山下一仁の発言 (農林水産委員会)
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○山下参考人 山下でございます。
きょうは、こういう機会を設けていただきまして、ありがとうございました。
私は、前の方と違いまして、昔、役人をしていた過去官僚でございまして、若干事務的になるかもしれませんけれども、今回の法案に即して論点を整理させていただきたいというふうに思います。
まず、最初のスライドなんですが、昨年の改革の評価なんですけれども、基本的な背景は、TPPに加入して関税が下がる、そうすると価格が下がるかもしれない、価格が下がったとしても、所得というのは価格に販売量を掛けた売上高からコストを引いたものですから、コストを下げれば所得は維持できるのではないか、そういうふうな観点が背景にあったのではないかなというふうに思います。
そのときに、実は、これは私は数年前から言ってきたことなんですけれども、農業資材価格は物すごい内外価格差があるわけですね。その農業資材価格について初めて政策としてメスを入れたということは、大変画期的なことではないかなというふうに思います。そういう意味で、そこから農協のあり方についてその議論が発展したのではないかなというふうに思います。
ただ、私がつき合っている農業者の人からすると、ホームセンターよりも農協の方が高い、これは前からみんな言っていたわけです。だけれども、日本で買う価格が、国際的な価格に比べて資材価格が高いということに初めて農業者も注目することになったということは画期的かなと思います。
次に、次のスライドなんですけれども、何で柳田国男が突然出てくるんだというふうに思われるかもしれませんが、実は、柳田国男は一九〇〇年に東京大学の法学部を卒業して、当時の農商務省、今の農林省に入りました。当時、法学士がいなかったものですから、法律をつくろうとすると、内閣法制局にお願いして法律をつくっていたんですね。それでは大変だというので、商工省サイド、今の経産省サイドでは松本烝治、それから農林省サイドでは柳田国男を採用したわけでございます。
ただし、柳田国男は農商務省で大変なひどい目に遭いまして、わずか二年足らずで法制局に出向してしまうわけです。そういう面からすると、私は農林水産省に三十年間も辛抱できましたので、そういう意味では、柳田国男よりはちょっと忍耐力があったのかなというふうに思っております。
柳田国男の農政学なんですけれども、農業政策を考えるときに、二つの視点が必要でしょうと。消費者は安く売ってもらいたい、それから、生産者は高く買ってもらいたい。では、どうやってその二つの異なる主張を調和することができるのか。
そうしたら、柳田国男は、農家の所得を上げようとすると、コストを下げればいいんですよと。規模を拡大してコストを下げる、あるいは資材価格を下げる、そういうふうなことによって、その両方の、消費者の利益、それから生産者の利益を調和することができるんだというふうに考えたわけでございます。
次の四番目のスライド、五番目のスライドは、資材価格の国際比較と、トウモロコシが国内に入った価格、それから同じトウモロコシを国内市場で餌として売った価格、それから配合飼料で売った価格。
こうした、トウモロコシが入ってきて、飼料用として売るときはその倍になります。さらに、配合飼料として売るときは輸入価格の三倍になってしまう。私は、どうしてこういうことになるのかよくわかりませんけれども、こうしたところにメスを入れてほしいなというふうに思っています。
そこで、六番目のスライドなんですけれども、大変恐縮なんですが、羊頭狗肉の法案というふうに言わせてもらっているんですけれども、つまり、この法案の目的は何なんですかという意味です。
うたっているのは農業の競争力の強化、これをうたっているわけですね。他方で、これは農林水産省がつくった資料だと思いますけれども、昨年十一月の文書では、「生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し」と言っているわけですね。だけれども、競争力の強化と所得の向上というのは若干対立する概念ではあるわけです。
つまり、所得というのは、先ほども申し上げましたように、売上高からコストを引いたものですから、所得向上のためには価格を下げては余り都合がよくないわけですね。ところが、競争力強化のためには価格を下げる必要があるわけです。価格が下がらないと価格競争力が上がりません。したがって、輸出もできないということになるわけです。
次のスライドを見ていただきたいと思うんですが、四ページなんですけれども、これは、私の尊敬する、農業経済史を研究している暉峻衆三という方がおっしゃっていることなんですけれども、貧農層というのは、かつては、戦前は大変問題だった、これは一九六〇年代終わりには消滅したんだと。
それから、その下のスライドは、農業の種類ごとの所得の状況なんですけれども、養豚農家の所得は一千五百万円もあります。養豚農家の所得をさらに上げるというのが本当の農政の目的なんでしょうかということです。それから、稲作農家の所得、農業所得は二十七万円しかありません。ほとんどが農外収入ですね。つまり、サラリーマンとしての収入、それから、高齢化しているので年金収入ですね。
つまり、稲作農家の所得を上げようとすると、農業政策というよりも、トヨタとかパナソニックに一生懸命頑張ってもらう、こっちの方がはるかに所得の向上にはつながるということがあると思います。
次のページを開いていただきたいんですが、これは、農業基本法の生みの親である小倉武一という人が、ちょうどウルグアイ・ラウンド交渉終了時ぐらいのときに言った言葉でございます。後で参考にしていただきたいと思います。
それで、その下の十ページのスライドなんですけれども、人口減少が起こります、国内のマーケットは縮小します、そうすると、輸出をしないと、海外の市場を取り込まないと日本農業はもうやっていけないわけですね。そのときに、最初の参考人の人もおっしゃいましたように、輸出をする必要がある。
輸出をするときにどうするんだ、価格競争力をつける必要があるわけです。輸出をするときに、相手国の価格から、関税を払わないとだめで、関税を引く必要があります。それから、輸送コストも引く必要があります。その引いた価格で日本から輸出しないと、相手国の農産物の価格と太刀打ちできないわけですね。つまり、相当価格競争力を上げる必要があるということです。その面で、今回の法案の目的は、全く正しい問題認識に立っているわけです。
次に、次のスライドなんですけれども、経済学、余り農林水産省で経済学、経済学と言うと、私は随分嫌われたわけなんですけれども、経済学からすると、生産要素、これは農業資材ですね、農業資材の価格が何で高いのかというと、それは、農産物の価格が高いから農業資材の価格も高いんだ、こういうふうな経済学は発想をするわけでございます。
したがって、資材価格の内外価格差がたくさんあるというのは、最も大きな原因は、農産物価格に大変な大きな内外価格差があるということに起因しているわけでございます。したがって、発想は逆になるかもしれませんけれども、資材価格を下げるためには、農産物価格を下げていく必要があるということでございます。
そういう観点からすると、今回の法案は、良質かつ低廉な農業資材の供給をうたっています。でも、なぜ、良質かつ低廉な食料、農産物の供給をうたわないんですかということなんです。何で減反政策を維持しているんですかということなんです。減反政策というのは、農家に大変な補助金を与えて米の供給を減少させて、需給が均衡する価格よりもさらに米価を上げて、消費者に多大な負担をさせる。
普通は、例えば薬でも医療でも、財政負担をしたら、国民に安く財・サービスを供給するわけです。ところが、この政策は、財政負担をして消費者負担をさらに引き上げているという、日本の国政上、最もスキャンダラスな政策なわけです。こうした政策をもう何十年も維持しているわけです。
はっきり、こういう政策はいいんですかと。究極の逆進的な政策です。しかも、主食の米ですよ。ほかのものについてこうした政策をするのはまだわかります。しかし、我々が主食だと言っている米について、こういうふうな若干破廉恥な政策を何十年も続けているということでございます。
次のスライドなんですけれども、米の内外価格差は一旦消えたんですけれども、その下にスライドがありますように、餌米の補助金を増加して、また内外価格差を開かせてしまったということでございます。
ちょっと飛ばしてもらいまして、十六番のスライドなんですけれども、日本と異なって、アメリカやEUは、直接支払いというやり方で農業を保護する政策に移行しているということでございます。
ちょっと長くなるので、めくっていただいて、二十というスライドに移らせていただきたいと思います。
ここで、手段として、今回の法案の目的が果たして妥当なのかという議論をさせていただきたいと思います。
農水省の資料では、肥料、農薬、飼料の価格が高い理由として、過剰供給構造による低生産性を挙げています。したがって、過剰供給構造ですから、つまり、業者の数が多いから、業者の数を縮小して、事業を再編する必要があるというふうに言っているわけですね。
他方で、農業機械については、寡占による競争力が足りないので価格が高いんだと。したがって、事業者の新規参入を促進して価格を下げる、こういうふうな対策を講ずるべきだというふうに言っているんだと思います。
しかし、論理的に考えて、供給が多いのであれば、資材価格は下がるはずなんです。もし農林省が言っているように、施設が多くて稼働率が低いのでコスト増になるというのであれば、もし、ある企業が稼働率を上げてコストを下げて価格を下げていけば、市場を独占できるわけです。でも、何でそんなことが起きないのかということなんです。つまり、問題はこんなところにあるんじゃないということなんです。
何が問題か。つまり、次のスライドなんですけれども、企業にフルに操業させない、農業資材供給業界に特殊な事情が存在するからだろうというふうに思います。そうでなければ説明がつかないんです。少なくとも経済学の立場からすると、こういう状況というのは説明がつかないわけです。
では、何があるのか。ある程度の独占的な要因がどこかに存在しているということでございます。特に、農協については、資材価格が高ければ高いほど、それに応じて販売手数料収入がパーセントで決まりますから、資材価格が高ければ高いほど、農協の経営にはいいわけです。
実は、農協というのは、歴史をひもとくと、資材価格、肥料商がいて、高く肥料を売りつけられてしまった、したがって、それに対抗するためにつくったのが、農協、この前身の産業組合という組織だったわけです。ところが、年月がたつにつれて、農産物を高く売って農協の販売手数料がふえる、これはいいことです。でも、農産物の資材価格、肥料、農薬、農業機械を高く売れば売るほど農協の経営がよくなる、こういうふうなインセンティブが農協の経営を支配してしまったということでございます。
先ほども申し上げましたように、二十二ページのスライドなんですけれども、より根本的な事情というのは、やはり農政による高価格政策が背景にあるんだというふうに思います。
必要な対策としては、独禁法の厳正な運用による、適用による競争の向上だ。特に、農水省が出している資料によると、末端に行けば行くほど農協のシェアが拡大しているわけですね。つまり、市場独占力が高いわけです。それによって、その高い市場独占力によって、供給業界に対していろいろなアクションをとってくる、コントロールをしていくということがあるんだろうと思います。
それから高価格政策、いつまでこの高価格政策、高い価格で消費者の利益を踏みにじりながら、農業だけが助かる、農業だけじゃなくて、農業に属するある団体のためにこういう政策をやるのか。これは早急に見直すべきだ、欧米がやっているような、価格から直接支払いというふうな対策を講ずるべきだというふうに思います。
さらに申し上げますと、次の二十三ページのスライドですけれども、実は農協は、准組合員制度というのを持っていますから、それ自体では独禁法の適用除外の対象になりません。したがって、農協法第九条というのを設けて、独禁法の適用除外の規定の要件を満たすものとみなす規定を置いているわけです。
だから、もしその農協法の、これは皆さんができることです。農協法九条を廃止するんです。そうすると、農協に独禁法が適用になります。そうすると、公正な市場が形成されるということでございます。それが嫌なら、農協は准組合員を外して、純粋に農業協同組合として生きる道があります。あるいは、今のJAは農業を手放して、地域協同組合として生きる道が残されています。このいずれかの道を選択させるというのが一つの道かなと思います。
それからもう一つは、先ほど申し上げましたように、ホームセンター、HSというのはホームセンターの誤字で申しわけないんですけれども、ホームセンターより安く農協が売れば農協の手数料を上げてやる、こういうふうなインセンティブ、農協が安く資材を供給できるようなインセンティブを導入すべきだ、そういうものをビルトインすべきだというふうに私は思います。
それから、最後に申し上げますけれども、もう国内のマーケットは、人口減少と高齢化で縮小します。日本農業が生き残る道は輸出です。輸出のためには価格競争力をつけないとだめなことは当然の話なわけです。その面で、今回の競争力強化の法案というのはそういう目的にかなうものだというふうに思います。
それから、輸出というのは、実は金のかからない備蓄なんです。輸出をします。日本は、平時は小麦や牛肉を海外から買います。シーレーンが破壊されて、日本にそういうものを輸出されなくなっていったときに、その輸出している米を食べるんです。つまり、日本で輸出の備蓄をすると物すごく金がかかるわけですね。輸出というのは、金のかからない、ゼロの備蓄政策なんです。
だから、先ほど自給率の話がありましたけれども、フランスの自給率はなぜ一〇〇%を超えているか。自給率というのは、国内で消費する以上のものを生産している、つまり輸出しているからなんです。自給率が一〇〇%を超えるというフランスは、輸出しているから自給率が一〇〇%を超えるんです。
そうした事情をよく考慮していただいて、最後に申し上げたいことは、自由貿易こそが食料安全保障を達成する道であり、政策の手段としては、もういいかげん、減反みたいな誰もが喜ばない政策をやるんじゃなくて、直接支払いに行って、打って出て、農家の所得も確保する、消費者にもメリットがある、構造改革も進む、そうした政策を採用すべきだというふうに思います。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)