田代洋一の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(田代洋一君) このような機会を与えていただいて、どうもありがとうございます。
お手元に私の申し上げたいことを書いてございますので、大体それに即してお話をしていきたいと思います。
私としましては、この法案の細かな点についてはもうかなり国会で議論されておりますので、大きな性格について五つばかり問題を感じております。結論的に言うならば、この法律は農業生産関連産業競争力強化法という形に純化した方がいいというふうに考えております。以下、その点について御説明をしたいと思います。
第一点。やはりこの法律は、農業者、農業団体への国家の介入法であるというふうに感じております。
本法案の性格の大本は、農業競争力強化プログラム、あるいは経産省サイドの産業競争力強化法、これと比較すると非常に分かりやすくて、この両方とも支援という言葉は入っておりません。
そもそも、強化プログラムでは、ちょっと強く書いておきましたけれども、農業者の努力では解決できない構造的な問題を解決するということをミッションとして掲げているわけでありますけれども、法律の方は、まさに農業者の努力で解決できないというふうに言っているにもかかわらず、法案が農業者の努力を書き込むのは一体いかがなものでしょうかという感じでございます。国家の中にちょっと矛盾があるのかなという感じがいたします。
産業競争力強化法は事業者に対する支援法でありますけれども、ここには支援という言葉は書き込まれておりません。同法では事業者の責務を規定しておりますけれども、それは、国費を投入される事業者が責務を負うのは当然でございます。ところが、農業競争力強化支援法では、農業者、農業団体は、この法律の支援対象、支援の手段である債務保証、融資、投資等々の具体的な支援策の対象ではほとんどありません、一部の農協を除いてはですね。にもかかわらず、農水省が支援という言葉を書き加えたのは一体何なんだろうか。いろいろ考えてみますと、やっぱり支援を受けるんだから農業者も努力するのは当然という論理でもって農業者、農業団体への過剰な国家介入、これのやっぱり根拠法たらしめるところにポイントがあるのかなというふうに思います。
農水大臣は、努力規定であって、強制、義務付けはするものではないということをおっしゃっていますけれども、法律であえて強制、義務付けするのでなければ、別に法律に書く必要はないじゃないかということでございます。過剰な国家介入と申し上げた点の具体例は次でございます。
二番目に、協同組合の事業方式としての共同購入、共同販売の否定ということでございます。
今、鈴木参考人がおっしゃったように、私、直販、直接販売を否定するものでは全くございませんけれども、直接販売だけに限定していくというところにやっぱり問題を感じております。
農業者、農業団体は、購買、販売に当たって有利な条件を提示する事業者と取引すべきというふうに書かれています。また、農水大臣は、努力を行う事業者を利用してもらわないと困るんだということをおっしゃっております。しかし、先ほど鈴木参考人がおっしゃったように、まさに取引相手を決めるのは、これはやっぱり市場での自由競争で決めるのであって、法が特定の取引相手をいいということでもって誘導するのはいかがなものかというふうに考えております。
また、有利な条件という言葉も非常に曖昧な言葉でありまして、どうしてもやっぱり価格比較になりやすい。しかし、農協系統の取引としては、非常に長期の安定性だとか代金の回収だとか相互扶助だとか、あるいは使い残した農薬を無償で引き取るだとか、こういうやっぱりいろんな附帯条件の付いた総合的な有利性がございます。そういうものを有利な条件という形でもって系統共同購買を否定することになってくるんじゃないのかなというふうに思います。
三つ目に、先ほどの直接販売と関わってきますけれども、ここは、書かれているのは、農産物流通等の合理化という、この節に書かれております。そのやっぱり合理化として、農業者、農業団体の農産物の消費者への直接の販売を促進ということで書かれています。そうなってきますと、あたかも直接販売だけが合理性を持っているというような形で取られてきて、その反射として系統共販は言ってみれば非合理だと言うに等しいということでございます。今までも全農について直接販売ということはいろいろとやっぱり言われてきましたけれども、農業者について直接販売に行けということを規定したのはこれが初めてじゃないのかなと思って驚いております。
三つ目でございますけれども、種子法廃止がされたわけでありますけれども、その受皿法になっていると。
法案は、民間事業者が行う種苗の生産、供給の促進と、それから試験研究機関、県が有する種苗生産の知見の民間事業者への提供を促進という感じでもって、公的機関と民間とをイコールフッティングさせている以上に民間の方に力を入れているという、そういう感じがいたします。しかも、公的機関の既存の知的財産を私企業に提供することを義務付けるということでございます。結果として、やっぱり公的機関は裸になっちゃうと。種苗を通じたアグリビジネスの農業支配に手を貸すことになるのではないのかという感じがいたします。
農水大臣はその点について、県と民間との契約で知的財産権の海外流出を防ぐんだというふうに言っていますけれども、将来またTPPなりあるいはFTAにおいてISDSが導入されれば、県と民間との契約で知的財産権の海外流出を防ぐなんということは、これはもう完全に吹っ飛ばされてしまう、非常に危険な法律だなというふうに思っています。
四点目でございます。
農業所得の増大ということ自体について、これはもう誰もが望むところでございます。低廉、良質な農業資材の供給、農産物流通の合理化、これ自体は非常に喫緊の課題であると思います。しかし、ポイントは、経済学的に考えてみて、資材価格が全般的に引き下げていくとなってくると、正常な市場メカニズム、自由競争を通じれば、コストが下がるんだから、当然やっぱり売る農産物・食料の価格も引き下げるということにつながってきて、言ってみれば、これは消費者の利益には確かに安くなってなると。しかし、そのことが直に農業経営の改善、農業者の所得の増大にはつながってこないわけであります。コストが下がった分だけ価格が下がっていけば所得は増えないという当たり前のことでございます。
言ってみれば、この法は、むしろ資材価格の引下げが、農業者というよりは消費者利益を増進するものである、そのことはやっぱり強調すべきだなというふうに思っております。法は、もって国民生活の安定、国民経済の発展に資するというような言葉を同法でも使うわけでありますけれども、この法律にはそれが一言もない、ちょっとおかしいなというふうに思っております。
最後の五点目でございますけれども、TPPアフターケア法、事後処理法というふうに書いておきました。
本当に資材価格の引下げが農業経営の改善あるいは農業者の所得の増大につながり得る場合は、唯一、価格が引き下げられて、そのことによって需要が拡大して販売額が増加するというときにはやっぱり農業者の所得増大につながってくると思います。ただ、問題は、価格の引下げが直ちにやっぱり需要の拡大につながるのかどうか。これは、経済学的には、やっぱり需要の価格弾力性が高い場合にはそうなりますけれども、農産物については必ずしもそうではないという感じでございます。
そもそも、農業競争力強化支援法ということで、農業競争力という言葉については余り疑問がないように感じられるわけでありますけれども、農業競争力といった場合の競争の相手方は一体誰なのかということでございます。鈴木さんが先ほどおっしゃいましたように、一般的にはやっぱり輸出競争力ということであろうかとも思いますけれども、鈴木さんのお話にもありましたように、農産物輸出は、低価格で輸出ということももちろんありますけれども、高品質というか、バラエティーに富んでいるということが大きな武器になっているということを先ほどもおっしゃっているんじゃないかなというふうに思います。
この法案の大本の大本は何かというと、実は総合的なTPP関連政策大綱であります。ということは、要するにこの法案の競争力とは、結局やっぱりTPPによって増大する安い輸入農産物、これに対応するために価格を引き下げるということであって、その意味では本法はTPPアフターケア法なのかなというふうに思っております。
肝腎のTPPが、十二か国TPPだとかあるいは十一か国TPPだとか日米FTAだとか、いろいろ迷走しております。しかし、いずれにしても、政府は事もあろうに農産物輸出大国との通商交渉に非常に前のめりであります。そのことによって、日本がこういう国と交渉する場合に交渉カードを何か持っているかというと、輸出工業製品のもう関税はゼロになっていますから、交渉カードは農産物しかないということになってくると、こういう農業大国と何らかの通商協定を結んでいけば輸入増大が必至になってくると。そういうやっぱり輸入が増大していく下で、農業経営の改善、農業者の所得の増大が本当に可能なのかということがやっぱり一番問われることかと思います。
以上、五つの問題点を挙げさせてもらいました。
結論としまして、この法律は、農業関連産業競争力強化法という内容と、それからもう一つは農業者・農業団体介入法という農協改革以来の農水省の意図を抱き合わせた非常にやっぱり異質なものが混在しているという感じでございます。法律としては、この農業者・農業団体介入法としての側面は必要ないというふうに思いますので、これは削除して、農業生産関連産業競争力強化法に特化して、そしてそのことが消費者の利益になる、そのことを強調すべきだなというふうに思います。
そうなってくると、じゃ、やっぱり農業所得の増大、農業者の所得の増大はどうやって図ればいいのかということでございますけれども、その点については、やはり行き過ぎた貿易至上主義、これを脱却して、多様な農業の共存を図る、食料自給率を高めると、そのことによって資材価格の引下げが農産物の需要に確実に寄与するという形をつくってくる。同時に、こうやって国内農業を守ることによってその多面的機能を更に発揮すると。そのことを通じて、今や先進国農政では農業所得の確保は何でやるかというと、これはもう直接所得支払政策でやるというのがもう大体欧米の先進諸国、韓国なんかも通じて農業所得確保の道になっているわけでございます。やはりそういう道を追求する中で個々のコストを引き下げる、そのために農業関連産業競争力強化法を作っていく、こういう趣旨でやっぱり消費者利益を追求するという形に法律を変えていくべきだというふうに考えております。
最後に、ちょっと紙が余ったので、余計なことなんですけれども、今日の日本の政治を見ておりますと、何かやっぱり規制改革推進会議、財界と官邸と農水省が一緒になって、それと国民と皆様方国会議員、これが対立しているという形を非常に受けるわけであります。国会の皆様方も、規制改革推進会議、官邸、官庁の側に回っちゃうと、何かやっぱり規制改革推進会議支配国日本ということになってしまうんじゃないかなと思いまして、皆様方立法府の先生方の踏ん張りを是非是非期待して、私の発言を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。