西村幸三の発言 (法務委員会)

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○参考人(西村幸三君) 本日は、法案に賛成の立場で意見を述べさせていただきます。
 私は、二十数年間、弁護士として民事介入暴力対策に取り組んでまいりまして、現在は日弁連民事介入暴力対策委員会の幹事を務めております。代理人として取り扱った事件としては、広域暴力団組長に対する使用者責任を認めた最高裁判所平成十六年十一月十二日判決、今年のものでは京都を本拠とする広域暴力団の本部の組事務所の使用差止め仮処分決定などがございます。
 なお、以下は個人としての見解です。
 長年私が民暴対策活動として取り組んできたのは、組織犯罪から資金を剥奪して弱体化させ、被害者に被害回復することができないかというテーマです。
 平成十三、四年頃の組織的闇金、架空請求の被害はひどいものでした。一般の方々が何十万人と暴力的被害に遭って、さらに追い詰められて命まで落としていく姿を目の当たりにしました。消費者センターの電話もパンクし、私は闇金を追い払うために声がかすれ、目がかすむまで連日電話を掛け続けていた記憶があります。
 闇金などの匿名犯罪対策として、携帯電話不正利用防止法を私が日弁連内で言い出しまして民暴委員会発から提唱したところ、迅速に平成十六年、議員立法で成立いたしました。たちまち携帯電話闇金、架空請求は数の上では激減しましたが、その後も振り込め詐欺は私設私書箱や転送電話など犯罪ツールを変えて莫大な被害を発生させています。
 組犯法、組織的犯罪処罰法という法律は、組織的な犯罪行為の重罰化と並んで犯罪収益の剥奪に重きを置いた法律で、組織的犯罪集団からの犯罪収益の剥奪が犯罪組織を弱体化させ、被害を防止し、社会が奪われた被害を回復するということを目的とする法律です。
 日弁連は、暴力団対策法にも平成三年の制定時には猛反対し、平成十一年の組犯法の制定時にも猛反対をしています。そのときも、法律ができたら戦前のような社会になる、治安維持法の再来だと激烈な反対運動がありました。ですから、今回の日弁連の反対運動には既視感があります。
 この法案では、日弁連意見書や弁護士が主張する反対論がマスコミや野党の主張に取り入れられて反対の根拠をされてきました。しかし、私の見るところ、その内容には多くの誤りがあります。批判は後ほど触れますが、私の意見といたしまして、今回の組犯法の改正に賛成の理由を申し上げます。
 理由の第一は、組犯法の没収対象の罰条や犯罪化することを要求されているレベルをようやく世界の標準レベル、TOC条約レベルまで引き上げることができることです。
 第二に、TOC条約でいずれか又は両方の導入が義務付けられている共謀罪と参加罪のうち、結社の自由に配慮して共謀罪型を選択し、しかも、それに対して絞りを二重に掛けて、準備行為と、組織的犯罪集団について行われていることを要求したことです。これによって、参加罪型の国はもちろん、共謀罪型の国も含めて、世界の法制でも恐らく例を見ないくらい構成要件が謙抑的で、対象罰条も立法事実面から数を絞り込んで処罰範囲を狭めたリベラルなものとなっていることです。
 第三に、世界がボーダーレスになり、犯罪収益が日本に持ち込まれることも海外に持ち出されることも多いところ、条約の相互主義の観点からは、TOC条約を批准しなければ日本の社会から奪われた犯罪被害の回復に支障が出かねないことです。
 第四に、外国からの情報を受けられなければ、日本国内での外国人犯罪者、特にテロリストの摘発や予防には致命的ということです。さらに、摘発できなければ、犯人の外国への引渡しもできない、犯罪収益の没収ができない、外国が奪われた犯罪被害を外国に返還してあげることもできない。これは日本が国際的責任を怠っていると非難されてもしようがないことです。十数年この法案がたなざらしされてきて、日本が犯罪化を怠ってきた国際的責任を今回の法案でようやく果たせることになったと思っています。
 次に、この法案について主に日弁連や弁護士らから発信されて各方面に広がっている様々な反対理由について、私が誤りと考える点を指摘していきたいと思います。
 まず、立法ガイド五十一項の第四文を根拠にして、共謀罪、参加罪、どちらも犯罪化しなくてもよいという主張が日弁連から反対の大前提の根拠として二〇〇六年意見書以来一貫して提起されており、今でも各都道府県の単位弁護士会レベルに浸透しています。しかし、立法ガイド五十一項の英文の日弁連翻訳が間違いというのは、既に平成十八年の時点で外務省が国連事務局に口頭で確認し、外務省ウエブサイトに掲載され、国会でも答弁され、しつこいぐらい時間が費やされてきました。
 私も以前から、日弁連の訳は完全な誤訳だ、牽強付会と考えていました。仮に外務省がそんなすぐばれるうそをついているというなら、何で日弁連から直接国連事務局に問い合わせないんだろうと思っていました。
 今回、政府から書面で問い合わせることとなり、四月十一日付けで国連UNODCから書面ではっきり回答が返ってまいりました。それによれば、本条約五条1(a)が少なくとも一方を犯罪化することを明確に求めているから、立法ガイド、パラグラフ五十一は、いずれをも犯罪化しないことを許容することを意図するものではないとの回答となっています。
 つまり、外務省が十一年前に確認した内容そのままです。にもかかわらず、日弁連が拡散させたこの誤訳がマスコミや多くの議員にまで拡散して、いまだに無駄な議論に社会全体が膨大な時間を費やしています。日弁連二〇〇六年意見書では、共謀罪、参加罪のイーザーを採用しなくてもいいというのを、これらの概念と訳しています。イーザーは単数形なので、いずれもと訳すならまだ分かりますが、複数形で翻訳されているわけです。
 今年の二月一日付けで、共謀罪法案の提出に反対される刑事法研究者の方々の声明で、百六十三名の方が日弁連二〇〇六年意見書と似た論理で共謀罪、参加罪、どちらも導入不要と意見表明されていますが、ここでも五十一項の問題を、イーザーを、それらをと、やはり複数形で訳されています。日弁連の誤訳が拡散しているという印象が強いです。こんなことでは日弁連の法律家団体としての意見の信用性はかなり損なわれてしまうのではないかと、私は大変懸念を感じております。
 組犯法といえば、話が変わりますが、平成十七年頃、山口組五菱会闇金の首魁の資産数十億円の没収と被害回復が課題になりました。当時、組犯法が、被害財産を一旦国が没収してから被害者に分配するのではなく、そもそも没収しないという立て付けになっていたことから、仮に外国が被害を受けた場合にも外国に送るシステムもない、つまり相互主義が確保されていなかったためにスイスで没収された預金が日本に返還を受けられないという事態が起きました。急遽、日弁連では民暴委員会で起案して日弁連提言として国に申し入れ、国でも急遽法整備をし、被害財産のスイスからの一部返金は受けられたものの、結局シンガポール・ルートの数十億円の追及はできなかったという結末になりました。シンガポールから、日本とは捜査協力の相互協定がないため銀行の口座情報を開示できないと捜査協力を拒否されたと報道されたように記憶しています。
 私の依頼者も、この五菱会闇金の被害回復は受けました。一四・七%の配当率でした。多いか少ないか、見方はどちらもありますが、組織的犯罪に対する国際的な捜査協力、情報交換というのはこれほどに大事なものです。TOC条約十四条二項にも、外国の犯罪被害財産をその国に返還することの優先考慮が定められています。
 さて、ほかの反対理由に触れます。
 立法ガイドの五十一項の英文が誤訳であるとして、それでもなお反対論の根拠として、立法ガイド四十三項と六十八項(e)を根拠に、条約の精神を生かせば、共謀罪、参加罪、どちらも導入しなくてもよいと言い続けておられる論者もあります。しかし、それも国連からの書面回答で、いずれをも犯罪化する必要がないことを意味するものではないとはっきり否定されています。しかし、それでもやはりその発言が各所でされていて、マスコミでも取り上げられ、議論をミスリードされ続けているように思います。
 あるいは、立法ガイド十二項でその他の措置と書いてあるのを取り上げて、立法措置ではなくてもいいのだという反対論もあります。これも国連の正式回答で、犯罪化するための立法措置をとらなくてもよいということを意味するものではないとしています。
 さらに、TOC条約三十四条に関して、国をまたがった犯罪でなければ共謀罪で処罰する必要はないという反対論もあります。これも間違いで、国連からの書面回答で、犯罪化に当たっては国際性の要件がそれらの犯罪の要件とされてはならないことは明白であるとして、やはり反対論が間違いと回答されています。
 つまり、条約や立法ガイドの解釈として反対理由に挙げられてきた多くの論点はほぼ間違いで、外務省が国連にこれまで問い合わせて説明した内容が正しかったということは決着が付いてしまっていると思います。
 ほかの反対理由として、本法案がテロ準備罪と呼称されていることについて、TOC条約はテロと無関係である、組織的犯罪の経済行為を処罰することが目的だから、それ以外を罰条に加えるのは間違いというものがあります。でも、これも間違っています。
 まず、テロとの関係ですが、平成二十六年十二月、国連安保理の全会一致決議で、テロリストが国際組織犯罪から資金を得ていることを防ぐべきとされていて、組織犯罪防止はテロ対策の一環と位置付けられています。安保理決議第二千百九十五号は外務省のサイトで公表されており、それによれば、前文十三で、国際組織犯罪から資金を得ているテロ組織が、国の安全、安定、統治及び社会経済発展を妨げることにつながり得ることを深刻に憂慮とされ、主文八では、加盟国及び関係機関に対して、テロリストが国際組織犯罪から資金を得ることを防ぎ、また、国境管理能力やテロリスト及び国際犯罪組織に対する捜査・訴追能力を構築するための協力と戦略を強化することを奨励となっています。これがTOC条約の国際的な位置付けです。TOC条約の締結がテロと無関係であるという反対論が展開されていることには強い違和感を感じます。
 TOC条約は、直接又は間接的に物質的利益を得る目的と五条で書いていて、反対論はそれを、経済犯罪だけを共謀罪で処罰すれば足りるのに罰条が多過ぎると言われているようですが、間接目的の中に組織的犯罪集団の暴力犯罪始め、ほかの法益侵害類型を含むのは当然の話と思います。犯罪組織は、単に資金獲得活動をするだけではなく暴力犯罪に走ります。報復、見せしめ、内部統制のためのリンチ、組織内外で暴力によって威力を強化し、社会を恐怖に陥れること自体が組織犯罪集団、テロ組織にとっては意味があります。そういったアウトローのデモンストレーションを見て、信奉したり、関係をつくろうと思ったり、恐怖に屈し金やその他の支援を提供する者も出てきます。組織犯罪の暴力の最終目的は、あくまで物質的利益です。
 次に、テロ準備罪で処罰される対象罰条が広過ぎるという反対意見が繰り返し出ます。しかし、一通り対象罰条を見てみれば、よく絞り込んだという印象です。
 今回の法案では、組織的犯罪集団の団体の活動としてという要件の絞り込みが入りました。その結果、立法事実として組織的犯罪集団が行うことを考えにくい罪については対象罰条から外すというベクトルプレッシャーが掛かったと思います。
 過失犯を外すことについては、TOC条約五条が故意を要求していますから、外しても条約批准には影響はなく、構わないと思います。ただ、諸外国の規定例を見ていると、単に何年以上の罪の共謀を罰するという包括規定を置いているものも結構あって、過失犯などをそもそも除外していないように見られる立法例が多分に見受けられます。これは、実際には適用されることがないからという、割り切っておられるということだとは思いますが、過失犯が処罰されないのは明らかだと思います。
 日本は別表方式で特別法も全部列挙してはいますけれども、日本の刑事実体法は刑法典の外にある特別刑法が多いこともあって対象罰条は増えてしまいがちだと思いますが、国際比較で罰条数をベースに客観的比較をすること自体が無理がありますし、構成要件の広がりが各国によって違いますから、だからこそ四年以上の罪という基準が客観的としてTOC条約で採用されています。それを、罰条数を基準に多いあるいは少ないという議論自体が比較基準として客観性を欠いているし、ガラパゴス的なのではないかと考えております。
 絞り込みを行うことは謙抑的な立法としては結構なことですけれども、立法事実による絞り込みは諸外国から見てどうか、外国での組織犯罪集団の実態はどうかということも踏まえないといけませんが、全ての外国の実態を調べ尽くすことはできません。全ての国がそういう調査をしなくても済むように、TOC条約が四年以上の罪という客観的な基準を置いています。
 しかし、日弁連は、政府がTOC条約に加盟した全ての国が重要な犯罪の全てについて共謀罪を制定したのか調べていないから、不明になっているから法案に反対だと今年の意見書でも書いています。しかし、これは余りにむちゃな要求だと思います。一方で、日弁連は、共謀罪不要説の根拠として、諸国の実情に踏まえて立法すればよいのだ、だから日本も共謀罪は要らないと言っているのですから、批判のベクトルがばらばらです。あるいは、条約批准の審査はないんだから、今のまま批准すると言えばいいという意見まで出ています。しかし、それを言ってしまったら、憲法で言う条約、国際法の誠実遵守義務違反、憲法尊重義務違反だと思います。そうなりかねないと思います。
 ちなみに、諸外国の共謀罪立法では、組織的犯罪集団の要件も置かれていないところが多いと思います。なぜなら、TOC条約策定作業当時、条約五条で組織犯罪が関与するという絞りを掛けられるようにと要望したのは日本政府で、他国はそもそもそれ以前にその絞りのない共謀罪を持っていて、そんな必要も感じていなかったようです。
 適用罰条について、テロ準備罪制定の後も社会経済の発展により立法事実、特別刑法は変わっていきます。逐次適用罰条は見直していくものです。やや極端な例をあげつらって法案自体をそもそも通さないという発想はサボタージュになりかねないものであって、私には理解ができません。今回の適用罰条を全体として見れば、適切な絞り込みだというのが私の評価です。それがここまで入口論で混迷してきたように見受けられます。
 今回の反対論には、外国から見て日本がどう見えているかという視点が欠けていて、ガラパゴス化しているのではないかと感じています。しかし、ガラパゴス化して条約の相互主義まで軽視してしまったら、それはエゴイスティックということになってしまうと思います。
 どうぞ、TOC条約の早期国内法化を進められるよう要望して、私の意見とさせていただきます。

発言情報

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発言者: 西村幸三

speaker_id: 15446

日付: 2017-06-01

院: 参議院

会議名: 法務委員会