逢見直人の発言 (予算委員会公聴会)
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○逢見公述人 御紹介いただきました連合の逢見でございます。
本日は、このような場で私たち連合の意見を表明する機会をいただき、感謝申し上げます。
私からは、働く者の立場から見た我が国の経済社会における課題を踏まえ、とりわけ、税と社会保障、子ども・子育て、教育分野においてとるべき政策について申し述べます。お手元に資料も配付してございますので、逐次、参照しながらお聞きいただきたいと思います。
日本の景気は緩やかな回復基調にあるとされていますが、ほとんどの国民には、景気がよくなったという実感がありません。
一枚目のスライドのとおり、二〇一四春季生活闘争から三年連続の賃金の引き上げにより雇用者の報酬総額が増加する一方、GDPの約六割を占める個人消費は依然として弱い状況にあります。その要因として、非正規雇用の増加による低賃金労働者の拡大や、社会保障負担の増加による可処分所得の減少が消費マインドにマイナスの影響を与えていることなどが挙げられます。
また、生活保護受給者は過去最多を更新し、年金、医療、介護に関する社会保障制度が超少子高齢化や単身世帯の増加に対応し切れていないなど、国民の将来不安が一向に解消されていないことが、それらに拍車をかけているものと思われます。
二〇一七年度予算案では過去最大の九十七・五兆円が計上されていますが、広がる貧困の解消や格差の是正など、私たち働く者、生活者の声に応える予算であるとは言える状況にありません。
いかに国民の将来不安を払拭し、持続可能で包摂的な社会をつくり上げていくのか、そのことが、今、私たちに問われています。社会の安定と自律的な経済成長、財政健全化のいずれにおいても、雇用の安定と暮らしの底上げが大前提であり、そのための予算編成が必要であると連合は考えております。
次に、財政の基盤である税制の課題について触れたいと思います。
我が国が抱える課題の一つに、低所得世帯が増加し、貧困に苦しむ国民がふえていることが挙げられます。
とりわけ、所得の格差を解消するためには、税制が本来持つ所得再分配機能を有効に活用すべきですが、二枚目のスライドのとおり、我が国の税制における所得再分配機能は先進国の中でも最低レベルにあり、税制の抜本的な見直しが求められます。しかし、二〇一七年度の税制改正法案では、こうした観点からの見直しがなされず、極めて残念に思います。
その一方で、所得税の人的控除に関して、配偶者控除、配偶者特別控除の見直しが盛り込まれています。我が国の成長力の底上げのため、就業調整を意識させない制度構築が目的とのことですが、一九八七年の配偶者特別控除の創設により、制度上は就業調整への影響は解消したとされています。今回の配偶者控除の見直しが就業調整にどれほどの効果があるのか、甚だ疑問と言わざるを得ません。
連合は、むしろ、社会保険料の支払いが発生する百三十万円の壁が就業調整に大きく影響していると考えており、このことは厚生労働省の調査でも明らかになっております。働き方に中立的な税、社会保障制度の構築に当たっては、後に触れる社会保険の適用拡大と被扶養者認定の年収要件引き下げを最優先に進めるべきであります。
なお、今国会には、民進党から、格差是正及び経済成長のために講ずべき給付付き税額控除の導入その他の税制上の措置に関する法律案が提出されております。この中に盛り込まれている給付つき税額控除の導入や、個人所得課税における基礎控除や扶養控除の税額控除化などは、税による所得再分配機能を強化し、低所得世帯の暮らしの底上げ、底支えを行うという観点から、大変重要な政策です。
我が国の課題の早期解決のために、与党、野党にかかわらず、すぐれた政策は積極的に取り入れていただくようにお願いをいたします。
次に、国民生活の基盤である社会保障について、幾つか指摘したいと思います。
一点目は、子ども・子育て支援と待機児童の問題です。
保育所の待機児童数は、この間、減少傾向にありましたが、二〇一五年度に再び増加に転じ、昨年四月時点で二万三千人余りの子供が認可保育所に入れずにいます。また、最近でも、ことし四月の入園時期を控え、保育所からの落選通知を受け取ったという、保護者である連合の組合員からの悲痛な声も多く寄せられております。
国は、施設などの整備を図り、今年度末までに五十万人分の保育の受け皿を確保するとしていますが、それには約九万人の保育士が必要であると試算されています。
保育職場は都市部を中心に慢性的な人材不足であり、保育士の有効求人倍率は昨年十一月には二・三四倍に達しています。三枚目のスライドにもあるように、保育士の資格を持ちながら保育士としての就職を希望しない求職者を、職場をやめています。また、保育士としての就業を希望しない理由を聞いた調査では、賃金が希望に合わないが最多に挙げられており、保育現場の処遇改善は喫緊の課題となっています。
二〇一七年度予算案における保育士の処遇改善は、一定の評価をしつつも、いまだ道半ばであると言わざるを得ません。四枚目のスライドのとおり、勤続年数を考慮する必要があるとはいえ、全産業平均との間には大きな賃金格差が残っています。このことが、保育士の就労希望者がふえないことや職場への定着が進まない大きな要因の一つであることは自明の理であり、長く働き続けることができる賃金制度の確立と賃金水準の底上げが必要です。
一方、国会には育児・介護休業法の再改正法案が提出されています。この法案には、待機児童対策が進まない中、子供を保育所に入れられない保護者など、やむを得ない場合のセーフティーネットとして、育児休業の延長が盛り込まれました。
育児休業取得が女性に偏っている中での休業延長は、性別役割分担意識を助長し、女性活躍の阻害要因ともなります。そのため、男女ともに働き方を見直すことや、男性の育児休業取得促進を進めることが求められます。
また、既にことしの一月から施行されている改正育児・介護休業法では、制度の利用促進の観点から、休業の分割取得や、介護も含めたハラスメント防止対策などが盛り込まれました。
二〇一五年に実施した連合の調査では、制度利用者の約三割が何らかのハラスメント等を受けていることが明らかになっています。今後、改正によって制度利用者がふえることにより、ハラスメント被害も増加することが懸念されるため、改正法の施行状況を厳しく注視し、調査分析、法の見直しなど、必要な施策の実行を求めます。
社会保障の二点目は、介護の問題です。
介護の分野でも、高齢者の生命身体にかかわるという業務の特性に見合った労働条件が確保されているとは到底言えず、全産業平均との間には、保育士以上の賃金格差があります。介護労働者が職場に定着し、経験やスキルの蓄積によって専門性を向上させていくことは、介護サービス利用者の安全、安心の確保においても重要な課題です。
今般、連合が主張してきた二〇一七年度介護報酬改定が期中に行われ、介護職員処遇改善加算に新たな区分が創設されることは、率直に評価したいと思います。しかし、加算で得た原資の使途は各事業所に委ねられており、厚生労働省の調査では、多くの事業所において新規採用者に手厚く配分されていることが明らかになっています。このことは、処遇改善加算が、新規人材の確保に役立つ反面、介護労働者の職場への定着や経験、スキルの蓄積を促すという役割を十分に果たせていないことを示しています。
そのため、より介護労働者が長く働き続けることを促し、サービスの質の向上に資する仕組みへと見直す必要があります。
次に、貧困、格差問題について指摘させていただきます。
まずは、厚生年金、医療保険のさらなる適用拡大です。二〇一二年八月の法改正により適用範囲の拡大が行われていますが、昨年十月から新たに適用対象となったのはわずか二十五万人と極めて限定的です。高齢世帯の貧困を防止する意味からも、社会保険のさらなる適用拡大を社会保障審議会などで早急に検討すべきです。
次に、スライドの五枚目をごらんください。一人親世帯の課題です。
一人親世帯の多くが母子家庭であると言われていますが、有業者であっても貧困状態に陥りやすい傾向が見られます。母子家庭の就労率は八五%と高いにもかかわらず、非正規の職しか得られないケースが多く、約七割が年間就労収入二百万円未満となっています。母子家庭の母親は、子育てを一人で担う責任と経済的な困難に直面するリスクをあわせ持つため、総合的な対策が必要です。
また、貧困については世代間連鎖の防止が大きな課題です。その背景となっている教育機会の格差を解消するためにも、奨学金制度の拡充が求められます。
スライドの六枚目、左上のグラフをごらんください。
連合が二〇一五年十月に行った調査では、大学の学費が高騰する中で、世帯年収が二百万円から四百万円の低所得世帯の学生のうち、実に六割以上が奨学金を利用していました。しかも、奨学金を利用している学生の借入総額は平均で三百一・八万円と、卒業後の返済が大きな負担となっていることが明らかとなっています。
政府が国会に提出している給付型奨学金の制度化の法案が成立すれば、国として初めて高等教育に導入されることになります。それ自体は大きな前進ですが、その中身については問題があります。二〇一七年度は先行的に二千八百人を対象として予算化し、翌年度以降は約二万人まで拡大する予定ですが、給付額はいずれも最大で月四万円です。
同じスライドの右上のグラフをごらんください。
大学生の生活費の実態からすれば、給付型奨学金を加味しても、私立大、下宿生では最大で年間百五十五万円以上の赤字になります。この赤字を貸与型奨学金の借り入れや家計負担で担わねばなりませんが、経済的に困窮している家庭にはこうした負担を受け入れる余地はありません。
左下のグラフのように、貧困世帯の大学などへの進学率は、非貧困世帯と比べると明らかに低くなっています。
また、右下をごらんいただくと、こうした貧困世帯とされる児童養護施設や里親家庭の出身者、生活保護世帯、住民税非課税世帯の子供のうち、約六・一万人が高等教育に進学するとされていますが、政府の案では、本格実施でも二万人しか対象になっておらず、三分の一しか給付を受けられません。さらに、経済的理由で進学を諦めている学生が最大で六万人以上いることも想定され、これらを踏まえれば、政府の給付型奨学金は、本来目的としている教育機会の格差の解消にほど遠いばかりか、深刻な分断を招きかねず、余りにも不十分であると言えます。
教育機会の格差の解消のためには、就学前教育から高等教育まで全ての教育費用の無償化を行うことにより、社会全体で子供たちの学びを支え、将来社会の担い手を育成すべきであります。
最後に、働く者のセーフティーネット拡充について意見を申し上げます。
まずは、雇用保険制度についてです。
政府が管掌する雇用保険の被保険者は実に四千百万人以上に上っており、これら労働者の失業時における生活安定が国の責務であることは言うまでもありません。
今国会には雇用保険法等改正法案が提出されており、それが成立した暁には、失業等給付への国庫負担が、法律本則の二五%から二・五%まで、三年間の時限的措置として引き下げられます。その一方で、昨年三月の雇用保険法改正時には、政府の責任として、雇用保険の国庫負担に関する暫定措置を早期に廃止し、本則に戻す旨の附帯決議がなされています。
政府におかれましては、雇用保険制度に対する国の責務を改めて御認識いただき、三年後には法律本則まで確実に国庫負担が復帰するよう、不断の努力をお願いいたします。
また、かつて雇用保険制度が厳しい財政状況に直面したことから、給付水準は二〇〇〇年と二〇〇三年の改正で引き下げられ、その後も据え置かれたままとなっています。その一方で、財政状況は改善の一途をたどり、現在の積立金残高は六兆円を超えています。
この積立金は労使が拠出した保険料で構成されており、働く者の立場からすれば、失業というリスクに備えて政府に預けているものであって、他の財源とは一線を画すべきものと認識しています。したがって、その使途については、労使の意見を最大限に尊重すべきであります。
次に、セーフティーネットとしての職業能力開発についてです。
雇用形態や企業規模、在職、離職の違いにかかわらず、全ての働く者に適切な職業能力開発の機会を提供することは極めて重要と考えます。職業能力の開発、底上げは、働く者にとっては失業リスクを回避し、処遇格差を改善することにつながる一方、我が国の競争力の源泉となります。
したがいまして、人を育てる企業への支援強化や、非正規雇用の労働者、中小企業の労働者など、全ての働く者の中長期的なキャリア形成の機会確保に政府は一層注力していくべきです。加えて、学校教育段階からの職業教育、キャリア教育の充実が図られるよう、施策の強化をお願いいたします。
今、我が国は、本格的な人口減少、超少子高齢社会を迎え、本日申し上げた格差や貧困、分配のあり方など、経済社会のあらゆる側面での構造的な課題に直面しています。
私ども連合も、こうした課題の一つ一つを着実に克服していくため、二〇一七春季生活闘争において、全ての働く者の底上げ、底支え、格差是正を目指し、定期昇給相当分を含め四%程度の賃上げ目標を掲げながら、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配に資する公正取引の実現に向けて、取り組みを進めていく所存であります。
このことを最後に申し上げ、私からの意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)