鈴木五十三の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○鈴木参考人 塩谷立特別委員長、それから委員の皆様方、本日、私に参考人としての意見を述べる機会をいただきまして、大変光栄に存じます。ありがとうございます。
 本日、私は、投資章におけるISDSの規定について発言させていただきたいと思います。
 ISDSは、投資家が、投資章の実体規定に違反する紛争について仲裁を申し立てることのできる制度であります。これまで、この制度が政府による正当な規制権限の行使を制約するのではないか、あるいは濫訴を誘発することを含む制度上の不備があるのではないかということで、さまざまな議論がなされてきたと思います。
 しかし、今回のTPPの投資章、ISDSの条項をあけてみますと、これらの懸念に対して多くの回答がなされているというのが私の最終的な意見の結論でございます。
 まず第一の、政府の正当な規制権限の行使に関しましては、少し実体規定を見ながら御説明させていただきたいと思います。
 御承知のように、投資章では、実体規定の各義務において、正当な規制権限による場合は義務違反にならないとの原則を取り入れております。
 実体規定は、大きく分けまして、投資財産設立の時点、言いかえれば、投資開始の時点での投資の自由を保障する自由化規定と、それから、投資が始まった後にその待遇を保護する規定、投資の保護規定の二つの規定があります。
 自由化義務のところでは、内国民待遇、最恵国待遇、そして特定履行要求の禁止、これに加えまして、経営幹部の国籍制限、あるいは移転の自由が定められています。投資開始後の保護義務といたしましては、明確に国際慣習法上の最低待遇及び収用補償を規定しております。
 内国民待遇について申し上げますと、御承知のように、受け入れ国に対して、外国投資家を自国の投資家よりも不利益に扱ってはならないという待遇の保障であります。例えば、投資の条件として、受け入れ国が会社の持ち分の外資保有率を一定の割合以下に制限するなどの措置がこの待遇に照らして問題になります。
 この場合には、外国投資家と自国投資家の利益を比較するということが起きるわけですが、その比較におきまして、外国投資家と内国投資家が同様の状況にあるかどうか、同様の状況テストと言われますが、それを適用することによって判断することになります。ところが、この同様の状況のテストにおきまして、内国投資家と違う措置が外国投資家にとられることが正当な規制権限行使に該当するかどうかを勘案するとされています。TPPではこのことを明示しています。
 また、自由化措置の一つである特定履行要求の禁止原則ですけれども、これも、現地調達、あるいは自国産品の購入要求、ライセンス料の設定、特定技術の移転要求など技術移転での条件を課すことを禁止するものです。この禁止では、やはり同様の状況テストが適用されないために、むしろ正当な規制権限行使保全のための規定が明文化されています。公共の福祉に係る正当な目的を保護するための措置を明示して、禁止から除外しているわけです。
 同じく投資後の保護である最低待遇基準の保障は、国際慣習法の原則に基づくものとされています。この中には、公正衡平待遇義務と言われます国際慣習法上確立された義務が含まれています。
 投資判断の先例によれば、この義務の内容は、恣意的で、大幅に不公正、不正義、差別と偏見、あるいは裁判拒否を含む適正手続の欠如によって行われた場合に該当するというふうにフレーズ化されています。
 そして、この公正衡平待遇義務に関する判断の先例では、ある措置が投資家の経済を害する場合であっても、目的の公共性、措置の合理性、適正手続による実施であれば、正当な規制権限行使として保護が図られています。判例法理ではポリスパワーと言われることで、この正当権限行使が認められています。
 収用ですけれども、これは多く議論のあるところですが、投資財産を収用または国有化するには、公共目的で、差別的でなく、速やかな補償がなされることが条件とされていますが、収用には間接収用ということが含まれています。
 間接収用は、収用と同等の措置と認められるということが条件でありまして、仲裁判断先例では、収用と認められる程度に相当な財産の剥奪がなければならないとされています。その上で、投資章では、正当な権限行使が間接収用に該当しないことの確認をしています。また、最近の判断先例では、明確に、この正当な権限行使は間接収用の適用を除外するということが宣言されています。
 以上が、実体規定においてそれぞれ確保されています政府による正当な権限行使の保護でございます。
 TPPの投資章にはBがありまして、そこにこそ本来のTPPの手続規定が置かれています。投資家は、投資受け入れ国との間に発生した紛争について、その解決のために国際仲裁に付託できるという制度であります。
 仲裁廷は、この違反があったかどうかを判断し、損害の発生を認定した場合には、損害賠償または原状回復を命じることになります。この決定は、ICSID条約またはニューヨーク条約などに基づいて執行することができることになっています。
 これまで、この手続をめぐりまして、その不透明性、非公開性、審理のおくれ、濫訴の誘発、あるいは上訴がないことなどが懸念として挙げられてまいりました。今回のTPPの規定は、これらの懸念に対して応えたものになっております。
 以下、順次羅列していきたいと思います。
 第一に、仲裁廷の審理は公開されます。また、当事者が提出した書面、審理の議事録及び仲裁廷の命令、決定は公に入手可能にするということが規定されました。手続の透明性が確保されたと言えます。
 さらに、TPPの締約国で紛争当事国でない国にも、規定の解釈について意見を述べ、あるいは意見書を提出することができることになりました。
 さらに、当事者でないNGOなどを含む第三者も、アミカスキュリエ、裁判所の友として仲裁廷が意見を聞くことができるということが規定されています。
 また、審理の促進を図るためには、被申し立ての国が提出する、明白に法的根拠を欠くような場合であるとの異議については、まず先決問題として判断をするということが規定されています。これも、仲裁先例においては、バイファケーション、二分化手続として発展してきた法理でございますが、このTPPにおいて明確に規定されることになりました。
 さらに、申立人の申し立て可能期間を三年半に限定したことなど、遅延の防止が図られています。
 また、投資協定の解釈につきましては、TPP委員会が決定した解釈は仲裁廷を拘束するということで、解釈の統一も図っています。
 濫訴の防止では非常に大きな要素になります仲裁手続費用の負担でございますが、今回の規定では、申し立て当事者が敗訴した場合、仲裁手続費用だけでなく、被申し立て国側の代理人報酬も申立人に負担させることができるとして、濫訴防止のための条項を費用負担の面からも手当てしております。
 なお、原状回復措置を命じた命令があった場合にも、国は、その措置として行われたことを撤回するのではなく、その選択によって賠償の支払いにかえることも許されるとされておりまして、金銭の支払いを第一義的な救済手段として位置づけております。ただ、この金銭の支払いも、判例法理で既に発展しておりますが、懲罰的損害賠償を含まないということが明文化されています。
 ISDSは、既に世界で締結されている三千を超える投資協定のほとんどにおいて規定されています。また、日本が加盟している投資協定を含む経済連携協定においてもほとんど規定されております。
 これまで、国家が公共政策の目的で行う権限行使が、仲裁に付託されることによって制限されるのではないか、萎縮されるのではないかという心配が表明されてきました。特に、最近では、オーストラリアのように、同国のたばこ規制が申し立ての対象になったということもありまして、その導入について慎重に検討することを表明する、そういう国々もあります。
 しかし、この間のオーストラリアに対する仲裁廷での判断、あるいは今回のTPPの手続条項の規定は、これらの懸念に対して応えた国際社会の誠実な反応を表明していると私は考えます。
 ISDSは紛争解決制度です。そこは、投資家と受け入れ国に対し論争の場を提供するフォーラムであります。仲裁判断によって紛争を解決するというわけで、これまで武力による解決にまで頼らざるを得なかった投資紛争が、法律論争に移しかえられることになりました。このようにして、世界は一歩一歩、法の支配に向けて進んでいっております。ISDSの仲裁手続は、この道に向けて、いわばジュリスプルーデンス、法理の体系を発展させてきたものと考えます。
 そして、現在、投資受け入れ国と投資家との利害のバランスを公平公正に図ることを目指して仲裁廷の先例は築き上げられてきているというのが私の感想です。そして、その先例を背景に今回のTPPは起草されております。その意味で、これからの投資仲裁の一層の発展に向けてのよき模範ともなり得る規定であると考えます。また、よき模範にしていくのがTPP加盟締約国の責務だというふうに思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 鈴木五十三

speaker_id: 20116

日付: 2016-10-31

院: 衆議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会