萩原伸次郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(萩原伸次郎君) 横浜国立大学の萩原でございます。今日は、この公聴会にお招きくださいまして、誠にありがとうございます。
予算ということでございますので、私は、全般的な問題について、あるいは根本的な予算編成というものの基本的精神、そこからどういう問題が発生するのかという点についてお話しさせていただきたいと思います。
平成二十九年の予算編成の基本方針に、安倍内閣は、長く続いたデフレからの脱却を目指し、経済の再生を最優先課題と位置付け、アベノミクス三本の矢を推進してきたと。平成二十七年の十月からはアベノミクスの第二ステージに移りまして、一億総活躍社会の実現を目指し、三本の矢を強化して新三本の矢、戦後最大の名目GDP六百兆円、希望出生率一・八、介護離職ゼロを放ち、少子高齢化という構造問題に正面から立ち向かい、成長と分配の好循環の実現に向けて取り組んでいると書かれてあります。予算編成の基本方針にアベノミクスがありまして、経済再生と財政健全化の両立を実現する予算だと、誰もが活躍できる一億総活躍社会を実現して、成長と分配の好循環の強化というものをうたうということでございます。
ところが、現実の我が国の経済、ちょっとかいま見てみますと、例えば二〇一六年の名目GDP成長率は一・五%、消費者物価上昇率が〇%、公債依存度が三五・六%でございます。アベノミクスが開始されました二〇一三年の名目のGDPの成長率が二・六%、消費者物価上昇率が〇・九%、公債依存率は四六・三%でありまして、依然として経済再生と財政再建は道半ばであると安倍首相も認めているところだと思います。
なぜこうした状況が続くのかということを私なりに考えてみますと、このアベノミクスという政策が富裕層を重視した経済政策になっておりまして、中間層を重視する経済政策になっていないというところに大きな問題があるのではないかということを申し上げたいわけであります。
御承知のとおり、アベノミクスが登場したのは二〇一二年の十二月、第二次安倍内閣が成立したときでありまして、内閣の総力を挙げて、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略と、この三本の矢ということが大変有名になりましたが、私が考えますには、この三本の矢の中で、金融政策というものを軸にして経済政策を展開している、つまり異次元の金融緩和政策ということで、二年間で消費者物価上昇率年率二%を達成するということを目標に掲げたということであります。しかし、現在四年たって、黒田日銀総裁もお認めになっていますように、この目標が実現されてはおりません。
異次元の金融緩和の政策というものが円安と株式価格の急騰を引き起こしまして、多国籍化を果たしている輸出大企業が収益を急増させ、この株価急騰とともに日本の富裕層に莫大な富の蓄積を実現したということが事実でございます。つまり、金融政策を実行するということによって、先行させるということによって、今申し上げましたような状況をつくり上げたわけでありまして、そういう点でいいますと、このアベノミクスの政策というものが、先ほど私が申し上げましたような富裕層を重視する政策としてはまさに見事に成功しているというふうに言えると思います。
しかし、問題は、実体経済がどうなのか。消費者物価の上昇率二%というものが達成されなく今日に至っておるわけでありまして、これは要するに、日銀の金融緩和政策には限度があるんだということを見なければならないわけであります。
しかし、そう申しますと、アベノミクスの第二の矢として機動的な財政政策があったではないかという議論が持ち上がってまいります。確かにそのとおりでありますが、この財政政策というのは補正予算でGDPの二・五%にも当たる十三・一兆円の財政支出でありますが、これが要するに緊急の財政出動ということでありまして、かつてケインズ政策が経済政策の中軸になったような、財政政策を基軸とする経済政策に戻ったというわけではございません。
つまり、アベノミクスの金融、財政の積極政策によって、株価の急騰、円安、大企業の収益によって確かにそういう意味では成功したかに思われましたが、実体経済という面に関して言いますと、二〇一四年の四月、御承知のとおり消費税が八%に増税されまして、その増税効果がまさにボディーブローのように我が国日本の経済に効いてくるという状況が起こったわけであります。しかし、そのときに安倍政権は、アベノミクスは第二ステージに入ったと。
これは二〇一五年の六月の日本再興戦略改訂版二〇一五に書いてあることでございまして、第二ステージというのはどういう意味かと申しますと、短期の政策は終わったんだと、つまり、労働需給はタイト化して、GDPギャップは急速に縮小するというのが前提になりまして、基本的にデフレから脱却しているのだと。したがって、第二ステージは供給を重視する、そういう政策に変えるのだというのがこの第二ステージの意味でございます。
現実に、この第二ステージというものが、この十月に新三本の矢ということで、希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援、安心につながる社会保障という、これが新三本の矢ということで、これを、名目GDP六百兆円というものを生産性革命によって生み出すという、その第二ステージというのは、まず生産ありきという状況になるわけです。それは、言うまでもなく需給不足は基本的に解消しているという認識でありますので、当然生産をいかに活発にするかということが目的にされるわけであります。
そして、生産革命を行うには労働分野の改革が必要でありまして、そして消費が拡大し、その結果として賃金が上がっていくという考え方を取っているわけです。しかし、考えてみますと、それは逆でございまして、最低賃金を引き上げて、あるいは成果配分としての賃金の引上げがあって、消費が活発になり、産業分野の生産とともに生産性が向上していくというのが基本線でありまして、そうした考え方になっていないというところがやはり大きな問題点であろうと思います。
私たちは、米国オバマ政権の経済政策に学ばなければならないというふうに考えます。オバマ政権は何を大きな課題としたのかといいますと、最低賃金を大幅に上げることであると。現在、米国の連邦最賃は七・二五ドルでございますけれども、それを十・一〇ドルに上げるべきだということで議会に、ハーキン・ミラー法案というのを是非通せと、こういうことでオバマ大統領が議会に、要請しましたが、共和党が主流の議会はそれを拒否するということになって、オバマ大統領は、それでは連邦の契約そして仕事にはこの十・一〇ドルを適用するというまさに大統領令に署名するということで実施してくるということになります。
この意味は、連邦最賃を十・一〇ドルに上げれば、最低賃金で働く約二百万の賃金を引き上げて、そして一千万人以上の貧困者を貧困から救うという、そういうことができるのだと。貧困から救うというのは賃金を上げるということによって実現でき、それは企業に任せるのではなくて、公的な形でそのルールを定め、それを実施していけば貧困者がそこでなくなっていくと。
これは、我が国のワーキングプア対策にとっても極めて重要な教訓であると私は考えます。現在、年収二百万以下のワーキングプアと言われている人が一千百万人も存在しまして、貯蓄なしの世帯も増加の傾向にあるという中で、この米国のオバマ大統領の最低賃金を大幅に上げるというこのまさに大統領令は大変重要な意味を持っているのではないだろうかと。全国一律千円あるいは千五百円という、こういう課題を財政というものとリンクさせる。つまり、積極的に零細中小企業に援助するという形で最低賃金を上げていくという、そのことで私は日本の経済の底上げというものが可能になると思っております。
それからもう一つ、オバマ大統領が述べたのは、富裕層の税負担を重くするバフェット・ルールを提唱いたしました。バフェットという方は大変な富豪の方でありまして、その方が提唱した少なくとも年収百万ドル以上の人は実効税率三〇%以上を負担すべきであると。御自分は一四%だったらしくて、秘書の方が実効税率が高いというので驚きまして、これはおかしいと、どう見ても。そういうものを提唱いたしまして、やはりオバマ大統領が議会にこれを要請したわけでありますが、これもやはり議会共和党の反対に遭いまして実現することができなかった。
これは、やはり私は大変重要な教訓を日本にも与えているのではないかと。二〇一六年の三月に安倍首相の招きで日本を訪れたジョセフ・スティグリッツ教授が、消費税の増税を延期すべきことであるとか、あるいは法人税の減税に対して否定的な意見を述べたわけであります。現在、米国の民主党の中で大変大きな力を持ち始めましたバーニー・サンダースという方が、最低賃金を時給十五ドルにすべきであると。これは民主党のヒラリー・クリントンが戦いましたけれども、ヒラリーさんの選挙公約でもございました。そして、応能負担の税制改革をすべきであるし、さらに単一基金の国民皆保険制度をつくるべきであるし、積極的なインフラ投資も実施することによって米国経済の変革というものを唱えているわけであります。
現在、残念ながらトランプ政権になりまして状況は大きく変わりましたが、アメリカには二年ごとに選挙がありますし、四年ごとに大統領選挙がありますので、その中で大きくこの変化を私は期待しているというものでございます。
したがいまして、日本の予算編成も、今までアベノミクスで展開されてきました富裕層を重視する経済政策というものから中間層を重視するそうした経済政策に大きく転換する、そういう時期に来ているのではないかというふうに私は考えるわけであります。
以上、御清聴ありがとうございました。