鈴木宣弘の発言 (農林水産委員会)
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○鈴木参考人 皆さん、おはようございます。東大の鈴木でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
さて、まず、ただいまの丸田さんの御意見、大変貴重な御意見で、また経営もすばらしく、こういう経営がしっかりと伸びていただくような支援をしていくということは非常に重要であること、これは私も全く異存がございません。
ただ、私が全体として思いますのは、この法案というのは、農業競争力強化ではなく弱体化法案になりかねない要素を含んでいるというふうに思います。
まず、法案全体の構成として、農業競争力強化の支援といいながら、具体的施策は、資材や流通産業の事業再編、参入に融資するだけに矮小化されており、包括的ビジョンがない中途半端なものとなっております。かつ、資材の引き下げ、あるいは販売価格の向上を目指すとしながら、そのために非常に重要な要素である農業者の共販、共同購入の強化という点についてはむしろ否定的な流れになっており、論理矛盾を来していると思います。これは、農業所得の向上というのは、ある意味で名目でしかないということであります。
本法は、そもそも、農業競争力強化プログラムに基づく八法案の一つで、その底流には、民間活力の最大限の活用という表現で、規制緩和すれば全てがうまくいくという、時代に逆行した短絡的な経済理論を名目に掲げ、その裏には、既存の組織によるビジネスやお金をみずからの方に引き寄せたい、今だけ、金だけ、自分だけの人たちの三だけ主義の思惑が見え隠れしております。
国民が求めているのは、アメリカを含む一部の企業利益の追求ではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために国民それぞれがどう応分の負担をしていくかというビジョンと、そのための包括的な施策体系の構築です。競争は大事ですが、それに対して、共助共生的システムとその組織、農協や生協の役割、そして消費者の役割、政府によるセーフティーネットの役割などを包括するビジョンが本法にはありません。
本法には、個々の農家が販売先や資材の購入先を多様化させて、農協を通じた共販や共同購入からむしろ離れることを意図するような、「有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組む」という奇妙な努力義務の文言に見てとれます。
歴史的に見れば、個々の農家が大きな買い手と個別取引することで買いたたかれ、大きな売り手と個別取引することで資材価格がつり上げられ、苦しみました。そこから脱却し、所得を向上するために、農業協同組合による共販と共同購入が導入され、それは取引交渉力を対等にするための拮抗力として独禁法の適用除外になっているのが世界の原則です。
つまり、農業所得の向上の重要な要素として、協同組合を通じた共販、共同購入が重要であることをしっかりと本法案にも位置づけるべきであると思います。しかし、一連の八法案のもとになっている競争力強化プログラムは、買い取り販売への移行や資材の情報提供に徹することなど、共販と共同購入をなし崩しにし、協同組合の存立要件を否定するような流れとなっております。
しかも、最近、我が国では、農協共販に対して公取のおどし、見せしめともとれる査察が幾度も入り、独禁法の適用除外がなし崩し的に無効化されるというゆゆしき事態が進んでおり、これは違法行為であると言わざるを得ません。
さらに、公的な育種の成果を民間に譲渡するという条項は、寡占的な多国籍GM種子産業にとってはまさにぬれ手にアワで、米などの種子が特許化され独占され、価格もつり上げられていくことになり、これは国民の命の源を握られかねない重大な問題です。
二点目ですが、農業競争力向上にはパワーバランスの是正策が不可欠かつ正当であるということです。
私が酪農について、農協とメーカーと小売間のパワーバランスを計算しましたら、小売対メーカー間はほぼ一対〇で小売が圧倒的に優位、農協対メーカーはよく見積もっても五分五分、弱く見積もれば一対九で、やはり生産サイドが押されている。二〇〇八年の餌危機でも酪農家が一番苦しみました。このように、資材や流通の合理化は必要ですが、それよりも、所得がふえない大きな原因は、買いたたかれる構造にあります。
カナダの牛乳は、一リットル三百円もします。随分高いですが、消費者は不満を持っていません。うちの学生が聞きましたら、アメリカの成長ホルモン入り牛乳を飲みたくないから、これを支えますよと言いました。生産者もメーカーも小売店も十分なマージンをとって、消費者もこれでいい、幸せだと言っているんですから、こういうシステムの方がよほど持続的なシステムです。まさに三方よしの、売り手よし、買い手よし、世間よしの価格形成が実現されている。
カナダでは、酪農の指定団体に当たるミルクマーケティングボードに酪農家が結集していますので、寡占的なメーカーや小売に対して拮抗力が生まれ、こういうことが実現できるわけです。
それなのに、本法の関連法案では、酪農の指定団体を弱体化する規定があります。バター不足を指定団体にかかる規制のせいにして、取引を自由化すれば所得が上がるという理論は全く逆で、酪農家が個別取引で分断されていったら、イギリスでの経験のように、乳価は暴落し、消費者に飲用乳さえ提供できない混乱に陥りかねません。
したがって、仮にもこのような法改正を行うのであれば、競争条件の悪化を是正するための政策をセットにすることが不可欠になります。アメリカでの最低飲用乳価の導入など、あるいは酪農マルキンのようなものを修正として加えることが正当かつ不可欠である。
以上からもわかるように、一方のマーケットパワーが強い市場では、一、拮抗力を形成できる共助組織の強化、二、取引交渉力の不均衡による損失を補填する政府による下支え、これが正当化されるわけで、こういうことについて本法は全く言及もされておりません。
それから、そもそもコストダウンだけが競争力強化であるかのような視点も間違いだと思います。
強い農業とは何でしょうか。規模拡大してコストダウンすれば強い農業になるでしょうか。それはもちろん大事ですけれども、それだけで頑張っても、オーストラリアやアメリカに一ひねりで負けてしまいます。同じ土俵では戦えません。少々高いが徹底的に物が違う、あなたのものしか食べたくない、そういう本物を提供する生産者と理解する消費者とのネットワークこそが強いきずなの源です。
スイスでは、一個八十円もする卵を小学生ぐらいに見える女の子が買って、これを買うことで生産者の皆さんの生活が支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つんだから当たり前でしょうと、いとも簡単に答えたといいます。
スイスでは、ミグロという生協さんが食品流通の大きなシェアを持っていて、農協さん等と連携して、消費者と生産者が納得できる本物の基準を認証して、その価値を価格に反映させることに成功しております。こういうふうな消費者サイド、生協さんからの働きかけによる取り組みなどについてもしっかりと支援するということも本法に位置づけるべきではないでしょうか。
それでも、スイスの農業所得のほぼ一〇〇%、フランスでも九五%が補助金で賄われているというのが実態です。環境、景観、動物愛護、生物多様性など、農業の果たす多面的機能の項目ごとに、具体的にこのぐらいの応分の負担をしていこうということがしっかりと理解されておりますので、国民も納得して払えるし、農家も誇りに思って生産に臨める。このようなシステムは日本にはありません。
さらに、アメリカでは、農家にとって最低限必要な所得は政府が補填するから、そういう水準になったら政策を発動するので安心して投資をしてくださいという予見可能なシステムを完備しております。これがまさに食料を守るということではないでしょうか。農業政策は農家保護政策ではありません。国民の命を守る安全保障政策です。こういう本質的な議論なくして、食と農と地域の持続的発展はありません。
そういう意味で、我が国の収入保険というものは、米価が下がるたびに基準収入が下がっていく底なし沼で、セーフティーネットではないということを言わざるを得ません。
盲目的なアメリカ追従とまで言われているのに、なぜアメリカのすぐれた農業戦略を、食料戦略をまねしないのですか。ただでさえ、全く規模の違うアメリカ農業が徹底した農業競争力強化策を行っているのに対して、我が国はセーフティーネットはなくし、コストダウンだけで競争すれば勝てるというのは、実は家族農業がほとんどなくなってもいいという議論になるのではないでしょうか。欧米のような食料戦略なく、単に競争を促進すればうまくいく、そして、それは一部の農業に参入したい大手企業等には都合がいい、そういうふうな視点になってしまっていないでしょうか。
最後に、一連の政策決定プロセスが異常であることを言わざるを得ません。
法的位置づけもない諮問機関に、利害の一致する仲間、しかも、この人たちはアメリカの経済界とも密接につながっております。それだけを集めて、国の方向性が私的に決められ、誰も文句が言えない、とめられないというのは異常事態です。与党の国会議員になるより、規制改革推進会議メンバーに選んでもらった方が政策が決められると与党議員は嘆いておりました。
日本の対米外交は、対日年次改革要望書等に書いてあることに次々順番に応えていくだけの、その執行機関が例えば規制改革推進会議ですから、次に何が起こるかは予見できます。
アメリカからは、アメリカの商社が全農を買収したいから株式会社化してくださいとか、共済と保険は対等な競争条件にしてくださいと強く求めています。郵貯マネーがめどが立ったから、必ずJAマネーを握るまでこれは終わりません。
だから、農協改革の目的も、一連の法案の目的も、農業所得の向上であるはずはありません。信用、共済マネーを奪う、共販、共同購入を崩す、JAと既存農家が潰れたらそこに参入する、規制改革推進会議の答申はそのとおりになっております。
本法も、それを受けたものになっております。
もちろん、農家の不満に徹底的に改善策を出す農協組織の真の意味での自己改革は不可欠ですけれども、一部の利益のために、日本の食と農、関連組織、所管官庁までもなし崩し的に息の根をとめられてしまうという方向性は、これは終わりの始まりです。
そういう意味で、規制改革推進会議は解散すべきであると思います。
二〇〇八年に、前の自公政権のときに結成された農政改革特命チーム会合というのがありましたが、これはさまざまな立場の意見が総合できる会議でした。これが食料・農業・農村審議会としっかり連携し、欧米のように、自分たちの命、環境、地域、国土を守る食料、農業を、国民それぞれがどう応分の負担をしていくかというビジョンの練り直しをすべきであります。
その特命会合では、現場の声に応えて所得のセーフティーネットを再構築する具体的提案の選択肢を示しました。その一つが、戸別所得補償制度の具体像として採用されたわけです。
ですから、国民の食料を守るために必要な政策は、与野党を問わず、現場の農家や消費者、国民の声をしっかり踏まえて形成されるものであり、三だけ主義の、一部のための政策は、多くの国民にとって本意ではない。
与野党を問わず、国会議員も、所管官庁にとっても、国民の食料を守るために必死に頑張る気持ちは同じはずです。なのに、今の一部の三だけ主義の利益を念頭に置いた、国民に有害な政策がまかり通って、誰もとめられない。この流れに終止符を打って、三方よしの社会を取り戻す法案をつくるべきであります。
本法は、生産資材、食品流通にかかわる事業の再編を促しておりますが、事態の正常化のためには、それよりも政界の再編、結集の方が効果的ではないかとも思われます。
以上で終わります。(拍手)