中村逸郎の発言 (沖縄及び北方問題に関する特別委員会)

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○中村参考人 おはようございます。御紹介いただきました筑波大学の中村逸郎でございます。
 我が国の固有の領土であります北方領土について発言できる機会をいただき、心からお礼を申し上げます。
 本日は、二つに焦点を絞ってお話しいたします。一つは、北方領土の現状について御紹介し、もう一つは、領土問題の解決に向けた全く新しい一つの案を参考意見として申し上げたいと思っております。
 まずは、一つ目の北方領土の現状から御紹介いたします。
 ビザなし交流で国後島を訪問した日本人が、昨年、二〇一六年八月のことです、国後島を多くの外国人が平然と歩いていて驚いた、特に目立ったのは中国人で、なぜ彼らがここにいるのかという疑問の声を私に上げました。もしこの話が本当であるならば、領土問題は複雑化することが予想されます。日ロの領土交渉中に突然、当事者でない国が交渉に横やりを入れ、自国の利益を主張する可能性があります。
 この情報提供をきっかけに、私は、ロシアのマスメディアの報道を調べ、花咲港に来ていたロシア人船員たちに話を聞いてみました。そして、以下のような実態が浮き彫りになりました。
 どうやら、北方領土に他国が本格的に進出するようになったのは、二〇一〇年十一月ごろだったようです。当時のメドベージェフ大統領が、最高指導者として初めて国後島を視察しました。当時の菅総理は、北方四島は我が国固有の領土であるという姿勢は一貫している、それだけに今回の訪問は大変遺憾に思っていると抗議されました。メドベージェフ氏は、日本政府の抗議に反発し、二〇一二年七月に、国後島を再び訪問しました。これによって領土交渉は停滞期を迎え、ロシア国内では、ロシア愛国主義が台頭してきます。
 二〇一一年三月には、サハリン州政府の代表団が中国や韓国を訪問し、経済フォーラムを開催しました。北方領土周辺のクルーズ観光やナマコの養殖施設の建設などの二十項目ほどの投資案件を提示しました。まるで、北方領土の争奪戦が中国と韓国の間で始まったかのような話が伝わってきました。
 もはや民間ビジネスではなく、サハリン州政府が絡むプロジェクトとなっている可能性があります。二〇一二年には、国後島にある二つの水産加工工場に、中国の資本が、漁業や養殖のために五千万ドル、約五十二億円を投資したという情報が入ってきました。その一つの工場は、魚介類を缶詰に加工し、バルト三国やドイツ、ポーランドや中国、北朝鮮などに輸出しているようです。
 外国企業による資本投下は、択捉島、国後島、色丹島への外国人労働者の急増をもたらしています。これらの島では建設ブームが巻き起こっており、季節労働者が流入しています。彼らの総数は流動的なようですが、地元行政当局は人数を公表しておりません。
 他方で、私が二〇一六年十一月末、花咲港を訪問したときのことです。北方領土から来たロシア漁船が停泊しており、船員は私にこう語りました。
 月に二、三回の頻度で根室に来ています。夏にはもう少し回数がふえます。二十人の船員が乗務しており、択捉、国後、色丹を回って水産工場から魚を買い付けて、根室に運びます。これら三つの島と根室の間をぐるぐる回る生活を送っています。根室で日本の水産漁業会社が魚介類を買い付け、船員一人当たりの月収は最大で十万ルーブル、約二十二万円です。漁船はサハリンの会社が所有しており、船員二十人には住むアパートは支給されておらず、漁船内の二つのコンパートメントに住んでいます。一人当たりの居住面積は犬小屋よりも狭いのが実情です。私たち船員は出稼ぎ労働者です。私は沿海地方の村が出身地で、給料を家族に仕送りしています。ロシア極東には、中国人労働者の大量流入で、ロシア人のつける仕事は激減しています。
 この船員の話によれば、花咲港に寄港した日の夕方に択捉島に出航するまでの時間、バスまたは徒歩で根室市内のスーパーに向かい、食料品や日用品を買い込んでいるようです。私が根室市の印象を尋ねると、船員は困惑の表情で答えてくれました。
 町並みがひっそりしており、高齢者が多い印象です。択捉、国後は色彩豊かなアパートがどんどん建設されており、町並みは活気にあふれています。昔は逆で、根室の方が栄えていたと聞いたことがあります。
 この船員の話によりますと、五、六年前と比べると、根室に魚介類を運ぶ回数は激減しているようです。北方領土周辺水域でとれた魚介類は、中国を初めとして、日本以外の国々に運ばれているのが原因のようです。根室市民に話を伺っても、この数年、ロシア人の姿が少なくなったと私に語ってくれました。
 北方領土の経済活動を振り返れば、日本は中国、韓国よりも先行していました。一九九四年の北海道東方沖地震では、大規模な損害をこうむった北方領土の復興を担ったのは日本でした。モスクワからいわば見捨てられてしまった北方領土を支援した日本のことを、ロシア人の知人は、困ったときに本当に助けてくれたのは日本人でしたと日本への好印象を語ってくれました。
 いずれにしても、ソ連邦の崩壊後の北方領土を支えたのは日本であり、領土交渉では、このような経緯をロシア側に何度もきちんと伝えていく必要があると思っています。
 ソ連時代の地方都市や町の多くは、国営企業が君臨する企業城下町でした。ソ連邦の崩壊後に国営企業は民営化されましたが、現在でも町を支える企業もあります。
 北方領土にもソ連時代からの国営企業の流れをくむ株式会社ギドロストロイが操業しており、本社はサハリン州ユジノサハリンスクにあります。水産業を営む一方で、択捉島を中心にアパート建設や空港を初めとした公共施設の整備、道路建設も請け負っており、ロシア政府が推進するクリル諸島社会経済発展計画の推進主体となっています。
 この会社の最高経営者はアレクサンドル・ベルホフスキー氏であり、クリルの主人の異名を誇っております。日本としては、北方領土の実態、中国とか韓国の資本が入っているようですけれども、その実態を解明するために、ベルホフスキー氏と情報交換することが今後非常に重要になってくると思っております。
 今日まで、領土返還に向けてさまざまな交渉や試みが行われてきましたが、中でも一九九二年に始まったビザなし交流や各種支援事業、さらに青少年に対する啓発事業等は、独立行政法人北方領土問題対策協会が担ってきました。協会の職員の皆様方の懸命な御努力に、この場をかりまして改めて敬意を表したいと思います。
 ビザなし交流では北方領土に住むロシア人との触れ合いが深まり、この成果を北方領土問題の解決に結びつける提案を参考意見として提示させていただきたいと思います。それは、二〇一三年四月に日ロ首脳が双方に受け入れ可能な解決策への交渉加速で合意、二〇一六年五月に新しいアプローチで合意した、その趣旨に沿うものと考えます。
 そこで、一つのモデルとして、ノルウェー領スバールバル諸島の取り扱いに関する多国間の条約、スバールバル条約が参考になります。
 スバールバル諸島は、二十世紀初頭まで、ノルウェーだけではなく、ロシアを含むヨーロッパ各国やアメリカが領有権を主張し、帰属をめぐって国際的な係争地となりました。
 こうした歴史的経緯から、スバールバル条約は、第一条でノルウェーの領有権を認める一方で、スバールバル諸島の地位を独自に定めています。諸島はこの条約によって統治され、この条約に基づいて諸島内の居住区は独自の法律を制定しています。ノルウェーの法律の適用は大きく制限され、条約の第二条で、全ての加盟国はひとしくこの島と海域で漁業と狩猟などの経済活動、居住する権利、土地の所有権を有すると規定されています。
 条約加盟国の国民は、ノルウェーの入国管理や税関の審査を受けず、ビザなしで島に入ることができ、域内で徴収された税金は諸島内だけに用いられ、ノルウェー本土への流用は禁じられています。さらに、スバールバル諸島では一切の軍事活動が禁じられており、結果的に、諸島の領有権がどこの国に帰属するのか、余り意味を持たなくなっております。
 実は、この条約は、一九二〇年のパリ会議で署名され、当初、日本を初めとする十四カ国が加盟し、現在では、一九二四年に加盟したソ連を含む四十四カ国が参加しています。昨年、二〇一六年には、不思議なことに、北朝鮮も加盟しております。
 スバールバル諸島の一つ、スピッツベルゲン島には、現在約二千六百人が暮らしており、ノルウェー人が全体の六九・九%、ロシア人、ウクライナ人、ポーランド人、ドイツ人等々、さまざまな人々が居住しております。
 さきに言及しましたビザなし交流事業は、日本とロシアの両国民が領土問題についての認識を高め、現実的な問題解決を図ろうとする企画です。これまでの交流の成果を日ロ首脳間で合意した双方に受け入れ可能な解決策と新しいアプローチに結びつけるために、スバールバル条約を参考にして、日ロで合意できる北方領土の独自の地位に関する条約を構想してみるのもよいかもしれません。その条約名を、えとぴりか条約と名づけてはいかがでしょうか。北方四島交流使用船舶名であり、根室半島と北方領土を自由に行き来する海鳥に由来するものです。北海道は、北方領土の支援拠点としての地位を築くことになります。
 私の意見は、ロシアとの間で平和条約を締結し、四島一括返還または二島返還などを見据える領土交渉の進め方を否定するものではありません。私の基本的な立場は四島一括返還を望むものですが、これまでの交流事業の実績を日ロ首脳の合意に結びつけると、その先に日本とロシアが共存できる姿が見えてくるのではないかと思います。
 プーチン政権は、領土問題をこれまで約十件解決してきておりますので、北方領土問題を解決することは可能だと思います。北方領土がロシア化するどころか、今では中国化するかもしれないという危機感を議員の皆様と共有し、問題解決に向けて、できるだけ早く手を打つ必要性を痛感しております。
 御参考にしていただければ幸いです。
 どうも御清聴ありがとうございました。きょうはよろしくお願いいたします。(拍手)

発言情報

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発言者: 中村逸郎

speaker_id: 24942

日付: 2017-06-13

院: 衆議院

会議名: 沖縄及び北方問題に関する特別委員会