西川芳昭の発言 (農林水産委員会)

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○参考人(西川芳昭君) 御紹介いただきました龍谷大学経済学部の西川です。
 今の佐藤参考人のお話は現場からの取組ということですが、私は一研究者として、種子のシステム、またその国際的な枠組みを背景としてお話をさせていただきたいと思います。
 事務局の方の御許可をいただきまして、委員の先生方には資料をお手元にお届けしておりますので、それも参考にしてお聞きいただけたらと思います。
 時間が十五分と限られている中で、一分間だけ私のことをお話しさせていただきますが、私は奈良県のタマネギの採種農家に生まれたんですけれども、昭和四十年代、採種が海外に移る中で、うちの事業というのは廃業したわけなんです。したがって、もう本当に子供の頃から採種事業というものの国際競争というものの厳しさというものをもう身をもって、要は家の収入が途絶えるわけですから、そのような身をもって育ってきました。
 大学時代は、国の奨学金を得て、アメリカの農務省の遺伝資源導入プロジェクトにインターンとして派遣していただきまして、国の戦略物資としての種子というものの立場をこれも体感する形で経験させていただきました。
 大学を卒業してからは、ルワンダの内戦復興後のプロジェクトでアメリカの国際開発庁の種子返還プロジェクト、又はJICAのエチオピアの小規模農民のための種子供給プロジェクト等に関わることを通して、良質な種子を安定的に供給することの大切さ、農民にとって、国民にとって、国の食料安全保障にとって非常に大切なことであるということを理論的にも、また体感的にも体験してまいりました。そのことの経験を通して、またこれまで農水省や農民の方たち、また市民の方たちから学ばせていただいたことを皆さんにお分かちしたいと思います。
 本題に入らせていただきます。
 基本的なメッセージは、種子は公共のものであるということです。誰か個人のものではない、又は特定の企業が所有するものではないということが基本的な主張になっています。人間にとっての種子の大切さ、そして人権として全ての人間、特に農家ですけれども、が種子にアクセスすることの権利というものが保障されるべきであると、このような考え方を支えてきた法律的なインフラの一つが種子法であるというふうに理解しております。
 種子をこよなく愛した先人の言葉の中に、種子が消えれば、食べ物も消える、そして君もという言葉があります。これはベント・スコウマンという、世界で最後の種子庫を造る、世界で本当に種子がなくなった場合に最後のとりでとなる種子庫を造るのに尽力を尽くしたスウェーデンの方ですけれども。種が消えれば、食べ物が消えます、そこまでは分かると思います、農業をしている人なら誰でも分かることですけれども、そして君もということは、食べ物がなくなれば当然私たちも生きていけないわけですから、種子の大切さということをメッセージとして伝えている大切な言葉だと思います。
 また、食料、農業に関する責任を持っています国連機関のFAOは、土壌、水、そして遺伝資源、すなわち種子ですけれども、これは農業と世界の食料安全保障の基盤を構成していると。この遺伝資源、種子は我々の配慮と保護に依存している資源であるというふうに書かれています。我々というのは、もちろん一人一人の人間でもありますけれども、企業も含めて様々な社会のプレーヤー、アクターが関わってこの保護に努めていかなければいけないというふうに考えています。
 今回、種子法の廃止に当たりまして一部その規則を種苗法の中に取り込むというお話が出ておりますけれども、そもそも種子法と種苗法というのは目的が違っているというふうに私自身は理解しております。
 種子法は、主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進することを国、自治体を含めて、責務又は義務として定めたものであります。一方で、種苗法は、新しい品種を開発した育成者の権利を守る、知的財産権を守ることを主たる目的とした法律でありますので、目的とするところが違うわけで、育成者の権利を守る法律のその要綱なりまたその実施事項の中に国の義務というふうなものを持ってくるということは非常に難しいと思います。何らかのそごが生じるというふうに考えます。
 また、この種子法制定の歴史を振り返りますと、昭和二十七年、一九五二年の五月というのは、その前月、一九五二年の四月に日本がサンフランシスコ講和条約の発効に伴って主権を取り戻した、その時期です。この時期には多くの今の日本を支える法律が成立しておりますけれども、新しい日本をつくっていく、そのような動きの中で、農水省の官僚の方たち、当時の政治家の方たちが日本の将来の発展を目指してこの法律を制定されたというふうに私は思っております。
 また、国連の人権宣言、第二次世界大戦の惨禍の後、これを繰り返さないために国際社会が人権宣言というものを発表しておりますが、これを具体化する規約、いわゆる社会権規約の中では、この締約国、日本も含めてですけれども、全ての者が飢餓から免れる基本的な権利を有すること、そしてそれぞれの国は食糧の生産、保存及び分配の方法を改善することということが決められております。日本の政府としても、これに従っていく必要があるかと思います。
 具体的に、種子に関するシステムについてお話をさせていただきます。
 これは品種開発後の話ですけれども、種子システムの研究の世界では、フォーマルなシステムとインフォーマルなシステムがあるというふうに言われています。フォーマルなシステムというのは、政府機関の管理の下に供給される主として改良品種の認証種子に関わる制度です。多くの場合、知的財産権と関係しますので、種苗法で管理されています。一方、インフォーマルな種子システムといいますのは、農家自身による採種や農家同士の交換による認証されない主に在来品種、固定種等の種子供給を担っています。これは、人類の歴史とともに始まっている制度というふうに言ってもいいかと思います。
 種子法は、フォーマルなシステムの中に位置付けられるものではありますが、一般にフォーマルなシステムの中では知的財産権が強調されますので、企業、特に圧倒的な資金又は技術力を持つ多国籍企業が主たるプレーヤーとなることが多くなりますので、国が一定の管理又は介入をしなければ本当の意味での自由な取引というものができない可能性があります。その結果、フォーマルとインフォーマルのシステムが相互補完、連携することができなくなると思います。種子法があることによって、日本では世界的にも例外なグッドプラクティスとしてインフォーマルなシステムとフォーマルなシステムが連携しているというふうに考えています。
 お配りしている図の中にあるんですけれども、インフォーマルなシステムというのは、どちらかというとそれぞれの地域の中で種子が循環しているシステムというふうに考えられます。フォーマルなシステムの場合は、そこから遺伝資源を取り出して、ジーンバンク等又は育種組織等、企業も含めましてですけれども、そこで改良品種を作り、その改良品種を条件的に恵まれた地域で商業的に生産する、そのような形で遺伝資源、種子が使われることになります。
 この件に関しましても、民間企業が中心なプレーヤーとなりますと、条件不利な地域、日本の多くの中山間地等がそのような地域になるわけですけれども、こちらの方に優良な種子が安定的に供給されるということは非常に可能性が低くなるというふうに考えられます。一方、種子法の下では、先ほど佐藤参考人から費用が掛かるというお話がありましたけれども、あえて国から財政的な支援をすることによって、それぞれの地域に見合った品種をそれぞれの地域で循環させるというシステムが存立しているかと思います。
 種子のシステム、今は品種を開発した後のシステムについてお話をしましたけれども、遺伝資源の管理という面では、実は最初に育種の素材、例えばある特定の病気に強い、又は、今話題になっているものですと地球温暖化に対して適応するような品種、このような遺伝子を持っている品種を探索すること、集めてくることから始まります。そして、それを研究機関で研究し、この研究機関は公的な研究機関もありますし民間企業もございます。それを、多くの場合は産業としての農業や、一番利潤が上がるのは薬品、製薬関係ですけれども、そういうところで利用される商業的な利用を通して利益を出していくという利用が非常に一般的なんですけれども、同時に、循環型の利用の仕方がありまして、日本の国内で、例えば米の場合ですと、農林水産省の研究施設それから都道府県の研究施設で品種を開発し、それをそれぞれの地域に返していく。その際に、多様な関係者、農家、自治体、農協、その多様な関係者が参加できるシステムを形成しております。そのことによって、フォーマルとインフォーマルというものを結び付けているシステムが存在しているわけなんですけれども、繰り返しになりますが、種子法がこのシステムを下支えしているということです。
 ちなみに、種子が戦略資源であるということは、私たち研究者にとっては当たり前のことなんですけれども、なかなか日本の一般の市民の方々、御存じない場合があります。一九八二年まで遡って、NHKがドキュメンタリーを作成しておりまして、「一粒の種子が世界を変える」というふうなドキュメンタリーを作成しております。種子をめぐる世界で何が起こっているのかを描いて、また日本人にとって、人類にとっていかに重要かを検証したものです。
 また、その十年後には、カナダの政府系の財団の支援を受けて、ムーニーという人が「種子は誰のもの 地球の遺伝資源を考える」という本を書いておりますけれども、この本のメッセージは、種子は人類共有の財産であり、私物ではないという著者からのメッセージというものを訴えております。ちなみに、この本は、翻訳は当時の農林省種苗課の審査官御自身が翻訳をされています。当時の農林省の意気込みといいましょうか、種子に対する意識がかいま見られるかと思います。
 今現在、種子に関して三つの主要な条約がありますけれども、生物多様性条約、それから食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約、植物の新品種の保護に関する国際条約というのがございます。時間が来ておりますので細かい説明は省略しますけれども……(発言する者あり)あと三分ありますけれども、ちょっと結論まで持っていくのに、済みません、ありがとうございます。
 最後の、植物の新品種の保護に関する国際条約は、品種の育成振興、再三申し上げておりますけれども、知的財産権を保護するため、これは実は育成者権が強くなり過ぎることから、国の主権や国民の生活に良いことではないと判断している国が多くて、今も六十数か国しか締結しておりません。植物遺伝資源条約が百三十か国、生物多様性条約が百九十か国ということと比べまして圧倒的に不人気な条約で、これは、企業に種子の生産を任せるということがやはり国にとって非常に不安定な要因を招きかねないという懸念が、各国が認識しているという一つの間接的な証拠だと思います。こういうふうな状況の中で、種子法というのは、先ほどから繰り返していますけれども、フォーマルなシステムとインフォーマルなシステムを結ぶ画期的な、先進的なものだと思います。
 なぜ企業が種子にそれほどこだわるのかということですけれども、当然、種子を制する者は世界を制するというのは現在の常識になっていまして、資本による農業の包摂のための礎石として企業が入っております。ただ同時に、繰り返しになりますが、種子は食料、農業の持続的な社会的管理の根幹の部分に当たるものですので、このことを忘れていては、種子の管理というものは、政府の役割を果たすことができないと思います。また、生産者ニーズ、消費者ニーズの具現化ということも必要ですけれども、これは企業だけができることではなく、政府の管理の下に各プレーヤー、各アクターが協力して行うことが望ましいと思います。
 企業は、特許は必要な費用を回収する上で必要ですし、技術革新を促進する目的もある、ビジネスでは当然対価が支払われなければいけないということを言っていますけれども、それは当然のことなんですけれども、企業と実際の実需者、日本の場合ですと小規模な農家が多いわけですけれども、圧倒的な力の差があります。この場合、企業の参入を、イコールフッティングという言葉の下に参入を促しますと、ある意味では排除の論理が働くことになります。
 現在、国際的な枠組みであります持続可能な開発目標においては、包摂、様々なアクターが開発のプロセスに参加することが求められており、日本国政府もその基準に従って戦略を作っております。国家がやるべきことは、企業に形式的なイコールフッティングを与えるのではなく、実際のその企業の暴走を制御すること、そのことが役割だと思っております。
 国民と食料の関係を表す言葉には、食料安全保障という言葉と食料主権という言葉がございます。食料安全保障は、皆さんよく御存じのように食料を確保していくことですけれども、食料主権は、国家国民や農民が自主的に食料に関わる意思決定を行う権利というふうに定義されています。簡単に言いますと、国、地域又はそのコミュニティー、自治体レベル又は市町村レベルですけれども、その地域で何を作り何を食べるかという自律を保つことを決定する権利です。これは、国の主権、国民の主権に基づく概念だと思います。
 今、国の農業の競争力を強化する、このこと自体は非常に大切なことだというふうに考えますが、産業的な農業、競争力のある農業を保つためには多様な農家が参加できるシステムをつくる必要があると思います。その多様な農家が参加するためには、やはり今現在のシステムの中にある都道府県の普及のシステム、奨励品種のシステム、そのようなシステムによって、誰でもが良質な種子を安定した形でアクセスすることができるという、このシステムを継続することが必要だと思います。もし、そのシステムがなく、多様な農家の参画するシステムが確保されないのであれば、その多様なシステムというのは池のようなものだと考えます。そして、産業競争力のある農業というのは、その池に浮かんでいるボートのようなものだというふうに考えます。ボートだけを生かそうと思っても、池が干上がってしまっては日本の農業の将来はないというふうに考えていますので、その将来を支えている種子法を廃止する法案に関しては、私自身はかなり大きな問題を、大きな禍根を残すのではないかというふうに考えております。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 西川芳昭

speaker_id: 8115

日付: 2017-04-13

院: 参議院

会議名: 農林水産委員会