小林雅之の発言 (文部科学委員会)
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○小林参考人 皆さん、おはようございます。
きょうは、このような場で意見を述べる機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
私は、給付型奨学金並びに新しい所得連動型返還制度について創設にかかわってまいりました、その立場から少し意見を述べたいと思っております。
初めに、この二つの制度は、日本の奨学金制度の中で画期的な転換であるということを申したいと思います。その理由は後で申しますが、ただ、この二つの制度は目的が全く異なっております。対象も違います。給付型奨学金制度は、あくまで低所得層の進学を促進するため、背中を押すための制度です。それに対しまして新所得連動型返還制度は、中所得層の返還の負担を軽減するものであり、ローン回避と言われる現象を防止する、そういう目的を持っているものであります。ただ、この二つの制度は、創設にかかわった者としましてはちょっと手前みそになりますが、本当に画期的な制度だというふうに思っております。
制度改革の背景なんですが、第一に申し上げたいのは、日本では長い間、教育費の負担は親の責任であるという考え方が非常に強く、このために、なかなかこういった公的負担という考え方が根づかなかった、そういうことがあるかと思います。これは、福祉国家的な考え方をするヨーロッパ、あるいは個人主義的なアングロサクソン系の国、アメリカとかイギリス、オーストラリアというような国とは全く異なっているということであります。
そういった背景がありまして、授業料が非常に高騰いたしまして、これは委員の皆様よく御存じだと思いますので詳しくは申し述べませんが、国立大学の授業料は、私が入った一九七二年当時は一・二万円だったのですが、現在は五十四万円にまではね上がっているというようなことがございます。
それから三番目に、有利子奨学金が爆発的に拡大しているということでありまして、これはグラフで示してありますように、一九九八年以降非常に、特に第二種奨学金が爆発的に拡大しているということがあります。現在、奨学金の受給率は、日本学生支援機構のものでは約四割というような状況になっております。
それから、制度改革の背景として挙げなければいけないこととして、やはり大卒労働市場が非常に雇用が不安定になっているということ、大卒の三人に一人が三年以内に離職するというような状況になっているということが挙げられます。
それから、返還の負担が非常に重くなっているということ、ローン回避の傾向が発生していることでありまして、これは私たちの調査ですが、次の二ページ目をごらんください。これはまだ確定値ではありませんで、現在行っている調査でありますけれども、それほど大きな傾向の違いはないと思いますが、所得の低い人ほど、将来返済できるかどうかが不安であるということ、それから、もう一つ問題だと思うのは、よく知らなかったという人が多いということでありまして、この点については後でまた触れます。
それから、社会経済的な格差が拡大する中で、教育の格差も拡大しております。地域間につきましては、きょうは詳しくは申し上げられませんが、一番高い東京と低い鹿児島では四〇%もの大学進学率の格差があります。そして、男女間あるいは所得階層間の格差も非常に大きなものがあります。
ここでは所得階層間格差だけ取り上げますが、二〇〇六年当時、左側の図三のように、私立大学については非常に大きな格差がありましたが、国公立大学についてはそれほど格差がありませんでした。ただ、私たちの最新の調査によりますと、やはり国公立大学で低所得層の進学率が低くなっている、そういう状況があります。
それから、今までの日本の学生支援機構の奨学金というものは、教育的な配慮がついた学生ローンと言っていいかと思います。第一種は完全無利子で、これは国際的にも非常に珍しい制度ですし、十年間の返還猶予あるいは減額返還といった措置、それから国際的にも実は返還率はかなり高いものであります。ただ、こうした配慮がついていることが、逆に給付型奨学金の創設を残念ながらおくらせてきたという側面もあるのではないかというふうには考えております。
ただ、今までの奨学金というのが非常に進学にとって役に立ってきたことは、図の五でお示ししましたように、奨学金なしでは進学が不可能だったという層が、所得が低い層でも六割、実は高い層でも四割近くいる。つまり、教育費の負担の軽減には非常に役に立っているということであります。
給付奨学金の対象ですが、これは住民税非課税世帯ということで、一つの明確な基準であるというふうに考えております。私たちの調査でも、そこに図の六で示しましたように、経済的に困難な者で、給付奨学金があれば進学したいという者は大体二万人程度いるということがわかっておりますので、その数字から比べましても、一つの根拠になっているかと思います。
ただ、個人的な意見といたしましては、将来についてはいろいろな課題があるというふうに思っております。
まず、在学時の学生への支援であります。これは特に、家計急変と言われるように、親がリストラされたり病気になったりということで授業料が払えない、その結果、中退になるという学生がふえているということは、文部科学省の調査あるいは私たちの調査でもわかっております。こういった学生を救う公的な支援が現在乏しいということであります。
それから、給付型奨学金の拡大ですけれども、私の個人的な考え方といたしましては、将来的には段階的な制度にするべきだと思っております。図の七をごらんください。諸外国の場合には、こうした段階的な制度をとっている国が多いわけでありまして、中には、連続的に奨学金の額が変わるというような制度をとっている国もあります。これに比べますと、日本の場合には、まだまだ、三段階でありますので、将来的には改善の余地があるかと思っております。
それから、新所得連動型については有利子に拡大するということが必要でありますし、新所得連動型については機関保証のみでありますけれども、従来の定額返還型については人的保証と機関保証の両方がついております。ということは、学生にとっては、この三種類の中から選ばなければいけないという、非常に難しい選択を迫るということになります。
そのためには、情報の周知、ガイダンスというものが絶対に必要であります。これについては、スカラシップアドバイザー制度という、仮称ですけれども、これを新設していくということで制度的な充実を図っていただけるというふうにお聞きしておりますが、このことはぜひ強調しておきたいと思います。
これはいわゆる情報ギャップと言われる問題でありまして、知っている者と知らない者で非常に差がついてしまう、こういった問題が非常に大きくなっております。もっと広く言えば、金融リテラシー、金融教育というものが必要ではないかということであります。
それから、これは残念ながら今回の制度では実現しなかったんですけれども、源泉徴収ということが国際的には広く行われておりまして、これができますと回収のコストが大幅に削減できる、あるいは延滞が防止できるということがございます。
それから次に、教育のための寄附の増加策と教育費負担の再検討ということで、これは将来的な大きな課題であるというふうに思っておりまして、例えば、孫への教育資金に対する相続税の非課税というのは現在一兆円の市場規模になっているというふうに聞いております。そうしますと、この相続税、自分の孫のためでしたら節税したいということでありますけれども、これは先ほど申しました親の教育費負担主義ということと関係しておりますが、こういったものを少しでも公的なものに回していただければ、それだけで十分な財源ができるわけでありまして、〇・一%でも十億円、一%なら百億円ということになりますので、ぜひこういったことも考えていく必要があると思っております。
それから、もっと大きな問題といたしましては、教育費の家族主義の転換、あるいは、教育費は公的に負担するということがどういう意味を持っているかということを改めて国民が問い直すことが必要であるというふうに思っております。
これは、言いかえれば教育の公共性ということでありまして、例えば、大学は公的な補助を非常に受けているわけでありますから、公共性についても考えていく、あるいは社会的貢献を高めていくということは、これは大学にも求められている責務であるというふうに考えております。そのためには、大学は、アカウンタビリティーを果たす、あるいは説明責任を果たすということが必要であります。それから、情報公開も十分していかなければいけないというふうに考えております。
私たちのところで、東京大学の学生に卒業時に調査をしているんですが、国立大学で税金で教育を受けたという意識があるという学生は、残念ながら、毎年行ってもちょうど半分ずつです。変わりません。学生に聞きますと、授業料が高いので税金で教育を受けているという意識が持てないということでありますけれども、こういったことは非常に問題ではないかというふうに思っております。
以上、早口で恐縮ですが、私の意見を述べさせていただきました。どうもありがとうございました。(拍手)