田中信一郎の発言 (経済産業委員会)
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○田中参考人 おはようございます。一般社団法人地域政策デザインオフィス代表理事の田中信一郎です。
本日は、衆議院経済産業委員会において意見陳述の機会を与えていただき、稲津委員長、理事そして委員の皆様に感謝申し上げます。
地域政策デザインオフィスは、持続可能な地域づくりを支援するため、昨年六月に設立した非営利の団体です。自治体のエネルギー政策や地球温暖化対策、防災対策などを助言したり、職員研修を行ったりしています。
私は、横浜市及び長野県において、民間採用職員としてエネルギー政策や温暖化対策の企画、執行を担ってきました。ちなみに、長野県での経験や政策については、「信州はエネルギーシフトする」として先ごろ出版したところでございます。現在は、地域政策デザインオフィス代表理事として、自治体などへの助言を行っています。
なお、私は、これまで国や自治体の行政機関、国会、大学などさまざまなところで働き、現在も複数の仕事を兼ねております。本日は、専ら自治体でエネルギー政策を担当した経験を踏まえ、地域エネルギー政策の専門家としての視点から意見を述べます。
まず、議案の、エネルギーの使用の合理化等に関する法律の一部を改正する法律案については、賛成の立場です。
改正案の主たる内容である企業連携による省エネの評価並びに貨物の荷主の定義見直しと準荷主の位置づけは、事業者の省エネを促進する仕組みであり、必要と考えます。
しかし、本改正案に問題点がないわけではありません。
最大かつ唯一の問題点は、長期エネルギー需給見通しで掲げる省エネ見通しの実現に向けて、現行法が直面する課題に対応するための所要の措置として示されているのが、これだけにとどまっているということです。
日本の経済社会において、エネルギー効率の大幅な改善は極めて重要な優先課題です。この改正案を見る限り、政府にそうした認識と決意が欠如しているのではないかと強く疑わざるを得ません。それが、自治体や地域経済界のエネルギー効率の改善に対する認識にも強く影響し、地域経済の疲弊も助長していると思われます。
まず、配付資料の図表一をごらんください。
日本の労働生産性が低いことを示しています。
二〇一六年の数字を見ると、一人当たりではギリシャよりも低く、時間当たりではイタリアやスペインよりも低い位置にあります。これは、日本企業の稼ぐ力が弱いことを意味しています。
次に、図表二をごらんください。
労働生産性の算出式です。
人口増加期において、企業は、従業者数をふやしつつも、それ以上に売上高をふやすことで生産性を高めてきました。現在は、人口減少に転じ、需要も頭打ちになっています。企業はこれまで、従業者数を減らすこと、すなわちリストラで生産性を維持してきました。ところが、いよいよ多くの企業で人手不足が顕著となり、リストラも困難になりました。売上高を容易にふやせず、従業者数を減らせないとすれば、どうやって生産性を高めるのか。それには、費用総額を減らすのが確実です。
企業活動における代表的な費用は、エネルギーと資源です。理想は、これらの投入をゼロにしつつ売上高を伸ばすことです。もちろんそれは不可能ですが、効率を徹底的に追求することは可能です。そのための指標が、資源生産性、エネルギー生産性、炭素生産性です。
図表三をごらんください。
主要国のエネルギー生産性を比較した環境省の資料です。
左の名目ベースのグラフは、各国間を比較するのに有効です。これを見ると、約二十年前は世界最高レベルのエネルギー生産性だったのが、今やアメリカに次いで下から二番目です。
右の実質ベースのグラフは、同じ国の経年変化を見るのに有効です。これを見ると、二〇一一年までエネルギー生産性がほぼ横ばいで、それ以降に改善していることがわかります。東日本大震災を契機としたエネルギー効率化の取組が効果を上げていることもわかります。
図表三から言えるのは、日本のエネルギー生産性が一九九〇年代半ばから改善せず、東日本大震災以降に改善しつつあるも、各国に水をあけられてしまったという事実です。しかも、その間に、情報技術が大きく進歩し、日本のお家芸であるはずのエネルギー制御技術も高度に発展してきたにもかかわらず、この結果なのです。
ただ、悲観する必要はありません。逆に見れば、日本にはまだまだエネルギー生産性を改善する余地が大幅に残っていることを意味しているからです。
図表四をごらんください。
企業経営におけるエネルギー効率の改善の意義を解説した関東経済産業局の資料の抜粋です。
省エネで浮いた資金は、企業経営で純益となります。例えば、年商一億円の中小企業が省エネで年間三十万円の光熱費を減らす場合と比較しましょう。それと同じ金額の純益を売上増加で得ようとすれば、営業利益率を二%と仮定すると、千五百万円の売上増加をする必要があります。しかも、省エネで得た純益は翌年以降も継続しますが、売上増加はそうとも限らず、契約打切りのおそれもあります。
もちろん、売上増加を不要とするわけではありません。これは、売上増加と同じぐらい省エネが重要と中小企業の経営者に喚起するため、関東経済産業局が作成した資料です。
図表五をごらんください。
日本の化石エネルギーの輸入額の推移を示した環境省の資料です。
興味深いのは、二〇一五年の数字です。この年は、国際石油価格が暴落し、原油安が問題となりました。ところが、この年の輸入総額は、国際金融危機で暴落した二〇〇九年よりも多く、国際経済に大きな問題のなかった一九九六年よりもはるかに多いのです。
化石エネルギーの相場が石油価格に左右されることは広く知られています。要するに、化石エネルギーの国際価格は、毎年の変動はあるとしても、長期的には上昇が避けられないのです。これは、今後ますますエネルギー効率の改善が日本経済において重要であることを示しています。
日本は、海外に流出する巨額の資金を国内経済や地域経済に還流させなければなりません。電力やガス、石油などのエネルギー産業も、その技術や知見を活用し、化石エネルギー費用を国内に還流させるビジネスに転換することが求められています。
最も有効な手法は、エネルギー効率を改善するための投資を盛んにすることです。そのために、国と自治体が連携して、大々的な省エネ投資を誘導するための仕組みを構築する必要があります。企業も個人もこぞって省エネ投資をし、省エネ型の行動や選択に切りかえるように、法律や条例で仕組みを整える必要があります。
以上の観点に立てば、現行の省エネ法令や今回の改正案は、それに資することは否定しないものの、全く不十分であると言わざるを得ません。
これまで自治体は、ごく一部の先進自治体を除けば、地域経済や住民生活の省エネについて、余り熱心に取り組んできませんでした。それは、第一義的に自治体の責任であるものの、自治体から見れば、国の法令や仕組みが不十分で、取り組みにくい点もありました。
そこで、自治体でエネルギー政策に携わってきた立場から、次の省エネ政策の導入を国に求めます。これらが整備されれば、自治体においても、産業界や住民と連携して、さらなるエネルギー効率の改善に取り組めると考えます。
図表六、最後のページをごらんください。
第一は、詳細かつリアルタイムのエネルギー情報データベースの構築です。
送電やガス管、その他のエネルギー生産と需要の状況をホームページで、誰もがリアルタイムで把握できるようにしたり、エネルギーに関するビッグデータを表示したり、統計情報を詳細に集めて素早く公表したりと、エネルギー情報に関して改善すべき点は多くあります。温室効果ガスの排出状況とあわせることも重要です。いわば、エネルギー版のRESASです。
エネルギー情報で重要なことは、自治体や事業者、家庭がそれをベンチマーク、すなわち評価指標として活用し、みずからのエネルギー効率の位置を理解できるようにすることです。
この点、経産省は、産業部門については、分母を生産量に統一しています。けれども、オフィスや商業施設などの業務部門では、分母を何にするか業界ごとに任せています。少なくとも、床面積当たりのエネルギー効率については、業務部門の全業種で統一して示させる必要があります。
第二は、超大規模なエネルギー消費事業所をカバーする総量規制型の排出量取引制度です。
二〇一四年度の温室効果ガス排出量で見れば、百二十九事業所で日本全体の温室効果ガス排出量の半分、約四百九十事業所で排出の六割を占めていました。これらの事業所に対し、自治体レベルで省エネを促すことは非現実的です。
一定の規制や仕組みを導入しようとしても、これらの事業所を対象に含めないわけにはいきませんし、含めるとしても手に余るのです。ほかの地域に移転すると言われるおそれもあります。よって、国でしっかりと総量規制型の排出量取引制度を導入していただきたいのです。
第三は、地球温暖化対策税の税率を大幅に高めることです。
自治体で企業や住民に省エネを促すとき、大きなハードルになるのが費用対効果です。エネルギー価格が安いと省エネ投資の費用対効果も低くなるため、促しにくいのです。そこで、地球温暖化対策税の税率を大幅に高め、省エネ投資の費用対効果を高める必要があります。自治体にとっては、相対的に有利となる公共交通を再活性化する好機にもなります。
一方、排出量取引制度や温暖化対策税の税率アップで、地域経済や住民生活に悪影響が出るのも困ります。そこで、排出量取引制度の対象事業所には、温暖化対策税を減免することが考えられます。温暖化対策税の税収の大半を企業の雇用保険の軽減財源とすることで、税収中立とすることも考えられます。税率の段階的な上昇も激変緩和に有効でしょう。国の制度があれば、自治体や地域産業、住民はそれを上手に活用し、エネルギー効率を向上させつつ、投資を拡大していきます。
第四は、新築建物の断熱規制の確実な実行と段階的な強化です。
二〇一三年六月に閣議決定された日本再興戦略では、「二〇二〇年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化する。」としています。これを確実に実行するとともに、その後も段階的に基準を引き上げていく必要があります。
第五は、建物の新築、改修、売買、賃貸におけるエネルギー性能証明書の発行義務の導入です。
EUは、二〇〇二年の建築物のエネルギー性能に関する指令で導入を決定していますが、日本ではまだ導入されていません。
長野県では、このEU指令等を参考にして、全ての新築建物の施主に対して、あらかじめ光熱費等の環境エネルギー性能を検討することを条例で義務づけています。二〇一六年の調査によると、約八割の戸建て住宅が省エネ基準を上回る性能で建てられたと明らかになっています。全国平均の数字はありませんが、三割から五割程度と言われていますので、長野県の制度の効果は明らかだと考えています。
第六は、統一省エネラベルの表示方法の見直し、並びに全ての家電とエネルギー消費設備への拡大です。
冷蔵庫やテレビなど六種の家電に設定されている統一省エネラベルは、年間の電気代が買うときにわかるすぐれものです。問題は、六種に限られていること、表示方法がわかりにくいこと、そして、販売店での掲出が努力義務にとどまっていることです。あわせて、低効率の家電については、製造や販売を禁止する措置も必要です。
以上のほかにも、エネルギー効率の大幅な改善に資する政策や仕組みはありますが、少なくとも以上の六点は、国において早急に取り組む必要があります。
もちろん、自治体側においても、効果的なエネルギー政策を確立する必要があります。自動車への過度な依存を改めるまちづくり、中小零細企業の省エネの促進、公共施設におけるエネルギー性能の飛躍的向上、住宅の省エネ改修の誘導、住民への情報提供など、自治体だからこそ効果的なエネルギー政策があるからです。
そのためにも、国が率先して強力な省エネ政策を講じる必要があります。従来の省エネ法の枠組みの延長線上にある取組だけでなく、抜本的に省エネ政策を見直し、規制や税制、表示などをフル活用した省エネ政策に再構築することが求められています。
以上、日本のエネルギー生産性を飛躍的に向上させ、経済成長の原動力とすることを経済産業委員会の委員の皆様と政府にお願いし、私の意見とさせていただきます。(拍手)