海渡雄一の発言 (法務委員会)

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○海渡参考人 組織的犯罪処罰法改定案、いわゆる共謀罪法案について公述の機会をいただきましたことについて感謝いたします。
 私は日弁連の共謀罪法案対策本部の副本部長を務めておりますが、本日の意見は、日弁連の意見として断らない限り、私の個人的な意見であることを最初にお断りしておきたいと思います。
 先ほど木村参考人から、日弁連の中にはいろいろな意見があるという御意見がございましたが、全国の五十以上の単位会で、共謀罪法案については反対とする反対の意見を表明しておることをつけ加えさせていただきます。
 まず、この法案になぜ反対なのかということからお話しします。
 刑法は、犯罪の定義を定めておりますが、裏返せば、人の行動が自由である範囲を定めている法律です。犯罪とは、人の生命や身体、自由、名誉に被害を及ぼす行為として説明されてきました。
 法益の侵害またはその現実の危険性が生じて初めて事後的に国家権力が発動されるというシステムは、我々の社会の自由を守るための制度なのでございます。
 約三百もの多くの犯罪について共謀の段階から処罰できることとする共謀罪法案は、既遂処罰を基本としてきた我が国の刑法体系を覆し、人々の自由な行動を制限し、国家が市民社会に介入する際の境界線を大きく引き下げるものであります。
 次に、人と人との犯罪の合意をする手段は、会話、目くばせ、メール、LINEなど、人のコミュニケーションそのものによってなされます。その合意の内容が実際に犯罪に向けられたものか、実行を伴わない口先だけのものかという点は、犯罪の実行が着手されていない段階では大変難しい判断となります。その捜査は、会話、電話、メールなど、人の意思を表明する手段を収集することになります。予算委員会では、法務大臣は、共謀罪を通信傍受の対象とするかどうかは将来の課題であると明言されております。
 国連越境組織犯罪防止条約の目的は、マフィア対策、経済的な組織犯罪対策です。この条約は、決してテロ対策の条約ではありません。
 日本は、国連の十三の主要テロ対策条約について、その批准と国内法化を完了しております。法案には二月の段階でもテロの文字は全くなく、法案提出直前にテロリズム集団という言葉を法案に入れ込みましたが、この修正にはテロの定義もなく、法の適用範囲を限定する意味は全くございません。
 政府は、一月の国会審議の中で、共謀罪をつくらないとテロは防げないとして、ハイジャック犯人が航空券を買ったり、危険な化学物質の原料を調達しても、その段階で予備罪は成立しないというふうに説明しました。しかし、特別刑法の権威ある注釈書にこれらは典型的な予備行為として掲げられており、政府の説明は間違いでした。政府は、テロ対策の穴を何一つ具体的に指摘できていないのです。
 森林法、所得税法、著作権法など、組織犯罪やテロとは全く無縁で、未然防止が必要とは考えられない多くの犯罪について共謀罪をつくることが本当にテロ対策でしょうか。テロ対策としてほかにやるべきことがもっとあるのではないでしょうか。
 政府がこの法案制定の最後のよりどころとするUNODCから寄せられた口上書を見てみました。ここにも、犯罪の規定ぶりは締約国の国内法に委ねられている、本条約の犯罪化の要求を満たすために、国が定める国内法上の犯罪は、必要な行為が犯罪化される限り、本条約と全く同じ方法で規定される必要はないと、はっきりこの口上書にも述べられています。
 日本政府が二〇〇三年につくった法案が国連のガイドに沿っていなかったことは明らかです。実は、このガイドは二〇〇四年に出版されており、国内法の制定が検討されたのは二〇〇二年でした。国内法案の制定を急ぎ過ぎたためにこのガイドを参照することができなかったのであります。政府は、当初言われていたように長期四年の刑を定める全ての犯罪の共謀罪の制定が条約のために不可欠という立場は既に放棄されています。そうだとすれば、明確な基準を示して絞り込みの議論をしなければならないはずです。
 そもそも、この条約五条は何を求めていたのでしょうか。この条約は、組織犯罪集団の関与が想定される重大犯罪について、未遂に至る前に処罰可能であることを加盟国に求めているのだと思います。このことは、条約の五条に、括弧して、犯罪行為の未遂または既遂に係る犯罪とは別個の犯罪を定めなければいけないと明確に書かれていることにあらわれております。そして、この条約は国内法の原則に従って実施すればよいのです。このことは条約の三十四条に明記されています。
 条約審議以前に広範な共謀罪が制定されていた国は、イギリス、アメリカ、カナダくらいです。そして、その後に制定された国は、ノルウェーやブルガリアしか報告されていません。
 日本には、テロや暴力犯罪など、人の命や自由を守るために未然に防がなくてはならない特に重大な犯罪約七十については、共謀、陰謀罪が二十、予備、準備罪が五十あります。これによって、重大な組織犯罪、テロ犯罪の未遂以前の段階はおおむね処罰可能となっていると言えます。
 暴力団対策法そして暴排条例など日本の組織犯罪対策は、銃器の所持すら認められているアメリカと比較しても決して遜色がないというふうに言い切れると思います。
 日弁連は、これ以外に、人を殺傷する犯罪の予備段階を独立罪としている銃砲刀剣類所持取締法違反、凶器準備集合罪や、重大窃盗の予備段階を処罰しているピッキング防止法などにも着目しております。
 日弁連も政権交代時の民主党も、新たな立法なくして条約は批准できると述べてまいりましたが、二〇一一年の十一月、民主党政権のもとで、平岡法務大臣は、法務省、外務省の関係部局に対して、条約の目的、趣旨に基づいて防止すべき犯罪について、既に当該の罪について共謀罪、予備罪があるものを除いて、予備罪を創設することについてどのような問題があるかということを指示しました。平岡大臣の調査によれば、サウジアラビア、パナマなどはそういう対策をとったようでございます。当時の法務省の稲田刑事局長は、これに基づいて作業するというふうに国会でも答弁されています。
 この国会に、民進党は、組織的人身売買、組織的詐欺の二つの犯罪について予備罪を設けるという提案をされました。このような提案について、五月十二日の法務委員会審議において、畑野君枝議員の質問に対し、外務省の水嶋氏は、客観的に危険性が認められる程度の準備が整えられていなければ処罰ができないので、このような提案は条約五条の趣旨に反するおそれが高いというふうに答弁されました。
 しかし、これは過去の政府の答弁と明らかに異なっております。二〇〇五年十月二十一日の衆議院法務委員会で神余隆博氏は、オバートアクトのかわりに予備行為を要求することが条約の趣旨に反するか否かといったことについては確たる定義はないとはっきり述べておられていたのです。
 そもそも、合意を推進する行為について、どのような行為を法的に要求するかは、各国が国内法の原則に基づいて判断できる事柄です。
 また、新たに予備罪を制定すべき犯罪としてこの二つの犯罪を選択したことにも十分な根拠があると思います。
 すなわち、最終的には条約本文に残されませんでしたが、条約に重大犯罪のリストを記載すべきであるという意見がエジプト政府などから提案されておりました。きょうの参考資料の三として添付させていただきました。
 このリストは、テロ関係の犯罪について入れるということについて反対意見があった。日本も反対したんですけれども、結局条約の中に採択はされませんでしたけれども、十五項目しかありません。長期四年以上の刑を定める六百七十六の犯罪の中から絞り込みを行うとすれば、このリストに従う以外にないのです。
 さらに、日弁連と法務省が新たな立法は不要であるという意見を公表した二〇〇六年、この年、法務省が二〇〇六年の十月の六日に公表されているペーパーの中では、この提案に対して、組織犯罪が行うことが容易に想定できる詐欺罪、人身売買が抜けている、そういう意見を述べられています。その段階で恐らく法務省は、我々が今見ているリストと同じものを見て、その中から抜けている二つを提案されたのではないかというふうに思われるわけです。
 この二つの予備罪を加えることで、日本では合計七十四の重大犯罪について未遂以前の処罰が可能となります。これは、外務省が調べた重大犯罪の数、自民党の部会に配られたもののようですが、きょうの資料に参考資料四として添付しておきましたが、スペインでは四十六個しかありません。外務省が数えたとされる数字でも、北欧諸国などは七十ぐらいです。この数字と比べても、特に少ない数字ではないのです。
 今回の民進党の提案は、先ほどの平岡法務大臣の指示に沿って立案されたもので、バランスがとれており、我が国のこれまでの刑事法の法原則にも合致するものです。私は、この案に個人的に大賛成です。このような抑制のとれた考え方に基づいて、与野党で真剣な協議をしていただきたいと思います。
 きょうの、先ほど見ました椎橋先生のペーパーの三ページにも、人身売買と詐欺以外にあと三つぐらいの犯罪がつけ加えられていますが、それ以上の指摘はされていないということも言いたいと思います。
 また、二〇〇七年の段階で、自民党は小委員会案というものをつくられていました。この小委員会案では、対象犯罪は百二十八まで絞られ、自首の必要的減免規定なども削除されていました。それでいいとまで私は言いませんが、政府・与党の姿勢が後退しているのではないかというふうに指摘せざるを得ません。
 私は、沖縄で既に弾圧の道具に使われている威力業務妨害罪に着目したいと思います。組織犯罪処罰法が一九九九年に制定されましたが、この段階以前には、威力業務妨害罪、強要罪、信用毀損罪などは、法定刑は長期三年でした。共謀罪の対象犯罪とはされない刑期だったんです。それが、九九年に法定刑が引き上げられ、共謀罪に取り入れられました。もともとこれらの犯罪は、構成要件が曖昧で、弾圧法規として使われてきた問題のある犯罪です。これらの犯罪一つだけでも、治安維持法に匹敵する濫用の危険性があるというふうに私は思っております。
 自民党の二〇〇七年の小委員会案では、今申し上げたこれらの犯罪は共謀罪の対象から除外していただいていたのでございます。前回、早川忠孝先生がここに来られましたけれども、早川先生がつくられたときの案からは除かれていたのでございます。なぜこのような極めて危険性の高い共謀罪が復活しているのか、私には全く理解できません。組織的威力業務妨害罪、組織的強要罪、組織的信用毀損罪の共謀罪は、真っ先に削除するべきだというふうに考えます。
 本日の公述では、法案に関する問題点を数々提起させていただきました。この法案については、多くの刑事法学者、メディア関係者、そして多くの国民が疑問と不安を覚えています。けさの朝日新聞の報道によりますと、今国会で成立すべきではないという意見は、成立させるべきであるという意見の三倍以上に上っております。
 二〇〇五年、六年の国会では、真剣な審議と協議がされました。そのときも私は参考人に呼んでいただきましたが、最終的に、二〇〇六年の六月段階で強行採決が予定されましたが、これは回避されました。この強行採決を回避した判断は、小泉純一郎首相と河野洋平衆議院議長の話し合いと決断によってなされたというふうに私は聞いております。
 事は、一国の刑事法体系を崩しかねない重要問題なのです。民進党の提案された予備罪の追加法案、これにまた二つ三つつけ加えても構いませんが、このようなものだけで条約を批准しても、他国の例を見れば、国際的には全く問題にはなりません。政府法案の修正案を決して強行採決することなく辛抱強くこの法務委員会の場で審議を尽くしていただき、日本の国の人権保障と民主主義の未来に禍根を残す法案の成立は何としても断念していただくように訴え、私の公述といたします。(拍手)

発言情報

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発言者: 海渡雄一

speaker_id: 33618

日付: 2017-05-16

院: 衆議院

会議名: 法務委員会