椎橋隆幸の発言 (法務委員会)
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○椎橋参考人 中央大学名誉教授、弁護士の椎橋隆幸でございます。
本日は、このような委員会で陳述する機会を与えていただき、光栄に存じます。
私は、テロ等準備罪法案に賛成の立場から陳述させていただきたいと思います。今の木村先生のお話と内容的に重複する面もございますけれども、御容赦いただきたいと思います。
まず、本法案は、国際組織犯罪防止条約を締結して、国際社会と協調して国際的な組織犯罪を防止、根絶するための協調体制をとる必要があるということと、他面で、実質的に考えて、テロが九・一一以降世界各地で頻発して日本人がその犠牲になる、あるいは日本がその標的になるという事実がございまして、テロの危険が日本に迫っている、テロの危機が増大しているという中で、国民の生命、安全、財産を保護するという必要、この二つの側面があるというふうに考えております。
まず、国際組織犯罪防止条約、以下TOC条約と言わせていただくことが多いかと思いますが、その中身等についてお話しさせていただきたいと思います。
テロを含む組織犯罪、これは犯罪組織による薬物密輸でありますとか銃器の不正取引、人身売買、マネーロンダリング等々でございますけれども、この防止、根絶を目的とした条約であります。
この種の組織犯罪によりまして犯罪組織は多額の利益を不正に得て、大きな勢力となって、一国の民主主義政治決定過程にも不当な影響を及ぼしたり、あるいは自由な経済体制にも悪影響を与えてきております。このような組織犯罪の犠牲になるのは一般の人々、特に子供や女性といった社会的弱者にも及んでおります。この犠牲となる女性とか子供の人権を守るためにもTOC条約は必要であるというふうに考えます。
この条約は、国際刑事法条約であることはもちろんですが、同時に、今申しましたように人権条約というような性格も持っているわけであります。このような条約の趣旨が国会議員の先生方の間でも理解、共有されて、平成十五年、二〇〇三年五月に、TOC条約は、留保を付することなく、圧倒的多数をもって国会で承認されております。
次に、国際犯罪組織を効果的に防止、根絶するためには、国際社会と緊密に連携することが必要不可欠でございます。TOC条約の締結によりまして、逃亡犯罪人の引き渡し、捜査共助の効率化、情報交換の円滑化が可能となります。この実際的効果というのは、テロ等組織犯罪の防止、撲滅という点では非常に重要な効果を持つものでございます。
現在、百八十七の国と地域がTOC条約を締結しており、未締結国は我が国を含む十一カ国のみというふうになっております。この状況も、世界的に考えて、直視しなければいけないだろう。テロを含む組織犯罪を未然に防止し、摘発する上で、我が国は、国際的取り組みの中で組織犯罪の抜け穴になってしまうという事態を避けなければなりませんし、それと同時にというか、むしろそれ以上に、世界における経済的あるいは政治的な地位というものを考えますと、その国にふさわしい積極的なリーダーシップを持った取り組みが必要なのではないかというふうに私は考えております。
それから、TOC条約の内容でありますけれども、もともとからこれはテロ対策というものが含まれているということであります。テロ対策かそうでないかというような議論は余り意味がないのではないかというふうに思っております。
むしろ、テロ犯罪というのは組織犯罪の典型でありまして、テロそのもの以外に、テロ集団は、そのテロ活動を行うための活動資金を獲得するために女性や子供の誘拐、身の代金要求、人身売買、薬物、銃器の売買を行う。これは、世界各地で起こっているいろいろなことにもよくあらわれていると思います。
そして、TOC条約というのはテロ対策も含んでいるというのは、このTOC条約ができたときの国連総会決議においてもその趣旨のことが表明されておりますし、それから二〇一四年十二月に採択された国連安保理決議においても、テロ防止へ共同に取り組む必要性とTOC条約等への加入等を加盟国に求めております。
それから、経済協力開発機構の金融活動作業部会、FATF、これは国際組織犯罪対策をまとめる上で非常に重要な役割を果たしている会議でありますけれども、この勧告が数多く出されております。特にその中でも二〇一二年二月に統合、改定された四十の勧告及び特別勧告は、我が国に対して、TOC条約を締結していないということ、それからテロリストの資金に関する凍結義務を十分に実施していないと、かなり手厳しい指摘をされております。
他方で、我が国はテロ対策が十分だという御議論もあります。実際、十三のテロ防止関連条約を締結しておりますけれども、しかし、必ずしもこれだけではテロ対策としては十分ではないというふうに思います。十三のテロ防止関連条約でカバーできない態様のテロについて、TOC条約は対応できるという面がございます。
例えば、テロ対策の関連条約の中で、包括的といいますか、一番よく引き合いに出されるテロ資金提供処罰法について申し上げますと、公衆等脅迫目的の犯罪行為について、公衆または国もしくは外国政府を脅迫する目的をもって行われることを要件としている。これは第一条にその規定がありますけれども、この目的のない犯罪行為のために資金等を受領してもこの条約によって処罰されないということになります。それから、もっと広く、薬物に関する犯罪、人身に関する搾取犯罪、資金源に関する犯罪、司法妨害に関する犯罪のほとんどが同法の対象犯罪には当たらないわけであります。この穴を埋めるというか、テロ等準備罪にはその役割を果たされることが期待されると思います。
次に、国際組織犯罪防止条約の要請でありますけれども、これはレジュメに書いてあるように、TOC条約の要請に従って、共謀罪または参加罪の創設、あるいは資金洗浄、腐敗行為、司法妨害。これについてはそれぞれ、共謀罪は新設、それ以外のものについては、証人等買収罪を新設する、組織犯罪処罰法の拡大、あるいは贈賄罪の国外犯処罰規定の整備というような形で対応しているということであります。
それから、次に、現行法のままで国際組織犯罪防止条約を締結できるかということでありますが、これは先ほどの木村先生の御発言とかなりかぶるところではありますけれども、非常に重要なことでありますので申し上げますと、条約の五条一項(a)号には、加盟国に参加罪か共謀罪かの少なくとも一方を犯罪化することを義務づけている。これはマストであります。シャルであります。
立法ガイド、パラグラフの五十一及び五十五というのがあります。これは必ずしもそれに従う必要はないという解釈がされているわけでありますけれども、これを五条一項との関係で素直に読めば、共謀罪を持たない締約国が参加罪を導入した場合に共謀罪の導入を求めるものではなく、その逆も同様であるというふうに、片方を持っていればいいということであります。しかし、片方は持っていなければいけないということです。
それから、その国の原理原則、制度との兼ね合いの問題につきましては、例えば導入する共謀罪の規定ぶりはそのまま条約を直訳しないでいい、規定ぶりについては締約国に任せる。それから、犯罪阻却事由等をどうするかというような法原則については締約国に委ねられている。だから、他方で、絞るという意味で重大犯罪に限ると限定をするのも、この趣旨によって生かされているということだと思います。
それから、次に、テロ等準備罪について。
我が国はテロ等準備罪を考えている、それは共謀罪型のテロ等準備罪ということでありますけれども、もちろん、るるこの間に指摘されてきておりますように、非常に厳格な要件というものが課されているということによって、前に言われた共謀罪とは大きく異なっているということであります。
時間が余りなくなりましたので、この中で特に問題になりそうなことを申し上げますと、まず、テロ等準備罪が成立するためには、一定の対象犯罪である重大な犯罪の実行を目的とする組織的犯罪集団が、団体の活動として、重大な犯罪を実行するための組織によって行われるということが要件としてございます。
これは、組織的犯罪集団ということによってかなりその対象が限定されるということが言えると思います。テロ組織、暴力団、薬物密売組織、振り込め詐欺集団というものがこれに当たるということでありまして、労働組合とか市民団体、宗教団体、学生のサークル活動というのはこれには当たらない。この関係で、世上、いろいろな、こういう場合は危ないんじゃないかというふうに言われているものがございますけれども、まずこの要件に当たらないということで抜け落ちるものがたくさんございます。
それから、捜査権限は拡大するんじゃないかというようなことが言われておりますけれども、しかし、これは、まずテロ等準備罪は実体法の改正でありまして、手続法の改正は予定されておりません。ですから、手続法の分野である捜査権が拡大されるものではありません。それから、手続法は実体法によって規制されるものでありまして、テロ等準備罪が成立するためには、組織的犯罪集団、計画、実行準備行為、この三つの厳格な要件が求められております。適用対象が組織的犯罪集団に限定されていることによって捜査の対象も組織的犯罪集団の構成員や周辺者に限定されるということになりますし、計画に基づいた実行準備行為がなければ、捜査、特に強制処分である逮捕等もできません。捜査機関の判断次第で捜査権限が歯どめなく拡大していくとの議論は現実的ではないと思います。
それから、最後に、我が国の刑事司法システムというのは、警察、検察、裁判所という機関等から成っております。
そこで、考えてみますと、警察は警察で、犯罪の嫌疑がなければ捜査というものはできませんし、検察は、公訴を維持できる、有罪の高度の見込みがあるというものでなければ起訴しません。また、起訴できると判断して起訴したという場合でも、その後、公平中立な裁判体が起訴事実について合理的な疑いを超えるまで証明しなければならない、有罪を認定できないという厳しいハードルがそれぞれあります。したがって、私は、こういう法運用のあり方というのは、今、基本的には健全に機能していると思われますので、テロ等準備罪の適用においてもこのような形で法運用は行われるというふうに信じております。具体的な点については、後でもし機会があれば申し上げたいと思います。
これで終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)