辻村千尋の発言 (環境委員会)
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○参考人(辻村千尋君) ありがとうございます。
本日は、貴重な機会を設けていただきまして、委員長を始め理事の皆様、委員会の皆様に感謝申し上げます。
私は、公益財団法人日本自然保護協会で保護室室長をしております辻村千尋と申します。
私が所属しております日本自然保護協会は、尾瀬ケ原のダム建設反対に端を発して設立され、七十年弱の歴史を持つ自然保護NGOでございます。人々に寄り添い、日本の生物多様性を守り、持続可能な社会を未来に引き継いでいきたいと考え、日々活動をしております。
本日は、同じような思いで活動されている自然保護NGOの公益財団法人世界自然保護基金ジャパンさん、公益財団法人日本野鳥の会さん、それからトラフィックさん、イルカ&クジラ・アクション・ネットワークさん、野生生物保全論研究会さんと、それから当協会の六団体を代表して、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律改正案に対して意見を述べたいと思います。
二〇一三年に、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律、以降は長うございますので種の保存法と略させていただきますが、制定後二十年たって、目的条項に生物の多様性の確保が明記され、罰則も強化され、罰金も大幅に引き上げられるなどの改正が行われました。一方で、当時、附則第七条で施行から三年後の見直しが規定され、十一項目の附帯決議が付けられました。今回の法改正は、これらを受けての改正と認識しています。
今回の種の保存法改正案で、種指定の優先度と個体数回復などの目標、必要な保護管理計画などを勧告する専門家による常設の科学委員会の法定を検討したことや、希少野生動植物種等の指定に関して、国民による提案制度の法定を検討したことなど、評価できるものもあると考えています。しかしながら、二〇一三年の改正の際の附帯決議に対して全て対応できているかという観点では、不十分と思われます。そこで、六団体共同で、特に不十分と思われる点を意見書という形式で指摘させていただいたということになります。
本日は、十五分という時間の制約もありますので、絞ってお話をさせていただくとともに、意見書には書かなかった、そもそもなぜ種の保存が必要なのかという基本的事項を含めて意見陳述させていただきます。
資料は二種類お配りしておりますが、その一が意見書、その二が日本の自然の個性を文章にしたものになります。これらを、詳細はお配りした資料に、読んでいただければというふうに思います。
まず、我が国の生物多様性は、世界的視野に立つと、日本全体がホットスポットであるとされています。固有の生き物が多く存在し、そのつながりがあり、かつ絶滅の危機に瀕している状況であると認識されているということです。これはなぜかというところに日本の自然の個性、特異性があります。
今よりも気候が寒冷だった最終氷期に、欧州と北米は大陸氷河に覆われました。その結果、多くの植物が絶滅しています。一方、日本では、高山帯に山岳氷河が発達したのみで、多くの種が生き残りました。その結果、比較して種の多様性が高くなったということが言えます。例えば、東京の高尾山の植物種数は英国一国よりも多いということが分かっています。
また、日本は、同緯度で比較した場合、標高三千メーター程度の場所は世界有数の強風地帯になっています。そのことが、本来の気候環境では森林で覆われてしまうような条件が、森林限界を超えた高山植物地帯を育んでいます。また、世界的に有数の多雪地帯でもあります。このことが、偽高山帯という、標高が低くても高山植物地帯が存在する東北地方の山岳環境の理由になっています。本来の気候条件では森林に覆われるべき日本の自然環境に、元々草原に暮らすイヌワシという生き物が日本では生息できる理由の一つでもあります。
さらに、その後の日本人の自然との持続可能な関わりの中で、里地里山のような環境が維持されてきた結果、日本の生物多様性は世界に誇るべき豊かさを持つに至りました。残念ながら、こうした里地里山は常に開発の危機にさらされております。結果、そこに絶滅危惧種の約半数が集中するという事態が現状でございます。こうした現状を踏まえ、種の保存法改正について意見を述べます。
まず、第一点目ですが、科学委員会及び提案制度、生息地等保護区についてです。
今回の改正案に、種の保存法の指定種を国民から提案する制度が明記されたこと及びその選定を判定する科学委員会が法に位置付けられたことは評価します。ですが、生息地等保護区の設定や保護管理計画の制定は、これまでどおり中央環境審議会の答申を経るという仕組みが残されております。種の指定が科学的な議論を踏まえ目標の三百種指定に至ったとしても、保全の実効性を持たせるための生息地等保護区の指定や保護増殖計画の仕組みがこれまでと変わらなければ、指定だけされて実際の保全の取組が進まないということにはならないのかという懸念が生じています。
これまでも、環境省は最大限の御努力をなされてきたのだと思います。残念ながら、環境省の予算や人員には限りがございます。環境省予算が天井なしに増やせるのであればよいですが、私どもNGOはそれを求めたいのですが、そのようなことは現在の財政状況からは厳しいものと考えています。種の保存に関する予算を確保したためにそのほかの環境保全関係の予算が削減されて、かえって環境保全が進みませんでしたということは、本来許されません。
例えば、種の保存法の指定種であるアユモドキ、これは京都と岡山にしかおりません。開発の危機にさらされるという状況があったところ、現在は、京都府さん、亀岡市さん並びに地元の方々の保全の努力で、ぎりぎりのところで踏みとどまっています。今後、絶滅の危機から脱するために更なる保全活動の推進が必要です。関係の皆様の共通の認識にもなっております。
ただ、自治体の財源には限りがございますので、やはり国の関与というものが必要不可欠になってきています。法律の趣旨を鑑み、やはり環境省に必要不可欠な予算を十分に確保する必要があります。この点については、是非とも国会の皆様方におかれましては、環境省の予算と人員の拡充にも御努力いただきたいというふうに思っております。
それと併せて、生息地等保護区の設定や保護管理計画の立案についても、現場で実際に保全に取り組む自然保護団体等からの提案を受け入れる制度として、国と自然保護団体等や専門家が一体となって保全活動をしていくことも不可欠だと考えます。事実、地域で地道に保全活動を実践されている自然保護団体は数多く存在しています。ですので、生息地等保護区の指定及び保護増殖計画の立案についても、国民からの提案制度を法定化し、その判定を科学委員会において行うようにするべきだと考えます。
生息地等保護区については、環境省が土地所有者との交渉を行った上で、環境大臣の諮問に基づき中環審で答申する形でしか地域指定ができないことが進まない理由の一つでもあります。ですので、例えば、土地所有者や管理者の自発的な意思に基づき環境大臣が指定する認定生息地等保護区のような制度を創設して、保護地域の拡充を図る必要もございます。また、科学委員会には、科学者だけではなく保全団体の関係者を入れて議論を深める必要もあると考えております。
二点目、国際希少動植物の取引についてです。
この点は、先ほど坂元先生の方でお詳しく言っていただいていますのでかなり割愛いたしますが、やはりしっかりとした登録制度と規制制度がセットになる必要があると考えております。
例えば象牙、これは輸入が禁止されているにもかかわらず、現在でも新たな登録が認められているという状況がございます。これは本当にいかがなものかというふうに思います。本来、誰が何を持っており、どこでどう取引されているのか、この製品はどこから来たのかというトレーサビリティーがしっかりと明確になれば、これは犯罪の摘発は容易になり、例えばテロ等準備罪の対象犯罪にせずとも現行犯での取締りが十分できるものになります。この点はしっかりと法規制を強めていただきたいというふうに考えております。
三点目、海洋生物と海のレッドリストについてです。
前回の改正で付された附帯決議十に、レッドリスト掲載を積極的に進めることと書かれましたが、対応が不十分なままに今回の改正に至ったと私どもは考えています。
環境省は、レッドリスト策定に向けて二〇一二年に検討会を開催しています。その中で、レッドリストの選定は、環境省と水産庁がそれぞれ行うこととなりました。今年の三月二十一日公表された水産庁のレッドリストでは、対象となる種の九十四魚類、鯨類のうち、九十三種がランク外、すなわち、絶滅のおそれが考えられない、あるいは評価するに足る情報がないこととされました。
しかし、例えば鯨類を例に取れば、IUCNでは十七種が情報不足とされ、スナメリのように絶滅危惧Ⅱ類に分類されている種もあります。昨年に新種と科学誌に一部掲載された、北海道の漁民に元々カラスと呼ばれていた種についての言及はありません。
ちなみに、鯨類についての日本哺乳類学会の評価、一九九七年の段階ですが、地域個体群を含めると十一種が希少とされ、スジイルカの地域個体群は危急、スナメリの地域個体群には絶滅危惧が懸念されています。日本海域のみ絶滅の危険がないとするのであれば、その根拠を水産庁は明確に示していただきたいと思います。
さらに、国境を広い範囲で移動する大型魚種あるいは大型鯨類については、二国間、多国間の条約等によって既に評価されているとしてリストの選定外になっています。これは、同じように移動性の鳥類が国内レッドリストに含まれていることと矛盾しています。国内においてもレッドリストの評価を科学的に行うべきものと考えます。
以前は、水産庁と環境省との間で覚書があり、それぞれやるというふうなことがあったと聞いております。そういった条件を現状でもそんたくしているのではないかと思われるような結果になっているということであります。
そもそも、今回のレッドリストについては、環境省のレッドリスト、それからIUCNのレッドリスト、水産庁のレッドリストで、例えるならば、警報を発する基準も感度も同じなのに、こちらでは震度五の地震で警報が鳴るのに、こっちでは震度七でも警報が鳴りませんでしたという妙な状況になっています。これでは、レッドリストとしての信頼性にも大きく傷が付くことになります。国際的な評価基準、方法にのっとり評価をし直し、その結果を踏まえ、種の保存法での海域保全の在り方を議論した上での改正が必要だったというふうに考えています。少なくとも、環境省がしっかり水産庁からデータをいただき、環境省主導の下でレッドリストを作るべきだったというふうに考えております。
四点目は、浅海海域についてです。
レッドリストでは絶滅のおそれがあるとされた種の中で、沿岸の浅海域の干潟や砂泥地に生息する種が複数挙げられています。これらはかつて広く分布していましたが、埋立てや干拓、環境悪化で生息の場が失われてきた結果、数を減らしてしまったものです。
残された数少ない干潟や砂泥地を種の保存法の生息地等保護区で守ることができるのか、そういう懸念がございます。なぜならば、こうした場所は権利関係が複雑です。生息地等保護区で規制を掛けることが難しいと考えられるからです。陸域の里地里山に規制を掛けることが難しいのと同様でございます。本法律の改正や他の法令での対応、若しくは新たな法律での対応が必要なのか、更なる検討が必要なものと考えております。
最後に、種の保存法が一九九二年に制定されてから二十五年になります。この間で希少種を取り巻く状況も大きく変化しています。また、自然環境そのものも気候変動などの影響で大きく変化しています。残念ながら、絶滅の危険はなくなっていません。
我々の暮らしの利便性追求と希少種との関係は変化していないと言わざるを得ません。希少種をしっかり守り、生物多様性を保全していくことは、我々の暮らしを守ることと同一です。こうした公共の利益と財産権の尊重との調整は喫緊の課題だと考えています。種の保存法には財産権の尊重が規定されていますが、生物多様性基本法や外来生物法には規定されていません。このことの議論が必要です。
また、絶滅危惧種の保全で最も費用対効果が高いものは、絶滅危惧種をつくらないことです。絶滅危惧種を守るという目的とともに、絶滅危惧種をつくらないという目的も法に加えるべきだと考えています。そのためには、やはり抜本的な改正が必要です。今日の危機的状況を鑑み、できるだけ速やかに抜本的改正が行われるべきであると指摘させていただき、私の意見陳述を終わります。
御清聴ありがとうございました。