齋藤誠の発言 (憲法審査会)

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○齋藤参考人 本日は、このような機会をいただき、ありがとうございます。
 私は、地方自治、地方分権と憲法の関係について、お配りしたレジュメの項目に沿って意見を述べさせていただきます。
 初めに、日本国憲法第八章、この四つの条文が規定された意義とその基本理念、それがどのように捉えられてきたかについて若干振り返っておきます。
 第一に、帝国議会の憲法改正案審議において、当時の金森徳次郎憲法担当国務大臣は、第八章の趣旨説明の中で、民主主義原理が根本にあり、国民の自由、公共団体の自由を保障するものであって、自治の本旨の理念からすると、人間の個性の尊重に眼目があるとしています。個人の尊重を地方自治の基礎に据えることで、金森は後に、自治体には基本的自治体権とでもいうべきものがあると記しています。
 第二に、特別区長公選制廃止にかかわる著名な昭和三十八年の最高裁大法廷判決は、八章の保障のゆえんについて、新憲法の基調とする政治民主化の一環であり、地方住民の手で住民の団体が主体となって地方の公共的事務を処理する政治形態の保障である旨述べています。
 個人の尊重、自由、そして民主主義を基調に地方自治の保障を構築するという視点は今後とも重要であると私は考えますが、個人の尊重、自由の確保のための分権、権力分立という観点も、地方自治保障の意義として、あわせて指摘すべきでありましょう。
 次に、明治憲法においては、金森大臣も指摘したように、地方自治に関する直接の規定はありませんでした。しかし、だからといって、地方自治が国家の重要事項でなかったということではなく、当時の実務、そしてその考え方では、自治体の組織事項は、憲法十条の官制大権の例外として法律事項に位置づけられており、原則として、勅令ではなく議会の審議を経た法律によって規律されていました。
 しかし、全体として見れば、明治憲法のもとでの地方自治制度は、国家統治のための地方自治という色彩が色濃く、日本国憲法のもとでの地方自治とは大きく異なることにもやはり留意が必要でしょう。
 そこで、現行憲法の地方自治規定をどのように充実させるべきかという論点に進みます。
 第一に、国の立法権による過度の介入、これを防ぐために、実体的な規定をより詳細化するという観点が挙げられます。
 現在は、この点については法律のレベルで、地方自治法二条十一項が、「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。」と定めています。
 この規定は、第一次地方分権改革で導入されたものですが、その後の過度の立法介入を抑制することや地方自治保障の司法審査の基準としては機能してきませんでした。そこで、第二次地方分権改革においては、より具体的なメルクマールを設定して、法令による義務づけ、枠づけを見直すという作業が行われ、逐次の閣議決定を経て、平成二十三年の第一次一括法から昨年の第六次一括法に至る成果を上げています。
 しかし、この手法にも限界はあります。例えば、この介入抑制手法は、基本的には、閣議決定を経る閣法を対象にしたものであって、省令や告示のレベルで、いわば隠れた形でなされる義務づけを必ずしも有効にチェックできません。また、各種基本法の制定などで重要性が増している議員立法についても、直接の対象にはなりません。
 現在、他の個別法と同じ、法律というレベルで規定されている地方自治法二条十一項の内容を、憲法のレベルで規定する。それによって、より体系的、包括的に立法権による過度の介入を防ぐという意義はあるのではないかと考えています。
 第二に、司法的救済に関する規定の導入についてです。
 地方自治保障の実体的な内容を憲法のレベルで全て書き切るということは恐らくできませんし、適切でない面も持っていると思われます。そこで、訴訟を通じて地方自治保障の内容が明確化し、実現するというプロセスも極めて重要です。この点、自治体が国に対して出訴するというルートは、現在の裁判実務の考え方では、国の関与に関する自治体側の明文による出訴以外は極めて狭い道になっています。
 ヨーロッパ自治憲章、この憲章は法的拘束力を持ったヨーロッパ各国間の多国間条約ですが、その十一条は、地方自治体は、その権限の自由な行使及び憲法または国内法に定められた地方自治の尊重を確保するために、司法的救済に訴える権利を有するものとすると定めています。このような規定を憲法レベルで設けることによって、自治体の出訴権に関する現在までの日本の裁判実務の動向を変える可能性があるのならば、地方自治の広い意味での手続的保障条項として、その導入につき検討する価値はあると考えます。
 第三に、地方自治の事前手続による保障という論点を挙げることができます。
 自治体及び住民に影響を及ぼす国の立法や行政の施策について、地方の側が事前に協議をし、あるいは意見を述べて、立法や施策への反映を求めるという事前手続は、憲法九十五条の規定する地方特別法の住民投票を除けば、現在のところ、法律レベルで一定の手当てがされているにとどまります。
 もちろん、この法律による事前手続的保護がこの間に充実してきているということも指摘すべきでしょう。
 具体的には、第一は、国と地方の協議の場に関する法律における協議と、協議が調った事項についての国、地方の結果尊重義務であり、第二は、地方自治法二百六十三条の三が規定する、地方六団体の意見具申権です。後者については、同条第五項の意見具申のための情報周知の国の側の適切な措置に対して、地方分権改革推進委員会の第三次勧告が、その時期と方法について、審議会段階や政令案制定段階での情報提供など、適切な運用を求めています。
 一方で、これらの法律レベルでの保障について、運用実績を積み重ね、自治体の側でも、来た球を的確に打ち返すことのできる政策調整や法制執務などの体制を整備することで、地方自治の事前手続保護の実をある程度上げることはできると考えます。
 しかし、他方で、これらの手続において、国の側の当事者は内閣及び各大臣であり、国の立法者はダイレクトには登場しません。立法府における手続を規律するためには、憲法レベルで規定することが考えられます。
 実際に、徳島県の地方自治に関する憲法課題研究会の案では、その九十七条二項として、「地方自治に影響を及ぼす重要な法律については、法律の定めるところにより、地方自治体を代表する機関との協議を経なければ、国会はこれを制定することができない。」という条項を提言しています。
 現行憲法九十五条は、自治保障の一環として、特別法の住民投票という形で国会単独立法の例外を既に認めていますので、この提言も、いわばその延長線上に位置づけられる面があり、今後の議論に当たり参考になると考えられます。
 地方自治に影響を及ぼす重要な法律には一体何が該当するのか、地方自治体を代表する機関としてどのような機関が考えられるのか。そしてまた、グローバル化の中で、自治体に大きな影響を及ぼす条約もふえていますが、国家間の条約交渉について自治体は直接に権限を持ちませんから、法律だけでなく、条約の国内における検討過程及び実施プロセスでの自治体の参加手続も一つの論点になりましょう。
 広義の、広い意味の手続的保障の論点についてまとめますと、国と地方の適切な役割分担にせよ、財政権、財政調整の保障にせよ、実体的な規定の詳細化には限界もあるので、憲法レベルでの地方自治保障の充実については、事前手続、司法的救済とあわせて検討する必要があります。
 次に、憲法九十三条との関係で、二元代表制と首長公選制の伝統と憲法という視点を提示しておきます。
 地方制度において、議会と首長について分離型の制度とすることは、府県レベルでは非常に長い伝統を持っております。それは、明治十一年の府県会規則にさかのぼり、伊藤博文の言葉をかりれば、行政と議会の区域を明らかにし、お互いに権限を侵さず、その権衡、これは均衡と言いかえてもいいと思いますが、その権衡をとるの習慣、これを形成してきた。そして、現行憲法が、議員と長、両者の直接公選を規定し、そこでは、特に政治の民主化として、長の直接公選が大きな意義を持っております。その後、市町村、都道府県ともに、双方を直接公選とする分離型の二元代表制度が定着しています。
 他方で、現在においては、地域におけるさまざまな課題、それに対応すべき自治体のあり方、さらに、その連携のあり方、それぞれにおいて多様性が重要であると多く指摘されるにもかかわらず、憲法上の地方公共団体である以上、議員と長、それぞれの直接公選という一律の組織体制の存続が九十三条により要請されることになります。
 例えば、私は、集権的な道州制、各地方にミニ霞が関をつくるような道州制には反対の意見を持ちますが、そうではない道州制を検討する場合に、道州が憲法上の地方公共団体として位置づけられると、この一律のシステムになってしまう。地方における多様な民意を広域団体として酌み取り、すり合わせながら政策形成と実施に当たる、多様な民意の反映と集約という視点からは、住民の直接公選ではなく、首長を議会において選出する可能性も模索すべきではないかと考える次第です。
 最後に、結びですが、地方自治、地方分権と戦時体制、戦争というものは相入れません。
 歴史の教えるところ、例えば、戦時中には、町内会や隣保班が戦争遂行のための国の下部組織、国民相互の監視組織として使われ、そしてまた、戦争末期には、全国をブロック化した、いわば集権的な、道州制の先取りのような地方総監府というものも登場していました。その結果、戦後には、一方では、長い伝統を持っていた地縁団体としての町内会自体が一旦は解体されるという事態になり、他方で、都道府県レベルを超えた広域団体形成への警戒感というものもより強まった面があるのではないでしょうか。
 いずれにいたしましても、空襲に備えて帝国議会議事堂も黒白の迷彩塗装が施されていたというような状況では、実り豊かな自治、分権を目指すことは到底できなかった。それゆえ、憲法改正について今後議論を深めていくに当たっては、地方自治及び分権の保障の充実という観点からも、平和の維持と構築ということに十二分に配慮いただければありがたい次第です。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 齋藤誠

speaker_id: 31153

日付: 2017-04-20

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会