岩村正彦の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(岩村正彦君) 岩村正彦と申します。東京大学大学院法学政治学研究科教授を務めておりまして、社会保障法と労働法等を研究しております。
本日は、参考人としてお呼びをいただきまして、誠にありがとうございます。
私は、社会保障審議会の介護保険部会の部会長代理を務めております。本日この委員会で議題となっている政府から提出されました法案は、この部会の報告書の内容を踏まえたものと理解しております。本日は、部会での議論も御紹介しつつ、この法案に関する私の意見を述べさせていただきたいと存じます。
まずは、今回の制度改正の背景について触れておきたいと存じます。
介護保険制度は、その創設から御承知のように既に十七年がたちまして、今や高齢者の皆様の生活を支える制度としてなくてはならないものとなっております。しかし、二〇二五年にはいわゆる団塊の世代全てが七十五歳以上となり、二〇四〇年にはいわゆる団塊ジュニア世代が六十五歳以上になるなど、人口の高齢化は更に進展するということが見込まれております。こうした将来を見通しますと、財源と人材とをより重点的、効率的に配分し活用する仕組みというものを構築しまして、介護保険制度の持続可能性を確保することが重要と考えます。
これにつきまして、介護保険部会の報告書におきましては、介護保険の保険者である市町村の保険者機能の強化でありますとか、利用者負担の在り方、保険料負担の在り方につきまして、世代内、世代間の公平などをより一層図るための見直しの必要性を指摘しております。
今回の政府提出法案は、今御紹介をいたしました介護保険部会の考え方に沿っているものでありまして、適切な内容と考えております。
続いて、法案の具体的内容につきまして、私の考えを三点につきまして述べさせていただきたいと存じます。
第一点は、自立支援、重度化防止に向けました保険者機能の強化に関してでございます。
高齢化の状況は地域によって異なっておりますし、そのため介護需要も地域によって違いがございます。また、要介護認定率、一人当たり介護費用、施設サービスと居宅サービスの割合などにも地域差が見られます。
こうした地域差がある状況の下で地域包括ケアシステムを推進するための取組をより一層進めるためには、特に市町村に対してどのような方策を提供していくべきかについて、介護保険部会で議論をいたしたところでございます。
その結果としまして、まず出発点として、各市町村がそれぞれの地域の実態把握、課題分析を行い、次いで、その把握、分析の結果を基に地域の共通目標を設定し、関係者間で共有するということとともに、その目標達成に向けた具体的な計画を作成する。そして第三として、こうして作成した計画に基づいて、地域の介護資源の発掘や基盤整備、多種職連携の推進、効率的なサービス提供も含め、自立支援や介護予防に向けた様々な取組を推進し、最後に、これら様々な取組の実績を評価した上で計画について必要な見直しを行うというサイクル、いわゆるPDCAサイクルを回す仕組みの構築が必要であるという取りまとめとなりました。これは、今回の法案にも盛り込まれているところでございます。
こうした形で保険者機能の枠組みを法律で整備することにより、市町村は、自立支援、重度化防止のための効果的な取組を実施できるようになるということでありまして、有用な政策と評価できると考えております。私としては、法制度の整備を受けて、今後、市町村レベルで着実にPDCAサイクルを回していくためには、例えば分析ツールの充実であるとか組織的な取組体制の構築などが重要と考えております。
加えて、忘れていけないのは、中心的な役割を果たすのは保険者である市町村ではありますけれども、市町村の規模などによっては十分に対応できないというところがあるという点であります。ですので、そうしたところは都道府県や国が重層的に支援をするというところが重要となります。今回の法案におきましては、これについても目配りをしているというところでありまして、都道府県や国による市町村支援も併せて制度化をしておりまして、適切なものと考えております。
保険者機能の強化につきましては、それを促す財政的なインセンティブ付与の問題があり、介護保険部会におきましても議論をさせていただいたところでございます。部会の意見では、自治体ごとに人材やノウハウ、地域資源などに大きな違いがあり、自治体間の格差の拡大につながらないように留意しつつ、丁寧な議論を行うことが適当としているところでございます。私見では、ポイントは財政的なインセンティブの付与に適した指標の設定にあります。適切なサービス利用を阻害しないように、また市町村間の高齢化率や部会意見で指摘された地域資源などの違いに留意をしつつ、公正な指標を設定するよう検討するのが適切と考えております。
以上が保険者機能の強化についてでございます。
第二点は、介護保険制度の持続可能性の確保についてでございます。
介護保険制度は、御承知のように、二〇〇〇年の創設以来、高齢者の介護サービスの充実に大きな役割を果たしてきておるところでありまして、高齢者の生活を支える不可欠の制度と現在においてはなっております。
ところで、今後の見通しでございますけれども、高齢化の進展がもたらす介護サービスの増加に伴いまして、二〇二五年度には保険料の全国平均は八千円を超えるという予想でございます。現役世代の保険料についても同様の見通しとなっております。介護保険制度は、このように保険料負担の増加という問題に現在直面しております。そのため、世代間での負担の公平ということも含め、今後どのように制度を支え、持続させていくかというのが喫緊の課題となっております。
そこで、介護保険部会では、高齢者に対する自立支援や要介護状態等の軽減、悪化の防止といった制度の理念を堅持しつつ、必要なサービスを提供するとともに、給付と負担のバランスを図りながら、制度の持続可能性を高めるための保険料、公費、そして利用者負担の適切な組合せを考えるという、そういう考え方を出発点といたしまして利用者負担や費用負担の在り方につきましての検討を行ったところでございます。
そこで、まず利用者負担についてでございます。
検討の前提といたしまして、事務局から前回の制度改正で導入された二割負担の施行の状況について報告がございました。この報告によれば、二割負担導入前後の対前年度同月比で見たサービスの受給者数の伸び率は、マクロ的な傾向で見たところでは顕著な差はないとのことでありました。引き続き受給者数の動向を注視し分析を行う必要はもちろんございますけれども、こうした前回改正後の動向も踏まえた上で介護保険部会で議論をいたしたところでございます。
利用者負担の見直しには、積極、消極の両方の立場から様々な意見が述べられたところであります。しかし、事務局から提示のありました現役並み所得がある方の利用者負担割合を三割とすることにつきましては、賛同又は容認する意見が多く出されたところと理解しております。そして、負担能力に応じた負担をしていただくように見直していくという方向自体については、おおむね意見の一致を見たと言ってよろしいかと存じます。
私個人の考え方といたしましても、介護保険制度を今後とも着実に維持していくためには、負担能力に応じた負担という形で制度を見直していく必要があると考えております。そして、今回の見直し案は、現役並みの所得がある方に限って三割の負担をしていただくというものでございますので、適切なものと考えております。
今回提案されております利用者負担の引上げに対しては批判的な御意見があるということは、私も承知しているところでございます。それでも、介護保険部会におきましては、それぞれ立場の違いはあるものの、それぞれの委員の皆様は、世代間、世代内の公平性を確保しつつ、介護保険制度の持続可能性を高めるためには何らかの見直しをすることは避けられないということについて、一定の共通理解に至ったように私には思えております。
以上が利用者負担についてでございます。
最後の第三点は、費用負担、具体的には四十歳から六十四歳までの方が加入する医療保険の保険者が負担する介護納付金についてでございます。
介護保険部会では、被用者保険の保険者が負担する介護納付金の額を各保険者の総報酬額に応じて定めるようにすること、つまり、総報酬割の導入の可否というものが議論となりました。この総報酬割の導入は社会保障と税の一体改革でも検討が求められていた事項でございまして、前回の制度改正のときでも部会で議論をいたしたところでございます。今回の部会におきましても活発な議論が行われたところでございます。強く反対する意見も相当数あったところではございますが、介護納付金は、負担能力に応じた負担とするために総報酬割の導入が適当であるということで、多くの委員から賛同を得たと理解しております。
私個人といたしましても、この後に申し上げるような理由から、従前から総報酬割を導入するのが適切であると考えております。
第一に、現行の介護納付金の負担方法には逆進性がございまして、これを解消する必要がございます。第二に、現行の介護納付金の仕組みでは、被用者の医療保険内部で見ますと、多くの人について負担率が高止まりしているという状況にあり、これを改めるべきだと考えています。
総報酬割の導入によりまして逆進性が解消されますし、被用者医療保険内部におきましても、より多くの事業主や被保険者につきまして介護納付金の負担率が下がって負担減ということになります。他方で、負担増になる方もいらっしゃるわけでありますけれども、全体としては負担減になる方の方が多いということになっております。これは、こうした負担の在り方というのは被保険者内部の連帯の在り方としても望ましいと言えますし、負担の能力のある方に負担をしてもらうという考え方にも整合的と言えると考えております。
言うまでもなく、総報酬割の導入の際には、負担増になる被保険者や企業への配慮というものが必要でありまして、段階的な導入や負担の増加する健保組合への支援などの激変緩和措置も必要と言えます。法案が予定する総報酬割の導入は、こうした措置も伴っておりまして適切なものと考えております。
以上、法案の具体的内容につきまして、三点私から意見を述べさせていただきました。意見陳述を終えるに当たりまして、私としては、政府から提出されました法案の確実な実施というものは、二〇二五年を見据えた地域包括ケアシステムの構築と制度の持続可能性を高める上で必要不可欠なものであるということを再度強調させていただきたいと存じます。
以上で発言を終えさせていただきます。御清聴ありがとうございました。