水野和夫の発言 (国民生活・経済に関する調査会)

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○参考人(水野和夫君) 法政大学の水野です。よろしくお願いします。
 それでは、私から、経済・生活不安の解消についてというテーマをいただきまして、今日は、この二ページ目になるんですけれども、三つのことをお話し申し上げたいと思います。(資料映写)
 最初は、まずグローバリゼーションについてでありますけれども、これは、二〇一〇年代以降になりまして、富を下位からトップに吸い上げるというメカニズムがますます前面に現れてきているようになったと思います。いろんな国で成長戦略が行われていますけれども、それは結果としてはショックドクトリンを発動させているということになっていると思います。ショックドクトリンというのは、カナダのナオミ・クラインさんが今の資本主義をショックドクトリンと名付けて、惨事、大惨事に便乗して資本を増やす資本主義だということをハリケーン・カトリーナを例に出して指摘されています。それがリーマン・ショックでさらにみんなの目に明らかになったということが言えると思います。
 二番目は、生活不安の源泉はどこにあるんだろうかということで、これは内閣府のアンケート調査などによりますと、所得、資産が増えないという、増えないどころか減り始めているということになります。じゃ、所得や資産がなぜ減少しているかということなんですけれども、これは企業のROE重視経営が大きな原因だと思っております。ですから、このROE重視経営をやめるということが私は必要じゃないかなと思います。
 そのときに、三番目になるんですけれども、社会全体の考え方を、これまでは個人が社会に先行する、いわゆる個人の能力が社会よりも先に決まっているんだという、そういう考え方がずっと支配的でありました。それをもうそろそろ、社会が先にあって、その社会の中で個人の能力は生かされるという、そういう社会に切り替えていきませんと生活不安というのは解消しないんじゃないかなと思います。
 最初に、一番目の上位の人に所得や富が集中しているというのは、毎年、国際NGOのオックスファムが発表しているんですけれども、現在、世界のトップ八人とそれから下位三十六億人が保有している資産が同じであるということになりました。
 左側のグラフは、上位これは六十二人の、世界の富豪六十二人が一人当たりどれだけの資産を保有しているかということなんですけれども、二〇一五年時点で二百八十四億ドルです。今年出た数字は五十三ですね、五十三・三という、二十八・四の数字が五十三・三ですから、五百三十三億ドルになりました。これはちょっと統計の範囲が変わったので飛躍的にジャンプしているんですけれども、むしろ去年の二百八十四億ドルが少な過ぎるということになりました。傾向的には、上位の人の資産はトレンドとしては増え続けています。
 それから、下位五〇%の、今で言えば七十三億人のうちの半分の三十六億人強の人たちの資産は二〇一五年で四百八十六ドル、単位は全く十億ドルでも何でもなくて四百八十六ドルです。去年の二〇一六年の数字はデータが変わってしまいましたので連続性がないんですけれども、二〇一六年時点では百十六ドルに変わりました。変わりましたというか、更に下位の人たちの所得は少なくなったということです。
 この点線の動きは二〇一〇年をピークになっていますので、二〇一〇年までは上位の人とそれから下位五〇%の人はどちらもグローバリゼーションについてメリットを受けていたということになりますが、二〇一〇年以降、下位五〇%の人たちは資産を減らさないと生活できないということになりました。百十六ドルというのは円に換算しますと一万四千円でありますので、最低生活するには、絶対的貧困ラインというのは一日一ドル九十セントですから、一日の一ドル九十セントの収入が途絶えれば二か月ぐらいで生命の危機に直面するということになってしまいました。
 右側のグラフは、二〇一〇年までは下位の人とそれから上位の人にメリットがあったということなんですが、右側のグラフは、一番落ち込んでいる、これは横軸に十分位を取って、七十二億人の下位一〇%、その次と、そういうふうに分けた数字ですけど、ちょうど八〇のところが一番数字が低い、ここが先進国の中間層の人たちであります。今度のアメリカの大統領選挙でトランプ大統領、トランプさんが当選した背景というのは、ちょうどこのラストベルト地帯の人たちが水平軸では八〇の辺りに位置するということになります。これは一九八八年からでありますから、先進国の中間層はもう一九九〇年代からメリットを受けていないということになります。
 今の世界全体の傾向は日本でもほとんど同じです。もっとも、もちろん日本で絶対的貧困というのはもうないと思いますけれども、相対的には上位の人と下位の人にそれぞれ、資産が上位の人に集まり、下位の人に資産が減っていくということになっています。
 左側のグラフは、下の方にある線が中位、五十番目の人の勤労者世帯の二人以上世帯で、ちょうど五十番目の人の金融資産保有額です、七百六十一万円。最近、この二年間上がっていますけれども、これはほとんどこの中に有価証券、株式が入りますので、この数年間の株高の影響ということになります。
 右側は、金融資産を全く保有していない人の世帯が今三〇・九%になりました。これは二人以上世帯で三〇・九%なんですけれども、単身世帯では四八%になりますので、単身世帯では二世帯に一世帯がもう資産がないという状況になっております。加重平均すると三六%、世帯数で加重平均しますと、日本全体では三六%がもう資産がない、三世帯に一世帯強が資産がないという状況になりました。
 それで、資産がなくなっているのは、資産がなくしているのはどうしてなんだろうということなんですけれども、これはもう日本の中で分配に大きな原因があると思います。これは企業の中の分配であります。税制の前の段階で、大きな、説明できない分配になっているんじゃないかなと思います。
 左側のテーブルで、日本は九七年をピークにして一人当たりで見ても総額で見ても賃金は減少し始めています。二百四十五兆円の賃金、俸給が九七年度にあったんですけれども、二〇一五年度は二百二十三兆円になりました。二十一兆円、九七年と二〇一五年だけを比較して二十七兆円減少です。
 一方、非金融法人企業は、合計で三十七兆円、この十七年間になるんですか、十七年間で三十七兆円増えました。一番下の国民総所得は十二兆円増えています。ですから、こういうことが説明できるには、六千万人の働いている人の能力が九七年を境にして急速に低下し、そして経営者と株主の能力が九七年から飛躍的に上昇しているという、そういうことを説明しないと、この一方が二十七兆円減らし、一方が三十七兆円増えているということは説明できないと思います。生産活動というのは資本と労働の共同作業ということでしょうから、九七年からはもう共同作業が成り立っていないということになります。
 右側が企業の最終利益、棒グラフで示した最終利益で、今四十兆円を超えました。リーマン・ショックの直前の史上最高値の一・五倍になっています。一方、一人当たりの実質賃金は、九七年をピークにしまして、そして今一三%減。この二年、昨年は実質賃金が上がったんですけれども、でも上がってもこの程度ということになります。
 左側のテーブルの二十七兆円減少し三十七兆円企業が増えたというのは、一年だけの話でありませんでして、二〇一四年、二〇一三年、ずっと同じようなことが起きていますので、それを毎年合計しますと百七十兆円になります。本来ならば家計が受け取ってもいいはずの賃金、累計しますと約百七十兆円です。得べかりし賃金だったんじゃないかなと思います。逸失賃金と言えるんじゃないかと思います。
 その一方で、同額百七十兆円、企業の最終利益が、経常利益ですね、経常利益が増えて、その結果が最終利益として左側の棒グラフになって、企業の内部留保金が三百七十八兆円になりました。本来ならば、一方がマイナスで一方がプラスという九七年からの傾向が続けてなければ内部留保金はもっと少なかったであろうということになります。これを可能にしたのが九五年の新時代の日本的経営という報告書だと思いますし、それから、九〇年代後半の経営者に対する報酬のストックオプション制度で、株主重視ということになったと思います。
 一方で、右側のところになるんですけれども、家計も全てが資産を減らしているわけではありません。企業が内部留保金を増やしているのと同じように、家計でも個人金融資産を、一世帯当たりに直して三割の人が今金融資産をなくしているわけですから、五千百万世帯のうちの七割で千七百兆円を割りますと、今、日本の一世帯当たりの家計所得は四千七百万円になっています。四千七百万円、一世帯ずつ持って、で、高齢者のところで比率が高いと言われていますので、高齢者、六十歳以上の人が、じゃ一体幾ら持っているんだろうというのを計算しますと、六千五百万円ぐらいになります。六十歳以上の高齢者には、一世帯六千五百万円の金融資産があります。
 家計の今の不安というのは現役世代に非常にしわ寄せが来ている。六十歳以上の方は今の生活を十分楽しんでいるという、そういう傾向が出ています。全体としては、このグラフにありますように、日常生活での不安が今後の見通しを悪化させるであろうということになっています。足下の不安が将来不安にそのまま結び付いているということになります。二十一世紀に入ってからこの傾向はほとんど変わりません。リーマン・ショックのときに大きく落ち込んだんですけれども、その後の回復はリーマン・ショックの落ち込みを取り戻した程度でありまして、二〇〇二年以降、余り改善は見られません。
 じゃ、足下の不安は一体何だろうということで、足下の不安の中身を、内閣府の国民生活に関する世論調査によりますと、最も不安が高いパーセントポイント、九七年以降、所得が減り始めてからということになるんですけれども、収入についての不安が最も、これは収入及び資産についてですね、これが凡例では収入についてと書いてありますが、収入と資産について悩みが多くなりました。で、今後についてと現在について、特に現在の収入、資産が不安であるという人が九七年から非常に増えました。それが右側の時系列で表したものです。老後の生活についてよりは、むしろ収入や資産についてという若い人の、若い世代の悩みが多くなりました。
 もちろん、お年寄りも悩みはあると思うんですけれども、それを次の全体のところで、若い人とそれから高齢者ではっきりと将来に対する考え方が、二十一世紀に入ってからもうトレンドが全く違うということになりました。
 上の二つの線は、二十代、三十代、四十代までの比較的若い世代の考え方、これはもう将来に備えたいということになります。貯蓄をしたい、でも、貯蓄率は今、この三年間、国民経済計算ベースでは、三年間貯蓄率ゼロであります。ですから、所得からはもう貯蓄ができない、将来に備えられないという状況になっています。
 下の二つのグラフは、これはまだ右下がりの傾向ですから、右下がりというのは現在を楽しみたいという、こういう状況になっております。これはもう、恐らく、先ほどの世帯当たりの個人金融資産が六十歳以上のところでは六千五百万円ありますので、ゼロ金利でもそんなにすぐに打撃が来るわけではないということになっていると思います。
 今のような状況で、下位の人の資産や収入が将来めどが立たないということになり、そして一方で高齢者は、もちろん全員がというわけじゃないですけれども、現在非常に楽しんでいるという人が多いわけですが、マクロ経済的には、今、ゼロ金利になりました。ゼロ金利というのは、ケインズによれば理想的な状態というふうに言っています。
 ③番のところで、ケインズは、二〇三〇年の、ケインズがこの本を書いた、「わが孫たちの経済的可能性」、一九三〇年に書いた本の百年後の世界について記述しているんですけれども、理想的な社会になって、もう資本を追い求める人はいないはずだというふうに百年後にはなっているだろうということなんですが、ただ、心配として、財産としての貨幣愛、これを捨て切れない人がいるんじゃないかということで、この人たちはもう半ば犯罪的で半ば病理的な性癖だというふうに言っています。
 ですから、こういう人たちをどうやってそうでないようにするかということがケインズがちょうど八十年前に心配していたことなんですけれども、オックスファムの報告書によれば、まさにケインズの心配していたとおりのことになっているということになります。その場合にどういう対策を取るかということについては、アンソニー・アトキンソンが、「二十一世紀の不平等」で、もし明日の機会均等を心配するなら、今日の結果の不平等を心配しなければいけないと言っています。ですから、機会均等だけではもう国民生活の不安というのはなくならないと思いますので、アンソニー・アトキンソンが言っている万人に相続財産をという、そういう政策が必要になってくるんじゃないかなと思います。
 最後は一番下の、今まで四百年間、ホッブズに始まって、個人は社会より先に存在するという能力優先主義でこの四百年間うまくいきましたが、それが今いろんな弊害を引き起こしているということで、アリストテレスの社会が個人に先に存在するという、もう一度その理念に立ち返る、そういった社会をつくっていくということが必要、今必要じゃないかなというふうに考えております。
 以上です。

発言情報

speech_id: 119314324X00120170208_008

発言者: 水野和夫

speaker_id: 9924

日付: 2017-02-08

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済に関する調査会