戸崎洋史の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(戸崎洋史君) 日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの戸崎と申します。
本日は、このような機会を賜りまして誠にありがとうございます。
インドとの原子力協力に関しましては、国際的に、また日本国内でも幾つかの重要な論点から議論がなされてきたわけでございます。その全てを網羅できるわけではございませんけれども、例えばその国際システム、その中でパワーバランスが大きく変動しつつあるという中でのインドとの戦略関係、あるいは地球温暖化対策、大気汚染問題、エネルギー問題などへの原子力発電の役割、また原子力産業の国際展開といったような問題、そして最も重要な論点として、私が専門として勉強してまいりました核軍縮・不拡散問題との関係、より具体的に言えば、NPTの非締約国であるインドとの原子力協力というものが核軍縮・不拡散に持つ含意、インプリケーションという問題でございます。
御案内のように、インドはNPTに加入していない数少ない国の一つでありまして、NPTの普遍性、ユニバーサリティーという文脈の中で、インドなどNPT非締約国に対しましては非核兵器国としてNPTに加入するよう日本などは繰り返し求めてきたところであります。しかしながら、少なくとも当面、まあ予見し得る将来ということでありますけれども、インドによるNPTの加入の可能性というのは低いというのが残念ながら現状であろうかと思います。
また、インドは核兵器の廃絶を提唱する一方で、具体的な核軍縮というものを必ずしも実施してきたわけではなかったという問題がございました。より典型的なのがCTBTでございますけれども、一九九六年にこのCTBTが採択される際にインドは反対ということを明確にしまして、二年後の九八年、核爆発実験を実施したわけでございます。その後、インドは核実験のモラトリアムを宣言しましたけれども、CTBTにつきましては現在に至るまで署名、批准というものを拒否しておるという状況でございます。
そうしたインドと原子力協力を実施していくことの是非、あるいはこの原子力協力、また原子力協力の可能性というものを契機としてこのインドを核不拡散体制に取り込んでいくということ、インドに対して核軍縮・不拡散を実施させていくということの是非あるいはその実現可能性というものが議論されてきたというふうに理解いたしております。
このインドとの原子力協力というものがイシューとして浮上してきた端緒は、二〇〇五年のアメリカとインドによる原子力協力の推進に関する合意であったわけでございます。他方、NSG、原子力供給国グループでは、インドのようにNPTに加入せず、IAEAの包括的保障措置というものを受諾していない国に対しては原子力関連の資機材、技術というものを移転しないということが、まあ法的拘束力のない紳士協定としてのガイドラインでございますけれども、定められていたわけでございます。
そのNSGで、四十数か国のメンバー国による議論の結果として、二〇〇八年、インドを例外化するという決定がコンセンサスでなされていくわけでありますけれども、ただし、これは条件付だというところは留意しておく必要があろうかと思います。
例えば、インドの核施設に関しまして、民生目的と軍事目的のものをきちんと分離するいわゆる軍民分離、その上で、民生用の施設に対しましてはIAEAの保障措置を適用する、これによって民生から軍事への転用を防止するということ。それから、IAEA保障措置協定追加議定書を締結する、これは二〇一四年にインドとIAEAの間で発効いたしております。それから、インドが国内の輸出管理体制というものをしっかりしたものを確立し、実施していくこと。これによってインドからの拡散というものをきちんと防止する、こうした体制を確立するということ。そして、核実験に関するモラトリアムというものを改めて再確認するといったことなどが条件として出てきたわけでございます。
こうした形で、それまで核不拡散体制の全く外側にいたインドに対して、そうした形で核軍縮・不拡散の網を、まあ一部かもしれませんけれども、かぶせていくということがなされていった。言い換えれば、インドに対して核軍縮・不拡散を推進する一定のステップが取られていったということが言えるのではないかと思います。
現在までに、アメリカ、フランス、ロシア、イギリス、カナダ、豪州、韓国、カザフスタン、アルゼンチンがそれぞれインドとの間で二国間協定というものを締結してまいりました。日本につきましては、二〇一〇年に協定の交渉が開始されまして、昨年十一月に協定が署名されたというところでございますけれども、ほかの国々とインドとの間ではおおむね一年から二年、まあ長くても数年だろうと思いますけれども、そうした期間で交渉が行われ、協定が成立していったということに対しまして、日印協定に関しましては交渉開始から成立まで六年という時間が費やされていったと。
その中で重要な論点でありましたのが、核実験の問題をこの協定の中でいかに取り扱うか、核実験問題に関するインドからのコミットメントをいかに取り付けていくかという問題でございました。
日印協定の第十四条では、いずれの締約国も書面による一年前の通告というものを経て協定を終了させる権利、それから協定の終了前にこの協力を停止する権利というものを持つことが規定されております。その上で、協定とは別に、見解及び了解に関する公文というものが採択されておりまして、これによれば、インドによる二〇〇八年九月五日の声明、ここでは核実験モラトリアムの再確認ということが言及されておるわけですけれども、これを日印の間の原子力協力の不可欠の基礎とするということ。で、この基礎に何らかの変更がある場合には、日本は協定第十四条に規定する権利、すなわち協定の終了、協力の停止というものを行使して、第十四条に定める手続を開始することができるということ。さらに、インドがこの九月五日の声明を再確認したということが記されておりまして、この公文には日本、それからインドが署名しておるというものでございます。
この協定、公文には核実験という文言は入っておりません。先ほど伊藤参考人からもお話ございましたけれども、インドにとっての核実験という問題の国内的な、まあセンシティブな問題であるということも恐らくあったのだろうと思いますけれども、恐らくインドが核実験という文言をこの協定の中に入れたくないというふうに主張していたのではないかというふうに推察されますけれども、しかしながら、この核実験モラトリアムを再確認した九月五日の声明というものを協力の基礎として公文に記載するということ、これによって核実験のモラトリアムが協力の基礎であるということを明記する。で、その基礎が崩れる、すなわちインドが核実験を実施した場合には協定の終了あるいは協力の停止の権利を日本は行使できるということを、公文という文書の形で改めて明確化することができたのではないかというふうに思います。
インドが核実験問題に関してある意味ここまで踏み込んだ形で二国間協定に合意したというのは、私の知る限りでは日印協定だけではないかというふうに思います。米印協定でも核実験に関して触れられているわけではないということであります。
その点での意義というものは、これまでの核実験禁止の問題に関するインドの姿勢ということから考えると、決して小さくないのではないかと。まさに日本だからこそ勝ち得たもの、あるいは日本が粘り強く交渉を続けた結果として勝ち得たものであって、非常に厳しい交渉の中で、日本として取らなければならないと考えていたポイントというものを何とか勝ち取った部分ではなかったかというふうに評価されるわけであります。
インドは、この原子力協力を受けるためには、核実験のモラトリアムを含むインドが行った核軍縮・不拡散に関するコミットメントというものを実施し続けなければならないわけでありますけれども、その意味で、そうした形でこれまで全くその外側におりました核不拡散体制というものにインドが入ってきたということは、一つ重要なこの日印協定、それからインドとの原子力協力の意義であったのではないかと思われます。
最後に、今後の核軍縮・不拡散に関する取組という観点からお話しさせていただければと思います。
核をめぐる状況というものが非常に流動化しておる、それから不安定性も高まっているという中で、現実的、具体的、それから効果的な核軍縮・不拡散というものを少しでも前に進めていくということが今極めて求められているのではないかと思います。
インドとの関係に引き付けて考えますと、日印協定の締結を始めとするインドとの原子力協力の国際的な枠組みづくりというものを契機としてなされてきましたこのインドの核不拡散体制への取り込みというものは、もちろん賛成、反対、双方の意見の残るところであろうかとは思いますけれども、インドがこれまで全くその核軍縮・不拡散の外側にいるアクターであったということを考えれば、重要な第一歩であったというふうに評価することもできようかと思います。
他方で、日本が掲げております核兵器のない世界という目標から考えれば、あるいはその実現のためにインドが実施すべき核軍縮・不拡散努力ということを考えますと、まだ成すべきことは少なくないということも事実であろうかと思います。そうであるとすれば、日印協定、それからインドとの原子力協力というものを契機としたインドの核不拡散体制、核軍縮・不拡散への取り込みというものを更に前進させるための取組というものが求められているというふうに思われます。
もちろん、これは非常に難しい問題でありまして、妙案があるわけではありませんけれども、インドによるNPTへの非核兵器国としての加入、それからCTBTへの署名、批准というものは、インドに対して引き続き繰り返し求め続けていくということは今後も重要であり必要であろうかと思います。
また、当面の課題として考えますと、インドによる軍民分離という文脈では、日本などが推進しようとしている兵器用核分裂性物質生産禁止条約、FMCTの重要性というものが一層高まってきたのではないかというふうに思われます。民の部分を日印協定などの取組によってIAEA保障措置でカバーしていくと。残る軍の部分もFMCTでカバーしていくということができれば、インドにより大きな核軍縮の網というものをかぶせることができるわけであります。インドは、このFMCTの締結に向けて協力するということを繰り返し約束しているわけでありまして、日本はこのインドを含む賛同国とともにこのFMCTの即時交渉開始、早期締結というものに向けて引き続き積極的に取り組むことが重要だというふうに考えております。
こうしたことを含めまして、日本は引き続き地域レベル、それから世界的なレベルで現実的、具体的、効果的な核軍縮・不拡散を推進するためのより積極的な取組というものを今後もリードしていく、そういう重要な役割を担っていくということがまさに核軍縮・不拡散をめぐる非常に厳しい時代であるからこそ求められているのではないかというふうに思います。
以上でございます。ありがとうございました。