木村草太の発言 (憲法審査会)

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○木村参考人 本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
 私の方からは、内閣の衆議院解散権についてお話をさせていただこうと思います。
 憲法が制定された当初は、衆議院に自律解散権があるのか、また、解散権行使のための条件はいかなるものかをめぐり、国会実務でも、また学説でも激しい議論が交わされたところでございました。
 しかし、現在では、皆様も御存じのように、衆議院に自律解散権はないと理解されております。また、内閣が解散権を行使できるのは、内閣不信任案が可決したケースに限られず、解散の大義があれば内閣の自由な判断で解散権が行使できるとする、いわゆる七条解散説が実務上定着している状態かと思われます。
 また、学説を見ましても、七条解散を違憲とする憲法学説はさほど多くないと言われております。もっとも、近年、学界では、解散権をめぐる議論が再び活性化してきており、解散権の行使に何らかの制限をかける解釈ないし憲法改正を行うべきとの議論もふえてきているところでございます。
 議論が活性化するきっかけとなったのは、二〇〇五年のいわゆる郵政解散でありました。衆議院で可決した郵政民営化関連法案が参議院で否決されたことを理由に、小泉内閣が衆議院を解散いたしました。重要法案を可決した側、すなわち内閣の意向に沿った側である衆議院が解散されるという事態には違和感を禁じ得ないものがありました。その合憲性や立憲制について、学界でもそれを受け、議論が重ねられてきたところでございます。
 また、二〇一四年の解散についても、かなりの任期を残した時点での解散であり、また、首相が示した解散の理由が、増税先送りの是非を問うからいわゆる経済政策を問うというふうに変遷するなど、その説明が明確でなかったために、恣意的な解散権の行使ではないかという議論が提起されたところでございました。
 さらに、日本の実務から離れ、世界の議会の解散権制限の動きなどの検討からも、内閣の自由な解散権については理論的な批判が出てきているところでございます。つまり、ドイツではボン基本法の制定された一九四九年当初から、またイギリスでは二〇一一年より、内閣の解散権を明文で、憲法または法律で制限しているところでございます。
 その理由は、内閣に自由な解散権を与えた場合、例えば政権に不利な統計が発表される前の段階や野党の選挙の準備ができていない段階など、与党に有利なタイミングを選んでの党利党略での解散が横行する可能性があり、何らかの歯どめが必要だと考えられたものと、それが主な要因であるというふうに考えることができます。
 そこで、解散権を制限すべきか否かを検討する前提として、そもそも衆議院の解散権とは何のためにある制度なのかということを検討してみたいと思います。
 君主制の時代、あるいは君主主権と呼ばれる時代にありましては、君主が、国民代表たる議会に圧力をかけるために解散権を行使するという時代がありました。昔の君主主権の時代においては、議会の解散権は議会に対する君主からの懲罰という色彩があったという指摘もあるところでございます。しかし、現在の国民主権原理を採用する現行憲法下における解散権は、国民全体のために、より民主的な政治決定を行うために行使されるべきであることは論をまたないと思われます。
 この観点から、議会の解散には大きく分けて二つの機能があるとされております。
 すなわち、第一の機能は、内閣と議会が対立した場合、主権者国民にその対立の裁断をしてもらう、そうした機能でございます。内閣と議会の対立については、内閣不信任案が議会で可決された場合や信任決議が否決された場合、あるいは内閣が信任をかけた重要法案が否決された場合なども含まれます。こうした場合に、内閣の方針に沿う議員を選ぶのか、それとも議会の方針に沿う議員を選ぶのか、その結果によって国民に裁断を下してもらうことができるというのが解散権の機能であります。
 また、解散の第二の機能は、国政選挙で問われなかった重要な争点が新たに選挙後に発生した場合に、国民の意思を明確にするために、国民投票の代替として選挙を実施する機能です。これは、内閣と議会が必ずしも対立していない状態であっても、これまで民意の示されたことがない重要な論点が発生した場合を想定したものであります。
 解散にこれらの機能があることからすれば、内閣と議会の対立が生じた場合と重要な争点が発生した場合には解散の大義があると言えるものと思われます。
 そのほかに、内閣の基本的性格が変更された場合や選挙法の大改正が行われた場合、あるいは任期満了が迫っている場合など、そうした場合には解散を認める大義があるという議論もあります。しかし、これらは、突き詰めれば、今申し上げました二つのいずれかに分類可能ではないかというふうに思われます。
 では、実務を離れて、現行憲法の条文を見たときに、どのような場合に解散権の行使が認められるかという点について解釈をしてみたいと思います。
 皆さんも御存じのとおり、憲法が明示的に解散権の行使を想定しているのは、内閣不信任案が可決された場合ないし信任決議が否決された場合の憲法六十九条のみであります。この文言から、解散権の行使は六十九条の場合に限られるという見解、解釈にも一定の支持があるところでございます。
 しかし他方で、学説の多くは、憲法七条の文言または議院内閣制という制度を理由に、解散権の行使は六十九条の場合に限定されないとの見解も採用しております。
 こうした六十九条非限定説をとる学説も、純粋な党利党略での解散など、大義のない解散まで合憲と評価しているわけではありません。もっとも、憲法には解散権を制限する手がかりとなる文言がありません。このため、学説は、前例や最高裁判例の積み重ねにより、解散権を制限する慣行や判例、習律を形成すべきと指摘をしてきたところでありました。
 しかしながら、残念なことに、冒頭に挙げた解散実務の前例を見る限り、解散権行使を制限する慣行や習律が確立されているとは評価しがたく、また、最高裁は解散権行使の合憲性について判断を避ける態度をとっているのも皆さんの御存じのとおりのところでございます。
 このように、解散権の行使を限定する慣行や習律が十分に形成されなかった歴史を踏まえると、現状、何らかの対応をとるべき必要があると思われます。
 それには二つのアプローチがあるというふうに考えられます。
 まず第一は、現行憲法を前提とした上で、解散権の行使について法律で手続的な限定をかけるものであります。諸外国の憲法を見ても、解散権を行使する場合に、議長の意見表明の手続を設けたり、解散権発生の引き金となる内閣信任の動議から採決までに一定の時間をあけることを要求するものがあります。
 現行憲法下で解散の前例が慣行や習律を形成できなかった一因は、内閣が解散の理由を議会で丁寧に説明したり、公式の解散理由を文書化し、明確にする手続がなかったところに大きな原因があるというふうに思われます。法律で、解散権を行使する場合には、解散の宣言から解散まで一定の時間を置き、衆議院で解散理由についての審議を行うなどの手続を設ければ、少なくとも解散理由が不明確なまま総選挙に突入するという事態は防ぐことができるように思われます。
 こうした法律をつくる場合、解散権の行使を法律で制限することは合憲かということが問われることになりますが、この点、もともと憲法七条は内閣に完全に自由な解散権を認めているわけではなく、合理的な制約を法律で設けることは許されるという憲法解釈に立つのであれば、こうした法律に違憲の疑いは全く生じません。
 また、仮に憲法が内閣に自由な解散権を与えているという解釈をとったとしても、今述べた法律は、内閣の解散権それ自体を制限するものではなく、慎重な手続を要求するだけのもので、憲法違反とは評価されないものと思われます。
 実際、憲法が国家機関に与えた権限を法律で手続的に制限をする、あるいは慎重な手続を設けるというのはさまざまな例があるところでございまして、国会が立法を行う場合に国会法上の手続を踏む、これは当然のことでありますし、最高裁が判決を書く、司法権を行使する場合、あるいは違憲立法審査権を行使する場合に裁判所法や各種訴訟法の手続を踏むということも、これもまた当然のことであります。内閣の解散権についてもこれと同様な考えに立ち、その手続に慎重な歯どめ、手続を設けることは、憲法の理念を実現するためにも全く問題がないのではないかというふうに考えられます。
 憲法審査会の任務は、憲法改正そのものについての検討だけでなく、憲法の理念を実現するための制度の整備についての検討も当然含まれていることと思われます。衆議院の解散権の議論を行うのであれば、ぜひ、法律による解散手続の整備についても御検討いただきたいというふうに考えております。
 次に、解散権に合理的な制限をかける第二のアプローチとしては、現行憲法を改正し、解散権の行使条件を明文化することが考えられます。
 そのための手法としてわかりやすいのは、先ほど触れましたとおり、ドイツのボン基本法やイギリスの議会任期固定法のように、解散権の行使を限定する文言を設けることであります。
 ドイツのボン基本法におきましては、首相が提出いたします首相の信任決議、これが否決された場合にのみ解散権が行使できるとされておりますし、イギリスの議会任期固定法においては、基本的には不信任が可決された場合にのみ解散ができるということが決められているわけであります。
 もっとも、このように、いわゆる日本国憲法六十九条型のみに解散権の行使を制限いたしますと、解散が国民投票の代替的な機能を果たせなくなるという問題は生じることと思われます。ですから、もしも六十九条型の解散に限定をするのであれば、それとあわせて、内閣や国会が重要案件を国民投票に諮る手続などを導入することも検討に値することと思われます。
 国民投票への諮問手続は、解散のない参議院と内閣の意思が対立した郵政解散のような事態の調停、あるいはイギリスにおけるEU離脱問題のように、与野党、各政党の内部でもそれぞれに深刻な意見対立があり、政党単位での意思決定を主な意思決定の手法としております解散・総選挙ではうまく意思決定ができない場合の決定手続としても機能することがあります。この点では、国民投票制度は非常に魅力があり、検討に値する制度と思われます。
 ただし、国民投票制度を導入する場合、その国民投票の結果にどのような効力を持たせるのかについては、国会を唯一の立法機関とする憲法四十一条との関係が大きな問題となります。国会や内閣を拘束するようなものにするのか、それとも諮問的なものにとどめるのかなど、日本国憲法の統治機構の根本的な部分にかかわる議論が必要となり、この点について合意を得るのはかなり大変かとは思われますが、しかし、解散権の制限の場合にはあわせて検討をすべき制度であろうとは思います。
 以上のように、党利党略での解散を抑制するために、解散権には何らかの制限をかけていくことが合理的と考えます。
 以上、解散権についての意見陳述を終えたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 119304183X00220170323_002

発言者: 木村草太

speaker_id: 6883

日付: 2017-03-23

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会