加藤健次の発言 (法務委員会)

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○加藤参考人 本日は、意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございます。
 私は今、自由法曹団という全国約二千百名の弁護士が加入する団体の幹事長を務めております。
 きょうは、共謀罪を創設する法案に反対する立場から意見を述べさせていただきます。
 本法案に対する重要な論点の一つに、共謀罪の創設がいわゆる監視社会をもたらすのではないかという点があります。政府の方からは、例えば捜査機関において適切な運用がなされるとか、あるいは一般人が対象となることはないという答弁がなされております。しかし、これらの答弁は、法案の規定の内容からも、また警察等が現に行っている活動に照らしても、説得力のあるものではないというふうに考えます。
 私たち弁護士は、具体的な事件を通じて捜査機関の具体的な活動内容に触れる機会がたくさんあります。今回、法案の審議に資するために、警察による市民監視が問題となった具体的事例を紹介することによって審議を深めていただこうと思いまして、事例集をつくりました。本日は、資料三ということで、「今も行われている市民監視の実態 事例集」という資料を配付させていただいております。そういう具体的な事実に基づいた議論をしていただきたいということで、以下、意見を述べさせていただきます。
 まず、この事例集の具体的な事件を紹介する前に、市民の側から見た場合に警察というのは一体どういう活動を行っているのかという、特に情報収集にかかわる活動について、資料一、二を作成いたしました。
 よく国会の議論を聞いておりますと、いつ逮捕されるのかとかいう議論がされておりますけれども、実際に我が国の警察の活動は、警察法二条一項に基づく公共の安全と秩序の維持、この目的のための情報収集活動、いわゆる行政警察あるいは予防警察と呼ばれる側面と、それから、実際に犯罪の嫌疑が生じた場合の犯罪捜査、いわゆる司法警察に大別されます。そして、捜査の中には、令状を必要とする強制捜査、令状を必要としないいわゆる任意捜査と呼ばれているものに大別されているわけですが、ここで確認していただきたいのは、警察による情報収集というのは、行政警察、司法警察を通じて、いわば切れ目なく、シームレスに行われているということです。
 そして、もう一つは、逮捕とか捜索、差し押さえという強制捜査にわたらない段階で、任意捜査というとあたかも非常に軽いイメージがありますけれども、実際には、この表にありますように事情聴取、尾行、写真・ビデオ撮影、所持品検査、あるいはさまざまな捜査事項の照会等々という形で、実はプライバシーを大きく侵害しかねない活動が現に行われております。この点は、いわゆる行政警察における情報収集においても同様の活動が行われていることをまず注意していただきたいというふうに思います。
 結論から言いますと、共謀罪を創設するということは、犯罪の成立時期を、具体的な結果発生、あるいは結果発生の危険性がある段階よりも前に前倒しをすることになります。この表でいいますと、一、二を比べていただくと、捜査の開始時期がかなり早まることが御理解いただけるというふうに思います。
 しかも、この前倒しというのは、単に時間的に早くなるというだけではなくて、客観的な結果が発生していない、あるいは客観的に見て結果の発生の危険性、そういうものを示すものがない、そういう段階での捜査の開始になりますから、極めてハードルが低くなり、濫用の危険が多くなる。
 そういう意味で、この共謀罪の創設は、警察の情報収集活動、捜査権限の拡大につながることは明らかだというふうに考えます。
 幾つか具体的な事例を御紹介いたします。
 事例集の二ページに、大垣市における大垣署の市民監視事件を紹介してあります。これは、風力発電に反対する運動が広がる、そういう見込みのもとに、大垣警察がさまざまな市民の情報を収集し、風力発電を計画している会社に提供したというものであります。
 この中で、大垣警察の署員は、大垣警察署としても回避したい行為、つまりこの反対運動が広がることを回避したい、そして、今後、情報をやりとりすることによって平穏な大垣市を維持したい、それで協力をお願いするというふうに述べています。しかも、岐阜県警は、当事者からの質問状あるいは抗議に対して、大垣警察署員の行為は、公共の安全と秩序の維持に当たるという責務を果たす上で、通常行っている警察業務の一環であると判断いたしましたというふうに明確に回答しております。
 それから、四ページの、イスラム教徒、いわゆるムスリム監視事件においては、警察が、我が国に居住するイスラム諸国会議機構に加盟する五十七カ国の出身者全員の身元把握を目標にして、大使館員を含むムスリムに対する情報収集活動を行ったというものです。これはまさに、犯罪の嫌疑も何もない段階でムスリム全体をテロ予備軍というふうに勝手に決めつけて情報収集を行う、プライバシーを侵害するというものでした。
 そして、三ページにある別府の盗撮事件。これは実は、警察の弁解によりますと、公職選挙法違反の捜査という名目で労働組合事務所の人の出入りを盗撮していたという事案です。このときの犯罪の嫌疑というのは何かというと、この労働組合事務所には公務員の労働者が出入りしている、そうすると、この公務員労働者が公職選挙法違反をする可能性があるから、それを捜査するために盗撮したというのが警察の言い分です。そして、この事件が発覚した後、警察庁は、要するに無断で敷地に入って設置したのが間違っていた、そういう総括をいたしまして、令状なしの盗撮をもっと、見つからないようにというか、問題にならないようにやれ、そういう通達を出しております。
 こうしたいわゆる警察の市民監視の事件は、たまたま一人二人の警察官が思いつきで行ったとか、突出して行ったというものではありません。いずれも、警察の組織方針に基づいて、日常活動として行っている活動です。そして、このときに警察が何をもって公共の安全と秩序に反するものとみなすのか、あるいは公職選挙法に違反する人たちとみなすのかというのは、結局、監視する警察の判断に委ねられている、そういうことがこの事例からもおわかりいただけるというふうに思います。ぜひ、この点を前提にした議論をお願いしたいというふうに考えております。
 次に、事例集にも掲載されておりますが、私が直接関与しました堀越さんという方の国家公務員法事件。これは、国家公務員であった堀越さんが休日に赤旗号外を配布したことが政治的行為の禁止規定に反するということで逮捕、起訴された事件です。
 約九年にわたる裁判を経て、最高裁は、二〇一二年十二月七日に、この堀越さんの機関紙配布行為は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められない、そういうふうに判断しまして、無罪判決を言い渡しました。つまり、法益侵害の危険性がない、そういう行為だというふうに最高裁が判断をしたわけです。
 きょう申し上げたいのはその理屈の話ではなく、そういう全く法益侵害の危険性のない堀越さんの機関紙配布行為、これは本来、表現の自由、政治活動の自由として保障されるべき行為でありますが、この行為を把握するための捜査と称して、どのような形で堀越さん本人、それから関係者のプライバシー侵害がされたかということです。
 お手元に資料四というのを配ってあります。これは行動確認実施結果一覧表と申しまして、警察というのは尾行のことを行動確認といいますが、その結果の一覧表であります。この裁判で裁判所の勧告に応じて検察から提出された資料の一部をコピーしたものですから、この出所は明らかであります。
 全部を紹介している暇はないのですが、例えば一枚目の十月十二日の欄を見ていただきたいと思います。
 この日は休みで、日曜日なんですけれども、自宅を出てから最後はカラオケ屋に入るんですけれども、そこまでびっちり捜査員六名が尾行し、行動を確認しています。この中で、堀越さんが演劇を見に行く、一緒に行った人、それからその後一緒に飲食店に入った人、さらにはその後カラオケに入った人、この人たちは全部監視の対象となっております。
 そして、この中で、居酒屋に入った後も尾行を続けておるんですね。この点について、実際にこの尾行をした警察官に、なぜ居酒屋に行った後も尾行を続けておるんですかと聞いたところ、いや、飲んだ後だってビラをまく可能性があるというふうに明確にお答えになりました。
 結局、この堀越さんの事件では、三日間の配布行為だけが起訴の対象となっているんですが、二十九日間にわたって、捜査員延べ百七十一名、少なくとも四台の車両と六台のビデオカメラが使用され、堀越さんの行動は、こうやって記録に残されるだけではなく、ビデオカメラにもおさめられておりました。
 ここで強調したいのは、堀越さんというターゲットを決めた瞬間に、本人のプライバシーがまず丸裸にされるだけではなくて、これと接触するあらゆる人が監視の対象、プライバシーの侵害の対象となる、この現実が実際にあったということです。
 この事件は、最終的には無罪になりました。しかし、こうした堀越さんの権利侵害に対する謝罪等は全く行われておりません。
 詳しいことは後で資料を読んでいただきたいのですが、こうした事例からわかることは、一つは、警察というのは、法律上与えられた権限を抑制的に使うことはないということです。真面目な警察官ほど使えるものは全て使うというのが警察の実態です。
 それから、もう一つは、そのときに何を監視の対象とするか、例えば先ほど言っている公共の安全と秩序の維持に反する動き、あるいは反する人は誰なのか、あるいは犯罪を犯したと思われる人は誰なのか、この判断が極めて恣意的かつ主観的に行われていることです。とりわけ、今の政府に反対の意見を持っている、そういうグループあるいは人に対しては、警察は極めて厳しい目で監視をしていることがこれらの事例からわかるというふうに思います。
 それから、あと、事例集の六ページに、高層マンション建設反対の事例を挙げました。
 実際、私たちも弁護士の仕事をしておりますと、高層マンションが建って環境が破壊される、何とかしたいという相談を受けることはたくさんあります。
 当然、住民の皆さんは、何とか建設をやめてもらいたいということで、どうやったら建築をとめられるかということを一生懸命考えます。そして、現場でいろいろなやりとりをするわけですけれども、威力業務妨害に当たるかどうかというのは、現場でのやりとりを通じながら、その場で判断をしながら進めていくのが実際のやりとりなんですが、共謀段階で犯罪の対象となるということになると、威力業務妨害をやろうとした、つまり、マンション建築を何としても阻止するぞ、こういうことを話し合っただけでこの犯罪の対象になり得る、そうすると、意見表明自体が犯罪の対象となるというゆゆしき事態になります。
 そうではないという意見をよく聞きますけれども、この法律の規定を見ますと、別にその人がある暴力団等の組織集団に属しているかどうかは問題ではありません。二人以上が法律に決められている犯罪をやろうと計画をし、準備行為を行った、そしてその際にその二人以上の集団が犯罪を行うために専ら集まっているというふうにみなされれば、これは共謀罪の対象となるというのがこの規定なんですね。それを無視して、一般人は関係ないとか、組織的犯罪集団に限られていると答弁するのは、私は極めて不誠実だというふうに思います。
 最後に申し上げたいのは、今言いましたように、共謀罪の新設というのは、極めて強力な意見表明に対する抑止力をもたらします。
 この点に関して、法案審議の中で、よく政府が一般人という言葉を使います。しかし、法律の中にはこの一般人などという言葉はないんですね。私が言いたいのは、政府が、あなたは一般人、あなたは一般じゃないという仕分けを平気でしゃべっているこの状況、これ自体が、憲法の個人の尊厳だとかいう点から見て非常に問題ではないかというふうに思うわけです。
 したがって、私は、共謀罪の創設というのは、単に新しい法律が一つできるということではなくて、警察の活動領域そのもの、活動の仕方そのものを大きく拡大していく。そして、犯罪の発生、あるいは結果、危険の発生もない段階で捜査をするためには、話し合い自体、あるいは準備行為と言われる行為が何を目的としているかということを探らなければいけなくなります。そうすると、既に警察からは盗聴法の拡大、会話の傍受、あるいは潜入捜査などを要望する意見が出ておりますけれども、必ずそういうさらに権利侵害の高い捜査手法を求める可能性は否定できないというふうに思います。
 皆さんが、ぜひ、こういう具体的な今の警察の活動、そして共謀罪の創設がもたらす状況を具体的に考えていただいて、一体どういう法律をつくろうとしているのかについて責任を持った議論をお願いいたしまして、私の意見陳述を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 加藤健次

speaker_id: 19032

日付: 2017-05-16

院: 衆議院

会議名: 法務委員会