神野直彦の発言 (厚生労働委員会)
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○神野参考人 神野でございます。
私のような者をこの場にお招きいただきましたことに、厚生労働委員会の皆様方に深く感謝を申し上げる次第でございます。
とはいえ、私は網膜剥離を患っておりまして、手術でどうにか失明をもたせているという状態です。それで、目が思うように機能いたしませんので、きょうの発表でも失礼があるやと思いますので、その点、何とぞ御寛容いただければと思います。また、私、おとといまでずっと長野の方で調査活動等々やっておりまして、準備も十分にできておりません。この点もお許しいただければと思います。
私は一介の財政学者にしかすぎませんが、社会保障制度審議会の年金部会長を仰せつかっております。そこで、本日は、年金部会での議論を、これは私の責任においてでございますが、御紹介させていただきながら、この法案の意義について意見を陳述させていただければというふうに考えております。
結論を先に申し上げておきますと、年金部会長という立場、視座から今回の法案を眺めさせていただきますと、年金部会での議論を尊重していただいて、反映していただいているということが理解でき、国会におかれましても生産的な議論の上に成立を実現させていただくことを望みたいというふうに思っております。
それで、この法案の内容についてでございますが、お手元に私の簡単なメモ、骨子をお配りしているかと思います。二番目に書いてあります「改正案の概要」というところですね。五項目にまとめられております。短時間労働者の被用者保険の適用拡大の促進、国民年金第一号被保険者の産前産後期間の保険料免除、それから年金額の改定ルールの見直し等々、五項目にまとめております。
この内容につきまして、ごらんいただければおわかりいただけますように、この法案は大きく二つの内容から成り立っております。一つは、年金制度にかかわる内容ですし、もう一つは、GPIFの改革にかかわる内容でございます。
年金制度の改革にかかわる、重点が置かれている年金制度の改正に焦点を絞りながら、年金部会でも共有している、恐らくこの改正法案もそれを目指していると思いますが、目的を示しておきますと、三つあるというふうに考えられると思います。制度の持続可能性の確保、将来世代の給付水準の確保、それから社会経済情勢の変化に対応した保障機能の、セーフティーネット機能の強化というこの三点にあるかというふうに考えております。
この意義を考える上で、どうしても触れておかなければならない前提があります。それは、もう釈迦に説法かと思いますけれども、この改正の意義を考える上で、二〇〇四年の、つまりそれまでと発想を全く逆転させた年金改革について指摘しておく必要があるかと思います。
それまでの年金は、御存じのとおり、給付水準を先に決めた上で社会保険料率を決定する、こういうやり方だったわけですね。ところが、これを二〇〇四年の改革でもって逆転させまして、社会保険料の水準を固定化しておいて、給付水準の方を調整するという仕組みに切りかえたわけですね。
これは、どうしてこういうことをやったのか。御案内のとおり、少子高齢化が急速に進行している中で、常に負担が上がっていくというような、つまり将来世代に過剰な負担を強いていくようなことをどうにかクリアできないかということを目的にしながら、この給付水準を調整する仕組みとしてマクロ経済スライドを入れているわけですね。つまり、賃金再評価や物価スライドに対して一定の調整を行うマクロ経済スライドの導入をしたということになるわけでございます。
この改革の目的を考えていく上で、そういう改革が行われたということを受けて、言うまでもございません、社会保障・税一体改革、それから国民会議での議論を経て、二〇一三年、つまり平成二十五年十二月に社会保障改革プログラム法が成立いたします。
この意義は、このプログラム法で、先ほど言いました、平成十六年の、逆転の発想で改革した年金制度の基本的なフレームが完成したというふうに考えていいだろうと思います。かつ、その上で、このプログラム法は、四つの検討課題を明記しております。それは、マクロ経済スライドの見直し、それから短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、高齢期の就労と年金受給のあり方、高所得者の年金給付の見直し、この四つの課題が必要だということを提起しているわけですね。これが、今回の課題に結びついていて、今回の改革の重要な導き星になっているというふうに考えています。
それと同時に、平成二十六年の財政検証では、負担を固定化しておいて給付の方を調整していくということで、五年ごとの財政検証が行われるわけですけれども、こうした国民会議や社会保障改革プログラム法で指摘された四つの課題に対応するために、新たな試みとして、制度改革の実施を仮定したオプション試算をやっております。
この結果でございますけれども、五年ごとに行われる財政検証で、次の検証までに所得代替率が五〇%を下回る可能性がない、つまり差し当たっての改革は必要がないということが確認されると同時に、日本経済の再生と労働市場への参加が進めば、将来的に所得代替率五〇%は確保可能だということが確認されております。
ただ一方で、平成十六年、平成二十一年当時の想定よりも、基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間が延びておりますので、また将来の基礎年金の水準が相対的に大きく低下してしまうという問題が明らかにされました。
年金部会では、今申し上げましたように、国民会議及び社会保障プログラム法などで提起された検討課題や財政検証を念頭に置きながら、今回行うべき改革の課題を共有いたしました。それが、お手元の骨子の三番目に書いてある事柄ですね。将来世代の給付水準の確保への配慮、被用者保険の適用拡大、基礎年金の水準低下への対応、それから国民の合意の形成とスピード感を持った制度改革の実施、こういうふうな検討課題を共有した上で、その具体的なまとめをいたしまして、議論の整理をいたしました。
その整理、これは全部、私どもが報告している報告書の分野別項目を列挙したものでございますが、そこの七項目に整理できますが、これを提起いたしました。もちろんさまざまな課題を提起しておりますけれども、このうち早急に対応しなければならないような課題については、今回の法案で道筋がもうつけられている、こういうふうに認識をいたしております。
もう一つのGPIFの方の改革でございますが、このGPIFの改革については、年金制度の信頼を高める上で、しっかりした組織改革をしていく必要があるということについては、年金部会で共有した認識として合意されているというふうに理解しております。
GPIFは、発足してから十年足らずでございますけれども、市場環境は一層高度に複雑化している中で、百四十兆円という巨大な積立金を運用する世界最大の機関投資家になっているわけですね。そうした事実を踏まえながら、つまり、年金制度改革とそういう世界最大の機関投資家になっているということをにらみながら、組織的な改革が必要かというふうに考えている次第でございます。
このGPIFにかかわる議論の整理についても、年金部会の方では、さらなるガバナンス体制の強化、これは合議制の機関の設置とか、運用の見直し、株式のインハウス運用とかオルタナティブとか、いろいろございますが、多くの方が合意していただいたのは、改革の進め方については、いろいろな議論があるとしても、当面は、ガバナンス改革を中心に実施して、運用については、早急に手当てが必要なデリバティブの規制緩和やコール市場の活用を行うということにとどめた方がいい、これも一致しているところでございます。
今回のGPIFの改革法案を見させていただくと、このような年金部会の議論を踏まえて必要な改革が盛り込まれているということで、これも支持させていただきたいというふうに思っております。
私は、これは個人的な意見でございますが、世界各国が年金制度に苦しんでいます。それは条件は三つあると思いますね。
一つは、黄金の三十年と言われた第二次世界大戦後の経済成長がいずれの国でも失速して、賃金、まあ経済成長と言ってもいいかもしれませんが、その上昇がとまり、停滞しているという事実ですね。
もう一つは、先進諸国の人口構成。つまり、少子高齢化という言葉で語られる、人口構造が大きく変化した、これが二番目です。
もう一つ私が強調しておきたいのは、この年金制度の本質は、人間は、家族内での連帯でもって命の鎖をつないでいるんです。働ける世代が、子供たちを養うと同時に、労働能力を失った人を養うことによって私たちの人類の命の鎖はつながれているわけですね。この機能が弱まったときに、社会化するといったのが年金のはずです。つまり年金は家族内における世代間連帯を社会化したものだ。この事実を国民が認識しないと、年金制度そのものは揺らいでいくというふうに思います。
私は、この年金法案の審議あるいは国民的な議論を通じて、ぜひとも、国民が、国民の誰もが誰もに対して不幸にならないということを願い、国民の誰もが誰もに対して幸福になってほしいというふうに願い合っているんだという確信が醸成されていくことを望んでいる次第でございます。(拍手)