岩月浩二の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○岩月参考人 弁護士の岩月です。
このような場で意見を述べさせていただく機会を与えていただいたことに、まずお礼を申し上げます。
時間もありませんので、早速入らせていただきます。
一応簡単な資料をつくっております。最初に挙げてあるのが、農林水産委員会での委員会決議、この中の五項がISDに関係しております。
ただ、今の段階で私が一番心配しているのは、七項にむしろ心配があります。七項、「交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること。」このことを政府に求めたわけであります。
ISD、この条項の問題点については、世界的にも大きな議論になってきています。
伊勢志摩サミットに先立って、経済政策について意見を聞きたいということで、政府にジョセフ・スティグリッツというノーベル経済学者が招かれて、総理じきじきに意見をお聞きになったことがございます。このスティグリッツ教授、基本的にTPPには反対です。TPPは自由貿易ではない、グローバル企業のための管理貿易だというふうに言っております。その中で、スティグリッツは、TPPで最悪なのはISDだということも言っております。
さらに、二〇一二年にさかのぼりますと、全米州立法者協議会、要するに全米の州議会の代表者が集まった協議会でも、TPPからISDを除くべきだという公開書簡が米国政府に送られています。そのように、基本的にどの貿易協定をとっても重大な問題として扱われているのがISDです。
しかし、私の実感からいうと、ISDについて知らない国民が大半ではないか、国民的議論どころではないのではないかというふうに思います。
食の安全について関心をお持ちになる消費者の方に呼ばれて、学習会でお話しすることがあります。その冒頭で私は、ISDを知っていますか、聞いたことはありますかということを尋ねます。多くて、多くてとは言いません、大抵二、三割です。ISDに関心を持って学習会に来よう、そういう熱意のある方で、せいぜい二、三割ですね。国民全体をとったらどれぐらい知っているでしょう。一%いくかいかないかではないかと、私は非常にその点について懸念しています。
昨日、NHKの「日曜討論」で、田村憲久元厚生労働大臣が自民党を代表して出演されていました。そこで田村議員は、ISDN条項はどの貿易協定にも入っていると。えっ、電話回線の話……。まさか、鈴木先生がISDNなんて言いません。私も、ISDと言って、ISDSと言うところで間違えることはないんですね。だから、元大臣ですら十分な認識がない。十分な認識がないのに、国民がそれを知るはずがないということを私は改めて確信しました。
このISD条項、非常に問題があるというふうに思うのは、国家の政策がたった三人の民間人によって事実上覆される、国会で苦労しておつくりになった法律がたった三人の民間人によって否定される、事実上変えていかなければならなくなる、そういう重大な効果がある。
そういう重大な効果に鑑みた場合に、全く周知がされていない、国民的な議論が全くされていない。これは、先ほどの「国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること。」とする委員会決議に反するのではありませんかというふうに強く思います。十分に国民に知らせて、十分に国民が議論した上でこれを選ぶということをぜひ実行していただきたいというふうに思います。
それから、七項の前段、「交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、」とあるところですね。
もう交渉は終わりました。成文ができました。その成文を正確に国会に伝えているのかという問題がこのISD条項についてもございます。というか、調べていって、きのう気がついたんですけれども。
先ほど鈴木先生の方からもお話がありました、間接収用という概念があります。経済活動に対する規制措置が収用と同等程度に及ぶ場合、それに対しては正当な補償をしなければならない。この補償の中には、逸失利益と言われて、将来に向かって失われる利益も含まれるんですが、この間接収用という概念について、今回のTPPでは、公共目的の規制は十分に守られるようになったというのが政府の立場です。
この間接収用の定義の中に、公衆衛生とか環境を守る公共目的のための無差別な規制措置は間接収用には該当しませんと一応書いてあります。ただし、政府の訳では、公共目的の無差別な規制措置は、「極めて限られた場合」を除いては間接収用に該当しないと書いてあります。
「極めて限られた場合」というのは一体何なのかなと思って、原文を当たってみました。日本文にも解説がありません。原文にも当たってみましたが、原文にも解説がないんです。
解説がないから、やはり相変わらずこの「極めて限られた場合」はわからないなと思いながら、原文を見たところ、「イン・レア・サーカムスタンシーズ」、和製英語で済みませんけれども、「エクセプト」、除いては、「イン・レア・サーカムスタンシーズ」、まれな環境、まれな状況を除いてはというのが、私の語学力の程度だとスムーズにいくんですね。これを、政府の仮訳、正文ではない仮訳では、「極めて限られた場合」と、すごく狭いように翻訳しているんですよ。
でも、イン・レア・サーカムスタンシーズ、普通に言えば、まれな環境では、まれな状況ではという程度が普通じゃないですか。極めて限られた場合というなら、私の語学力は大したことないけれども、ハードリー・エバー・ケースとか、イン・ハードリー・エバー・ケース、極めてハードリーとあるべきではないかというふうに思います。
これは意図的ではないか、意図的な誤訳ではないか、議論を起こさせないための意図的な誤訳ではないか。公共の福祉を守るための規制措置がどれぐらい限定されているのか、それは非常に重要な問題であるのに、そうした誤訳で議論を誤った方向に導こうとしているというふうに私は思います。
論点を変えます。
それから、ISDは使う立場だということをよく言われます。これは多分、途上国を頭に入れている。私自身はISD条項を全面的に否定する立場ですが、戦略的に考えた場合、途上国を頭に入れていると思います。
これは、もともと途上国の司法制度が不備だということで、相手国の司法を飛び越えて海外の仲裁に出す、そういう制度です。日本のような法制度が整備された国でこれを受け入れることは、私には屈辱的です。だけれども、TPPで新たにISD条項が活用できるという議論もされます。
さて、では、これまでの投資協定を踏まえて、十一カ国でISD条項がない国はどこか。シンガポールもISD条項は既にあります。ベトナムは社会主義国だったけれども、ISD条項は日本との間であります。マレーシア、ブルネイ、あります。チリ、ペルー、メキシコについても、ISD条項は既にあります。ないのは、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、そしてアメリカ。
御存じのとおり、アメリカは非常な訴訟社会です。NAFTAで、政府の統計ですが、ISDの係争件数、十月現在で六十九件というふうに外務省はまとめています。この六十九件のうち、アメリカ企業が起こしたのが五十件です。そして、勝訴した結果が出ているのはアメリカ企業だけです、八件。四件は、アメリカ企業は和解しています。アメリカ政府が負けた例はありません。三カ国、アメリカ、カナダ、メキシコの中でも、圧倒的にアメリカ企業が使っている。
これを、カナダ以上に大きな市場である日本に対してアメリカ企業が使わないわけがない。そういう観点からこの問題を戦略的に考えるべきではないか。
では、英米法と言われる国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、この英米法と言われる国の中で、ISD条項を使って日本企業が互角に戦っていけるのか、そういうことについての戦略的な観点はぜひ持って考えていただきたい。
カナダは当初、米国と同じぐらいたくさんISDを使いました。だけれども、米国に対して勝てない。勝てないから、数年間、もうほとんど起こさないという状態になりました。圧倒的に今、アメリカ企業だけが使っている。つい最近、一兆五千億円規模の大きな賠償請求をカナダ企業が起こしていますけれども、実態としては、そんなアメリカ勝ちみたいな状態がNAFTAの中ですらあるということです。
資料の三ページを簡単に見ておきます。
投資仲裁の最も基本的な義務とされるのが、公正かつ衡平な待遇及び十分な保護及び保障を与える義務です。これは言葉そのままです。言葉そのままで、意味がよくわからないけれども、極めて標準的な国際経済法の教科書で、これがどういう意味があるかということが書いてありました。「外国投資家の投資財産保護に関する慎重な注意、適正手続、裁判拒否の禁止、恣意的な措置の禁止、投資家の正当な期待の保護」、これが公正衡平待遇義務。これが国際慣習法だというのが一般的な国際経済法における理解です。
TPPの条文はこれを詳しく書いたと言われていますが、下を眺めても、この意味がわからないです。これを民間の三人の仲裁人がその都度判断しては解散するということを繰り返すのがISDです。
厳密に考えると、条約上、国内法的にもこの条項は意味を持つわけです。意味を持つと何が起きるかというと、この最低待遇義務を実現するための立法をしなければならない。最低待遇義務を実現するための裁判をしなければならない。国内でもですよ、国内法的効力があるんですから。というような問題。これは全く議論されていませんが、そういう問題が起きる。これにどうやって対処していくのか、私にはよくわかりません。
最後、主権侵害はないか。
五ページですが、上に、韓国大法院、韓国の最高裁判所ですね、これが、米韓FTAを締結するときに、主権侵害ではないかという議論をしています。内部資料が公開されているんですね。
その検討のときに、「このような紛争に関して国内の司法府が関与する余地がなくなり、国家の主権または司法権が侵害される素地があるという指摘がある。」しかし、「条約の批准等の手続を経て、国家が自発的に同意することに従うもので、国家はそのような選択をする主権を行使するものだと言えるという見解もある。」両論併記です。
両論併記ですが、後を見ていただくと、主権の放棄も主権の行使であると言っているわけです。人ごとだからそう言っているわけで、自分のことになると、最後、どうなっているか。
アンダーラインを引いてあります。最高裁としては、「司法府の裁判が無差別的に仲裁請求の対象になる場合には、いろいろな副作用を招くことがあるので、裁判を仲裁請求の対象から除外する方案や対象を制限して明確に規定する方案を検討する必要」がある。だから、ほかはいいよ、せめて裁判所は除いてくれよと。虫がいいと私は思いますけれども、自分のことになるとこんなことを言っている。
最後、労働契約法なんかが書いてありますが、これは、労働者の保護を図るために、長年の判例を積み重ねてつくられてきた法律です。苦労しておつくりいただいたわけです。だけれども、こういう労働者保護法制が仮に外国企業に対する公正衡平待遇義務に反すると判断されると、賠償の対象になる。賠償の対象になるということを繰り返されないためには、これを改正しなければならない。
国内の事情で議論して改正するならいいんです。だけれども、国際仲裁で三人の民間人に賠償させられるから変えなければならない、こんなことがあってはならないというふうに私は考えています。
以上で私の方の意見を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)