阿部泰隆の発言 (総務委員会)

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○参考人(阿部泰隆君) 本日は、参考人としてお呼びいただき誠にありがとうございます。阿部泰隆です。
 お配りした資料に基づいて、若干修正しながらお話ししますので、お手元で御覧ください。
 私は、行政法研究者、行政関連事件弁護士として半世紀以上、法治国家の実現を目指してきました。それで、住民訴訟というのでは原告側で多数行っています。それで、行政の違法を多数是正させました。そこで、住民訴訟、これは地方公共団体での違法行為をなくす、住民のためにもなるということですから、この機能を減殺していくのではなくて、生かしていかなければなりません。
 今回問題になるのは権利放棄議決の方だと思いますので、それでお話しします。
 軽過失免責の問題については、私たちが軽過失免責は行き過ぎだと言って反対して、責任の制限という形でまとめていただきました。これ非常にいいことだと思ったんですが、そして、いい法案ができたと思ったら、権利放棄議決は文言上は自由にできるようになっていて、これではもうウナギを注文したら毒蛇が出てきたという感じがしています。
 その権利放棄議決の条文、文言上自由になっている。そうすると、実際上そこで争われて、住民訴訟をやるのは非常に大変になるので、もう住民訴訟については改悪というよりもむしろ死刑法案であると。
 法治国家、これは基本の基本で、先生方が一番肝に銘じておられるはずのところですが、放っておく放置国家になる、地方公共団体では違法行為のやり放題と。私、研究者でいたら、役所はきちんとやっているのが普通だと思っていたんですね。行政法学者の偉い先生はみんなそう思って、違法行為は例外だと思っていたんです。ところが、弁護士になって相談を受けたら、もう役所は違法行為のオンパレードと。まあ率からいったら高くはないでしょうけれども、実際に僕のところに相談に来るのはそういうものが非常に多くて、それで行政救済は機能しないと、みんな泣いているということです。じゃ、そういうことは許されませんのでと。
 それで次に、認知症に陥った老人の財産を管理している成年後見人がそれを自分の口座に移したとしたら横領罪ですね。そして、後見人を監督する後見監督人が、それを問責して追及すべきところ、目をつぶっていたら、これは後見監督人も後見人の共犯となって老人の財産をかすめ取ったことになりますね。
 次のページ。それで、市長ということにしますが、市長は住民に代わって住民の財産を管理しています。自分の財産ではありませんから、後見人のようなものです。議会は執行機関を監督していますから、言わば後見監督人のようなものです。市長が市有財産を売却する際、入札にすべきところ、随意契約で、しかも著しく安く売ったということがあれば、これは違法行為です。それで、差額分の損害が市に発生します。市長個人に注意義務違反があれば、過失として市に対する賠償責任が生じます。不法行為です。つまり、市は市長個人に対して賠償請求権という権利を取得します。市の代表者である市長は、これポストとしての市長の方ね、この市の財産、自分に対する権利を管理しています。これは住民の財産ですから、誠実に管理しなければなりません。それを放棄することはこの義務に違反します。
 議会がこの権利を放棄するという議決をするということは後見監督人が後見人の監督を怠っているのと同じで、これは、市長は本来背任罪だと思うので、その共犯になるはずです。それで、そういうことは議会の多数派の支持を受けている市長にだけ可能なんで、退任しちゃったらもう責任追及されます。それは、京都のポンポン山事件の市長なんかはそうです。だから、これは極めて恣意的な制度だし。
 それで、じゃ、何でこれは許されるかというと、最高裁が間違ったからです。
 地方自治法九十六条一項十号は、議会は権利放棄議決することができるとして、どういう場合にできるか、何の制限も加えていない文言を置いているので、最高裁は、基本的に裁量だと、裁量ラインを割れば許されないという判断をしたんですが、法律の解釈は法律の断片的な言葉だけに着目してはなりません。そんなことだったら法律家なんて要らないんです。そうじゃなくて、法律というのは完全にできていませんから、そうすると、法律全体の構造、体系からあるべき解釈を導く、これが法解釈学という仕事なんですね。
 裁判所が、ところが真っ当な法解釈をやらないものだから、わざわざ平成十六年の行政事件訴訟法の改正で、「根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、」という言葉を入れて、裁判所は法解釈をもっとまともにやれよという注文を付けたんですね。それなのに、相変わらず最高裁は断片的な言葉だけで解釈している。
 それで、財産管理権は長にあるし、議会はそれを監督する責任があるんですから、議会も長も住民の財産を放棄する裁量権はないはずです。総務省も本来こういう解釈しているはずなんですね。それだから、最高裁平成二十四年の解釈は誤っているから、これを是正させるべきだと思います。
 それで、しかも、訴訟の話ですが、私はこの事件で答弁書というのを出したんですが、最高裁は私の主張に対して一切反論しないで、一方的な判断をしているだけなんで、まあこれは個人の悔しさですけれども。最高裁の判例を是正できるのは、大法廷以外は立法機関です。だから、立法者が不合理な判例を是正すると、これが重要な任務で、是非とも果たしていただきたい。
 今回の法案は、過失の場合、責任の限度額を設定しますので、市長が僅かな過失で重い責を負うことはありません。保険でほぼカバーできるでしょう。あるいは、カンパでカバーできるんです。神戸市長は、私の住民訴訟で何度か負けましたが、何千万ぐらいだと、みんな、奉加帳を回して、もう部下に払ってもらいました。だから、何千万単位だったら、神戸市ぐらいであれば何ということないんです。だから、権利放棄議決は必要ありません。
 その上、権利放棄議決について、地方制度調査会が係争中は禁止と答申を出して、総務省の原案も当初はそうだったはずなんですね。それで、総務省は僕にその当初の原案をくれました。ただ、それを国会に余り渡すなとかと言われたんですが、とにかくちゃんと原案はもらいましたからね。
 ところが、なぜか法制局で、係争中に限らない、いつでも放棄できるような条文にしちゃったんですね。そうすると、条文上は、市長が故意に公金を使い込んでも、議会が同じ仲間なら、権利放棄してもらって免責してもらえるということになるわけ。少数与党だったら駄目です。だから、今、名古屋市長だったら駄目なんですね。だけど、神戸市長なら大丈夫なんですね。そんなのは極めておかしいでしょう。故意に公金使い込んで勘弁してもらえるなんて、そんな制度はどこにもありません。
 恩赦も刑事事件だけです、民事でそんなものありません。住民は無資力のときだけ債務を免除されるという規定がありますが、そうでなければ、税金ならとことん追及されて払わされます。
 じゃ、その次。じゃ、これに対して権利放棄が無効だという住民訴訟を起こせばいいではないかと言われる方いっぱいあるんですが、これは住民訴訟の実態を御理解いただいていない。元々住民が違法、過失、損害ありとして勝っても、また権利放棄した。そうすると、今度は権利放棄が有効かどうかという裁判になる。それで、裁判所が権利放棄の要件書いてないからこれは自由裁量だなんという判断をする可能性があって、さんざん争われて、何年かたってやっと判例が出て決着が付くということになります。
 その間、原告側は手弁当でさんざん苦労して裁判をやります。被告側は負けても全部税金で弁護士費用を払ってもらえるようになっているんです。だから、被告は一〇〇%勝てないと分かっている事件でも全部控訴、上告します。およそ不公平になっていて、これだけでも住民訴訟はやっていられない。だから、私は大分やりましたが、もう桃クリ三年柿八年、住民訴訟十年です。だから、私はもうやめます。機能するようにしていただいたらやるかもしれませんが、もうこの世の中、どんな違法行為がはびこっても、もうどうにもならぬと思っています。
 その次。衆議院総務委員会の高市総務大臣の答弁、それへの反論ですが、やっと法案の理由が出てきたんです。ドイツやフランスあるいは台湾では、法案の理由、逐条理由書を国会に先に出します。それで、国会は最初から議論できる。日本じゃ、分厚い資料は出てくるけど、法案の個別の条文の解説は出てこないので、国会でこれ質問してやっと出てくるんですね。そのうち、衆議院は通過しちゃっているんですね。それで、参議院ではそれを前提に議論しようかと思っているけど、なかなか、もうこの段階で僕の言うとおりにしてもらえないと。だから、この国会の慣行を変えて、法案には必ず理由書を付けるというふうにやってほしいんですが。
 まず、これ、高市大臣は、議会の議決による権利放棄議決については免責条例との均衡を踏まえて適切な判断がなされるとか、どういう場合に許されるか要件を明確に規定することは困難であるなんて言うんだけど、しかし、軽過失についても免責しないである程度責を負わせると言っているんだから、重過失と故意の場合は免責一切できないと考えるのが当然で、ただ、議論の余地はあるんだから、それ、できないと条文書くべきだというのに対して、何かいろいろ考えていることがあるか、じゃ、どういう例外があるのか、きちんとしてほしいものです。で、例外がなければ全面禁止にすべきです。
 ここで、違法行為から生じた債権なんですね。違法行為をやって、しかも、市長が、俺のやつは勘弁してくれと議会に言うわけです。第三者が言うんじゃないんです。それは極めて異常なことです。だから、これ、本来全部禁止で、例外的に許すものがあるとしたって、正当な場合、やむを得ない場合とかというふうにして、それを議論する。それでも争いは起きますけど、原則を禁止というふうにしていれば論争はぐっと減ります。
 あと、議会による権利放棄はこれまでも認められていたと言われているけれども、それは先ほど申し上げたように、地方自治の体系的解釈の誤り。総務省もそういう見解を取っていなかったはずで、最高裁がそういう見解を取っちゃったから、それを使っているだけで。
 その次に、地方分権時代、地方公共団体の財産の管理権を一律に制限することは地方分権の考え方にそぐわないなんと言われるけれども、地方自治法はがんじがらめに規定しています。日本の地方自治法は非常にくどい、細かく決めて自治体の自由を奪っていますから、何これ今言っているのと思います。
 それから、総務省は適切な助言を行うと言われますが、総務省がどんな助言をして、それを守ってもらえるか分かりません。こんなの何の意味もない。白紙委任です。それこそ地方分権に逆行する。こんなのは法律できちんとルールを明確にした方がいい。
 監査委員の意見を聴いても、監査委員は間違っても責を負わないから何とでも言います。だから、何事も自分のやったことに責任を負うと。だから、監査委員の意見が不適切だったら賠償責任を負うという制度をつくっていかなきゃいけません。本当は、住民訴訟で市長だけじゃなくて議員だって違法な議決をしたら責任を負うと。だから、議会は記名投票にする、していただかなきゃいけません。
 そうして、このままでは市長が違法行為をしても議会の多数を味方に付けている限り安心というので、法治国家はますます後退する。では、どうしたらいいか。違法行為から生じた債権の放棄は全部禁止すると。適法行為じゃないですよ、違法行為で、しかも故意、過失がある場合というふうに。だから、与党の方は衆議院では修正案に応じていただけませんでしたが、要件を明確にして争いをなくすというのは立法の常道ですから、賛成していただきたい。
 じゃ、許される場合は何かというと、その次、第三セクターが破綻するときに銀行団と協調して債権を放棄する、これはやらざるを得ません。そういうことは許すと、これは違法行為じゃありませんからね。
 それから、市長は、後で責を負わされたら大変だから必要な施策もできないなぞと言われますが、それは法令コンプライアンスをしっかりやればいいんで、今まで住民訴訟で過失ありと言われているのは、独断専行でやったり、思い込みでやったり、無理なことをやっている例、あるいは違法だと分かっているけれどもやっている例というのが非常に多いんですね。大抵そうです。だから、法令コンプライアンスやったらと言ったら、法令コンプライアンスやると、やるなと言われるからやらないだけなんですよ。それで、これ全部税金でできますから、やらせたらいい。
 それで、市長は、神戸市長なんかも、行政判断に何で司法が介入するのかなんて言っていましたが、法治国家では行政判断でも司法の下にある、法律に引っかからないようにやらなきゃいけないと、このイロハのイを分かっていただかなきゃいけない。最近、国立市長が、元の、住民運動でやったことを何で違法と言われるのかなんて言っていましたが、住民運動でやろうと公約であろうと、それが違法かどうか、これは吟味して違法にならない範囲でやらなきゃいけない、これが法治国家における市長のイロハのイなんです。
 それで、最後。必要な施策で、どうしてもやりたいんなら、議会の方にあらかじめ話して、万が一責任があったら放棄する、責任を免除するという議決をしてもらったらいい、それで大丈夫ですと、そういうお話で。
 最後に私の修正条文ありましたが、言わなくてもいいかもしれませんが、念押しで。自治体の長は財産を善良な管理者の注意義務をもって管理しなきゃいけないと、あと、違法行為から生じた債権は放棄できない、適法行為の方だったら放棄できる場合があると、こうすると明確になると。
 それで、とにかく、裁判であれこれあれこれ言って、住民訴訟の住民側はくたびれ、役所側の弁護士はぼろもうけと、こういう不合理なことはなくしてくださいと。
 以上です。

発言情報

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発言者: 阿部泰隆

speaker_id: 4398

日付: 2017-05-30

院: 参議院

会議名: 総務委員会