遠藤久夫の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(遠藤久夫君) 学習院大学経済学部の遠藤でございます。医療経済学を専門としております。
時間が限られておりますので、ちょっと文書の読み上げで失礼させていただきます。
本日は、このような場に意見陳述する機会を与えていただきまして、大変光栄に存じております。
私は、二〇〇五年から二〇一一年までの六年間、厚生労働省の中央社会保険医療協議会、いわゆる中医協の委員を務めておりまして、そのうち後半の二〇〇八年から二〇一一年の三年間は会長を務めさせていただきました。現在は社会保障審議会の医療保険部会と介護保険部会の部会長を務めております。そういう関係で、我が国の医療保険制度及び診療報酬あるいは薬価制度について知見があるということで今回参考人として意見を述べる機会をいただいたと、このように考えております。
まず初めに、我が国の国民皆保険について述べさせていただきます。
御案内のとおり、昭和三十六年、一九六一年に国民皆保険体制が発足し、全ての国民が公的な医療保険に加入し、医療の保障を受けられるシステムになっているわけであります。また、我が国の医療保険では、有効性、安全性が確認され、必要かつ適切な治療は基本的に保険給付することとされております。また、高度な医療技術や革新的な医薬品が開発された場合、それらのほとんどは順次保険収載されて公的医療保険の対象となります。つまり、我が国の公的医療保障制度では、提供される医療の有効性や安全性を担保するだけではなく、新しい技術や革新的新薬も積極的に保険給付の対象としているわけであります。さらに、高額療養費制度等々によりまして、高額な費用が掛かる治療においても一定額の自己負担で受けられる仕組みになっているわけであります。このように大変恵まれた医療保険の仕組みは世界にも類がなく、まさに世界に冠たると言える国民皆保険体制だと考えることができると思います。
しかしながら、その一方で、高齢化の進展に伴って医療費が急速に伸びていることもまた事実でありまして、様々な制度改革が現在も求められて進行しているということは御案内のとおりであります。
さて、TPPとの関連でお話をさせていただきたいと思います。
TPPの議論が起きた当初は、TPPの締結によりまして、いわゆる混合診療が解禁され、我が国の皆保険体制が崩壊するのではないか、あるいはアメリカの要求で我が国の医薬品や医療機器の保険償還価格が高くなり、医療費を高騰させるのではないかという、そういう議論あるいは懸念が巻き起こったわけであります。
私は、まず申し上げておきますと、いわゆる混合診療の解禁には反対の立場であります。混合診療の禁止というのは、御案内のとおり、一連の医療の中で自由診療と保険診療を併用した場合には保険診療部分も自己負担となると、こういう仕掛けでございますけれども、この仕組みの評価は様々で、いろいろな意見もございますけれども、私は高く評価しておりまして、我が国の国民皆保険制度の土台を支えている重要な要素の一つだと思っております。
保険診療であれば有効性と安全性が担保された医療しか対象とされませんし、保険診療であれば患者の自己負担は軽減されて、医療へのアクセスが保障されます。さらに、この混合診療を禁止している、こういう体制の下では、新薬を保険収載せずに自由診療として提供することは、患者の自己負担が非常に大きくなるため、製薬企業は新薬を速やかに保険収載しようといたします。その結果、患者は革新的な新薬でも保険診療として少ない金銭的負担で利用することが可能となると。もし混合診療禁止の仕組みが全くなければ、有効性の高い革新的な医薬品がいつまでも保険の対象とならない可能性もあるわけでございます。
したがいまして、TPPの締結が混合診療の解禁をもたらすという懸念が現実のものとなれば、ゆゆしき問題だと私自身も思っておりました。さて、その実態はどうだったのか。こういう関心を持っておりましたので、TPP協定の関係条文、私の能力の範囲において読んでみたわけでありますけれども、混合診療の解禁につながるような内容は見受けられませんでした。その意味で、TPPの締結に伴い、混合診療が解禁され、ひいては我が国の国民皆保険体制を揺るがすという意見は杞憂であったのではないかと、このように思っております。
一方、医薬品は公的医療保障制度の重要な要素を形成しておりまして、一体不可分な存在でありますから、社会保障の一環だとは言えるわけですけれども、一方で、工業製品であることから、TPPのような貿易のルールの議論との親和性は高いというわけで、こちらの方はTPPの議論の俎上にのるだろうとは思っておりました。実際に、TPP協定には医薬品の保険収載の手続に関する規定、あるいは締約国での協議の枠組みに関する規定が設けられております。
この内容に触れる前に、まず、我が国の薬価制度について簡単に述べたいと思います。
私は、先ほど申し上げましたように、中医協委員六年を務めたのですけれども、そのうち四年間は、薬価専門部会という中医協の中の薬価基準を決める部会でありますけれども、そこの部会長を務めておりまして、個々の医薬品の薬価収載のみならず、薬価制度の改革に関わってきたという経験もございます。
まず、我が国の薬価算定プロセスは、歴史的に累次の見直しを行いまして、その結果、他国よりも透明かつ公平公正な仕組みになっているということを申し上げておきたいと思います。薬価そのものは健康保険法に基づいて厚生労働大臣が定めるものでありますが、算定に当たってのルールには、算定基準という形で保険局長が通知の形で広く公開されておりますので、誰でも見ることができます。もう企業も当然これを自由に閲覧して、そのルールを十分把握した上で薬価収載の希望を提出することになっております。
また、薬価算定の手続も透明かつ公平公正に運用されております。まず、新薬の薬価を決める場合には、中医協の下部組織であります薬価算定組織というところにメーカーが申請を出しまして、そこで議論がされて薬価の原案ができます。そのプロセスにおいて、現在は申請企業は二回意見を表明することができます。つまり、不服意見を表明して、そこでまた再検討するというプロセスになっております。この薬価算定組織は、ほとんどの審議会は全て公開になっておりますが、薬価算定組織に関しては、企業秘密の事項に基づいた議論もあるということでこれは非公開となっておりますが、企業秘密を公開しないということは他の国も同様であります。
また、これも重要でありますけれども、薬価の算定においては外国企業と内資企業は一切差別はしておりません。全く同列に取り扱っております。そういう意味で非常に公平公正な仕組みになっているということでございます。
次に、今度は薬価制度そのものを見直す場合はどうするか。これは、先ほどの薬価算定組織ではなく、中医協の中にあります薬価専門部会、それと中医協の総会、この二つで議論をするわけであります。
薬価の見直しというのは二年に一回行われます。これは薬価改定、診療報酬のない奇数年に必ず議論されて何らかの改革が行われるわけでありますけれども、この見直しに際しては、見直しによって影響を受ける製薬企業の代表者あるいは卸業者等々、こういう方たちの意見陳述を一年間に二回行います。その中にはアメリカやヨーロッパの医薬品業界の団体の代表者が必ず含まれております。そういう意味で、日本だけで決めているのではないということであります。
確かに、TPP協定には医薬品等に関する附属書がありまして、医薬品の保険収載及び保険償還価格決定に係る透明性及び手続の公正な実施について定められております。具体的には、この附属書の第三条で三つのことを言っておりまして、医薬品の保険収載の検討を一定期間内に完了させること、手続規則や方法、指針等を開示すること、それから申請者に意見提出の機会を与えることが求められているわけですが、これらを我が国の先ほどの薬価算定のプロセスに当てはめて考えてみますと、まず、医薬品の薬価収載は原則六十日間、遅くとも九十日以内ということになっております。また、先ほど御説明いたしましたように、薬価算定の基準は広く公開されておりますし、申請者に意見提出の機会も、二回あるというふうに申し上げましたけれども、ございます。
以上のように、我が国の薬価算定プロセスは既にTPP協定が締約国に求める内容をクリアしているわけです。したがって、TPP協定によって我が国の薬価算定プロセスを何か変えなければいけないということはないというふうに考えます。
次に、そうはいっても、TPP協定によって外国政府から様々な要求が強まるのではないかという懸念もよく聞かれます。
そもそも我が国は、薬価制度や医薬品、医療機器について米国政府などとバイで様々な交渉協議をしてきた経緯があります。外交交渉自体は政府が行っておりますので私がその詳細を知る立場にはありませんけれども、薬価制度や医薬品、医療機器に関する交渉結果を見ますと、これは是々非々で対応しているということが分かります。我が国の国民の利益になるもの、あるいは我が国の医療保険制度の持続可能性を高めるもの、あるいは医薬品、医療機器業界の発展のため内資企業も含めて切に切望しているものなどについては制度変更を行うことがありますが、国民皆保険制度に悪影響を及ぼすものや不当な要求は再三要望があっても拒否し続けているというふうに思います。TPP発効後、もし外国政府と協議することがあったとしても、日本政府はこれまでどおりこのような姿勢で臨めば、外国政府の不当な要求を受け入れることにはならないと思います。
今まで申し上げましたとおり、私としては、TPP協定の発効によって我が国の国民皆保険が脅かされたり薬価が高騰するといったことは生じないと思います。また、我が国の制度はTPPが求める水準を既にクリアしておりまして、むしろ締約国間で統一的なルールを定めることによって我が国の医薬品産業の海外への進出にとってプラスになることが期待されると考えます。
これからも国民皆保険をしっかりと堅持していただいて、また、先進国として外国政府との協議には誠実に応じつつ、その要求には是々非々で対応していただくという、このようなこれまでの対応を日本政府にはお願いしたいというふうに考えております。
私の意見陳述は以上のとおりでございます。どうもありがとうございました。