松宮孝明の発言 (法務委員会)
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○参考人(松宮孝明君) 松宮です。
この今回の法案にあるテロ等準備罪、イコール共謀罪ということは後で御説明しますが、これは、その立法理由とされている国連越境組織犯罪防止条約、TOC条約の批准には不必要です。それにもかかわらず、その成立が強行されれば、何らの組織にも属していない一般市民も含めて広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となるだけでなく、実務にも混乱をもたらします。
まず、本法案の共謀罪にある組織性も準備行為も、過去に廃案となった共謀罪の特に修正案の中には含まれておりました。また、認知件数においては一般刑法犯の八〇%以上が対象犯罪になるという点でも、対象犯罪も余り限定されていません。その点では過去の共謀罪法案と同質のものです。
また、ここにある組織的犯罪集団はテロ組織に限定されないことも明らかです。テロと関係ない詐欺集団でも該当します。また、最高裁の平成二十七年九月十五日決定によれば、組織が元々は詐欺罪に当たる行為を実行するための組織でなかったとしても、その性格が変わればこれに該当します。その結合関係の基礎としての共同の目的による限定も余り機能しません。大審院の明治四十二年六月十四日判決は、殺人予備罪における目的につきまして、条件付、未必的なものでもよいとしたとされています。
したがって、これを当てはめますと、この組織はもしかして別表第三に定める罪をすることになるかもしれないという認識でも目的要件は満たされるのです。この点では、本法案には、ドイツ刑法百二十九条の犯罪結社罪のように、犯罪を当初から第一次的目的としている団体に限定する明文規定がないのです。
もちろん、テロ等準備罪が共謀罪でないとする根拠は全くありません。そもそも、テロ等準備罪がTOC条約に言う犯罪の合意を処罰するものであるなら、それがこれまでの共謀罪法案と明らかに別物になるということはあり得ないからです。
このTOC条約二条(a)には、「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」という言葉があります。これは、本条約がマフィアなどの経済的組織犯罪を対象としていることを表しています。この点については、国連薬物犯罪事務局も、原則としてテロ集団対象ではないと述べています。西村参考人が述べられたのは、あくまで間接的にテロ組織にもお金が流れるかもしれないということでテロ対策にもつながるかもしれないというだけのことです。ゆえに、本法案がテロ対策を目的とするものになるはずはありません。
この条約の狙いは、外交ルートを経由しない犯罪人引渡し、捜査、司法共助にあります。条約第一条に書いています。これらの国際協力には、双罰性、すなわち引き渡す国でも当該行為が犯罪であることが必要です。本条約は、そのために共謀罪又は参加罪の立法化を要請しているのです。
ところで、国際協力の対象となるような犯罪では、それが共謀それから中立的な準備段階行為にとどまっているということはほとんどありません。そのため、犯人引渡しを求められるような共謀罪容疑者は、大抵実行された犯罪の共犯となり得るのです。この点については、東京高等裁判所の平成元年三月三十日決定が、双罰性を考えるに当たっては、単純に構成要件に当てはめられた事実を比べるのは相当ではない、構成要件的要素を捨象した社会的事実関係に着目して、その事実関係の中に我が国の法の下で犯罪行為と評価されるような行為が含まれているか否かを検討すべきであると述べて、犯人引渡しを認めていました。
つまり、国際協力の対象となるような重大犯罪につき、このように実質的に見て処罰の間隙がなければ、共謀罪立法は不要なのです。すなわち、これは共謀罪の立法理由にはならないんです。
しかし、一つ注意すべきことがあります。国際協力の点では、本条約十六条七項に犯罪人引渡しのために最低限必要とされている刑に関する条件及び請求を受けた締約国が犯罪人引渡しを拒否することができると定められていることが我が国にとっては大きな問題になります。
要するに、死刑に相当する真に重大な犯罪の場合、我が国は死刑廃止国から犯人の引渡しを受けられないのです。ロシアも加盟しているヨーロッパ人権条約や、ブラジルが加盟している米州死刑廃止条約を考えれば、これは深刻な問題です。法定刑に死刑のある凶悪犯の被疑者がそれらの国に逃亡したなら、日本に引き渡されませんから、事実上処罰を免れることができることとなって、日本国内の治安維持その他の刑事政策に対して大きな障害となるからです。
現に、我が国は一九九三年、スウェーデンから犯人引渡しを拒否されたことがあります。つまり、TOC条約による国際協力を真剣に考えるのであれば、共謀罪を作るより死刑廃止を真剣に考える必要があるのです。
ここからは、本法案にある組織犯罪処罰法第六条の二第一項及び第二項の解釈を検討します。
まず、組織的犯罪集団の定義ですが、テロリズム集団という言葉は「その他の」とあるように単なる例示であって、限定機能がありません。TOC条約二条(a)の定義では、組織的な犯罪集団とは、三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在するものであればよいので、三人で組織されたリーダーの存在する万引きグループでもこれに当てはまります。
他方、法案には、TOC条約二条(a)にある直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得るためという目的要件が欠落しています。また、その結合関係の基礎としての共同の目的という文言では、ドイツ刑法百二十九条のように組織設立当初からの第一次的目的に限定されるという保証がありません。
別表第三の対象犯罪の選択も恣意的です。保安林での無断キノコ狩りは含まれて、公職選挙法二百二十一条、二条に規定する多数人買収及び多数人利害誘導罪や特別公務員職権濫用罪、暴行陵虐罪、それから様々な商業賄賂の罪が除かれる理由はありません。
なお、さきに述べたように、この点では今回の法案はTOC条約を文字どおり墨守する必要はないという立場を既に取っているということは明らかです。
さて、遂行を二人以上で計画した主体は、団体や組織ではなく自然人です。また、この文言では、計画した人物が組織に属する者であることを要しません。組織的な犯罪の計画を作り、組織に提案する人物でも対象となるからです。
なお、ここに言う計画は、共謀共同正犯に言う共謀とほぼ同じ意味だという答弁が過去ございましたので、例えばAさんとBさんが相談し、次にBさんとCさんが相談するという順次共謀でも成立します。そして、順次共謀を介せば見知らぬ誰かによる準備行為が行われても一網打尽にできるという構造になっています。準備行為は、何々したときという規定ぶりから見て、詐欺破産罪に言う破産手続開始の決定が確定したときと同じく、客観的処罰条件です。資金又は物品の手配、関係場所の下見は単なる例示であり、限定機能を有しません。したがって、対象犯罪を実行するための腹ごしらえのような外見的には中立的な行為でもよいことになります。この場合、共謀罪の成否は、どういうつもりで食事をしたかという内心に左右されるため、実質的な内心処罰になります。
この点では、偽造という問題行動があった上で行使の目的を検討する目的犯、通貨偽造罪や文書偽造罪などの目的犯とは質的に異なる行為主義違反の規定です。しかも、捜査機関によって準備行為とみなされるものは無限にあるため、そのうち誰が検挙され処罰されるかは、法律ではなくその運用者によって決まることになります。これは、近代法の求める法の支配ではなく運用者による人の支配です。
実行に着手する前の自首による必要的減免は、反省して実行を中止しただけではこれを満たしませんし、反対に、反省は不要で、密告、裏切りによる自首でも構いません。さらに、密告された場合、冗談であったという抗弁の立証は困難ですので、冤罪の危険は極めて高いということになります。
また、法案の第六条の二第二項では、計画の主体が組織内の者に限定されないことは明らかだと思います。
共謀罪がこのままの形で成立した場合に予想される実務上の混乱も相当なものになると思われます。
まず、窃盗の実行に着手した者が自己の意思で中止したときは窃盗罪の中止未遂として刑の必要的減免を受けますのに、窃盗の共謀罪としてはなお二年以下の懲役に処される、免除の可能性がなくなるのかという問題があります。
この点につき、共謀罪は未遂罪に吸収されるので中止未遂が優先されると法制審議会ではそういう理解をしていたんですが、そのように解したとしても、未遂処罰規定のない罪の共謀、これは対象犯罪のうちの百四十ぐらいあります、この共謀では、その実行の着手前に中止した者も、共謀罪を吸収する未遂罪がないので刑の免除の余地がなく、共謀罪として処罰されてしまいます。例えば傷害罪の共謀だと、実行に着手したが、けがをさせる前に反省してやめたとしても、五年以下の懲役又は禁錮になります。
このようなことでは、犯人を引き返させて被害者を救うという刑法の機能が害されます。これは未遂処罰規定のない罪について共謀段階で処罰することの矛盾の一つです。ついでに言えば、傷害罪には罰金刑も選択刑としてあるんですが、傷害罪の共謀には罰金刑がないという矛盾もあります。
次に、親告罪の共謀罪の親告罪化です。告訴権は、刑事訴訟法二百三十条により、まずは犯罪により害を被った者が持ちます。しかし、共謀段階では誰が害を被ったということになるのでしょうか。狙われた人物ですか。狙う相手が不特定のときは一体どうするんでしょうか。つまり、告訴権者がいないという親告罪になるわけですね。
これもまた、既遂、未遂、予備という実害に近い行為から順に犯罪化するという刑法の原則を破ったことによって生じた矛盾です。強姦罪などを除き親告罪というのは基本的には軽微な犯罪なんですから、これを共謀罪の対象にしてしまったこと自体が既に矛盾だということになります。
最後に、凶器準備集合罪という刑法を学んだ人なら誰でも知っている罪を例に取って、法務大臣と刑事局長が当時暴力団等にしか適用しないという答弁をしたのですが、これが裁判所を拘束しなかったということを指摘しておきましょう。
暴力団以外の学生団体の凶器準備集合にも適用されました。それから、衆参両院での附帯決議も裁判所を拘束しませんでした。なぜなら、憲法七十六条三項は裁判官が憲法及び法律のみに拘束されると規定しているからです。つまり、本当に裁判所を拘束したいのであれば、附帯決議ではなく法律に明記しなければならないのです。この点は弁護士の先生方が非常に懸念されていますが、新設される予定の組織犯罪処罰法七条の二にある証人等買収罪の濫用の危険に対する対応にも同じことが当てはまります。
さて、共謀罪が成立すれば、現行通信傍受法三条一項三号により、共謀はすぐさま盗聴の対象となる可能性があります。しかし、日本語しかできない警察組織が用いる共謀罪は、日本語を話す人々のプライバシーは侵害しますが、見知らぬ外国語で意思疎通をする国際的な組織は相手にできません。こんなものでテロ対策などと言われたら多分諸外国に笑われると思います。それよりも、多様な言語を操れる人、そういう人材をリクルートするなど警察組織の改革の方が私は大事だというふうに思っております。
なお、条約と国内法整備との関係については、例えば国際刑事裁判所規程などがございますけれども、日本政府は必要な国内法整備をしないで条約を締結するということは過去多々やってきました。本当に何が必要かどうかは、実際先にTOC条約を締結した上で、運用してみて具体的に検討すべきではないかというふうに思います。
以上で私の意見陳述を終わります。