橋爪隆の発言 (法務委員会)

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○参考人(橋爪隆君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。
 本日は、このように参考人として意見を述べる機会をいただき、大変光栄に存じます。私は、法制審議会の刑事法部会の審議に幹事として参加しておりました。
 本日は、刑事法部会の議論を踏まえながら、刑法の一研究者としての観点から改正法案の内容に関しまして若干の意見を申し上げたいと存じます。A4判で一枚の資料を御用意しております。これに即して、考えるところを申し上げたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 今回の刑法改正案におきまして重要なポイントは、資料第一から第四の四点に集約できようかと存じます。先に結論から申し上げますと、全ての点につきまして正当な方向の改正であるというふうに考え、積極的に評価したいというふうに考えております。
 まず第一点でございます。強姦罪の構成要件及び法定刑の見直しでございます。
 まず、前提問題としまして、現行法における性犯罪の基本的な構造について簡単に申し上げたいと存じます。
 先生方御承知のとおり、現行法は、強制わいせつ罪と強姦罪という二つの性犯罪を設けております。あえて単純に申し上げますと、通常の性犯罪が強制わいせつ罪でありまして、特に被害が重大で悪質な性犯罪のことを強姦罪というふうに別個規定しているわけでございます。
 そして、通常の性犯罪と重大な性犯罪の区別の基準といたしましては、現行法は、姦淫行為、すなわち男性が女性に対して強制的に性交を行うこと、これを区別の基準としているわけでございます。もっとも、性犯罪の被害の実態に鑑みますと、重大な性犯罪として重く罰すべき類型を姦淫行為に限定する必然性は乏しいと思われます。
 こういった問題意識から、改正法案では、以下の一、二の二点に関しまして、重大な性犯罪として罰し得る行為の範囲を拡張しております。
 まず第一に、性別による区別の撤廃でございます。
 すなわち、改正法案におきましては、男女の区別を廃し、男性が性交を強制される行為についても重大な性犯罪として重く罰し得ることになっております。男性も性犯罪の被害者になり得るということについては、従来十分な問題意識がなかったようにも思われます。しかしながら、刑事法部会では、関係各位にヒアリングを実施いたしましたが、お話を伺いまして、男性に対する被害といったものが多数存在していること、また、男性が被害を受ける場合についてもその心身のダメージは深刻であることにつきまして認識を強くいたしました。
 このように、性犯罪の被害につきましては性差を重視すべきではないことから、男性の性的保護を強化する法改正には正当な方向であるというふうに思われます。
 第二に、重大な性犯罪は性交の強制には限られないという点でございます。
 性犯罪の被害が被害者の心身に重大なダメージを与えるのは、他人の性器が自己の身体の中に強引に入ってくるという濃厚な身体的接触、侵襲にあると思われます。
 このように、性器の身体への侵入という事実が重要であると解するのであるならば、現行法の姦淫行為、すなわち膣への男性器の挿入だけを特別に重く罰すべきではなく、性器の身体への挿入一般を重く罰することには十分な合理性がございます。まさに改正案は、こういった問題意識から、重大な性犯罪の行為態様を性交、すなわち膣への男性器の挿入だけではなく、肛門性交、口腔性交にまで拡張しております。これらは、いずれの類型も、男性器が無理やりに身体に入ってくる、あるいは男性が被害者の場合においては自分の男性器を無理やりに意思に反して他人の身体の中に入れさせられるという意味において重大な被害としての実態を有しております。
 さらに、具体的な事例を考えますと、男性間における性的な被害、さらに、性交が困難な幼児、児童に対する性犯罪を考えますと、膣への挿入行為のみを特別に罰するべきではなく、肛門性交、口腔性交を同様に重く罰することについては、性犯罪の被害の多様化に対応するという観点からも重要な意義があるように考えております。
 さらに、二番に移りますが、法定刑の引上げでございます。
 改正法案におきましては、強姦罪の法定刑の下限を懲役三年から懲役五年に引き上げております。このような厳罰化の当否につきましては賛否両論があり得るところでございますし、私自身も、いたずらな厳罰化については若干のちゅうちょを覚えております。もっとも、今回の法改正につきましては、次のような観点から法定刑の引上げに賛成したいというふうに考えております。すなわち、強盗罪との比較という観点でございます。
 強姦罪、強盗罪は、共に暴行、脅迫を手段とする粗暴犯でありますが、強姦罪の方が被害者に対する心身の被害も深刻でありまして、より重く罰すべき犯罪であるということにつきましては恐らく見解の一致があると思われます。実際、刑事裁判の実務においても、強姦罪の方が強盗罪よりも量刑が重い傾向にあり、それには十分な理由があると思われます。
 しかしながら、現行法では、実は強盗罪の方が法定刑が高い犯罪でございます。すなわち、強姦罪の法定刑の下限が三年であるのに対して、強盗罪の刑の下限は五年です。このような法定刑の逆転現象はやはり看過し難いように思われます。現在の裁判実務の量刑傾向、また国民一般の健全な感覚に対応するためには、強姦罪の法定刑につきましても、少なくとも強盗罪と同じ程度までの引上げをすることが重要であるように思われます。こういった観点から、今回の法定刑の引上げについても賛成したいと考えております。
 以上が資料の第一、強姦罪の構成要件及び法定刑の見直しに関する意見でございました。
 続きまして、資料の第二、監護者性交等の罪の新設に移ります。
 改正法案におきましては、十八歳未満の者を現に監護する者がその影響力があることに乗じて性交等をする行為を強制性交等の罪と同様に処罰をするという新たな犯罪類型が提案されてございます。現に監護する者とは、その生活費用、住居、人格形成等の生活全般について十八歳未満の者を継続的に保護する関係にある者を意味しますので、典型的な関係は親権者による犯行と言えようかと存じます。この問題につきましても法制審議会刑事法部会のヒアリングで伺ったところでございますけれども、親子間の虐待といったものは不幸にして多数発生しており、児童の心身に対する極めて深刻な被害をもたらしております。
 また、本来ならば児童を保護し監護すべき者が言わばその地位を濫用し、児童を性的に搾取、虐待するという行為は、被害児童にとっては誰にも助けを求めようがない行為でございまして、極めて悪質かつ卑劣な犯行でございます。そういった意味で、行為者に対する非難可能性も高いというふうに思われます。このような被害の重大性、犯罪の悪質性に鑑みますと、改正法が新たに監護者性交等の罪を新設したことには十分な合理的な理由があったように思います。
 もちろん、家庭内、親子間の虐待については、現行法でも性犯罪としての処罰が可能でございます。すなわち、児童に対する暴行、脅迫があれば強姦罪が成立しますし、また、被害者が抵抗困難な状況にあることに乗じて性交等に至れば準強姦罪等が成立します。しかしながら、家庭内の性的虐待については、密行性が高いことから、暴行、脅迫等の行為を具体的に認定することが困難な場合が多く、それゆえ、現行法では性犯罪として立件することが必ずしも容易ではなかったというふうに理解しております。
 また、児童が親権者に嫌われたくないという一心で性交の求めに応ずるようなケース、あるいは性的虐待が継続化、常態化して、児童としてもこういった関係を続けることについての違和感を失うという認識に至ってしまい、被害を認識できないような場合もあるようです。こういった事例につきましても、児童の性的虐待を防止し、行為者を罰するというためには、やはり新たに監護者性交等の罪の新設が必要であるというふうに考えております。すなわち、監護者がその影響力に乗じて性交等をする場合、児童の意思決定が不当にゆがめられるおそれが類型的に高いと言えます。このように、児童の意思決定に瑕疵が生じ得る点に本罪の処罰の根拠を見出すことができると思われます。
 続きまして、第三でございます。強盗強姦罪の構成要件の見直しにつきまして意見を申し述べます。
 現行法における強盗強姦罪、すなわち刑法二百四十条は、強盗の機会にさらに強姦行為に及ぶという行為が極めて悪質な犯罪であることから、強盗罪と強姦罪の結合犯として刑を加重しております。もっとも、現行法は、強盗が女子を強姦したときと規定しておりますので、強盗が先行し、その後強姦が行われた場合に限って適用が行われており、強姦が先行し、その後強盗が行われた場合については適用がありません。しかしながら、強盗強姦罪を重く罰する根拠は、既に申し上げましたように、強盗罪、強姦罪という重大犯罪を同一機会に重ねて行ったという点にございます。としますと、両者の先後関係は重要ではないと考えるべきです。
 改正法案では、このような問題意識から、強盗行為と強姦行為が同一機会に行われていれば十分であり、両者の先後関係を問わないものとなっており、正当な改正であるように思います。更に申しますと、現実の事件におきましては、強盗と強姦が同一機会に行われたが、どちらが先かについて証明困難な事例も存在するようです。改正法案であれば、こういった事件につきましても、先後関係を問わず強盗強姦罪で処罰ができるというメリットがあり、そのメリットは大きいと考えます。
 最後に、第四、強姦罪等の非親告罪化につきまして意見を述べたいと存じます。
 御承知のとおり、現行法では、強姦罪、強制わいせつ罪等の性犯罪は親告罪とされており、被害者の方の告訴がなければ公訴が提起できません。これは、性犯罪の被害者の方の名誉やプライバシーを保護する趣旨の規定であるというふうに解されてきました。もっとも、現実には、被害者の方が告訴をするか否かを御自分で判断しなければいけないという精神的なプレッシャーを強く感じられたり、あるいは告訴をしたことによって犯人から報復を受けるのではなかろうかといった不安を感ずることも多いと伺っております。つまり、被害者を保護するための規定がかえって被害者の方に精神的な負担をお掛けするというふうな事態に至っているわけでございます。これはまさに本末転倒でございます。
 今回の改正法案では性犯罪が非親告罪化されておりますが、これは、被害者の方の精神的な負担の軽減を図る趣旨であり、正当な判断であったと思われます。もちろん、性犯罪の処罰におきましては、被害者の方の名誉やプライバシーを十分に尊重することが重要でございます。もっとも、それは実務的な運用によっても十分に達成できるというふうに考えております。
 現行法におきましても、強姦の機会に被害者が負傷した場合、すなわち強姦致傷罪は親告罪ではありませんが、強姦致傷罪の捜査、公判におきましても被害者の方の意思やプライバシーを十分に尊重した対応が講じられており、特段の問題は生じていないというふうに理解しております。このような対応が今後も継続的に行われることを信じ、また強く期待したいというふうに考えております。
 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。

発言情報

speech_id: 119315206X02020170616_002

発言者: 橋爪隆

speaker_id: 32582

日付: 2017-06-16

院: 参議院

会議名: 法務委員会