山形辰史の発言 (政府開発援助等に関する特別委員会)
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○参考人(山形辰史君) 私、日本貿易振興機構アジア経済研究所国際交流・研修室長兼開発スクール事務局長・教授の山形でございます。国際開発学会の副会長も務めております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
本日は、個人としての見解を述べさせていただきたいと思います。
資料がお手元にあるかと存じますけれども、私が申し上げたいことの結論はこの資料の冒頭に記してございます。サステーナブル・ディベロップメント・ゴールズ、SDGsの逆説と題しました。サブタイトルが内向的な世界目標ということでございます。
申し上げたいことは、世界の人々が地球全体のために取り組むゴールとして設定されたSDGsが世界各国の内向き志向に資する構造を有しているということでございます。このことについて今後十五分間お話をさせていただきたいと思います。
お話しするに際しまして、まず私は、ミレニアム開発目標とサステーナブル・ディベロップメント・ゴールズ、持続可能な開発目標を比較いたします。その比較の中で私の論点を明らかにしていきたいと思います。
それで、最初にミレニアム開発目標についてお話しいたしますが、私は、まずミレニアム開発目標はおおむね成功したというふうに考えております。その理由は二点ございます。
一つは、実際に実績として、東アジア、南アジア、アフリカといった主要な世界の地域の貧困削減や社会開発が進んだと、このミレニアム開発目標の期間内に進んだということでございます。もちろん、目標五の妊産婦の保健ですとか目標八の先進国の義務のところにつきましては課題はございましたけれども、それ以外の六つの目標については、地域を問わずかなり高い成績を遂げたということがございます。
二点目に、私がミレニアム開発目標が成功したというふうに考えております理由は、ミレニアム開発目標とそれからターゲットは、二〇〇〇年に設定されてから変化してまいりました。特にターゲットが増加したわけでございますけれども、具体的に申しますと、雇用ですとか生物多様性といったようなトピックのターゲットが増加しました。これは、雇用や生物多様性に関心を持つグループの方々が支持をした結果だと思います。
一方、たまたま私、児童労働ですとか障害者についての研究もいたしまして、そういう方々のために活動するグループと御一緒することも多かったんですけれども、そういう方々も、このミレニアム開発目標に、二〇一五年にこのミレニアム開発目標が期限を迎える前に、ターゲットないし何かの形で入れてほしいというふうに運動をしていらっしゃいました。結果的に児童労働や障害者はこのMDGsには入りませんでしたけれども、かなりの程度、世界の多くの方々が関心を持ってこのミレニアム開発目標に入りたいというふうにお考えになったことを見てきております。
このミレニアム開発目標でございますけれども、成功した理由があったと私は考えております。それは、成果主義に基づいた達成インセンティブ機能が効いていたということです。そして、私が本日申し上げたいのは、この持続可能な開発目標、SDGsはMDGsより達成インセンティブが弱いということを申し上げたいと思います。
まず、MDGsが達成インセンティブが強かった背景を申し上げます。
MDGsは強く成果主義的だったわけですけれども、と申しますのは二つの要因がございます。①、②というふうに記しましたけれども、まず明確な数値目標があり、達成期限があった。例えば、貧困指標を十五年間で二分の一にするというような明確な数値目標と、それを二〇一五年までに達成しなければいけないという達成期限がはっきりしておりました。
それから、それが達成される見込みが薄いときに、特に途上国に対してですけれども、ペナルティーが効いていたということでございます。
それはどういうことかと申しますと、ミレニアム開発目標は途上国の貧困削減戦略文書にほぼそのまま導入されていました。この貧困削減戦略文書というのは、当時の途上国の開発計画でございます。その開発計画にMDGsが反映されていたわけですけれども、その理由は、このPRSP、貧困削減戦略文書を書かないと世界銀行の中の譲許的融資、これをIDAという機関が担当しておりますけれども、IDA融資ですとかIMFの譲許的融資が受けられない、あるいは債務削減ですね、債務削減を受けるためにも、このPRSPを書いて世界銀行、IMFに承認される必要がありました。そして、こういうこの貧困削減戦略文書に書かれた内容を達成する道筋に乗っていないと援助が予定どおり実施されないというような形で、ペナルティーが効いていました。
このようにMDGsでは成果主義的な志向が強かったわけでございますけれども、SDGsは、これに対してこの成果主義的傾向が弱まったということを申し上げたいと思います。
論点二つございまして、一つには、もうこれは御存じのとおり、目標やターゲットの数が増えました。これによって一つ一つの目標、ターゲットの意味合いが薄れるということになってしまっているかと思います。MDGsは目標が八、SDGsは目標が十七でございます。また、MDGsのターゲットは当初十八、SDGsのターゲットは百六十九でございます。目標にしてもターゲットにしても増えているということがお分かりいただけるかと思います。
なおかつ、私、先ほどMDGsには明確な数値目標があったというふうに申し上げましたけれども、SDGsにおいてはこの数値化されたターゲットの割合が著しく減少しています。具体的に申しますと、MDGsにおいては十八あったターゲットのうち五つが数値目標でございました。これは二七・八%に相当します。これに対して、SDGsにおいては百六十九あるターゲットのうち十一が数値目標であるにすぎません。これは六・五%に相当します。また、MDGsの場合でも、十八のターゲットのうち七つは先進国向けのターゲットでしたので、それを、十八から七を引きますと十一のうちの五つは数値目標であったわけで、ほぼ半分ぐらいのターゲットが数値目標だったということが言えます。それがSDGsでは減っていると。まあ、SDGsにおいては数値よりも文言として、貧困を根絶するですとか、あるいは政策を強化するというような散文的なターゲットが増えているということでございます。
そして、最後に結論に入ってまいりますけれども、私は、これらの特徴によってSDGsは困難を抱えていると思っております。それは世界目標としての縛りが弱いということでございます。
これは裏返せば各国の自由度が高いということになりますけれども、今年七月にニューヨークでハイレベルポリティカルフォーラムが開催されるというふうに伺っております。この場で各国各様の実施指針、実施施策が策定され、報告されるかと思いますけれども、MDGsの場合には、このMDGsの目標がPRSP、貧困削減戦略文書の中にほぼそのまま取り入れられていたのに対して、SDGsと各国の実施指針、実施施策とのリンクは弱いということを懸念しております。
また、いま一つのSDGsの特徴として、民間部門の活力の国際開発への導入が挙げられます。しかし、縛りが弱いことが一因となって、実質上、自国企業に限った民間活力導入になっております。
SDGsは、スローガンとして、普遍主義、これはユニバーサリティーの訳でございますけれども、それを掲げており、具体的には、英語でノーワン・イズ・レフト・ビハインド、これは誰も取り残さないというふうに訳されておりますけれども、このノーワン、誰も取り残さないの誰もに先進国の必ずしも貧困でない人まで含むというふうに解釈する方々もいらっしゃるというふうに聞いております。
このようなことから、SDGsは、世界の人々が地球全体のために取り組むゴールとして設定されたわけですけれども、今のところ、世界各国の内向き志向を許容し、むしろ資することになってしまっているのではないかというふうに懸念しております。これがMDGsとの大きな相違点でございます。
これが私がお話をしたいことでございます。どうもありがとうございました。