岸原孝昌の発言 (文部科学委員会)
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○岸原参考人 このたび陳述の機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
私の方からは、柔軟な規定の重要性と有益性について、イノベーション開発に有効なデザイン思考という考えが今あります。それと、法制面でのプリンシプルベースという考えから、実体験を交えて、これは反省も込めて御紹介をさせていただきたいというふうに思います。
ちょっとしゃべっているだけだと退屈かと思いますので、懐かしいものを持ってまいりました。皆さん、これは御存じだと、これはアイポッドですね。これはiモード携帯、ガラ携と言われております。これは何かわかりますか。ソニーの新製品、まだ未発売と言っても信じるぐらいなんですが、実はこれは、アイポッドと同じ時期にソニーさんがつくったマジックゲートウォークマンというものになります。ただ、これは世の中にもほとんど知られていなくて、残ったのはこちらだけ。最終的には、これとこれをくっつけて、アップルさんはアイフォンをつくったという流れになっています。
じゃ、何で負けたかということなんですが、実は、ここの重要なところが、ユーザー利便性と権利保護、これのバランスをとれたかどうかではないかなというふうに思っております。
我々、iモード携帯あるいはこのマジックゲートウォークマン、これはすばらしい著作権保護機能がついています。複製をすると前のコンテンツが消えたりとか、複製を制限したり、あるいは、iモードで、私も権利者団体さんと交渉しましたが、ここから出ないような仕様にする、ありとあらゆる手段で保護するということをやってきました。
これは、権利保護というところも重要だという観点に立って、一曲ごとに管理をするという形でやっていたんですが、スティーブ・ジョブズが何をやったかというと、我々は、こちらの方に入るのは二十曲だけだったんですね、要するにアルバムが入ればいいでしょうと。スティーブ・ジョブズは、ユーザーは千曲欲しい、要するに、ユーザー利便性も確保しましょう、一定のフェアプレーという著作権保護機能も入れましょうということで、ユーザーの利便性と権利保護のバランスをとって大成功した。
じゃ、これを出したときに、スティーブ・ジョブズが、やった、これで勝ったと思ったかというと、すぐ日本が追いついてくると思っていたらしいんです。何でかというと、この中の製品はほとんど日本製です。一・八インチの東芝のハードディスク、今、会社自体は非常に困っていますが、当時は、この小さなハードディスクというのは、パソコンでは余りにも小さ過ぎて必要ないと言われて、ニーズがないと言われていた。一方で、ここに出すための電池、これのリチウムイオン電池はソニーさんが開発をして、これを利用する。要するに、中は全部日本製だったんですね。これでヒットすれば、すぐ日本が追いついて我々は負けるというので、日本の携帯をまねしてアイフォンをつくったということになっています。
じゃ、我々も追いつけばよかったということなんですが、そのときの思考からすると、こんなことをやると著作権違反の幇助で逮捕されるんじゃないかと、個人的には非常に思考のフレームワーク自体を限定されてしまって、こういう発想ができなかったというのが一つの理由になっております。最終的には、我々自体は、iモード等のコンテンツ配信で、着うたコンテンツ、一千億マーケットまでつくりました。ただ、今本当、数十億ぐらいに限定してしまっているという状況になっております。
こういったユーザーの課題とか要求に応えて、ユーザーにどれだけすてきな体験、ユーザーエクスペリエンスを提供できるかというのがデザイン思考という考え方で、これがイノベーションの今の肝になっています。今出ておりますウーバーとかエアビーアンドビー、そういったサービス、全てデザイン思考から来ております。要するに、ユーザー視点で物事を考えてくる。これは、皆様方が選挙民の方々のことも考えていることと多分一緒です。
この法制度のとき、よく事業者対権利者という構図になりますが、最終的に考えなきゃいけないのはユーザーにどういったものを提供できるかといった観点で、法制度の中にもデザイン思考という考え方を、この中にぜひ入れていただきたいというふうに思っております。
その中で、一方で柔軟な規定が必要な背景といったところについて、簡単に御説明をしたいと思います。
御存じのように、今、テクノロジーの進化が非常に激しい時代で、不確実性が非常に高まっていると言われております。こういう状況の中では、未来を人間が予測するというのはもう不可能です。
一方で、法制度は必ず現実からおくれるというローラグが発生するという考えがあります。今回の法案も、もう一年前の報告書をベースにしておりますので、施行するまで二年かかってしまう。そうしますと、どうしてもおくれてしまう。
これは、慎重な審議という上では非常に重要なことにはなります。ただ、これをカバーするという上で、今回の柔軟な規定というのは非常に有効ではないかなというふうに思っております。
ただ、今回考えられている、適切な明確性と柔軟性の度合いを検討する、こういったバランスをとる、明確性と柔軟性のバランスをとる、あるいは柔軟な規定のために抽象化するということが書かれておりますが、この明確性の対象というのは、硬直的な仕様ではなくて、原則、プリンシプルベースで考えるということではないかなというふうに思っております。今回の報告書の中に、そういった原則、プリンシプルという言葉がありません。ただ、これは明らかにプリンシプルベースでの法制度ではないかなというふうに思っています。
大陸法の立法の中では、原則を発見して明文化するという手続が基本的なところではないかなと思っておりまして、直近ですと、大陸法の本家であるEUの方で、一般データ保護規則、GDPRは完全にプリンシプルベースでつくられております。ですので、細かい規定は一切入っておりません。今回の著作権法とほぼ同じです。
一方で、日本でも銀行法や保険業法は既にもうプリンシプルベースでつくられておりまして、あと、建材の進化が激しい建築基準法では一九九八年に、これはルールベースですが、仕様規定から性能規定化といったものが今進んでいるということになっております。
ですので、今回の柔軟な規定というのは、大陸法の中でも既に先例があるということではないかなというふうに思っております。
一方で、この柔軟な規定、これは事業者とか利用者だけの利便性かというと、権利者にとっても二点において有益だと思っております。一つはグローバル化のジレンマ、もう一つは明確化のパラドックスという二つのポイントがあるかと思っております。
簡単に御説明しますと、グローバル化のジレンマ、現在、日本の事業者は、こういったローラグが発生している中で、厳密に法制度を解釈しておりますので、なかなかイノベーションを起こせないという状況になっております。どうしても海外の後追いになってしまう。そうなりますと、日本の権利者の方たちは、海外で普及したモデルを、嫌々ながらというわけではないんですが、日本の現状に合わなくても受け入れざるを得ないということで、今の日本の法制度の中で実は海外事業者が得をしているという状況になっているのではないかなというふうに思っております。
一方で、明確化のパラドックスというのは、仕様を細かく、要するに、明確化しようということで細かい規定までつくっていきますと、どんなにやっても絶対にグレーゾーンが出てきます。あるいは、先ほどのように、ローラグとして、時代の変化とともにそういったグレーゾーンというのは拡大をしていきます。
そこで、通常、健全にやる事業者は別に権利者のことを思って対応しますが、悪意を持った事業者がこういったもののグレーゾーンを利用して、悪貨が良貨を駆逐するようなことが現在起きております。これは今、漫画とかを含めた形で起きておりますので御存じかと思うんですが、そういった状況の中で、未来が予想できない人間にとって全ての事象を事前に整理するというのは不可能だという状況の中では、細かい条文で仕様をどんなに明確にしてもグレーゾーンが残るという考え方からすると、こういうプリンシプルベースでの制度の発見といいますか、今回、皆さんの方で原則を、もう幾つか現在ありますが、この原則を発見されて法制化されるという手続をこれから踏むのではないかなというふうに考えておりますので、ぜひ先ほどのユーザー視点に立ったデザイン思考の考え方とプリンシプルベースでの法制度といったものを進めていただきたいというふうに思っております。
以上でございます。(拍手)