泉英二の発言 (農林水産委員会)
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○泉参考人 泉でございます。おはようございます。よろしくお願いいたします。
日本は、江戸時代で既に三つの世界に誇れる森林管理方式というものを持っていたんですけれども、その中で、人工林を組み立てるということにおいても世界一ということを奈良県の吉野林業ということで実現しておりました。私は、学生時代から、卒論から約二十年間ずっと、江戸時代の古文書、吉野に入り込んで、そういうことをやってきた者ですけれども、その後は少し現代の林政についても勉強させていただいてきました。
そういったことで、きょうは三人の参考人の大変重要な御発言というふうなことの筋とやや異なって、私は、今回の法案については極めて強い危惧の念を持っております。
ただ、今回の法案は、具体的なことは全て農林水産省令で定めるということになっておりまして、実はこれ、今、全貌は明らかになっておりません。ただ法案だけが、ある種骨子だけが明らかになっているという段階でございますので、私は、そういう意味では、そういう段階において、今後皆様方が御審議いただくに当たって、あえて危惧の念を多く申し上げることによって、そういうことも踏まえて御議論いただければということで、申し上げさせていただきます。
法案の内容というものは極めて非科学的である、科学的根拠が非常に欠如している、こういう議論を組み立てる。
そうしますと、そういうような中で、この法案が成立しますと、実は、法律自身が基準を示すという、法律がひとり歩きしてしまうというような形のところで、そういったことで、そういう意味でも大変危惧しているわけですけれども、特に森林所有者に対して極めて強権的であって、運用の仕方次第では、極論を言えば短伐期皆伐施業の蔓延で、日本の山林が、やや極端に言えば丸裸になる可能性がゼロではない。
この法案については、その作成プロセスが余りに密室的であった。林政審議会にも、たしか、新たな森林管理システムという、法案のちょっと上にある大きな考え方ですけれども、それについて一時間半審議しただけというふうなことでございます。パブリックコメントなども一切実施されなかった。国の森林環境税創設にも密接に絡んでいるだけに、国民の理解を得るとの姿勢が皆無だったことは極めて遺憾なことと考えております。
私は、結論的に言いますと、この法案は一旦廃案とするのが望ましい。その上で、制度疲労を起こしている現行の森林・林業基本法、森林法を始めとする森林法制全体をこの機会にゼロベースで見直し、新たな世界標準として誇れるような森林法制を日本は構築すべきであるということが結論でございます。
まず、問題は一体どこにあるのか。これは、今回の法案では日本の森林所有者というものをどう今後位置づけるのかという、ここが大変問われております。
皆様方、ちょっと後ろの方に資料を出しておりますけれども、林野庁が去年九月に出しておるこの資料です。これは、集成材について内外の比較をしたものでございます。この比較で極めて明らかなのは、日本は加工等のコスト、伐採、搬出コストが高い。立木というところ、三%となっておりますけれども、ここが森林所有者の取り分ということでございます。
こういうふうな形のところは、その二枚目の資料を見ていただきますと、これは森林・林業白書ですけれども、もう素材生産価格はどんどん落ちてくる。それに対して、実は加工コスト、伐採、搬出コストは変わらない。ですから、製材業者及び素材生産業者の取り分は変わらないけれども、木材価格が下がれば、全て山主に返るお金が少なくなっている。
こういう現状をどうするのかということで、山元への利益還元という言葉が出ております。それとも、森林所有者はもうこの際、日本は今後切り捨ててしまうのか。このところが今回の法案で非常に問われているところでございます。
林野庁、沖修司次長、現長官ですけれども、発言をちょっと掲げております。二〇一五年十月の林政審議会、ちょっと長いので読み上げは省きますけれども、沖次長は結局、林業の成長産業化のためには、山元への利益還元の重要性をしっかり述べております。
また、それに対して、今回の森林経営管理法案まで至る、現在の林政の大転換と言っていいわけですけれども、これが最初に姿をあらわしたのは、昨年の三月から五月まで、自民党林政小委員会、ここが五回開かれまして、そこにおいて、実は、今回の新しいスキームということが登場してきます。
そこで強調された目的というのは、その段階では、山元への利益還元と公益的機能発揮というものが目的として掲げられておりました。また、「林業者(林家、事業体従事者)の所得向上」「川上から川下までの総合的な支援により、山元への収益性向上の対策を強化する。」「川上の手取りが確保し得る原木価格の実現に向けた木材需要の拡大を図る。」といった文言が各所に、この自民党の林政小委員会の報告では書かれております。
そういうふうな形のところであるわけですけれども、この林政小委員会で述べられた、提言されているところが、その後、昨年九月に林野庁は新たな森林管理システムということで提起しますけれども、そこでは、まず、山元への利益還元ということが抜け落ちます。さらに、公益的機能の発揮ということについても、恐らく、林業の成長産業化という側面が非常に強く出ていますので、公益的機能の重視論が非常に弱くなりました。さらに、担い手としては、「新規参入や自伐林家を含めた多様な担い手とともに、森林組合や民間事業体など意欲と能力のある林業経営の主体の育成・確保」といったような中で、こう書かれているのも、やがて、自伐林家ということも抜け落ちます。さらに、森林組合というのも抜け落ちます。
こういう形で、新たな森林管理システムということが組み立てられてくる。
三のところに行きます。法案の構造ということで、森林所有者に対して、では、この法案はどういう姿勢で臨むのかということです。
森林所有者については、意欲がないものと規定しています。このことについては、根拠となる統計データの解釈に誤りがあるということはまた後で申し上げたいと思いますけれども、そのような森林所有者に、適時に伐採、造林及び保育を実施することを義務づける。要するに、やる気のない森林所有者、そこに非常に過大なものを押しつける。できない場合に市町村に委託させる。委託することに同意しない所有者に対しては、確知所有者不同意森林特例制度を創設し、勧告、意見書、裁定といったプロセスを通じて、不同意のまま、同意したものとみなす道を今回確保している。
さらに、災害等防止措置命令ということに一章を割いております。森林所有者によって伐採又は保育が実施されず、その結果、周辺や下流域に土砂その他災害、環境悪化、水害、水確保支障などの発生を防止するために、市町村長は、森林所有者に対して、伐採又は保育を命令することができ、その命令に従わない場合には、代執行をし、その費用を所有者に請求できるものとするという。実は、これはいろんな面で問題がある。保安林制度との関係はどうなのだというようなことであったり、森林所有者が伐採、保育することと、そういう災害等を防止する関係性ということは本当に立証されているのか等々ですね。
それで、結局、この法案は、山元への利益還元とは正反対に、森林所有者にできない責務をあえて課し、責務を果たせない場合は、管理経営権を委託せざるを得ないようしむけており、それに同意しない者に対して、確知所有者不同意森林制度及び災害等防止措置命令制度をつくって、強制的に同意を迫るものになっていると言わざるを得ない。まさに、森林所有者を切り捨てていく政策とも言えるものであるということです。
それから、素材生産業者。
森林所有者から、次の段階で伐採、搬出を担当する素材生産業者については、今回初めて、林業経営者という形で位置づけた。これは、我々研究面からしても、また実態的にも非常に無理があって強引過ぎる。そこの意欲と能力のある素材生産業者等を選別し、それらにあらゆる施策を集中して、林業の担い手として育成する。そのような素材生産業者等には、市町村は経営管理実施権を配分する。
ただし、主伐後の再造林から保育まで十五年以上の管理が、どうも今の段階では素材生産業者等に課せられるようです。それで、この素材生産業者等にとっても、十五年間の管理義務ということは決して甘いものではない。ただ、更に言いますと、素材生産業者等は、育林管理ということに対しては一般的には非常に苦手である。
そこで、素材生産業者等がこの施策に魅力を感じないと困るだろうということで、さまざまな優遇策がとられておるということです。
さらに、この素材生産業者等は、比較的資金力等が弱いです。それで、資金力の豊富な会社等が素材生産業者等に対して資金援助をして実施権を確保するだけでなく、素材生産業者等を直接的に下請化することによって、みずから林業経営者となる道も開かれております。このことによって、大面積の経営管理実施権が大手の会社等に集積される可能性も強まっている。
市町村については、ちょっとここは時間の関係で省かせていただきます。国の森林環境税についても省かせていただきます。
暫定的総括。
この法案は、究極的には、川下の大型化した木材産業及びバイオマス発電施設への原木の安価な大量安定供給が目的であるとしか思いようがないというところです。
そのために、森林所有者は極めて安価、場合によってはただで立木の伐採、販売を委託させられ、十五年後以降に手入れ不足の人工林あるいは天然更新林で戻されるといった事態も、その可能性も否定できない。
新たな林業の担い手と目される素材生産業者等が順調に成長しない場合には、大きな資本が容易に参入できる仕組みが準備されていることも極めて危険である。
今回の森林経営管理法案は民有林を対象にしております、民有林を。このような仕組みが、一年後には民間開放として国有林にも適用されることが検討中とのことである。民間事業者に長期、大ロットで伐採、販売を行える権利とエリアというものを設定しようということである。このようなことになると、民有林だけでなく、国有林までもが大型の民間事業者に席巻されることになる可能性が強まっています。国有林は、言うまでもなく国民有林であります。したがって、国民的合意がしっかり図られるプロセスが必須と思われます。
林業の成長産業化というかけ声のもとで推進されるこのような流れは、持続可能な森林管理、あるいは持続可能な森林経営という世界的に普遍的な指導原理に根本的に相反していると私は考えます。
なお、今回の法案については、林業のプロの人たちからは、物すごく乱暴な法案だな、でも、こんなものって動きっこないよとの声をよく聞きます。しかし、森林所有者に対する恫喝に近い二つの制度だけでなく、動けないと見られている市町村に対して、都道府県による代替執行制度も準備されています。林野庁とすれば、都道府県を締め上げることは比較的容易なことです。ということで、もしこの法案を本気で運用するようなことがあれば、明治初年の土地官民有区別における入会林野の官林化、戦時中の強制伐採に匹敵する強権的な措置ということになるのではないでしょうか。
それでは、批判しているだけでいいのかということになりますけれども、どうすればいいのか。
今回の新たな森林管理システム及び森林経営管理法案について、当初は、現行の森林・林業基本法及び森林法の路線上に乗っかる鬼っ子ではないかと私は思いました。しかし、現在では、この法案は森林・林業基本法や森林法をも踏みにじる独自路線を持つものだと評価しています。それゆえ、当初述べたように、今回は廃案にすべしと思っているわけです。
そこで、資料の三をごらんいただきたいと思います。
これは、二〇〇一年、林野庁が林業基本法の改正を考えていたときに素案を出しました。それに対して、内閣法制局から、どうしてもだめだということになって、やむを得ず考え出したのが持続的森林経営基本法です。
ここでは、基本理念を、持続可能な森林経営の確立を図るものだとし、基本施策は、経済的手法による森林管理、地域社会による森林管理、国民全体による森林管理といった区分に基づくとしています。
この区分は、現行の森林・林業基本法における森林政策、林業政策、木材産業施策といった区分とは根本的に異なっており、今後の森林管理を考えるに当たっては極めて、現在でも大変生命力を持っている一つの考え方が既に二十年前に提示されているということでございます。
今後しっかりとここで議論されていくと思いますけれども、そういった意味では、私が申し上げました、あえて危惧をするというようなところもぜひ御認識いただきまして、積極的な審議がなされることを期待しております。
どうもありがとうございました。(拍手)