新倉修の発言 (法務委員会)
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○参考人(新倉修君) 新倉と申します。
私は、傍聴人の資格で何回かこの委員会も、別の案件だったと思いますけれど、傍聴しております。
十五分と限られた時間なので簡潔に手短に申しますと、私は、この法案は、当面、何といいますか、急いで決めるべきものではないんじゃないかという意味で反対ということですね。それが私が言いたいことの主眼ではなくて、それとは別に、国会とか政府がやるべきことは、先に国会でその条約を承認しているわけですから、国内法を作ってから条約を承認するという手続じゃなかったというふうに記憶しておりますので、それを踏まえると、先に決めたものを早くやっぱり執行した方がいいんじゃないかと。そういう意味で、条約の批准を、あるいは加入を先行すべきじゃないかと、それがまさにやるべき仕事ではないかというふうに理解しております。
それで、私としては、この間いろんな機会に発言することがあって、特にまとめて発言したのは、雑誌の「世界」の六月号に「共謀罪は条約加入に必要か」というタイトルをいただきまして、まあ必要じゃないという結論なんですけれど、本法案は共謀罪という言い方はあえて避けているわけですから、テロ等準備罪というふうに言い換えてもいいんですけれど、それはそのTOC条約の批准に必要なのかということですね。
私としては、そのきっかけになったのはやはり、いろんなことはあったと思いますけれど、安倍首相は最初にもう施政方針演説で、TOC条約に入ると、テロ対策だと、これを十分やらないと東京オリンピック・パラリンピックはできないということをかなり強くおっしゃられて、TOC条約を批准するためにはテロ等準備罪の法案を作る必要あるんだと、こういう枠組みを示されたと。それに基づいて今議論が進んでいるというふうに思いますけれど、それは私から言わせるとボタンの掛け違いではないかということですね。衆議院の審議でも、ボタンの掛け違いということはどこに問題があるのかということはまだ十分に解明されていないし、それも解消されず、先行き不透明感が増したんじゃないかというふうに私は見ております。
その間に、五月十八日に、ケナタッチさんというプライバシーに関する報告者が、この法案については重大な懸念があるという見解を発表されて、安倍首相宛ての書簡という形で、公開の書簡ですけれど、回答を求められたわけですよね。それに対する回答をきちっとやっぱりすべきじゃないかというのは私の立場ということですね。
時間が限られていますので手短に申し上げますと、まず条約と担保法の関係についてどう考えるのかということですけれど、まず引用すべきは、衆議院の法務委員会の四月二十五日の審議で、元ウィーン大使だった小澤俊朗参考人が議員の質問に対して、条約を審査する国際機関はあるのかと聞かれたら、ありませんと明確に否定されたわけですから、これは私の論文を読んでいただくと分かりますけれど、要するに、批准するということは、国際法的に言えば、それぞれの国の憲法及び法手続に従って条約を承認するという手続なんで、それについて国際機関がどうこうするということは基本的にはないんですよね。
ですから、そこがまずボタンの掛け違いで、何といいますか、国内法を整備しないと批准はできないんですよというのは国際法上の要請ではなくて日本の政府の政策なり都合なんですよね。その点はやっぱりよく理解していただかないと、何か法案に反対して批准が遅れるのはみんな反対している人たちのせいだみたいなキャンペーンが張られて、何か国民、焦燥感に駆られて、とにかくいいから、バーゲンに走るような感じで、立法を早く通して条約を批准しないと日本は国際社会で非常に肩身が狭い思いするというようなキャンペーンを張られているのは非常に、何といいますか、おかしいんじゃないかなという感じがします。
詳しくはレジュメに書いたんですけど、これ全部説明していると時間がないんで、後で御質問があったらばお答えしますけれど、基本的には、日本政府としてはどういうことを我々はすべきなのか、あるいは国際条約で、これで何が問題になっているのかということを聞くチャンスは幾らでもあったわけですね。
どういうことかというと、ここに国連の文書ありますけれど、これは国際組織犯罪防止条約の締約国会議のルールなんですね。日本はこの条約にはもう署名しているんですね。署名していますから、当然署名国としてオブザーバーですけれど締約国会議に出ているわけですね。どういうことができるかというと、ステートメントを発表できる、それから文書を受け取れる、それから見解を発表できる、それからこういう公開の審議でその審議に参加することができると。だから、幾らでもこの条約会議で問題になっていることについて問いただすチャンスはあるわけですよね。現在でもあるわけですね。
ですから、疑義になっているところを、外務省なら外務省、しっかり議論を詰めて国会に報告するなりあるいは法案作りで法務省と相談するなりするという手続はやっぱり必要なんじゃないかと。それを欠いたまま、こういう国内、かなり大幅な刑法の原則をひっくり返すようなものを作るというのはいかがなものかという感じがしますね。
詳しくは多分、松宮先生は専門の立場で詳しい議論をすると思いますけれど、私に言わせれば、この立法というのは言わば共謀罪刑法ですね。今まであった法益侵害を基にした刑法とは違う、もう少し一枚上の大きな上物を、それを、言えば共謀罪刑法なんですよ。共謀罪を中心に刑法を全部再編成しようという非常に大胆不敵というか恐るべき法案を用意して、これをのめのめというふうに言っているという状況ですね。これを本当に責任持って皆さんは、議員ですから国民の代表として審議された上で、これは自分としても納得がいける、じゃ、これを新しい刑法、共謀罪刑法を我が国に導入しましょうというふうに胸を張って言えるのかということですね。
そういう問題があるわけですけれど、そこですったもんだする前に、国際社会で要求されているTOC条約に入りなさいという要請はあるわけですから、それに対して応えるならば、まず条約を批准して加入の手続を取れば、それから、じゃ、どういう対策が必要なのかということは十分時間取ってできるんじゃないかということですね。
国連の文書について今あれこれされていまして、私もいろいろと読みますけれども、非常に複雑な交渉経過に基づいて非常に分かりにくい条文が作られていて、それについて各国で国内法の整備過程をいろいろと調べてみても十分よく分からない点もあるし、日本とは全然違う方法で条約に加盟している国もあるわけですよね。
今、西村先生の方からも少し紹介ありましたけれども、国連にこの関係では三種類の条文が、条文といいますか文書があるわけですけれども、この立法ガイド、これはフランス語版なんですけれども、立法ガイドに間違いがあるとか誤訳があるとかいう話がありますけれども、これがもし内容的に間違っているならば、もう既にこれは国連によって撤回されているはずですし、あるいはこんな立法ガイドをまだ公刊しているのかというので、日本政府としては厳重な抗議を国連に対してするはずなんですよね。
それから、モデル立法とか、それからアセスメントのツールとか、ほかにも二つあるんですけれども、これはまさに、批准したときのそれぞれの国の立法状況がばらばらだと、ばらばらなものをじゃどういうふうに国際的にコーディネートしていくかというために、国連の事務局がいろんな方法で今議論といいますか作業を続けているということですから、日本としては条約で求めている以上のものを、あるいは求めているのとは違うものをわざわざ国内法作ってやるというのは、よっぽど私の信じられないような蛮勇を振るってやるおつもりなのかということをすごく懸念しております。
それで、あと少しなので、五月十八日のジョセフ・ケナタッチ国連特別報告者の書簡についてちょっと触れたいと思いますけれども、これに対して内閣官房の方はすごく敏感に反応したわけですけれども、それに対して国連の報告者の方からもいろんな反応があったわけで、ついては、五月二十九日の月曜日に本会議で、安倍首相としては、だから官房長官とはやっぱりちょっとニュアンスの違う反応をしているわけですよね。やっぱり内心の自由というのは守らなきゃいけないんだということで、一応、国連の特別報告者と要するに見解は共通していても、この法案に対する評価は違うんだというようなふうに少しスタンスを変えたというふうに私は見ているわけですけれども。
それにしても、国連の特別報告者とはどういう立場なのかということについて十分理解されていないんじゃないかという点に懸念があるわけですね。彼は個人の資格で言っているというふうに言われていますけれども、元々、特別報告者というのは個人なんですよね。政府ではないし、機関でもないんですね。有識者という資格で国連の人権理事会で任命されている人たちなわけですから、それは単なる個人じゃないかというふうに言うのはとんでもない言いがかりですね。だけど、言っていることとか仕事は私的な見解ではないわけですよ、国連活動の一環として専門家の立場から寄与しているわけですから、それを個人の資格で言うのはけしからぬというふうに切り捨てるのはいかがなものかなというふうに思いますね。
基本的には、あと一分なのでもうまとめますけれども、国連のやり方というのは、それぞれの違いということを認めつつ、コンセンサスですね、対話によってやっぱりいい方向を目指そうというわけですよね。特別報告者というのもそういう制度ですし、人権理事会もそういうシステム取っていますし、様々な人権条約についての履行審査委員会もそういう方法を取っているわけですよね。そういうことをやっぱり十分理解した上で、この法案について本当にどこから見ても懸念がないという形で十分答えられるのかという点についてまだ重大な疑義が残っている。まあ、はっきり言えば欠陥法であり、憲法に違反する法律なわけですから、憲法に違反する法律を幾ら作ってもこれは違憲無効なわけですから、無駄なことをされているということになりかねないわけですよね。
ついては、だから、こういう人権の問題についても、国会として正当なやっぱり考慮を払って、例えば国内人権機関を早くつくるとか、あるいは人権条約についてそれぞれに挙げられている個人通報制についても早く実施するように外務省を督促するとか、そういう方法を取るべきじゃないかと。
そういうことを全部ネグっていって、とにかくそのTOC条約、オリンピックを開始、テロ対策という何か掛け声だけで、大変な今までの刑法の原則をひっくり返すような新しい共謀罪刑法を作ろうとしているのは何としても不可解でありますし、是非、立法の府として正しい判断して、ちゃんとした議論を進めていただきたいと思いまして、私の発言を終わりたいと思います。
御清聴ありがとうございました。