今村知明の発言 (環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会)

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○参考人(今村知明君) ありがとうございます。
 奈良医大で公衆衛生を研究しております今村と申します。
 本日は、このような場をいただきましたことを心から感謝を申し上げたいと思います。
 私は、日頃から公衆衛生、特に食品保健や健康政策、医療政策の分野を研究しておりまして、本日が食の安全に関する問題が討議されるということで私にお声をお掛けいただいたというふうに理解しております。
 今日私のお話しする内容としましては、今日資料を一つ準備しておりますけれども、国際食品保健という分野についてちょっと私が考えていることを、そして、その食品安全性を確保する上での考え方と関係機関について意見を述べたいというふうに考えております。
 まず、最初のスライドを見ていただきたいと思いますけれども、まず、全ての議論の大前提として、食品のリスクとは何かということについて私の考えを述べたいと思います。
 まず、食品には、全ての食品にリスクがあります。食品にはゼロリスクということは考えられないというふうに思います。例えば発がん性一つを取ってみても、発がん性の多い物質と少ない物質という二種類はあったとしても、発がん性がないということを証明できるような物質というのはありません。そういう意味では、全ての食品にはリスクが存在するわけですね。
 では、食べ物そのものを考えてみたときにそのリスクというのはどういうものかということをちょっと事例を挙げて考えたいと思うんですけれども、ここに挙げておりますトウモロコシはなぜ食べて安全と言えるのかということを考えていただければと思うんですけれども、これは、実は安全だという証拠はどこにもなくて、千年ほど食べてきて死んだ人が少なかったからというふうな理由でしかないわけですね。その下にありますタマネギなどは、犬が食べたら死ぬかもしれないという代物でして、これ、人間ですと生で食べたら五個ぐらい食べた辺りから死ぬ人が出てくるだろうというようなものですね。それに、ジャガイモの青芽、これ毒性があることは皆さん御存じとは思いますけれども、例えば五個ぐらい青芽が出たジャガイモを食べれば、これもまた死ぬ人が出てくるだろうというぐらいの量があります。すると、タマネギ五個、ジャガイモ五個ぐらいはどの家の家庭にも冷蔵庫の中に眠っておりますから、それだけのリスクをそれぞれの家庭の中で抱えて生きているというのが食品のリスクの本質だと思います。
 全ての食品には多かれ少なかれ危険性があって、この危険性をどうコントロールしていくのかということが今日のお話であります。
 次のスライドを御覧いただいて、じゃ、リスクというのはどういうものなんでしょうかということを少しお話しできればと思います。
 まず、リスクは実際に事件が起こったときのその危害に発生確率を掛けたものがリスクであります。つまり、リスクというのは危険性の大きさそのものです。例えばたばこで考えたときには、危害は大きい、それも発生確率も高い、そうしたらリスクは高いということですね。例えばそれに対して、BSEなどで考えたら、危害は大きい、でも実際に起こる確率は低い、すると、たばこに比べるとずっと低い、リスクとしては低いと。そういうふうな考え方になると思います。
 じゃ、食品を食べていく中でゼロリスクというのはあり得るのかと考えると、唯一の方法は食べないことでありまして、でも、食べないと人間は死んでしまうわけですから、そのリスクを取るわけにはいかない、すると、食品のリスクを取るしかないというのが今の我々の選択肢だと思います。そんな中でどうやって食品の安全性を確認していくのかということのルールがリスク分析というものの考え方、若しくはそれを国際的に実践する機関としてのコーデックスという、そういう位置付けになるというふうに思います。
 次のスライドに、じゃ、このリスク分析というのはどういうものでしょうかということを書いておりまして、漠然とした危険性に対して被害を最小限に抑えるための科学的手法という整理でございます。このリスク分析には三つの概念から成り立っていまして、一つはリスク評価、一つはリスク管理、一つはリスクコミュニケーションであります。
 それぞれ、リスク評価は、まず科学的に評価できる部分を徹底的に評価していく、何が危険かを見極めていくということですね。そして、科学的に見極めた危険性をどこまで回避できるかという対策を練るのがこのリスク管理という部分です。それでもどうしてもリスクは残ります。そのリスクについて、関係する人たちに危険性を説明して理解をしてもらうというステップがありまして、それがリスクコミュニケーションです。この三つの概念を基に食品の安全性の基準を決めていこうというのがこのリスク分析の考え方であります。
 次のスライドを見ていただいて、スライド四ですね。
 じゃ、リスク分析の意義とはどういうものでしょうかというと、今までの食品安全基準の多くは科学的でない基準が存在しておりました。何となく嫌だというものも安全基準には入っていたわけです。しかし、世界的なルールを作っていこうという中で、科学的に基づいた食品安全基準を作ろうというときにこのリスク分析の考え方を導入して、今世界でこのリスク分析の考え方に基づいて基準を作っていくことを科学的根拠に基づいた安全基準というふうに整理をしております。
 次のスライドを見ていただいて、このリスク分析、三つの概念が独立してはいますけれども実に微妙に関係しているということを表現しています。
 まず、リスク評価のところで科学的な評価を実施するわけですけれども、ここで何が危険かということをリストアップしたら、その次の段階としてリスク管理の方に移って、じゃ、実際それを防ぐための基準を作ったり監視をしたりというふうなことをリスク管理がやっていくと。その際に、関係する消費者や事業者の方々と話し合いながら十分に理解を深めていって、この辺で基準を作りましょうということを決めていく。この枠組みがリスク分析の枠組みであります。これは、世界も日本も今この枠組みで動いているという状況であります。
 次のスライド六番を見ていただいて、これは日本でのリスク分析の枠組みです。
 今、日本には食品安全基本法という法律ができておりまして、これ、思い起こせば十数年前、牛乳の食中毒事件があったりBSEの事件があったりして、日本で食品についての不安が物すごく高まった時期がありました。そのときに、食品の不安を払拭するために一つ法律を作ろうと、その中でこのリスク分析の枠組みを日本にも導入していこうじゃないかということが決まってこの法律ができております。
 その象徴的なのが食品安全委員会でありまして、このときに、科学的に評価する機関を厚労省や農水省から独立させて、まず何が危険かを独立して評価しましょうというのが安全委員会としてできたと。そこで評価された内容をリスク管理部門である厚労省や農水省、消費者庁といった省庁が実際に基準を作ったり監視をしたりというふうな仕組みになっております。この際にもリスクコミュニケーションが図られるという形態が日本でも入っております。
 EUでも全く同じような形態が導入されておりまして、リスク評価を実施する機関としてのEFSA、そして各国でリスク管理をしておりますので、この枠組みにのっとって各国動き始めているという状況です。
 次のスライドの七番を見ていただきますと、こちらは国際的なリスク分析の枠組みです。
 国際的に規格基準を決めている委員会、このリスク管理のところにコーデックスとありますけれども、これが国際規格基準委員会というものでして、ここで国際的な規格基準を決めていると。この前段階としてリスク評価を行っているのがFAO、WHOの組織であるJECFAというものやJMPRといったような評価機関、科学的評価機関がこの評価をして、そしてコーデックスの方で基準を決める。その際にもリスクコミュニケーションを十分に取ってもらって基準を決めていくという国際的な枠組みが決められているという状況であります。
 次のスライドを見ていただきまして、スライドの八番です。
 こちらが、現在、国際食品保健について枠組みを御説明していますけれども、やっぱりその中心となっているのはこのコーデックスという機関であります。このコーデックス委員会、今から五十年ほど前にFAOとWHOの共同に、食品規格計画としてつくられておりまして、現在物すごく大きくなって、政府間組織として百七十国が参加する大きな委員会となっております。このコーデックス委員会は、消費者の健康保護や食品の公正な取引の保証というのが主目的としてつくられていまして、今世界中の食品に関する国際規格や規範の作成をこのコーデックス委員会がやっているという状況であります。
 このコーデックス委員会も先ほど御説明申し上げましたリスク分析が適用されていまして、コーデックス委員会で作成される規格基準のほぼ全てについてこのリスク分析の考え方を適用するようにというルールが決められていまして、コーデックス委員会自身もリスク分析の考え方に基づいて動いているという状況であります。
 次のスライド、スライド九番の方にTPPとWTOとの関係について述べております。
 TPPの中で、WTOの中のSPS協定を遵守するものであれば、各国の基準の差というものは認めていいということが決められております。これをもう少し踏み込んでみますと、WTOが今から二十年ほど前につくられた際にSPS協定という協定ができました。これは、簡単に言うと、各国の基準はそれぞれが別々に作っていいですよという基準であります。
 じゃ、それはなぜ認められているのかというと、例えばシベリアと赤道直下を比べたときに、外に物を置いていたときに腐るスピードは全然違うわけですね。ですから、寒い国と暖かい国が同じ基準であるはずがない。だから、理論的に科学的に証明できる差であれば、その国別の差というのはあっていいということを言っております。
 SPS協定の中に書いていますけれども、十分な科学的根拠に立脚すれば、各国の独自基準を認めると。その次に、国際的規格が存在する場合はそれに基づいていなければならないということが書いていまして、その国際的基準というのが何かというと、先ほど申し上げましたこのコーデックス規格ということになるわけです。
 じゃ、次のスライドを見ていただいて、コーデックス規格と日本の規格を比較してみますと、コーデックス規格が国際基準そのものに当たるわけでして、我が国の規格基準やリスク分析の枠組みというのはこれにまさに準拠しているという状況であります。我が国の状況のサマリーとしましては、リスク分析が入っている、科学的な基準がある、独立した評価機関などがあるので、まさにSPSが求めている規格基準と枠組みを持っているということになります。したがいまして、TPPが入ったとしてもこのSPSの範囲のことは認めると言っているので、基本的には変わらないというふうに思います。
 また、TPP及びWTOでは、このコーデックスを超える規格基準を決めることもできると理解しています。WTOの条文から見てみますと、加盟国は、科学的に正当性を証明できれば国際規格よりも高いレベルの保護をする、この基準を作ることができるということが担保されております。
 また、TPP協定の中でも暫定的なリスク管理措置、要は、危ないと思ったら科学的な証拠が十分でなくても最初は止めていいですよということを決めていると。WTO・SPS協定に基づく権利義務というのは認められているという状況です。
 ただ、WTOの中でも、暫定的な措置としては認められるんですけれども、正当性を長きにわたって証明できなかったら、これは逆に非関税障壁として扱われてしまってWTOの裁定の場に持ち込まれるということもあります。実際に、EUなどでも裁定の場に持ち込まれて負けているというようなこともあります。科学的な整合性が取れる基準であれば、今我々が日本国で取っているような施策というのは全て担保できるというふうに思います。
 もう一度おさらいさせていただきますと、我が国ではこのリスク分析の導入や科学的な基準、独立した評価機関などの基準を満たしておるので、SPSが求める基準を全てクリアしておりまして、TPPの中で担保されているものは全てSPSを満たしている限りは担保できる。したがいまして、食品安全基準や食品の監視に関して、特段今回のTPPが入ってきても大きな変更はないんではないかというふうに私自身は考えております。
 ちょっと長くなりましたけれども、御説明、これで終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 今村知明

speaker_id: 25739

日付: 2016-12-06

院: 参議院

会議名: 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会