革命の特徴であります。
 右下の図は、世界最大の動画投稿サイト、ユーチューブでございますけれども、これに今どのぐらいの動画が投稿されているか、皆さん、御存じでしょうか。最新の推計で、少なく見て二十億という、ちょっと常識を超えるような数が上げられています。閲覧数も一日五十億というとんでもない数が上げられるわけでありまして、もうメガコンテンツを超えたギガ、いわゆる十億単位のコンテンツが現実に流通する状況に我々はごく短期間で急速に入ってしまった、そんな状況に今あるんだろうというふうに思います。
 そして、このITネットワーク革命にとって、権利の壁、いわば権利処理の壁というのが大きな課題であります。というのは、権利者を捜し出して許可をもらい、それから利用する、これは、一万というコンテンツならやりもするでしょう。しかし、十億はおろか、百万であっても到底できはしないわけですね。
 よって、この権利処理コスト、払うお金が嫌だというんじゃなくて、権利の処理のためのコストをいかに下げていくか、このことに一国のあるいは企業の競争力というものがかかっている時代に我々は今あります。だから、世界は、例えばEUなどでも著作権リフォームという議論が今盛んであります。日本においても、内閣知財本部で次世代知財システムの議論が活発に行われているところであります。
 さて、TPPに目を転じましょう。
 冒頭で挙げました多くのメニューは、日本にとっても必要性が高く、また、その悪影響をできるだけ抑え込もうとした、そういう工夫がなされたものとして、私は政府の努力は評価できると思います。
 しかしながら、気になる点を何点か申し上げるのがきょうの役割だろうと思いますので、それを申し上げますと、三枚目ということになります。保護期間の延長です。これは、恐らく、最も悪影響の大きいものがほぼセーフガードのない状況で入ってしまった、こんな状況かと思います。
 欧米では、確かに、九〇年代に保護期間を二十年延長し、死後七十年という超長期の時代に突入しました。しかしながら、その段階でも、著名な十七名の経済学者が、これは余りに経済合理性がないということで反対意見を提出するなど、激論になっているわけですね。しかも、これはネット時代の本格到来前、今のような課題がない時代だからできたんだということもその後指摘されているところであります。
 では、日本で今入れるとした場合の懸念点ということになりますが、まず一番目は、ストレートに、対外的なライセンス使用料の支払いが恐らく大幅にふえてしまう。
 というのは、米国はコンテンツの輸出大国であります。ですから、彼らにとって、世界じゅうの国に著作権をどんどん延ばしてもらいたいというのは、ある意味では合理性があるわけですね。しかし、残念ながら日本は真逆です。日本はコンテンツの超輸入超過国です。直近の日銀の数字によれば、その赤字額は年間七千五百億円という巨額に上っています。しかも、増加基調です。
 もちろんソフトウエアなどが多いわけですけれども、米国商務省のデータを見れば、文化的なコンテンツも決して少なくはない。延ばせば、当然、支払い額はふえ、その負担は民間に寄せられます。民間が負担するわけです。
 それだけではない。許可が必要だということは、ライセンス契約を結ぶということであり、契約条項によって拘束されるということです。これは、つまり海外にビジネスをコントロールされるということです。その負担は少なからぬものがあります。
 しかし、恐らくそれ以上に大きいのは、土肥先生もおっしゃった権利処理コストの増大ということであろうというふうに思います。
 著作権というのは、死後、相続されるわけです。相続人全員の共有になります。期間が長くなれば相続関係は複雑化し、権利者を捜し出し、交渉するコストは当然上がっていきます。権利処理コストを下げる時代に、それが死命を決すると言われる時代に、なぜか上げる話をしている。
 しかも、過去の全作品の半数かそれ以上は、捜しても最終的に権利者が見つからない、いわゆる世界的に孤児著作物と言われて大問題とされている作品である。であるならば、著作権の長期化は孤児著作物を当然ふやす方向にしか働かないわけです。
 実を言えば、米国で、著作権局長みずからが保護期間の部分短縮を提案したことがあります。ほんの二年ほど前の話です。それは、著作権を延ばしたら孤児著作物が激増してしまったというのが理由です。現在、もうそういう状況にあるわけですね。
 さて、これらは古い作品ですけれども、その大半は市場では売られていません。書籍でいえば、死後五十年たつ前に九八%以上の作品は市場から姿を消しているというデータが出ています。これらの作品というのは、電子図書館、電子博物館、デジタルアーカイブと言われるような活動によって次世代に語り継がれていく、これによって命脈を保つわけです。
 しかしながら、保護期間をふやし、権利処理コストが増大すれば、死蔵される作品がふえてしまう、こういうことが大変に懸念されます。これは、アーカイブ活動だけではなくて、AIネットワーク社会にとっては重大ないわゆるビッグデータ活用にとっても、当然、古い作品が入ってきてしまいますから、権利処理コストが増大すれば停滞しかねないわけで、何でそんな話をしているんだということも言える。
 国家的な、国際的なハーモナイゼーション。今現在、日本、ヨーロッパ、アメリカ、期間が全部不統一ですね。では、一体どれだけ困っているかというと、この仕事をしていて寡聞にして聞いたことがほとんどありません。
 プラットホームに関しては、ごらんいただいています今のページの右下、これがヨーロッパが総力を挙げているヨーロピアーナ、巨大電子博物館であります。ここでは実に五千三百万点のデジタルコンテンツが無料で公開されています。それは文化を育む活動であると同時に、当然、ITプラットホーム、グーグルなどへの対抗軸として行われている。こういう活動にとって保護期間の延長というのはかなり間違った判断だったのではないか、こんなふうに考えるところです。
 もう一つ参りましょう。非親告罪化です。次のページですね。
 これに関しては、告訴をしないと起訴、処罰できない親告罪だということで、パロディーなどの二次創作ばかりか、さまざまな、経済、教育、あるいは研究の現場で軽微な利用というのはたくさんあるわけです。その全部について事前に許可をとるというのは実際にはとても難しいことで、軽微利用というのは行っています。皆さんの現場でも恐らく行っています。
 それは何でできるかといえば、大した行為じゃないからです。お目こぼしです。大したことじゃないからできてしまう。これで社会は現実に回っています。
 これが第三者の告発でも起訴、処罰されるかもしれないとなれば、それは萎縮しかねません。残念ながら、今、炎上文化というのが大問題になっています。この告発ということとの相性が最悪ですね。
 こんな中で、現在の改正法案は、原作のまま利用するなどのセーフガードが十分に盛り込まれまして、こうした二次創作などへの懸念が減少したことは大いに評価したいと思います。これは人々の声を受けた政府の努力の成果だと思います。
 しかし、あえて申し上げれば、例えば企業や研究機関での資料の複製は、やはり事前の許可がとれない類いの資料も多いのです。ですから、行われています。あるいは、解析用のビッグデータを第三者に提供する。今後非常に重要になる部分ですけれども、実は、現行法では恐らくできません。あるいは、商用のアーカイブ、先ほど申し上げたとおり。商用のオンラインの講義、日本の教育を世界に向かって広げていくためにはとても重要な要素。これらに非親告罪化の影響が及ばないかどうか、今後の運用等についてなお注視が必要かなというふうに思います。
 さて、最後です。そうした中、我々は一体どういうふうにすべきか。
 ここで申し上げたいのは、個々のメニューについて賛成、反対、それぞれあるとしても、それを条約で知財制度が縛られるということはちょっと慎重になった方がいいということです。
 というのは、先ほど申し上げたように、世界は変化が余りに急速なんですね。ITネットワーク革命の状況というのは、もう三年先が到底読めません。ということは、今現在はいいと思えているような制度も、三年先にはこれはまずいねというふうになっている可能性は十分あるんです。
 三年前に現状を予測できた人はいないですね。アメリカに至っては、当のアメリカの人々自体が将来が全く見通せない状況に今なっている。こんなことも言えるんじゃないかというふうに思います。
 そうすると、これから制度を変えようというときに条約で縛られちゃうと、国会をもってしても、皆さんの力をもってしても変えられなくなるわけです。このことは検討してしかるべきだというふうに思います。
 特に、これからは、知財権で囲い込んでしっかり守っていく部分と、それから、開いてみんなに自由に使わせて広めていく部分、このオープン・クローズ戦略が国家や企業の浮沈を決定します。ITプラットホームは、要するにそれがうまかったわけです。そのときに我々が政策手段としてこうしたオープン・クローズの政策メニューをとれなくなるとしたら、これはなかなか重大な問題です。
 加えて言うと、条約の中には一時代前の相手国内のロビーイングの成果が盛り込まれちゃうということが往々にしてあるんですね。
 実を言うと、今のTPPの知財条項は、多くは米国提案に基づいていますが、五年以上前の米国内のロビーイングの成果です。今、米国内ではITプラットホームのロビー力は非常に強くなっていて、かなり状況が変わっているのはさっきも申し上げたとおりです。本当にこれで大丈夫かということも出てくる。
 海賊版対策のような協調のメリットが大きい部分に条約というのは今後絞り込んでいって、しっかりそこに注力していく、このことが必要ではないかなというふうに思うわけです。
 さて、最後に国内法の課題です。
 他方で、国内では、権利処理コストの低下などのためのさまざまな課題が山積しています。
 一番目としては、権利情報データベースです。権利情報をちゃんと集約しておいて、許可が欲しい人が連絡がとりやすく、ライセンスを受けられる状況をつくってやること、これは今急ピッチで進めようとしています。
 それから、先ほど申し上げた孤児著作物対策、これもどんどん進めていかなければいけません。あるいは、さらに思い切って、イギリスなどが行っていますけれども、特定ジャンルでのコンテンツは、もう委託がなくてもそのジャンルでの権利者団体が権利を管理して許可を与えられるという、いわゆる拡大集中許諾、ECLというものも、これは制度設計上いろいろな課題があるんですけれども、検討は十分価値がある、こんなふうに思います。こんなようにして、ライセンスを受けやすい状況をつくってあげる。
 しかし、それでもなお、到底ライセンス許可などはとれない利用というのは残ります。数が物すごくたくさん、百万、一億なんてあったらそんなことはできないよ、あるいはコスト、活動内容的にできないよ。あり得ます。そのときには、権利者に迷惑がないような利用であれば許可なしで使ってもいいよという、いわゆる柔軟な権利制限規定というものが今各国で議論されて、日本でも議論されている。権利者団体ではなお反対もありますが、もう落としどころを見つけて、しっかりと導入しなければいけない時代であろう。
 言うまでもないが、アメリカのITプラットホームがどう権利の壁を越えてきたかといえば、フェアユースと言われるある種の柔軟な規定で越えたわけであります。アーカイブ利活用もそうであります。
 以上は知財推進計画でも重点目標とされた内容でありますが、現在はなお道半ばであります。
 これを今後どんどん進めていかなきゃいけないというときに、日本からもともと提案したわけでもない保護期間の延長や非親告罪化だけを前倒しで立法する。果たしてバランスがいいのかな、それで三年先の状況に本当に対応できるのかな。この観点から、私は慎重な意見を申し上げたいというふうに思います。
 どうしても入れるのであるならば、先ほどの国内法の課題についてはこれまでの数倍のスピードで進めるぐらいの覚悟を持たなければ、ITネットワーク革命の中での日本の将来は到底見据えることはできないだろうというふうに思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 福井健策

speaker_id: 24676

日付: 2016-10-31

院: 衆議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会