佐々木信夫の発言 (憲法審査会)
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○佐々木参考人 御紹介をいただきました、中央大学の佐々木信夫でございます。本日は、お招きをいただきまして、ありがとうございました。
私は、憲法学者ではございません。政治学、行政学、地方自治というものを専攻しておりますので、なお、都庁にも十六年勤務した経験もございますので、少し違う角度から、国と地方、地方自治に関する所見を述べさせていただきたいと思います。
お手元に、メモという形でレジュメを用意させていただきました。必ずしも話し言葉になっておりませんけれども、この流れに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
このメモについては、六ページにわたっておりますが、前半の三ページまでが問題提起、問題を整理して、そして、それを踏まえまして、四ページ以降が憲法改正にかかわる八つの論点という形で論点を御提示させていただいております。
時間の制約もありますので、三ページまでの問題提起はごくかいつまんでお話をしたいと思います。
言うまでもございませんが、憲法制定から七十年、日本社会というものは大変大きい変化を遂げております。キーワードだけ並べましたけれども、一つは、非常に広域化した。二つ目としては、経済の成熟化。あるいは、高度に都市化した。さらに、分権化、ネット化、高学歴化、こうしたキーワードが社会変化の特徴だと思いますが、同時に、人口増加時代、戦後二倍にふえた人口が人口減社会へと変化し始めております。
このように極めて多様化した、あるいは多元化した、高度都市国家と言っていいと思いますが、こういう国においては、七十年たった憲法についても、新たな国の形、二十一世紀の国の形をリセットするという視点から、憲法の改正についてもいろいろな側面を吟味してみる必要があると考えます。
まず、レジュメの二番目、国と地方のあり方についてというところですが、第一は、戦後の日本は、中央集権体制のメリットを最大限に生かして、国全体の底上げ戦略に成功してきたというふうに思います。
ただ、二〇〇〇年に始まった地方分権改革でございますけれども、機関委任事務制度の廃止など、その成果はありましたけれども、その後、どのような中央、地方関係を目指すのか、その国家像が不明なまま、改革は事実上停止をしている状態だというふうに思われます。
国民の身近なところで政策形成が行われる、税金の使い方をコントロールできるという分権化に反対する方はほとんどおられないと思いますけれども、これまでの、国が政策決定をし、国、地方が一体となって個別サービスを実現していくという、ちょっと難しい表現をしておりますが、集権・融合型の行政のやり方を変えるまでには至っていない。
レジュメに少し黒く塗っておきましたけれども、現段階の国と地方の関係というのは、集権・融合型国家体系というふうに表現できるだろう。つまり、中央政府が意思決定の主体であり、地方と融合する形で国民に行政サービスを提供していく、こういう形であります。フランスに代表される大陸系諸国に多く見られる、ある種、中央集権体制の一つの形であります。
分権改革をより進める場合、欧米に見られる分権・分離タイプ、あるいは北欧に見られる分権・融合タイプ、いずれかの方向というものをはっきり定めた上で、実際、分権改革を進める必要があると思われます。
これは、一九九五年の分権改革推進法ができて、それ以後、制度改革の委員会が、分権推進委員会ができておりますけれども、最初の、中間のまとめを見ますと、やや分権・分離型の英米系の国家を目指すような、政府の役割を十七に限定するというような書き方をされておられますけれども、現実に二〇〇〇年の分権一括法に見られる形はそうではなかった。
かといって、分権・融合型、つまり、地方自治体が、実質上、意思決定、政策決定、結果責任まで負う形であるけれども、国がある程度かかわる、どういうかかわり方をするかということについての制限というものも必ずしも明確にならない、なっていない形で、この約十五年間、日本の分権改革が推移してきていると思われます。
格差の大きい日本の現状からしますと、いわゆる地域間格差の大きい現状からしますと、北欧系の分権・融合型、つまり、地方が主体的に政策形成から結果責任を負う体制をとるとして、国家のかかわりとしては、やはり財政調整及び政策のガイドライン、政策の標準を示すという役割に限定したかかわり方をする改革方向が望ましいのではないか。これは、今後、分権改革をもう一度呼び戻す場合に大いに議論されるべき一つの論点ではないかと思われます。
もう一つは、中央、地方関係についてですが、これまで国は、自治の原則、いわゆる地方自治体の自治の原則を重視するよりも、地方自治体間の均衡の原則を重視するといういわゆる均衡の原則に軸足を置いて、全国の均てん化を目指す自治政策を採用してきたというふうに見えます。
これは、地方交付税制度にもあらわれておりますし、ナショナルミニマムの実現という点では大きい成果があったと思います。ただ、地方の創意工夫によって国を発展させるという、その意欲を引き出すという点では十分ではなかったと思われます。
地方創生の議論が始まっておりますけれども、今後は、地域が統治主体となる国の形を目指す、それには、自治の原則を重視し、均衡の原則は補完的なものにしていく必要があるのではないかと思われます。
大きい二番目でございます。レジュメですと二ページの二番ですが、地方自治制度そのものについて、必ずしも憲法改正とかかわる条項だけではございませんけれども、五点ばかり、三ページまでにわたって整理をいたしました。これをお話ししていますと時間がなくなりますので、ごく簡単に申し上げます。
第一に、規律密度。非常に微に入り細に入り、規律密度の高い、濃い地方自治法というものを廃止して、自治基本法にかえたらどうかという点が一つでございます。
第二に、規模とか地域にかかわりなく一律に適用される二元代表制。首長と議会議員の直接公選を別々にする、こういう形が大中小にかかわらず都道府県制度まで使われておりますけれども、イギリス等に見られるように、いわゆる多様な自治制度を用意し、そこから地域が選択をする、こういう多様化、選択制に変えるべきではないかという点が二つ目でございます。
第三の点ですけれども、議員の選挙。現在、都道府県で二千七百名の議員さんがおられますし、千七百十八市町村、二十三区で約三万三千名の市区町村議会議員さんがおられますけれども、なり手がないというところもふえてきておりますし、無競争当選もふえてきております。いわゆる議会の専門性をどのように上げていくのかという点も大事でありまして、議員の選挙も、専門職、一般職に分けて選挙するという、カナダなどに見られる、多様性を持たせる方法もあるのではないかという指摘でございます。
第四としては、大都市制度。正確に言うと、日本には大都市制度はございませんで、市町村の大都市特例という形で、特に政令指定都市制度が使われております。今二十都市指定されておりますが、もう少し選択的な大都市制度を構想したらどうか。つまり、人口七十万人から三百七十万人まで使われている一律の制度が地域に合わなくなっている、こういうことでございます。
第五点は、都道府県制度についてでありますが、広域化時代に対応できるよう、四十七都道府県制度を抜本的に改めて、内政の拠点性を有する道州制に早期に移行したらどうかという意見でございます。
この道州制論議は、いろいろ御議論もおありだろうと思いますし、都道府県の上に州をかぶせるという四層制を構想する方もおられますが、そういう道州制ではございませんで、都道府県制度にかえて、地方主権型道州制というふうに表現をしておきましたが、地域主権型道州制でも地域主導型道州制でも表現としては構わないだろうと思いますが、公選制を維持する自治体としての道州制というものを、国の省庁のあり方、市町村のあり方も含めて、ただ都道府県の再編合併という話ではなくて、国家の統治機構全体を見直す意味で道州制ということが検討される時期に来ているのではないかと思われます。
ここまでが問題整理というか、意見も含まれておりますけれども、憲法改正に必ずしもかかわらない全体の話でございます。
次に、四ページから、項目を追って、ほぼこのとおりお話を申し上げます。
第一の論点、四ページですが、憲法上の条項の置き方について、現在の統治機構について、第四章から第八章まで並列的に並べております。地方自治を第八章に置く、こういう並べ方がなされていますけれども、国の統治機構と地方の統治機構を大分類した上で、つまり、中央政府と地方政府という、二つの統治形態と趣旨の異なる政府を別々に規定したらどうか。
つまり、第四章から第八章までではなくて、国の統治機構については、国会、内閣、司法、財政というものを一つ書く、そして、地方の統治機構については、理念、議会、首長、自治権、財政、住民監視権などを別途規定する、こういう二つの政府形態の存在というものを憲法上表現したらどうでしょうかという点であります。
第二の論点ですが、現在の日本国憲法第八章の地方自治の性格づけについて、地方自治の本旨については法律に委ねる、理解としては、団体自治、住民自治というものが中身だということになっているわけでありますが、これを明確に、法律に委ねるのではなくて、憲法に書いたらどうか。すなわち、地方自治権、間接民主主義、直接民主主義、住民監視権などを明示したらどうか。
現行の、法律に委ねるというものを受けた、規律密度の濃い地方自治法を廃止して、自治制度の基本を定めた自治基本法というもののみにするというシンプルなものにしたらどうか、法律に関しては。
さらに、課税権、財政権とともに、財政規律というものを維持できるような適正化義務というものも掲げたらどうかということであります。
第三の論点としては、現行の憲法は、国と地方の役割分担については何も書いておりません。
これは、先ほどの集権・融合型国家体系ということとかかわる、ある意味、国、地方が一体となって役割を果たすということを言っているのかもしれませんが、地域に主権がある、地方分権を進めた国家の形としては、考え方としては、やはり身近な政府が内政の中心であるという近接性の原則を入れた上で、市町村を基礎自治体と明示して、揺りかごから墓場までの行政は基本的に基礎自治体の役割とする。
それを補完する形、補完性の原則に沿って、さらに広域政策を担う役割を広域自治体の役割とする。これが府県であるのか州であるのかということでありますが、広域自治体がそういう役割を持つ。
さらに、中央政府、国については、内政に関しては補完の原則と国家的に統一して行うべき事項に、年金とか通貨管理と例を挙げましたけれども、ある程度限定をし、主力は外交、防衛、危機管理など対外政策にあることを明示したらどうか。
第四の論点でございます。第九十三条の議会の設置、選挙など、住民自治の規定についてですけれども、現在の、規模の大小、地域性を加味しない、無視ではないんですが、地域性を加味しない一律の組織、機構の規定は廃止したらどうか。道州議会については広域性を加味し、議員の兼務制というものも検討したらどうか。
今後の地方政府の自治機構のあり方については選択制とする。ただし、議会を置く、首長の公選制というものは明記する。
道州の議員については、一定割合を市町村長あるいは代表議員の兼務とし、簡素で地域の意思を反映できる州議会の構成とする。
第五の論点、条例制定権の関連ですけれども、地方主権あるいは地域主権の趣旨に沿って、条例制定権については、自治体の立法権強化の観点から、見直したらどうか。
地域のみに適用されるローカルルールの趣旨に鑑み、いわゆるナショナルルールである法律に対する上乗せ、はみ出し、横出しというものの裁量権を認める。同時に、道州条例については、法律に優位した条例も認めていいのではないか。この辺の条例の裁量権を拡大していきますと、例えば都心部の待機児童問題なども比較的早く解消できる可能性が強い。今、省令で相当細かく決まっておりますので、この辺の規律密度は大いに緩めたら、問題解決は早いように思われます。
それから、第六の論点ですが、ここから道州制のお話ですけれども、第六の論点、都道府県制度の抜本的な見直しが必要だ。これは、人口縮小時代、減少時代というよりは人口縮小時代、財政の効率性から考えても、道州制移行を本格的に検討すべき段階ではないか。
広域自治体としての道州制、道州を内政の広域拠点と位置づけて、制度化すべきだ。府県制度にかわる道州は、その性格を自治体として、地域に統治権のある地域主権型あるいは地方主権型道州制でよいのではないか。
第七の論点、道州制については、これは私の意見ですけれども、道州制、道州制と呼んでいますが、新たに州制度ないし日本型州構想という表現もあるのではないか。これまでの道州制は、上からの道州制という、ようかんを切るような道州制のイメージがどうしても国民に定着しておりますので、そうではなくて、大都市や基礎自治体を基礎に置く新たな州の創造というイメージをつくっていく必要がある。
実態として、道州制の道は北海道を意識した使い方になっておりますけれども、北海道州あるいは九州州としますと、道州という使い方をしなくてもよくなります。北海道の道は地名として定着しておりますし、九州というものも広域地名として定着をしている。日本で州制度に移行するということを検討してはどうかというお話になるわけであります。
こうした基礎自治体から道州制をつくっていくという意味で、州制度移行国民会議のようなものを広域圏の単位でつくって、こういう広域の地域をどういうふうに地域が変えていくかという議論を始めたらどうか。
最後、時間が来ておりますので。
第八点としては、首都、副首都という規定が憲法上どこにもございませんので、これを明記したらどうか。これは、新たな国の形として、分権・多極型国家をイメージし、首都、副首都の位置づけを明確にしたらどうか。首都、副首都の自治制度は、例えば一般州と並ぶ都市州という考え方もあるのではないか。十州二都市州というような新しい国家像が考えられるということでございます。
御清聴ありがとうございました。終わります。(拍手)