伊藤圭一の発言 (予算委員会公聴会)

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○伊藤公述人 全国労働組合総連合、全労連で労働法制を担当しております伊藤と申します。
 本日は、このような発言の場を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
 この国会、働き方改革国会という位置づけもされております。予算委員会におかれましても既にこの働き方に関する課題でかなり活発なやりとりがなされている、それを承知しております。
 私といたしましては、この予算委員会の場ではありますけれども、経済政策の柱としても政府が働き方の問題を非常に重視している、このことについては非常に重要だと思っておりまして、全労連としての考え方を申し上げさせていただきたいと思います。
 まず、労働者の状態の悪化、それこそが国民経済の持続的な発展の足かせであって、経済再生を阻む大きな要因となっている、そういうことを申し上げたいと思います。
 お手元の資料を一枚めくっていただきまして、資料の一というところに賃金に関するグラフを持ってまいりました。これは賃金の変動の推移を国際比較したものであります。
 よく知られていることではありますけれども、日本の場合、平均賃金が過去最高に高かったのは一九九七年と言われております。それ以降、物価の変動も加味した実質の賃金の変動、これを見ておりますけれども、日本の場合はこの間ずっと抑制基調にある。消費者物価もデフレ基調で来たとは言われていますが、賃金の伸びがそれを下回ってきたということであります。現在におかれましては引き続き一〇%下回り、一〇%ポイントは満たないという状況であります。もとに戻らないという状況であります。
 諸外国を見ますと、インフレ基調で物価は進んでおりましたけれども、賃金の上昇率はそれを上回っておりまして、ドイツ、アメリカを見ましても一五%、一六%増、フランス、イギリスを見ましても二五%を超える実質賃金の上昇を見ているということであります。
 これは殊さら賃金がうまくいっている国だけを並べているのではなく、OECD、多くの国の統計を発表しておりますけれども、実は日本だけこういう特異な状況にある、異常な状態にあるということをまず御認識いただきたいと思っております。
 資料の第二、これは賃金の変動だけを見ておりますので、水準はどうかという御疑問もあるかと思います。これにつきまして、資料の二では、賃金の年収ベースでの推計、比較をしたものを出しております。
 これはフルタイムに換算した場合ということになりますけれども、一九九七年、日本はOECDの平均よりも高い賃金水準を示しておりました。ドル表示でいいまして三万六千二百四十九ドルということが購買力平価換算で比較できております。これが、二〇一五年になりますと位置が下がります。実額としても、ドルベースで見て三万五千七百八十ドルと下がっております。
 先ほど、実質賃金の変化、これは名目賃金も下がってきたということでありますが、そこからもわかるとおり、唯一実額として労働者の収入が落ちているというのが日本だということです。これは経済政策を考える上においても極めて深刻な事態だと私は思います。
 その背景に何があるのか。労働組合として申し上げるのは、みずから自責の念も感じるところでありますが、組織率が低下をしている、春闘における賃金改善の取組がなかなか広がりを持たない、こうしたこともあります。ですが、より大きな問題として言えるのは、不安定な雇用、不合理な処遇格差のもとで働く非正規雇用の方々が非常にふえているということであります。
 一九九七年には一千百五十二万人、雇用労働者に占める割合で二割強でありましたけれども、昨年の数字を見ますと二千二十三万人、四割弱と、倍加しているということであります。
 四割の方が、不安定な就労、いつ雇いどめされるか、そういう気持ちを抱きながら働いている。これでは、例えば労働組合をつくるだとか、そういう交渉力を発揮しようとしても、次の契約更新、これを盾にとられて、何も行動ができない、要求の声を上げられない、こういう状態に置かれているのであります。
 また、その賃金、労働条件、これが低いということも大きな問題で、先ほど言った全体の賃金水準を下げることにも影響をしております。
 正社員と同じ仕事をこなしている非正規の方はどんどんふえております。基幹的労働として位置づけられておりますけれども、同じ仕事をしながら二分の一あるいは三分の一の賃金で働くということになります。
 労働組合としては、よく、正規、非正規のこの格差是正、どこまで真剣なのか、こんな批判も出るところでありますが、今や全労働組合は非正規の処遇改善に向けて真剣に取り組んでおります。なぜなら、これは正社員だけの、正社員が差別をされたそういう人たちを救ってあげる、そういう取組ではなく、みずからの仕事の価値が二分の一、三分の一にダンピングされる、そういう効果を発揮しているものとして不安定雇用が活用されているからであります。
 三点目。賃金だけではなく、長時間過密労働、健康への配慮に欠けた夜勤交代制など、過酷な労働条件、環境のもとで働く、そういう労働者も多いわけです。心身の健康を損なう人、過労死、過労自死に至る人もいまだに後を絶ちません。
 脳、心臓疾患による過労死の労災請求件数で見ますと、過労死防止対策が強く言われるようになったこの三年ほどを見ましても、毎年二百五十件前後あります。過労自殺の請求件数、これも二百件ほどあります。その全てが認定されるわけではないですが、実際、亡くなってしまったという、これを訴える件数がこれだけあるということであります。
 こういう労働者の状態、まだほかにもいろいろ指標はあると思いますけれども、これを見てみますと、消費の活性化は進まないだろうと。それから、働くことにおいて、十分な休養をして、十全な体調で臨んで能力発揮をする、このことができない労働者も非常に多い。ここについて、ぜひ御理解いただきたいと思います。
 ヒヤリ・ハットという言葉がありますが、本当に仕事の最中に一瞬気を失ってしまう、そんなドライバーは少なくないよ、看護師さんは少なくないよ、こんな話が現場からはよく聞こえます。皆さん、周りの人も含めた命にかかわるところで労働者の疲弊というものが重大な事故も起こしかねない、こういう状態にあります。
 こんな中で、私はやはり、企業業績の向上、これも進まないだろうということを考えるわけです。働く者の人権の視点、これだけではなくて、経済政策としても、こうした労働者状態の悪化を改善するということは待ったなしだと思います。
 こうした中で、このほど政府は働き方改革というものを打ち出しております。長時間労働の是正、同一労働同一賃金によって非正規雇用労働者の待遇を改善する、この政府のメッセージは、実は私どもの職場の組合員にも非常に前向きに受けとめられておりました。多くの労働者に響いたと思っております。
 この間、働き方の問題の解決、労使関係で改善しようと我々も努力をしておりますけれども、やはり、労働法制の規制強化、監督行政の強化、それから、各産業界の業界ごとの取引慣行ですとか、そうしたものの見直しもなければなかなか進まない。国の関与は必要である、まさに労働条件、雇用を改善しようとして奮闘している労働組合の当事者として、そうしたことをみんな痛感しているからであります。
 しかし、この期待感が、この一年半、期待を持って注目をしてきた働き方改革ですが、極めて残念ながら、関連法案が出されますけれども、私たちの期待を裏切るものだと言わざるを得ません。率直に申しまして、この法案、部分的に改正と見える部分があるにもかかわらず、原案のままでは労働者の命と健康と生活に悪影響を及ぼす、そして持続可能な経済社会の構築にもマイナスを与える、こう危惧するところであります。
 労働者の期待を集めた長時間労働の是正ですとか同一労働同一賃金、こういった改革のメッセージとこの具体的な法案の内容が、どうしてこれほどずれが生じるのか。
 実は、これは私どもは疑問に思っておりましたが、この間、予算委員会で議論をされました裁量労働制と八時間労働制を比較したデータの問題、データの推計の仕方も比較の仕方も非常に誤ったでたらめなデータ、これで認識が整っていたのではないかということです。
 これはショックではありましたが、そこから見えてきましたのは、提案している法制度のもとで何が起きるのか、実態を誤認されたまま法制度論議が進められたのではないか、そういうことであります。
 成長と分配の好循環を実現する、予算案にもうたわれたこの方針。働き方改革関連法案はその方針にも有害ではないか、そのように考えます。
 法案につきましては、やはり再度、労働政策審議会のもとで丁寧に実態を把握する、事実誤認がないか、統計の数字もそうですが、きちんと議論をされていない、現場で何が起きるのか、何が起きているのか、こういうことを審議する作業から行うべきと考えます。
 法案にかかわっての問題点としましては、お手元の資料三ページ目をめくっていただけますでしょうか。焦点となっております労働時間の中でも、裁量労働制についての図を示しております。
 この一カ月の実労働時間につきましては、与野党でいろんなやりとりがあったと思いますが、裁量労働制でも短く働いている人はいるんだよ、平均的なもので見れば短いというこの観点につきましては撤回をされました。
 今、信頼に足るデータとしては、JILPT、労働政策研修研究機構の裁量労働制等の労働時間制度に関する調査、二〇一四年六月、これがあるわけです。この帯グラフを見ていただくとわかりますとおり、裁量労働制で働く方々の方が、長時間労働の傾向は、明確に長いというものが読み取れると思います。また、長時間で働きながらも残業見合いの手当をもらっていない、こういうこともここからわかると思います。
 なぜこうしたことになるのか。あらかじめ一定の労働時間を働いたものとみなす、この制度が問題であります。一定の時間働いたとみなし、そして、表向き、進める側においては、これは個々人の裁量で、早く仕事が終われば早く帰ってもいいよ、こういう話もされるわけですが、グラフから明らかなとおり、そうしたことができる労働者は多くはありません。
 考えてみれば、人事権も、それから、業務量をコントロールする、納期を、決裁を例えばずらすだとか、そうした権限もない普通の雇用労働者は、実労働時間管理を行われない中でこのみなし時間というものを適用される。しかも、それが割増し賃金を払わないでも使われてしまうということになれば、当然使用者としては、これはもう定額働かせ放題という制度に映るということであります。ここをぜひお酌み取りいただきたいということであります。
 具体的な実例を申し上げたいと思います。四ページ目をちょっとごらんいただけますでしょうか。この一を紹介したいと思います。なぜこういうことになるのか、具体的なメカニズムを私たちは御紹介したいと思います。
 これはシステムエンジニアのケースでありますが、会社としては、勤務規定には、業務遂行にかかわる時間配分については個人の裁量に委ねる、こう明記もしつつ、とはいえ、始業、終業時刻についてはフレックスタイム制に準ずるということで、十時から三時までの勤務は縛るということであります。
 ここでは、裁量労働制の労働者は、十時出勤を義務づけられているので十時には行く、しかし終わるのは、一日七時間四十五分とされているみなし労働時間ではなく、二十三時まで連日働いているということであります。そして、連日不払い残業が発生しているということであります。
 当然、労働者の勤務状況の把握、これはされているんですが、自己申告である。正直な申告をして、みなし労働時間が短過ぎるよ、実態とずれているよ、こうしたことは言えないんですか、こう質問しましたところ、それはできないと言うんです。
 それは、長時間労働をしているということになると、裁量を与えているのに自分の裁量内で仕事がこなせていない、こうみなされて評価を落とす、そうしてしまうと、業務改善プログラム、PIPというものにかけられて、通常業務に加えてさらなるノルマが課されてしまう、そしてより苦しい状況に追い込まれる、目標が達成できないと降格、減給、最後は退職勧奨の対象にもなる、このようなことであります。
 要は、労働時間制度だけ法律上いろんなたてつけをしましても、現場では、こうした人事制度とセットとされることによって、ほぼ、制度設計をする側が意図しないような効果が出てしまうということであります。
 これをもちまして、やはり裁量労働については、現場で何が起きるかということを十分把握の上で検討していただきたいということであります。
 二点目です。
 五ページ目にありますが、同じく、高度プロフェッショナル制度、これにかかわりましても、やはり、労働時間規制を雇用労働者に対して外してしまう、裁量労働制の更に上を行くようなものであります。労働者保護法制たる労働基準法の趣旨に反しておりまして、究極の働かせ放題となるということであります。
 五ページ目に一例を書いておりましたが、これはもう今は実行されておりませんが、法制度上の要件を満たしてもこんなことになるということを示しております。
 これは、年間百四日の休日を与えるという要件と、あと健康確保措置というものが幾つかありますが、最も緩いケースで計算をしますと、一日二十四時間、二百五十六日労働をさせる、年間六千時間を超えるような労働をさせても違法ではないということです。もちろん、人間、こんなに働くことはできませんけれども、これが違法ではないということが問題だと私たちは考えております。
 加えて、裁量労働制については、裁量を与えるから始業、終業について指揮命令してはいけない、こういう規制がかかっておりますが、高度プロフェッショナル制度につきましては、始終業時刻を指定するような、そういう命令を禁止するという条項すらありません。
 例えば、月曜日の朝から来て土曜日まで連日二十四時間働けという業務命令が違法ではない、しかも、これについて深夜割増しも何もかからない、こういう制度であります。これは法律構成上の瑕疵ではないかと我々は考えております。ぜひこの制度についても撤回、廃案を求めたいと思っております。
 六ページ目をごらんください。今回、上限規制を初めて導入するということであります。これは労働組合もずっと要望をしてきたことでありますから、それについては改正であると言いたいところではありますけれども、制度設計上、極めて忙しい一カ月については、先生方御承知のとおり、百時間未満、そして二から六カ月の各月を平均したものは八十時間という上限をつけるということであります。
 六ページ目の中ごろにあるものは脳、心臓疾患の時間外労働時間数別に見た労災の支給決定件数ですが、ぱっと見ていただいてわかるとおり、六十時間以上、それから百時間未満、このところで過労死をされて労災認定されている案件は極めて多いです。今回の上限規制案では、このように過労死が発生してしまうということであります。これをどう見るかということであります。
 従来、過労死認定、過労死に関する損害賠償の裁判が行われておりますが、六ページ目の下に二例挙げておりますが、ザ・ウィンザー・ホテルインターナショナル札幌高裁判決、それから穂波事件岐阜地裁判決、これ等を見ますと、月九十時間台、八十時間台でも、このような時間外労働を義務づけるような労使合意というのは安全配慮義務に反する、公序良俗に反する、極めて厳しいこういう判決が出ております。
 ですが、今後、労働基準法で百時間未満、八十時間までオーケーというものが書かれてしまうと、使用者としては、我々としては遵法精神のもと合法的な範囲で時間外を命じた、その中で不幸にして御本人が弱いから亡くなってしまった、こういう発言が出るのではないかと思うわけです。当然、裁判官にも、判決に一定の影響が及ぶのではないか、私たちはこう考えます。
 ぜひとも、過労死が起きるような上限ではせっかくの上限規制が泣いてしまうという現場の声をお聞き入れいただきたいと思います。
 加えて、七ページ目を見ていただきますと、今既に三六協定の時間外についての改悪提案が、労働組合を持っている我々のもとでも、使用者側から出されております。これは何かといいますと、政府案を既に先取りをする、百時間未満というのがもう考えられているよ、半年、各月八十時間でもいいよ、我々の三六協定もそうしようではないか、こんな話が出るわけです。
 下のグラフからわかるとおり、時間外労働の上限について、百時間を超えるようなものを設定しているというのは一・二%にすぎません。八十時間超で見ましても五%弱です。
 ほんのわずかなところについては上限を百までという高どまりで若干是正させる効果はありますが、より短く労使で合意をして時間外を抑えてきた、そういうところについては、むしろ労基法を盾に百までオーケーだよという改悪提案を招いている、これが昨年の春闘でも提案されている、こういう事態であります。
 実際、法律が通りましたら本当に悪影響が広がるのではないか、むしろ長時間労働が蔓延する事態を招くのではないか、このような懸念を持っております。
 お手元の発言の要旨としましては、ほかにも、働き方改革にかかわって、同一労働同一賃金、これも本当に非正規の皆さんは大いに期待をしたわけですけれども、実はそれが実現されないということも書いております。
 ここにつきましては九ページ目にありますが、今回の法案では、残念ながら、将来の転勤の可能性ですとかそういったものを理由に、今同じ仕事をして同じ職責を担っている正規労働者、非正規労働者であっても、今同じであっても将来の展望が使用者から見て違うから賃金格差をつけていいよと、この差別構造を温存させるような法律となっております。
 これは、今の労働契約法、パート法の欠陥であります。この欠陥をそのまま生かしたようなものでは働き方改革にはなりません。また、ましてや、同一労働同一賃金という大きなテーマで労働者の期待を集めたこの法案の趣旨が生きないということであります。
 時間が参りましたので、ほかにも多々申し上げたいところはありましたが、重点的には、労働時間、同一労働同一賃金のところをこの発言のところでは申し上げまして、私たちの要望とさせていただきます。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119605262X00120180221_004

発言者: 伊藤圭一

speaker_id: 710

日付: 2018-02-21

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会