小黒一正の発言 (厚生労働委員会)
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○小黒参考人 法政大学で教授をしています小黒と申します。
本日は、貴重な意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。
労働市場は非常に複雑で、各個人個人の要望、それから企業側が用意するオプション、こういった多様性が重要であるということに変わりはないところでございます。基本的には、労使間の交渉に委ねるべきであると思いますけれども、時には市場の失敗がございますので、そこについて是正していくということも重要ではないかと思います。
その観点で、過重労働について、先ほども幾つかお話がございましたけれども、その観点だけではなく、特に生産性の観点からも労働時間のあり方が重要であることを少しお話しさせていただきたいと思います。
お手元の方に資料をお配りさせていただきますので、そちらの方を見ていただければと思います。
まず、少し学術的な話になりますけれども、今、日本を含む先進国では、一九九〇年代以降、ICTの技術革新やグローバル化、こういったものが進んでおります。先ほど山田先生からも知識集約型の経済に移行していると。そういった中で、高スキルを要する高賃金の職種とか、あるいは労働集約型の低スキルで低賃金の職種が増加するというような現象が起こっております。その一方で、中間の職種が減少するという傾向も長期的に進んでおります。雇用の二極化や賃金の二極化、いわゆる労働市場の二極化が進行しているという指摘もございます。
当初、この二極化につきましては、まず初めにグローバル化仮説、いわゆるグローバル化で貿易の自由化が進み、未熟練の労働需要が減少するという中で賃金の二極化が起こっているというような話もございますが、第二に、スキル偏向型技術進歩仮説というのもございます。これは、ありていに言えば、高いスキルを持った方々に需要が集中するという中で賃金の格差が発生するというものです。それから、低学歴層がふえているんじゃないかとか、あるいは労働組合の組織率が低下しているんじゃないか、あるいは最低賃金が下落しているんじゃないかというような仮説がございます。
ですけれども、いろいろ学術的な、日米、欧米も含めて先行研究を見ていますと、一番目のグローバル化仮説とスキル偏向型技術進歩仮説が有力であって、特にスキル偏向型技術進歩仮説が最近の主流になっているということでございます。
資料をおめくりいただきまして、他方、一九九〇年代以降、先進諸国の年間労働時間は低下傾向にございます。OECDデータによりますと、二〇一五年における日本の労働時間は年間大体一千七百時間を超えております。他方で、スウェーデンは一千六百十二時間、フランスは一千四百八十二時間、ドイツは一千三百七十一時間ということで、日本は突出しているという状況でございます。
それにもかかわらず、労働時間一時間当たりのGDP、これは二〇一〇年基準でございますけれども、二〇一四年において、スウェーデンが五十四・四ドル、フランスが六十ドル、ドイツが五十八ドルという中で、日本は三十九ドルしかないという状況です。この原因は一体何かということを我々は少し考えてみる必要があるのではないかというふうに思います。先進国の多くでは、労働時間が少ないほど単位時間当たりの生産性を高めることができているということです。
実際、現在起こっている経済の状況としましては、ICTの技術革新などに伴いまして、アップルやアマゾン、それからグーグルといった革新的な企業が生まれている。それらは基本的には労働集約的というよりは知識集約的な産業です。柔軟な発想で大きく企業のかじをとって戦略を打っていく。そして、アイフォンのような製品を生み出していくというようなことで、柔軟な発想や革新的なアイデアが求められるような状況になっております。そのような発想やアイデアを生み出すためには、非常に時間的なゆとりも重要になってくる。特に、今政府が進めております、人工知能やビッグデータそれからIoT、こういった第四次産業革命が進展していけば、その傾向はますます強くなっていくということであろうと思います。
次に、資料をおめくりいただきますと、今申し上げたエビデンスとして、横軸に年間平均の労働時間、縦軸に生産性として一人当たりGDPを労働時間で割ったものをプロットしております。これは時間的な中で生産性が当然上がっていく部分があるんですけれども、そうしますと見せかけの相関になりますので、各年度ごとにアメリカ、日本、ドイツといろいろな国々の平均をとりまして、一人当たりGDPの労働時間でランキングしたものを縦軸にしているという状況です。これを見ていただきますと、労働時間が低い方が生産性が高くなっているということです。
こういう見方をしますと、一見、労働時間を下げていけば経済のGDPは下がっていくように思いますけれども、これに労働時間を掛けたものが一人当たりGDPになります。それが次の資料になります。
見ていただければわかりますように、山形になっておりまして、これを見ますと、大体、ドイツと同じような時間、一千三百六十時間ぐらいが一人当たりGDPが最も高くなるような状況になってございます。日本の労働時間は一千七百時間でありますから、これは年間で三百四十時間の減少に相当します。一日の労働時間が八時間の場合、三百四十時間というのは四十二日ぐらいの労働に相当し、週休三日制が実現できるような労働時間になります。
したがいまして、政府が今進めております労働時間のいろいろな規制、こういったものが進んでいけば、子育てや介護などを含む仕事の両立の調和、すなわちワーク・ライフ・バランスの実現も容易になっていくというふうに考えてございます。
最後に、法案全体の中身について、私の賛否の立場を明らかにさせていただきたいと思います。基本的には、まだ改革すべきところはたくさんあるところでございますけれども、内容についてはおおむね賛成でございます。
ただ、幾つか今後重要になってくるものとしましては、やはり労働者のパワーを強めるということが必要になってくると思います。他方で、やはりオプションも重要で、今回の法案には盛り込まれませんでしたけれども、裁量労働制、そういったものも入れていくということも重要であろうと思います。特に、その中で、今、高度プロフェッショナルの問題についていろいろ問題になっているところでございますが、これが適用されるのは数%であり、全体の労働者のごく一部にすぎないということであろうと思います。
先ほどの申し上げましたオプションという意味では、昨今の与党と維新との修正合意に基づきまして、個人の申請で対象外になるというような状況になっているということでございますので、そういう意味では、オプションの提示ということ、それから労働者のパワーを強めるということでは十分な対応ができているんじゃないかというふうに考えてございます。
最後に、労働市場改革というのは、日本経済が直面している課題の一つでございますが、やはり一番重要なのは、今日本は低価格高品質を競う経済になってございますけれども、高付加価値で利益率が高い、そういったものを競うような経済に転換していくということが重要であろうと思います。
そういう意味では、ビッグデータとか人工知能とかIoT、こういった第四次産業革命について今政府が取り組んでいるということは承知してございますが、ぜひ成長戦略の方についても力を入れていただければと思います。
短い時間で恐縮でございましたけれども、御清聴ありがとうございました。(拍手)