窪田充見の発言 (法務委員会)

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○窪田参考人 おはようございます。ただいま御紹介いただきました神戸大学の窪田でございます。
 本日は、このような意見陳述の機会をいただき、まことにありがとうございます。
 私は、今回の法案について、法制審議会民法(相続関係)部会の委員として、また、それに先立って開催された相続法制検討ワーキングチームのメンバーとして、その検討作業にかかわってまいりましたが、本日は、民法の研究者の一人として、今回の法案に対する意見を述べさせていただきたいと思っております。
 まず最初に、今回の法案が、戦後の相続法において最も包括的な改正提案であるということを確認しておきたいと思います。もちろん、これまでも、配偶者相続分の改正、寄与分制度の創設等、幾つかの重要な改正がなされてきております。しかし、そうした中で、今回の法案は、相続法全般に関する見直しという性格を有するという点で特筆すべきものであると思っております。
 相続法は、戦後、全面的に改正されましたが、極めて限られた時間の中での改正であったことから、不透明な部分や制度的な課題もかなり多く残されていたと思っております。さらに、判例によって多くのルールが形成されてきたこともあり、専門家以外には容易には理解することができないほど、全体としての見通しが悪い状況になっておりました。そうした中で、今回、相続法の幅広い領域について見直しが図られたことは、それ自体として積極的に評価されるべき意義があるというのが私の基本的な認識でございます。
 今回、意見を述べる機会を頂戴いたしましたが、このように今回の法案の内容は非常に多岐にわたるため、特に五つのポイントに絞って、簡単に意見を述べさせていただくことにしたいと思います。
 第一に、今回の法案において新たに創設される制度の一つである配偶者居住権の制度について意見を述べさせていただきます。
 まず、配偶者居住権ですが、これは、残された配偶者の利益を実現するオプションとして新たに考えられたものでございます。相続という仕組みは、基本的には、被相続人の財産がどのように承継されるのか、誰に権利が帰属するのかを決める仕組みだと言えます。もっとも、残された配偶者については、特に配偶者が比較的御高齢の場合、特定の建物の所有権を帰属させるという形でより、むしろ特定の建物について終身の利用を認めるという形でその保護を図るということは十分に考えられるところですし、また、合理的な解決の一つであろうと思います。
 このように、残された配偶者の終身の居住権を認めるということについては、現行法でも遺言を通じてある程度実現することができるのではないかとも考えられます。
 そうした方策の一つとしては、後継ぎ遺贈と呼ばれるものがあります。しかし、そもそもそうした後継ぎ遺贈が有効なのかという問題があります。また、負担つき遺贈といった方法もあるんですが、これについても、その建物の所有権を取得した者が建物を処分してしまった場合など、その履行を確保することができるのかという問題が残ります。
 その点では、今回、残された配偶者の終身の建物利用を認める制度が相続における明確なオプションの一つとして創設されたということの意義は大変に大きいものであると思っております。
 また、配偶者については短期居住権も創設されましたが、これは従来、判例によって形成されてきた使用貸借を使った保護をより明確にした制度ということになります。
 なお、配偶者以外については従来の判例のルールによって処理がされることになりますが、今回、配偶者短期居住権として制度的に整備されたものが判例のルールに反映されていくということは十分に考えられるのではないかと思っております。
 第二に、今回の法案において、権利と義務の承継について透明度の高い形で整備されていることの意義について触れておきたいと思います。これは、幾つかの観点でその積極的意義を示すことができるものであろうと思っております。
 まず、かなり専門的なことになって恐縮ですが、相続に際して承継される財産については、相続のルールによるものとして理解するのか、財産の処分として理解するのかによって、その取扱いが大きく異なってきました。相続による承継だとすると、登記等の対抗要件がなくても取得した権利を第三者に対抗することができる、他方、財産の処分だとされると、対抗要件がなければ第三者に対抗することができないとされてきました。
 冒頭でも申し上げたとおり、我が国の相続法では、判例によって形成されてきたルールが重要な位置を占めておりますが、その中でも、とりわけこの点については大変に見通しの悪い状況、整合的な説明が、あるいは理解が困難な状況になっておりました。実際にはほとんど同じ内容の遺言であるのに、ある場面では対抗要件が不要とされ、別の場面では対抗要件が必要とされるといったことについて、適切に説明することはもはや困難となっていたように思われます。
 今回の法案においては、法定相続分を前提としつつ、それを超える部分について対抗要件を備えることが必要だという形で、一貫したルールを整備することが提案されております。これによって制度的な見通しは大変によくなるのではないかと考えております。
 次に、相続財産に銀行の預貯金が含まれる場合の規律が明確になり、また、実際上の扱いも明確にされるということの意義が大きいものと思っております。
 相続財産の中では、不動産だけではなく、預貯金も大きな意味を持っております。不動産は所有していなくても預貯金はあるという場合は決して少なくはないものと思います。
 これも専門的なことになって大変に恐縮でございますが、こうした預貯金については、従来は当然に分割承継されるとされておりまして、遺産分割の対象とならないとされてきました。このため、特別受益や寄与分を考慮して決まる具体的相続分を踏まえた遺産分割、これを通じて相続人間の公平を実現するという仕組みは、預貯金については機能してきませんでした。
 今回の法制審議会では、そうした問題があることを踏まえて、かなりこれについては検討が重ねられておりました。ただ、法制審議会の審議の途中の段階でしたが、最高裁が、預貯金も遺産分割の対象となる遺産に含まれるという判断を示しました。これによって、ここでの問題は半分は解消されたというふうに思います。
 半分と申し上げましたのは、最終的に遺産分割の対象となるということは明らかになったものの、遺産分割までの間、どのように扱うのかという点では、実際上も問題が残っていたからであります。特に、手元に現金がない場合、被相続人の葬儀の費用をどのように支出するのか、被相続人が負担していた債務の弁済をどのようにするのか等が問題となります。
 今回の法案においては、遺産分割までの間の仮払い制度が創設されるとともに、家事事件手続法における見直しが図られておりますが、これはこうした問題に具体的に対応するもので、制度的にも必要な改正であると思われます。また、一部分割についても、特に預貯金を意識しながら、もちろんそれだけではありませんが、適切に対応できるようにしたものとなっております。
 今回の法案においては、こうした預貯金の取扱いが重要なポイントとして、かなり細部まで詰めて規定の整備が提案されております。これは、実際上も必要性が高く、意義は大きいものと思っております。
 その他、債務の承継についても、やはり判例によって示されてきたルールを受ける形で、民法上、より明確な規定が設けられるように提案されております。
 これらの権利義務の承継に関するルールの整備は、相続法の最も基本的な部分に関する改正で、積極的に評価されるべきものであるというのが私の認識でございます。
 第三に、遺言に関する制度整備についても触れさせていただきたいと思います。
 遺言の中で圧倒的に利用件数が多いのは自筆証書遺言でございますが、自筆証書遺言は、非常に簡単に作成ができるものの、遺言の存否自体が明らかではないということがあります。もちろん、通常はそうではないのでしょうが、遺言の存在を明らかにすれば利害関係がある者による改ざんや廃棄のリスクにさらされ、他方で、明らかにしなければ遺言が認識されないまま遺産分割がされてしまうというリスクがあるということになります。
 今回の法案においては、自筆証書遺言について、方式要件の緩和とともに保管制度の創設が提案されております。とりわけ、公的機関による自筆証書遺言の保管制度の創設については、今述べた問題点との関係で大きな意義を有しているように思われます。
 恐らく、この保管制度については、さらに将来的には、死亡届が出された場合の仕組み等をより整備していくことで、実際にも利用されやすいものとなっていくのではないかと思います。今回の自筆証書遺言の保管制度の創設は、そうしたいわば将来の制度の基盤を整備するものとして積極的に評価されるべきものであると考えております。
 なお、先ほど申し述べましたとおり、権利義務の承継というルールの中では、法定相続分を前提として法律関係を考えるという基本的なアプローチがとられています。その点では、相続における法定相続分の役割がより明確に位置づけられ、その意義が重視されていると言ってもよいかと思います。今回の法案においては、それとともに、遺言制度を整備し、遺言を通じた被相続人の意思の実現を図るという仕組みが整えられておりますことは、全体として大変にバランスがよいものではないかと思っております。
 第四に、遺留分制度の改正は、やはり今回の法案の大きなポイントであると思っております。
 遺留分制度は、かなり複雑な仕組みで、その性格についてもさまざまな議論があるところでございます。ただ、遺留分が侵害された場合の従来の遺留分減殺請求権については、その行使によって非常に複雑な法律関係が生じてしまうということ、具体的には、遺贈等の減殺によって、多くの場合に目的物の共有状態が生じてしまい、さらにその後の解決が必要となる、また、この共有状態の解消というのは必ずしも容易ではないといった点については、恐らく現行の遺留分制度の問題点として広く認識が共有されてきたのではないかと思います。
 今回の法案においては、遺留分侵害の効果は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求権とされ、それによって、この点の解決が単純で明快なものとなり、紛争の一回的解決を実現することが可能となっております。その上で、その支払い猶予を認めることにより請求された側の負担の軽減を図っており、制度を過度に複雑にせず、遺留分の実現を容易にするという意味でも、積極的に評価されてよいものであると思っております。
 最後に、相続人以外の者の貢献について、新たに設けられた特別寄与料の仕組みについて意見を述べさせていただきたいと思います。
 こうした問題について、従来の判例は、相続人ではない者、寄与分制度の対象とならない者が貢献した場合については、その者の配偶者等、相続人となる者の寄与分に反映させるという解決をとってまいりました。こうした従来の判例については、異なる観点からの評価があったものと思います。
 一方で、なぜ実際に貢献した本人ではなく、その配偶者等の寄与分に算入できるのかという問題があります。夫婦とはいっても、それぞれが独立の人格ですから、実際に貢献したのが妻又は夫であるなら、貢献したわけではない夫又は妻の相続における取り分をふやすということが当然に正当化されるわけではないと思います。
 ただ、他方で、実際に貢献した者の貢献が全く考慮されず、その分までもが他の共同相続人にも相続分に応じて承継されるということが適当なのかといえば、やはりそれもおかしいだろうという問題があります。
 従来の判例は、そうした状況の中で、次善のものではあるのかもしれませんが、より適切な解決を求めてきたものとして理解することができるように思われます。
 この問題については、今回の制度の中でも立場が分かれ得るものであるというふうに認識しております。法制審議会の議論の中でも、あくまで財産法上のルールによって処理すべきで、このような制度は不要だという考え方、一定の人的範囲でこうした制度を認めるべきだという考え方、人的範囲を制限せずにこうした制度を認めるべきだという考え方、こうした三つの考え方が対立していたと認識しております。
 こうした対立する考え方がある中で、今回の制度整備は、従来も既に判例によって扱われてきたケースについて限定的に対応するものであり、その点では、小さな改正にとどまるのだという見方も可能かもしれません。ただ、従来の判例はあくまで相続人である配偶者等の寄与分として考慮されるというだけで、本人の貢献が本人の利益として反映されるというものではございませんでした。これに対して、今回の法案により本人に利益を帰属させることが可能となるという点の意義は、やはり決して小さいものではないと思っております。
 今回の法案については、当然のことですが、全て私自身が研究者として考えていたことと一致するわけではございません。別の制度設計が考えられるのではないかと思う部分もございます。しかし、相続という仕組みは国民の全てにかかわる基本的な制度である以上、単純に理論的に正しいか否かということが決まるようなものではなく、その内容が幅広く共有され、理解されるものであるかが重要であるように思います。その点では、以上述べてきた五つのポイントについては、十分に理解することができ、また積極的に評価されるべきものであるというふうに考えております。
 以上が、私の本法案に対する意見でございます。
 御清聴いただき、ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 窪田充見

speaker_id: 6231

日付: 2018-06-13

院: 衆議院

会議名: 法務委員会