池原毅和の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(池原毅和君) 私からは五点申し上げたいと思います。お手元にA4三枚の精神保健福祉法の改正についてと題する書面がありますので、お目通しいただきながらお聞きくださればと思います。
まず第一点目は、我が国の精神医療については国連から度重ねて改善を求められているという点であります。
その要点は、一つは、我が国の措置入院あるいは医療保護入院、両方ですけれども、要件が極めて広範である、つまり広過ぎるということですね。二点目は、諸外国に比べて強制入院が余りにも多用されている。これはOECD諸国の平均値の四倍の強制入院率というふうに言われています。三点目は、自由の剥奪を行っているにもかかわらず、弁護人に相当するような人権擁護者が法律上用意されていないと、この三点に集約されておりまして、自由権規約委員会からは一回、それから拷問等禁止委員会からは二回指摘を受けておりますが、その点についての改善がなされていません。
とりわけ、先生方はその措置入院の対象になった人がどんな人たちかというイメージをお持ちか分からないんですけれども、日常的に我々が体験するところでは、例えば、DVがもめて、どちらかの配偶者が問題があるということで措置入院の通報をして措置入院になった事例とか、あるいは近隣迷惑が発展して措置入院になった事例などが日常的にはよく見られて、むしろ相模原事件のようなものは極めて例外的です。
さらに、先ほど精神科救急の話もありましたけれども、精神科救急の代用として措置入院が使われている場合もあって、その場合には自傷他害の危険性というのがかなり低くても、例えば自閉が非常に長く続いているとか精神的に混迷しているとか、精神的な運動興奮状態にあるということで救急医療として措置入院が代用されているという場合もあります。つまり、これは要件が極めて広範なので様々な人が措置入院に流れ込んでくるということですね。その結果、今回の退院後のかぎ括弧付き支援ですけれども、それは、そうした雑多な人たちに全て無期限なフォローアップを行っていくという意味で大きな問題を残している。
国際的には、こうした強制入院は極小化していくべきだというのが大きな流れでありますし、国際人権規範の要請ですけれども、日本は残念ながら逆行しているというふうに言わざるを得ないと思います。
そして、平成二十五年の衆議院、参議院の両議院での精神保健福祉法改正についての附帯決議では、障害者権利条約の理念に基づいて具体的な法改正を行っていくということがされているわけですけれども、二ページ目を見ていただきますと、では、その障害者権利条約はどういうことを言っているかということで、既に御審議の中で何回か出ているようですけれども、障害者権利条約十四条は、障害に基づく障害を理由とした自由の剥奪は許されないというふうに言っております。これについての解釈について、障害者権利委員会が十四条のガイドラインというのを提示しております。また、国連人権高等弁務官事務所もこの解釈を示しておりまして、その要点は、つまり、精神障害以外に自傷他害のおそれとか、あるいは医療の必要性という要件が付加されても、やはり強制入院は許されないということを明確に宣言しております。
実は、これは権利条約の策定の過程で日本政府が精神障害のみを理由とした強制入院は許されないという規定にできないだろうかという提案をしたんですけれども、それが否定された結果、現在の規定になっています。つまり、それは、現在の規定というのは、明らかに自傷他害のおそれが加わってもやはり強制入院は許されないというのが十四条の趣旨であるという立場は明らかだということです。
二番目は、非自発的介入、強制入院を含めてですね、こうしたものが反治療的作用を持っているということです。
これも障害者権利委員会が国際的な常識として提示しているところですけれども、強制治療というのは効果がないということ、それが経験的に明らかにされているということと、強制治療の結果、深い苦痛とトラウマを患者に与えるということが指摘されています。
我々は、どちらかというと早期に強制的に医療の介入をすることがいいというふうに思ってしまいがちですけれども、これが患者さんには非常につらい経験になるということを無視してはいけないと思います。私の日常的な業務の経験でも、措置入院になった多くの方が、もう二度と精神科には行きたくないと、精神科のお医者さんはとんでもないというふうにおっしゃって、訴えたいという方はたくさんいらっしゃいます。
措置入院の経験者がなぜ医療中断をしてしまうのか。それについて、我々はともすると病識が乏しいからだというふうに考えてしまいがちですけれども、無理やりな強制的介入をした結果、かえって医療に対する敵対心とか反発心を深めてしまう、その結果、医療を受けることができなくなってしまうと、こういう反作用を持っているということについての視点が極めて重要だというふうに考えます。
三番目は、その通院を継続させるための措置が実際にはそれほど効果がないということですね。
これは国際的な研究で、裁判所の命令等によって通院を強制したグループとそれから自発的に通院をするという普通の一般的な医療との間で比較対照してみますと、その裁判所の命令で通院をしなければならないとされたグループの治療効果が特段認められないという実証的な結果が言われています。
確かに、今回の法改正で提案されている通院の継続というのは、法律的には義務ではないですけれども、しかし、措置入院という厳しい強制を受けた後に周囲の人から治療を継続するように事実上強制されるという結果になりますので、そうしたことをしてみたところで結果的にはほとんど効果が上がらないということです。
ちなみに、三ページ目を見ていただきますと、これは重大なことですけれども、心神喪失者等医療観察法、これは、強制入院の後に通院の義務付け化といいますか、通院の継続を確保する方法を定めているわけですけれども、この法律が施行されて十一年の間に五十二名の方が自殺をされています。
この五十二名というのは、自殺の、自死の意思が明らかである、遺書を書いているとか、あるいは自殺の方法が縊首、首をつって死んでいるとか、そういうことで自殺であることが明確な、しかも自殺が既遂の事例です。未遂の事例とか、あるいは自死の意思が明確でないものとか、あるいは自殺行為から死亡までの間に時間の経過があって因果関係が明確でないものというのは、この五十二名からは除かれています。
ですから、かなり正確ではあるけれども、もっと裾野の広い数字というふうに考えなければなりませんけれども、これを今までに医療観察法で入院又は通院の処遇を受けた人の総数から算出しますと、自殺率が一・五六%ということになります。下の方の注を見ていただきますと、これは新潟県での調査ですけれども、一般の精神医療を受けた方の自殺率というのが一%を超えるということはないわけですね、〇・数%です。ですから、際立った数字になっている。
これはどういうことを意味しているかというと、強制的な医療ということが非常に強い反作用を持っていると。患者の心に深い傷を負わせたり、自尊心を傷つけると、そのことが自殺を誘発するということが容易に想定されるわけです。この点についてはもっと調査が必要だと思いますけれども、安易に医療を強制していくということがいいことではないということに十分注意を払う必要があるということです。
四点目は、警察が関わることの問題点ですけれども、一つは精神医療そのものにとってはどうかと。
これは、結局、精神障害者あるいは措置入院の対象になった精神障害者は、ある種特別な処遇の対象にするということです。それは、逆に言えば、社会に対して精神障害者をあぶり出していくということですね。あるいは、措置入院の対象になった人をあぶり出していくという結果になってしまう。少なくとも、ノーマライゼーションという考え方とは全く逆です。ノーマライゼーションというのは、みんな同じように取り扱っていきましょう、なるべく特殊化しないということですけど、今回の方法は特殊化していくという方法ですから、全く逆の方向を取っている。
それから、精神医療から考えると、グレーゾーンの人たちが医療ではなくて警察でやってくれるというのは、これは医療を純化するという意味では、つまり医療を治安化しないという意味ではいい面があるんですけれども、じゃ、グレーゾーンの人たちってどういう人たちなのかというと、書かれているところによると、確固たる意思を持って犯罪を行おうとしている状態であると。でも、これはまだ頭の中で考えているだけの状態ですよね。そうすると、これは変ですけれども、共謀罪以上に本人の内心の問題に介入していくということを認めるということになります。これは、それ自体、やはり刑事司法の中で重大な問題を引き起こすだろうというふうに私は考えております。
最後、五点目ですけれども、これは医療保護入院に関してですが、医療保護入院は、今回、もし家族等が意思を表明しない場合には市町村長同意でできるということになっているということですけれども、これは家族同意も含めてですが、果たして、こうした医師の判断以外に同意者を含めることが効果があるのかどうかということですね。
制度的には、要件が加わるので人権保障に資するように思います。しかし、ちょっと反省として振り返ってみますと、精神科の中で隔離、拘束を行うことを行動制限というんですけれども、行動制限が慎重に行われるようにするために、行動制限最小化委員会というのを設置するというのが二〇〇四年に定められました。ところが、皮肉なことに、それ以降、隔離、拘束数は急激に増大しているんですね。なぜだろうかと。それは、隔離、拘束を指定医の方が単独で決めなければいけないとすると自分には重い責任が掛かります。しかし、行動制限最小化委員会がオーケーをしてくれれば自分だけの責任ではないということになります。つまり、これは責任分散システムとしての効果を持つことになるわけですね。
ですから、家族同意とか市町村同意を入れることは、一見すると人権保障に資するように見えますけれども、結果的にはむしろ人権を制約する方向に働いてしまう。更に言うと、ある調査では、市町村長同意やったときに、市町村の職員が患者さんに会いに行っているか調べると、ほとんど会いに行っていません。入院後面会に行っているか、一年に一回会いに行っているのがせいぜい、行っていないという自治体もたくさんあります。つまり、これは単なる書面上の処理に終わってしまうということになるので、この点についても十分御配慮をいただきたいと思います。
以上です。ありがとうございます。