棗一郎の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(棗一郎君) 弁護士で日本労働弁護団の幹事長を務めております棗と申します。
私たち、労働事件の専門家の法律家の集団ですから、今日は労災申請認定の実務、それから裁判実務の観点から、この働き方改革関連法案について御意見を述べさせていただきます。私の意見のレジュメがありますので、それを御覧になりながらお聞きください。
初めに、私の法案に対する基本的な立場を説明しておきますと、私は法案全てに反対の立場ではございません。高度プロフェッショナル制度の導入には反対ではありますが、同一労働同一賃金法案には賛成でありますし、労働時間の罰則付き上限規制法案に対しては条件付でありますけれども賛成で、是非入れるべきだと思っております。どれも日本の労働者の重大な働き方に影響を及ぼし、今後の日本の雇用社会の在り方を左右する極めて重要な法案ですから、個別に切り離して審議して採決していただきたいというふうに思います。
第一に、労働時間の罰則付き上限規制法案について申し上げます。
今回の労基法改正法案第三十六条五項、六項では、議員の皆さん方もう御承知だとは思いますが、時間外労働の上限が一か月百時間未満、月平均八十時間を超えないことというふうに定められておりまして、これは過労死の国が定めた労災認定基準の水準に近い、それに達する上限時間が設定されていることになります。これでは、労基法が過労死認定水準の長時間労働を容認することになりかねず、誤解を生じます。これは、幾ら何でも上限時間長過ぎますので、もっと過労死の労災事故が起こらないような水準まで下げるべきだと思います。
ほとんどの国民にはまだ知られていないことだと思いますが、改正法によると、休日労働を含めると、一月平均八十時間以内、年間で合計九百六十時間の時間外・休日労働を命じることが可能になってしまうんですね。これではますます過労死ラインを超えてしまいますので、やはり罰則付きの上限は引き下げるべきだと思います。
日本の裁判所も、労働時間の上限規制について、月九十五時間分の時間外労働を労使合意で行ったという、こういう事案について、裁判所は、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえあるというふうに言っておりますし、月八十三時間のみなし残業手当の効力が争われた事件で、裁判所は同じように、相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に反すると言わざるを得ないと言っておりますので、労働部を経験した裁判官の方も、今回の法案大丈夫かというふうに心配されておりますので、是非上限を引き下げていただきたいと思います。
それから、気を付けていただきたいのは、次の三ページですけれども、使用者の安全配慮義務、この今回の改正によって、使用者の安全配慮義務が、労働契約法の五条違反ですけれども、これが免脱されるものではないということを明確に確認していただきたいと思います。そうでなければ、今後、裁判実務では、使用者から一月百時間未満、月平均八十時間を超えなければ労基法違反にならないんだから合法でしょうと、使用者の民事上の責任、損害賠償義務はないという主張を許してしまいかねません。ここのところはしっかりと審議していただいて、そのようなことがないようにお願いしたいと思います。
次に、高度プロフェッショナル制度の問題点について申し上げます。
安倍総理大臣は、今年の六月四日の参議院の本会議において、高度プロフェッショナル制度については、その対象業務に関し、働く時間帯の選択や時間配分は、労働者自らが決定するものであるということを省令に明記する方向で検討しているというふうにおっしゃいました。ところが、労基法改正法案四十一条二項の中には、高プロ対象労働者に労働時間に関する裁量権、すなわち自ら働く時間と休憩を決める権利がある、出退勤の自由がある、休む自由があるという、法文上明確に書かれておりません。そうなると、法律家から言わせれば、そこから直ちに労働時間についての自由裁量が高プロの対象労働者にあると、要件であるということは言えませんので、政府がそういうふうにおっしゃるのであれば、明確に法文に書き込むべきだと思います。
職場の実態からすれば、政府が宣伝されているように、労働者が成果を出せばいつでも早く帰れるようになるという保証はどこにもありません、このままじゃ。一つの仕事が終われば次の仕事が降ってくるのが職場の現状であります。しかも、高度の専門職の労働者は優秀な労働者ですから、この優秀な人たちに仕事が集まるに決まっています。業務量は増えるんです。そうすると、自ら時間を決める、帰れる、休める、裁量権があるということを法文に明記しないと大変なことになってしまうと思います。
次に行きます。
五ページから六ページですけれども、高プロ対象の対象業務が法案の提案の段階で具体的に定められていないというのは極めて問題だと思います。特に、条文にあります、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務とありますが、一体何を意味するのかさっぱり分かりません。これでは国民にとってどういう業務が高プロに当たるのか全く分からないものとなっていますので、法律を作る段階できちんと明示していただきたいと思います。そうしないと、もう導入ありきと言われても、批判されても仕方がないというふうに思われます。
次に、六ページですけれども、先ほどの安倍総理の御発言では、高プロの要件を満たさず、高プロ制度の適用が認められないこととなった場合には、法定労働時間に違反するとともに割増し賃金の支払義務が発生し、罰則の対象になるというふうに言われていますが、しかし、私、現場の労働基準監督官の方たち何人かの方たちから聞きましたけれども、高プロは労働時間の記録が残りませんので、立件しようがないじゃないかと、処罰できなくなってしまうんじゃないかと、また、実際の労働時間の記録が残っていないので、労災認定することは難しいとおっしゃっています。
労災認定の実務、裁判の実務もそうですけれども、ざっくりとした認定では誰も認めてくれません。しっかりと、何時から何時まで何時間働いたということを主張、立証しなければなりません。法案に定められているような健康管理時間では労災認定されませんし、割増し賃金の支払も命じることはできません。なぜなら、健康管理時間は事業場内にいた時間、すなわち在社時間と事業場外で労働した時間の合計ですから、実際に働いた時間ではないからです。これでは認定できません。ですので、きちんと労災認定ができるように、処罰できるように、それから残業代を請求できるように、客観的な労働時間を把握する義務を是非とも課していただきたいというふうに思います。
それから、七ページ、八ページに行きますけれども、加藤厚労大臣は答弁で、たとえ労働時間の記録が残っていなくても、PCのログイン記録等で労働時間を認定することができるというふうにおっしゃっていますが、そもそも始業から終業までの労働時間が全て社内PCに残っているわけではありませんし、ほとんどの労働者はパソコンの前だけで仕事をしているわけではありません。
我々が経験した事例では、ある金融機関の過労死事件で、PCのログ記録が残っているのに、使用者側が、パソコンを開けていただけでは仕事ができていなかったはずだと、そういう方便を労基署が丸のみにして労災認定を不支給にしたという事件がありますし、私が担当した専門業務型の裁量労働制で働いていた市場アナリストの男性の過労死事件では、使用者が死亡直後に自宅のPCを回収に来て証拠隠滅を図ったという事件まであります。どうやって労災の認定の中で労働時間を認定していけばいいということになるんでしょうか。是非この点をきちんと手当てしていただきたいと思います。
最後に、九ページ、十ページですけれども、現在、働き方改革関連法案と同時に審議されている労働安全衛生法の改正案、つまりパワハラ規制法案については、労働弁護団も十年以上も前から職場のいじめ、嫌がらせの防止に関する立法措置が必要だと訴え続けてきましたので、現状、職場のいじめの相談が五年連続でトップで、訴訟や労働審判も多数提起されていますから、是非とも立法的な措置をお願いいたしたいと思います。
終わりに、今の日本の労働時間法制は、現在でも十分に弾力的な労働時間法制になっております。原則形態である通常の労働時間規制、法定労働時間制の下で働いている労働者は全体の四〇・八%にすぎません。今日いただいているこの法律案の参考資料の三百四十五ページに厚労省の資料として掲載されています。これ以上労働時間規制を緩和する必要はどこにもないと思います。
高プロ制度は日本の全ての労働組合と労働者が反対しておりますし、過労死を考える家族の会など市民団体、それから日本弁護士連合会や我々法律家団体も反対しております。最近の共同通信の調査では、主要企業百社のうち約七割が今の国会で成立させる必要はないと回答しています。
このように、労働側だけじゃなく使用者側も、市民団体も法律家団体のほとんどが反対している高プロが入っている働き方改革関連法案を強行的に採決されるのじゃなく、法案から是非削除していただきたいと思いますし、国民の理解を得られるようにするためには、少なくとも徹底した審議を行って、長時間労働と過労死を助長しかねないような問題点を丁寧に丁寧に除去していただきたいと思います。
以上です。