福田充の発言 (法務委員会)
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○参考人(福田充君) 日本大学危機管理学部の福田と申します。本日はよろしくお願いいたします。
この度、テロ等準備罪を導入する組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案に対し、賛成を表明いたします。
現在、ほぼ毎日のように、世界のどこかで貴重な一般市民の命が奪われるテロ事件が発生しています。つい先日も、イギリスのマンチェスターでは、ライブ会場で八歳の女子児童が死亡する爆弾テロが発生しました。シリアやイラク、アフガニスタンといった中東や、ソマリア、ナイジェリアといったアフリカだけでなく、テロリズムは欧米各国でも繰り返し発生し、アジアにも拡大しつつあります。イスラム過激派によるグローバルジハード戦略によりテロリズムは国際化し、国際テロの時代が到来しました。
一般市民の命を無差別に奪う無差別テロを根絶するためには、世界各国が協調して国際的なテロ対策を実施することが求められています。テロ対策はもはや一国だけでできる時代ではありません。戦争や紛争など安全保障の問題だけでなく、テロリズムに対する危機管理にも国際的な協調路線が求められており、テロ対策のためのグローバルネットワークに参加することが日本にも求められています。国際社会の中で日本がその責任をどう果たすかが、大きな期待とともに注目されています。
しかしながら、我が国日本がその国際社会における責任を十分果たしているとは言えない状況であります。これまで日本では、テロリズムの研究や教育、テロ対策の実施は様々な制約により十分になされてきませんでした。
私自身がテロ対策の研究を始めたのは一九九五年のオウム真理教による地下鉄サリン事件がきっかけでありました。その二か月前には阪神・淡路大震災が発生し、日本の災害対策、危機管理体制の不備が指摘され始めたのがこの九五年であります。このとき以来、私自身、災害対策やテロ対策、戦争、紛争などの安全保障を総合してオールハザードアプローチで研究する危機管理学の研究を始めました。それから二十二年がたちます。
オウム真理教による地下鉄サリン事件は、世界で初めて大都市における公共交通機関が狙われた無差別化学兵器テロでありました。九五年当時の日本ではまだテロリズムという概念が十分に理解されず、メディア報道においても議会の議論においても、テロリズムという枠組みで議論、検討されることは当時ありませんでした。それと同時に、あれだけの事件の兆候がありながら、なぜ地下鉄サリン事件を未然に防止できなかったのか、日本のインテリジェンス活動やテロ対策の限界が露呈いたしました。
その後、九八年に発足した警察政策学会テロ対策研究部会に参画し、コロンビア大学戦争と平和研究所においてテロリズムとインテリジェンスについて研究するなど、私自身、二十二年間、テロ対策について向き合ってきました。
今、日本は、テロ対策におけるグローバルスタンダードを理解し、国内に整備するための産みの苦しみの過程にあると思います。第二次安倍政権が整備してきました国家安全保障会議設置法、特定秘密保護法、平和安全法制、そしてこのテロ等準備罪は、世界規模で国際協調しながら世界のテロ対策、安全保障を確立するために日本も協力する姿勢を示す一貫した積極的平和主義の制度化であったと評価できます。テロ等準備罪もグローバルな視点で考えなくてはなりません。
テロ等準備罪が求められる理由又はその目的には三つの論点があると思います。一つ目は国際組織犯罪防止条約、TOC条約の締結、二つ目は二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の強化、三つ目はテロ事件を未然に防ぐためのリスクマネジメントの確立です。この三つの論点は時間が切迫した喫緊の課題であり、この三つの課題を同時に解決するための方策がこのテロ等準備罪だと考えられます。
一つ目の論点です。
百八十七の国と地域が既に締結している国際組織犯罪防止条約は、現在の国際的なテロ対策の取組としても極めて重要な枠組みだと考えます。国際的にも、テロ対策としてテロ組織の資金源を断ち、テロ組織の活動を包括的に防止し、テロ事件の捜査や情報共有を促進するために、テロ対策にとっても重要な国際条約であります。
なぜこのような国際組織犯罪防止条約が国際テロ対策として有用とされているかといいますと、国際社会においても、一般犯罪とテロリズムの線引きは極めて難しく、犯罪組織とテロ組織の線引きは非常に困難な状況にあるからです。
二〇一四年の国連安保理決議第二千百九十五号においても指摘されているとおり、テロ組織と犯罪組織は部分的に融合し、連携し合っています。マネーロンダリングなどの諸活動において犯罪組織やテロ組織自体が国際的にネットワーク化され、連携している状況があります。二〇一五年の国連事務総長報告書においても、武器の密輸、人身取引、天然資源の不法取引、マネーロンダリングなど、組織犯罪の資金がテロ組織に流れている事例が具体的に指摘されております。
日本としてこの国際組織犯罪防止条約を締結することで、テロリズムに必要な資金や資源を供給するための周辺的な組織犯罪を防止することが可能となり、テロリズムの根本を絶つことができます。既に百八十七の国と地域が締結している国際組織犯罪防止条約を締結することで、テロ対策においても諸外国と情報共有や捜査共助が促進され、テロリズムの防止のための国際協力が強化されると信じます。
二点目の論点です。
テロ等準備罪には、非常に重要なテロ対策の施策が網羅されていると評価できます。
具体的な事例でいえば、アフガニスタンではタリバンが麻薬を栽培して資金源としています。アフリカではボコ・ハラムが児童を誘拐して少年兵や自爆テロ要員として利用し、人身売買で資金を得ています。多くのテロ組織が様々な活動を通じてマネーロンダリングや武器の密輸、人員のリクルートを行っています。そのような組織に不可欠な資金や資源を供給する行為を処罰し、テロ組織を弱体させることが求められています。こうした不法行為を取り締まる取組は国際的な体制の中でこそ実現するものであります。国際社会の中で日本だけが抜け穴になってはなりません。
同時に、現代のテロリズムの形態は極めて多様であります。かつての要人暗殺テロから一般市民を標的にした無差別テロへ、ハイジャックから人質テロによる要求型テロ、毒物を混入したりすることで社会を混乱に陥れる社会不安型テロなど、その形を変えています。さらには、電気や水道、ガスなどの社会インフラを標的としたテロ、コンピューターネットワークを標的としたサイバーテロ、航空機、鉄道などの交通機関を標的としたロジスティクステロなど、極めて多様なテロリズムが発生しています。
こうしたテロリズムの標的となっている、ターゲットである社会インフラを守るための法制度が不可欠であり、一度起こってしまったら社会に絶大な被害をもたらすこうした現代的テロリズムは、未然に防止するための法体系が求められています。そのための電気事業法、有線電気通信法、ガス事業法、水道法の改正であり、そのための道路交通法などの改正であると評価できます。
また、そのテロリズムの道具、手段も、爆弾や銃だけではなく、核、生物兵器、化学兵器によるNBCテロ、CBRNテロなど、多様化しています。こうしたテロの道具となる武器の製造、保持による使用を未然に防止するため、組織犯罪防止法改正案では、武器等製造法、銃砲刀剣類所持等取締法の改正、火炎瓶や対人地雷、クラスター弾、ダーティーボム、細菌兵器、化学兵器の製造禁止や規制に関する法改正が網羅的になされております。
テロ等準備罪に挙げられているこの二百七十七の項目は、以上のようなテロリズムの多様化に対応し、テロリズムの周辺行為をカバーしているという点において、テロ対策の研究者の目から見ても非常に抑制的であると同時に、網羅的で合理的な内容を伴っていると評価いたします。
三点目の論点です。
危機管理には、危険を未然に防ぐためのリスクマネジメントの側面と危機管理が発生した事後対応のためのクライシスマネジメントの側面が両方あります。現在の危機管理において、危険を未然に防ぐリスクマネジメントが重要視されています。
同様に、テロ対策において重要なのはテロを未然に防ぐための取組であります。テロを未然に防ぐためのテロ対策を世界各国が整備しています。特に欧米の先進国においては、それぞれの国の文化や伝統に合った形での特徴あるテロ対策が整備されています。長年IRAと戦ってきたイギリスには、二〇〇〇年テロリズム法という基本法を基に、二〇〇六年テロリズム法、二〇〇五年テロリズム防止法などによる補完によってテロ事件を未然に防ぐための制度が構築されています。二〇〇一年に九・一一同時多発テロ事件を経験したアメリカは、パトリオット法においてテロ事件を未然に防ぐための網羅的なテロ対策を構築しました。テロを未然に防ぐためには、計画と準備行為の段階で拘束する、処罰するという枠組みが、これまで先進国におけるグローバルスタンダードと言えます。
国際化したテロリズムに対して日本が立ち向かうためには、こうした欧米先進国におけるテロ対策の制度と歩調を合わせながら各国のインテリジェンス機関とテロリズムの情報共有を強化するなど、国際協調が不可欠です。しかしながら、日本にはこれまでテロを未然に防ぐための法制度が未発達でありました。日本にある陰謀罪、予備罪、準備罪等は極めて限定的で、テロ対策の分野で有効性があるとは言えない状態だと思います。
こうした制約をグローバルスタンダードのテロ対策に適合させるためには、組織的犯罪集団に限定し、合意罪の観点から実行準備行為の段階で処罰するという枠組みが、日本のこれまでの法制度の構造になじむものと評価できます。日本の法制度の構造や歴史、文化を考慮した結果としてテロ等準備罪という制度を導入する組織犯罪処罰法改正案には合理性があると判断いたします。
最後に、アメリカやイギリス、フランスなどの民主主義先進国においても、こうした国際基準にのっとったテロ対策が運営されています。民主主義を守るためには、テロ対策にもシビリアンコントロールが不可欠です。テロ対策における安全、安心と自由、人権の価値対立をどうやって克服するか、その両方の価値のバランスをどう取るか、合意形成が日本においても重要になります。しかしながら、自由、人権と対立するテロ対策は一切まかりならぬという考え方は、日本は国際的責任を果たすことはできません。
私のコロンビア大学時代の恩師でありますロバート・ジャービス教授は、民主党員でありましたが、論文の中でこう言っております。テロ対策やインテリジェンス活動は民主主義にとって危険であるが、国民の生命や生活を守るためには必要不可欠なものである、民主主義的なアプローチによるテロ対策の構築が求められている。
これまで二十年にわたって、私自身、このテロ対策における安全、安心と自由、人権の価値対立とバランスについて考え続けてきました。その観点から見ても、このテロ等準備罪は、国民の自由、人権に十分配慮した抑制的なテロ対策であると評価できます。
以上のような理由で、私はテロ等準備罪を導入する組織犯罪処罰法改正案に賛成いたします。
御清聴ありがとうございました。