鈴木賢の発言 (法務委員会)
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○鈴木参考人 おはようございます。
本日は、参考人としてこのような場を与えていただきましたこと、まことに感謝申し上げます。
私は、およそ三十年前から、同性愛の当事者として、主に札幌、東京で同性愛者などいわゆるLGBTの人たちの居場所づくり、また人間の尊厳を取り戻すための活動を続けてまいりました。昨年六月には、私たちは、政令指定都市として初めてとなる札幌市パートナーシップ宣誓制度の創設という制度的な成果を獲得いたしました。現在、各自治体におきまして同性パートナー認証制度の導入に向けて働きかける活動を行っているところでございます。
また同時に、私は、北海道大学及び明治大学において中国法、台湾法の研究、教育に従事し、それぞれの家族法の研究などをしております。
本日は、同性愛者の困難解消と尊厳の回復及び台湾法、中国法との対比の視点から、相続法改正、とりわけ法律案の第千五十条に規定されております相続人以外の者の貢献を考慮するための方策に絞って意見を述べさせていただきます。
最初に、今回の相続法改正の背景について確認しておきたいと思います。
法改正の背景としては、急速に高齢化社会が進展したこと、相続を取り巻く社会情勢に大きな変化が生じてきていること、また、家族のあり方に関する国民の意識にも著しい変化が見られること、家族形態に変化が見られることや、要介護高齢者や独居老人が増加するなど、さまざまな社会問題も生じてきております。こうしたことが今回の法改正の背景として指摘されているところでございます。
家族をめぐる変化といたしましては、家族形態やライフスタイルの多様化また多国籍化などを指摘することができます。具体的には、非婚カップル、同性カップル、性愛を前提としない新しい形の親密圏、あるいは国際カップルの増加などがあると思われます。
しかし、現行の相続制度には、こうした新しい家族の形に十分対応し切れていない部分がございます。今回の改正案に含まれます相続人以外の者の貢献を考慮するための方策は、まさにこの改善のための一助になるのではないかと考えております。
この制度は、被相続人に対して無償で療養看護その他労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者に、特別寄与料の支払いを相続人に求めることを認めるものであります。これは、相続人以外の者であっても、財産の維持、増加に無償の貢献があった場合に、これを評価して、事実上、遺産の一部を取得させるものであります。介護などの貢献に報い、関係者間の実質的公平を図ることを狙ったものと説明されております。
しかし、本年三月十三日に提出されました改正案では、遺憾ながら、この特別寄与者の範囲を被相続人の親族に限定しています。平成二十九年七月の法制審議会追加試案までは、請求権者の範囲を限定しないなどとする乙案が併記されておりましたけれども、最終案ではそれは採用されませんでした。
このように請求権者の範囲を親族に限定すると、親族以外の者が貢献を行った場合に請求権が与えられないということになり、それでは家族の多様化に対応して実質的な公平を図るという目的が達成できないケースが出てくることを懸念いたします。特に、事実婚の異性パートナー、同性パートナーは、何年連れ添って、どれだけ貢献をしても、特別寄与料の請求はできません。これでは、約四十年ぶりに二十一世紀に行われる相続法改正としては、新たな時代に即応した改正とは言えなくなると思います。
同性カップルは既に日本社会に数多く存在いたしますが、同性愛者は偏見、無理解にさらされ、相続はもちろん、婚姻、社会保障、税制など、あらゆる法制度において、いかなる法的保護も与えられておりません。私自身、同性パートナーとの共同生活は既に十九年目に入りました。
本年四月二十六日には、大阪地裁に以下のような訴訟が提起されました。資料として配付しておりますけれども、六十九歳の原告は、同性同士の生活を四十年以上も続け、パートナーとともに自営業を営み、ともに財産を築いたにもかかわらず、パートナーの急逝後、相続人である実の妹さんに全ての遺産を、財産を持ち去られ、火葬に立ち会うことも許されませんでした。原告は本訴において財産の引渡し及び慰謝料の請求を行っています。
このように、日本の法律では、同性カップルがたとえ何年連れ添っても、協力して財産を築こうが、相続において評価される仕組みが一切ありません。そのため、本件のような悲劇が繰り返されています。
台湾では、二〇一五年十月に、台湾人の同性パートナーと三十五年同居していたフランス人の元台湾大学教授ジャック・ピック氏が、パートナーの病死後、末期治療の決定にもかかわれず、同居していたマンションの相続もかなわないという状況で、メンタルヘルスに不調を来し、ついには飛びおり自殺をするという悲劇が起きています。台湾では、この事件をきっかけに同性カップルの法的権利の保障の必要性についての社会的関心が高まり、昨年五月二十四日には憲法裁判所に相当する司法院大法官が、同性間の婚姻を認めていない民法を違憲と判断し、二年以内の法改正を命じることにつながりました。台湾では、遅くとも来年の五月までには、恐らくアジアで最初に、同性間の婚姻届が受理されるということが確実となりました。
今回の改正では、特別寄与料の請求権という形で、同性パートナーも保護の対象となることが期待されていましたところ、先述のように、最終案では、親族要件によって排除されてしまいました。
現在、既に世界の二十五カ国で同性間の婚姻を認めておりますが、日本でもようやく同性カップルを家族として扱う動きがあらわれています。二〇一五年に始まる渋谷区、世田谷区の同性パートナーシップ制度が、そのきっかけであります。同様の制度は、これまで伊賀市、宝塚市、那覇市、札幌市、福岡市に広がり、近く中野区、大阪市、千葉市などでも導入が予定されています。今後も更に全国の自治体へ拡大させるため、この六月四日には、首都圏を中心に二十七の自治体の議会に対しまして、各地の住民から一斉に請願、陳情などが提起され、報道されたところであります。こうして、同性パートナーシップ制度は、全国の自治体へとドミノ現象を起こす前夜にあると感じられます。
これらの自治体のパートナーシップ制度には、直接的な法的効力はありません。しかし、この制度ができたことが、既に社会的な波及効果を発揮し始めております。すなわち、企業の中には、その顧客や社員に対する扱いに同性パートナーを含めるところが出てきております。例えば、資料としてお配りをしました、銀行の住宅ローンにおける同性パートナーに共同ローンを適用する、あるいは生命保険会社が同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定するということができるようになっています。また、NTTなど大企業が、手当支給、休暇、社宅への入居につき、配偶者と同等の扱いを始めております。こうしたことは、同性カップルにも事実上の配偶者と認めるという社会的な傾向が広がっているというふうに考えられます。
このように、日本でもようやく同性カップルに対する法的な保障を実現するための社会通念が広がり始めたのではないかというふうに思います。今回の相続法改正におきましては、ぜひともこの流れに沿って、同性パートナーにも特別寄与料の請求を認めるべきであると考えております。
これに対しては、同性、異性を問わず、事実婚のパートナーには、例えば、準委任契約による報酬請求であるとか、不当利得返還請求であるとか、あるいは遺言によって遺贈をしておくなどの既存の制度による対応で足りるのではないかとの立場があるようであります。しかし、特別寄与料の請求という制度の趣旨は、明確な契約や遺言がないまま被相続人が死亡してしまった場合に、事後的に実質的公平を図る点にございます。現状では婚姻という選択肢が与えられていない同性カップルに対して、この程度の法的保障を与えても何ら弊害はないと考えております。
なお、一部に、憲法二十四条一項が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、」と規定していることを、憲法を改正しなければ同性間の婚姻を認めることができないと説く向きがありますので、ここで一言しておきたいと思います。
まず、二十四条には同性間の婚姻についての明文での言及はございません。文理上、したがいまして、同性間の婚姻を禁止していると読むことはできません。
問題は、この「両性の合意のみに」の「のみ」がどの文言を受けたものであるかでありますけれども、憲法制定時の経緯、また世界の婚姻法において当時同性間の婚姻を認める例はなかったということからすると、これを合意のみの成立ということを含意するものであると解釈するのが適当であろうというふうに思います。つまり、親や家の合意を要しないで、当事者の合意のみによって婚姻は成立するというのが二十四条の意味であろうというふうに思っております。
一九四六年、憲法制定時に、二〇〇一年に世界では初めてオランダで同性婚が始まりますけれども、四六年の時点で二〇〇一年のことをあらかじめ予見し、前もって同性間の婚姻を禁止していたという解釈は余りにも荒唐無稽だというふうに思います。
実はこのことは、本年五月十一日の内閣答弁書、これは逢坂誠二議員による「日本国憲法下での同性婚に関する質問主意書」への答弁におきましても確認されているところでございます。安倍晋三首相名での答弁書では、同性間の婚姻が受理されない理由は、憲法二十四条ではなく民法、戸籍法に求められておりまして、法改正によって同性婚の実現が可能であることを示唆されております。
また、同性間の婚姻届が出された場合に不受理証明が出されますが、そこに憲法上問題があるというように書く実務は既に行われていないということは、法務省民事局第一課長が論文で認めているところでございます。
親族以外の事実上の貢献者に遺産の一部を取得させる制度は、私の研究対象である中国法では既に行われて久しいものがございます。一九八五年に制定された中国相続法では、生前の扶養、介護と死後の相続の対価的関係を承認する制度を設けております。例えば、同法第十四条では、相続人以外で被相続人からの扶養に依存していた、労働能力を欠き、かつ生活の糧を持たない者又は相続人以外で被相続人を比較的多く扶養した者には、適当な遺産を配分することができると規定しております。
本条は、相続人以外の者でも、被相続人を比較的多く扶養した、この中国法上の扶養は、経済上の援助にとどまらず、生活面での支援や看護、療養を含むものでありますけれども、そうした者については遺産配分請求権を付与するというものであります。これには親族要件は付されておりませんし、また、このことが紛争を複雑化させ長期化させているとの情報もございません。
以上をまとめますと、千五十条の「特別の寄与をした被相続人の親族」という文言を「特別の寄与をした者」に変更し、特別寄与料の請求から親族要件を外すべきであるというふうに考えます。特別の寄与をした者全てを対象とすることで、関係者間の実質的公平を図るという当初の趣旨がより徹底できるというふうに考えます。
同時に、そうすることで、日本でも同性カップルに対する法的保護の第一歩をしるすべきであります。既に同性家族の法律化は世界的潮流になっていますし、二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、LGBTに対する日本政府の対応を整えることにもなります。オリンピック憲章では、性的指向による差別を禁止しております。先述の台湾大法官憲法解釈でも言うとおり、同性カップルを婚姻から排除することは、国が法律によって同性愛者を差別することに加担することにほかなりません。せめて相続法における特別寄与料請求からは排除しないという姿勢を示すことで、同性愛者に対する法による差別をやめる方向へ転換すべきことを強く求めたいと存じます。
町で手をつないで歩くことすら勇気が要る同性カップル。今後は何はばかることなく生活できる、そんな世の中を私は若者たちには与えてやりたい。法律の小さい文言ですけれども、それが日本を変える力になります。当委員会の委員におかれましては、御賢察を賜りますようお願い申し上げます。
以上とさせていただきます。ありがとうございます。(拍手)