浅野直人の発言 (環境委員会)

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○参考人(浅野直人君) 本日は、気候変動適応法案の参議院環境委員会での審議に際しまして、参考人として意見を述べさせていただく機会をお与えくださいましたことに感謝を申し上げます。
 気候変動の緩和のために、地球温暖化対策計画は、我が国が二〇三〇年度において温室効果ガス排出量を二〇一三年度比で二六%削減し、さらに、長期的目標として二〇五〇年度までに八〇%の削減を目指すこととしており、本年四月に閣議決定されました第五次環境基本計画もこれを再確認しております。しかし、これらの目標が達成できたといたしましても、平均気温が引き続き上昇することを完全に抑えることができるものではございません。
 本年二月に発表されました気候変動の観測・予測及び影響評価統合リポート二〇一八によりますと、一九〇八年から二〇一六年までの、ということは、つまりこの約百年間の日本付近の海面水温の年平均値の変化は東シナ海では一・二度前後の上昇と報告されておりまして、この海域での表面海水温の上昇は、昨年の福岡県朝倉市、東峰村や大分県日田市で起こりました九州北部豪雨被害にも大きく関係していると専門の方からお聞きいたしました。
 なお、このリポートには、こういったような傾向は二一〇〇年までに更に進行する可能性が高いとも報じておりまして、このことが渡り鳥でありますタカの一種のハチクマ、これは福岡市油山の上空を渡りのルートにしておりまして、福岡市城南区はタカが渡る町という言葉を区の愛称にしているんでございますけれども、このハチクマの飛翔ルートにも大きな影響をもたらすおそれがあると報告をしております。お配りした資料の二枚目にはそのことについてのリポートも載せておりますので、御覧いただきたいと思います。
 というわけで、この気候変動に対応して、これによる被害の防止、軽減、その他生活の安定、社会経済の発展、自然環境の保全を図ること、すなわち気候変動への適応を図ることは、緩和とともに環境政策の大きな課題でございます。
 我が国では、二〇〇五年から、環境研究総合推進費によりまして、地球温暖化影響の本格的な研究、これS4と申しますが、が始まりました。続きまして、二〇一〇年からは温暖化影響評価・適応政策の総合的研究、S8という研究が始まりまして、これが大きな成果を上げ、高い評価を受けております。
 また、これにちょっと先立ちますが、二〇〇六年に閣議決定されました第三次環境基本計画は、適応策が必要であることを既にこの時期から指摘しておりまして、さらに、二〇一二年の第四次環境基本計画では、適応への取組が必要であることを更に強調いたしました。
 これらを受けまして、二〇一三年には、中央環境審議会地球環境部会の下に気候変動影響評価等小委員会が設置されております。この小委員会は、さきの総合推進費での研究に従事した方々を中心として、日本のこの領域の研究者を総動員する形で温暖化影響の評価、検討を進めてくださいまして、二〇一五年三月には「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」とする報告書を取りまとめていただきました。これが中央環境審議会から意見具申という形で環境大臣に提言されたことでございます。
 その結果だと存じますが、同年、二〇一五年の九月には、政府に局長級の気候変動の影響への適応に関する関係府省連絡会議が設置されまして、さらには、十一月に、日本の気候変動の影響への適応計画が閣議決定されるということになりました。
 こういうようなことによりまして、我が国の政府や地方公共団体あるいは事業者による適応への取組が本格的に進み始めました。昨年からは、関係府省、地方公共団体の御協力を得まして、地域適応コンソーシアム事業も始まりました。こういうような研究やこれまでの取組の積み重ねがございまして、今回、この気候変動適応法案が国会に提出されたわけでございます。
 私は、この法案が早く速やかに可決されまして気候変動適応法として施行されますならば、これまで以上に国民の適応に関する関心が高くなりまして、取組も進められていくことと大いに期待をいたしております。
 ところで、気候変動の影響について緩和と適応は深く関わりを持っておりますので、この二つを統合的に法制化すべきだという考え方は、実は昨年、環境法政策学会でシンポジウムを行いましたときにもそのような発言が大塚先生などから出されまして、恐らく、今回適応のみを取り扱うという法案が出たことには不満があるという御意見があろうということも理解はできます。
 ただ、緩和の政策に比べますと、適応策というのは、防災あるいは農林業その他多くのこれまであった他の政策領域での施策と深く関わり合いがございまして、関係する府省が多岐にわたります。そしてまた、適応策というものは、緩和に係る政策の体系とは構造を異にする面も少なくないと考えております。
 参考資料の三枚目には、これまでの我が国の緩和策に関する法令や計画がこんな沿革を持っているということを記しておりますが、これ御覧いただいたら分かりますように、一々は申し上げませんけれども、緩和に関しては随分多くの法律ができ上がり、また、それに基づく計画などが作られております。
 したがって、現在、直ちにこの緩和と適応を同一の法律の下で一つの体系として制度化していくということのためには、制度間調整の検討のために少し時間が掛かるのではないかと思われます。しかし、適応策への取組は緊急に始める必要もございますので、これを本法案のように緩和策を定める法令とは別の法律に位置付けまして、関係主体の連携の下で直ちに適応策にも本格的に取り組んでいくという、そういうやり方も当面はやむを得ないのではないかと考えております。
 その上で、本法案の規定のうち大きな意義があると考えております点は次の点でございまして、まず、特に、国及び地方公共団体が法定計画として適応計画を作るという規定が置かれたこと、そして、このために必要となる科学的な知見の獲得に一層力を入れなきゃいけないというので、いろいろなことが規定に置かれていることでございます。国にあっては国立環境研究所の適応策推進のための役割を法的に位置付けておりますし、また、地域にも気候変動適応センターを置いて情報収集と提供を行うとされたことも重要だろうと思います。
 これによりまして、国と地域での適応計画が円滑に作られ、さらに、計画に基づいた国や地方公共団体による適応策への取組が進められていくということ、また、関係主体によって組織される気候変動広域協議会が活動をすることができますと、これで関係主体の連携の下での適応策への取組が更に拡大されるということを大きく期待しております。
 先ほど申しましたように、適応策と申しますのはこれまである政策や施策とのつながりが大変大きいものでございまして、ある意味では、これまで他の目的で進めてきた施策や政策というものが適応策としても位置付けられるのだということに気付くというのがこの領域でのポイントではないかと思っております。ですから、関係主体が連携するということはそのためにも大変有効なことではないかというふうに思っているわけでございます。
 気候変動の影響は、地域の置かれた状況でその現れ方が違ってまいります。ですから、緩和策を進めるということ以上に地域の特性に応じて考えられなければなりませんし、地域の特性に応じた取組が必要でございます。
 地方分権が強く言われております現在でございますから、地方公共団体に計画策定を義務付けるという立法はなかなか難しいとも聞いておりますけれども、地域でそうはいいながら着実に適応計画が作られること、そして、地域での状況に応じてどういう取組をすべきなのかということが明らかにされ、関係する各主体の役割がはっきりしまして、取組も促進されるということは大いに大事なことだろうと思います。
 本法案は、計画やセンターについては、各自治体ごとにといわずに、単独で又は共同で策定、設置というふうな弾力的な考え方を示しておりますけれども、これもまた適応策の特性ということを考えますと、よく考えられた規定ではないかと思います。国立研究所との連携の下での地域センター、広域協議会の役割、繰り返しになりますが、とても重要ではないかと思っております。
 広域の協議会でございますが、これは先ほど触れました昨年度からの地域適応コンソーシアム事業の中では、北海道・東北、関東、中部、近畿、中・四国、そして九州・沖縄と、以上の六ブロックでこの法令の趣旨に近い組織が既に設置されまして、活動を始めております。
 九州・沖縄地域では、実はこれに先立ちます十年前の平成二十一年から、九州・沖縄地方の地球温暖化影響・適応策検討会といたしまして、法案の定める地域協議会に近い情報交換組織をつくって活動を進めております。
 具体的には、工学、医学、農学、水産学、環境科学や社会科学分野の研究者に集まっていただき、さらに九州・沖縄各県、九州の政令市の関係者を加え、これに国土交通省、ここは大変協力的でありまして、河川部局や運輸部局がそれぞれ人を出してくださっていますけれども、気象庁あるいは農林水産省、林野庁、経済産業省、内閣府沖縄総合事務所、厚生労働省、これは検疫でございますが、こういったような国の地方支分局・事務所からも参加をいただいておりまして、環境省九州地方環境事務所が母体となって組織がつくられました。これまでに定期的に協議会の会合を開きまして、そこで情報交換をしたり意見交換をしておりますし、さらに、この会が母体となりました地域でのワーキンググループの会合あるいは一般への情報発信などを進めてまいりました。
 そのこともありましてか、九州・沖縄の各県、政令市では、この十年の間に、環境行政の担当者のみならず関係する政策領域の担当者の方々が適応策の必要性を認識してくださるようになりまして、多くの自治体では既に環境基本計画あるいは地球温暖化対策法に基づく自治体の実行計画の中に適応策に関する記述が取り入れられて、実際の施策も進められるようになってまいりました。
 ただ、これまでの地球温暖化対策での経験に照らして考えてみますと、国は、例えば地域に温暖化防止活動センターを置くといったような組織制度づくりには大変熱心でありますけれども、そのつくられた組織が持続可能な形で活動できるようにという支援という面で見ると、必ずしも十分でないことが気になってきております。ですから、特に財政的な支援を含めて、本法案に基づいてつくられることになります地域の気候変動適応センターや気候変動適応広域協議会の活動支援については、国としての特段の配慮をお願いしたいと考えております。
 加えまして、特にエネルギー供給とか通信、運輸その他の公共サービスに関わりがあります民間事業者を特に中心といたしまして、さらに、この国の経済社会に必要な製品やサービスの供給に関わる民間事業者にも将来の気候変動への十分な認識を持った事前の準備、対策を進めていただくことは是非とも必要だと思います。
 本法案では、事業者に適応計画を策定、義務付けというところまでは規定しておりませんけれども、しかしながら、三条の二項、四条の二項は、国や地方公共団体の責務ということで、この事業者に対する様々な配慮が必要だということを規定しておりますし、五条には事業者が努力をしなければならないと規定され、七条の国の適応計画にも、その七号では事業者の活動促進に関する条項が置かれております。さらにまた、十四条で定められている広域協議会の構成メンバーが例示されておりますけれども、その中に事業者が加えられていることについても注意されるべきことと考えます。特に、行政関係者はこういう規定があることをしっかり認識し、事業者が適応策に積極的に加わってくださるように促進させる必要があろうかと思います。そういう意味では、業所管の各府省にもこのためにしっかり働きかけていただく、種々の御協力をいただくように強く要望したいと思います。
 なお、最初に申し上げましたハチクマの渡りルートがなくなってしまうおそれといったようなことについて、人間が適応策を考える余地は極めて少ないわけでございます。適応と並んで、あるいはそれ以上に何よりも緩和の実現が必要である、このことについては、長期の視点からの対策を検討し、さらに今からその実施をしなければならない、こういうことは昨年三月に中央環境審議会地球環境部会に置かれました長期低炭素ビジョン小委員会で取りまとめました長期低炭素ビジョンに記したとおりでございますので、この点も改めて付け加えさせていただきたいと存じます。
 私の冒頭の陳述は以上でございます。
 どうも御清聴ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 119614006X01020180531_003

発言者: 浅野直人

speaker_id: 33377

日付: 2018-05-31

院: 参議院

会議名: 環境委員会