望月友美子の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(望月友美子君) 本日は、大変貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、現在、公益財団法人日本対がん協会の参事を務めておりますが、日本対がん協会は、今年で創立六十周年を迎えるがん制圧のための民間団体です。私ども本部と四十六の道府県支部とがグループ一丸となって、がんに負けない社会をつくるため、禁煙推進などのがん予防活動やがん検診による早期発見、がん患者支援、そして正しい知識の普及啓発や政策提言に努めております。
 私自身は、公衆衛生の最大の課題であるたばこ問題に取り組み始めてはや三十年、前に進むと更に新たな課題が立ちはだかってくるのがたばこ問題です。しかし、多くの国々では、研究者も市民団体も政治家の方々も、文字どおり生涯を懸けて闘い続けています。ほかの大きな政治課題同様、複雑な連立方程式を解いて最適解をいかに早く見出せるかに懸かっていますが、一刻の猶予もないのはたばこで多くの命が失われることが分かっているからです。
 条約の締約国会議などのたばこの国際会議に出ますと、デスクロック、死の時計と言って、時々刻々たばこで亡くなる方の数が示される時計が掲示され、会議での真剣討議が促されます。日本では喫煙と受動喫煙合わせて一年間に約十五万人の方が亡くなっているので、割り算をしますと三・五分に一人、どこかでたばこによって命が失われている計算になります。受動喫煙に絞っても、三十五分に一人となります。これが我が国のデスクロックです。
 横長のスライドの二ページ目を御覧ください。
 これは、WHOたばこ規制枠組条約、FCTCと国連による人権との関係を示したもので、FCTCの前文にも高らかにそのことが述べられています。ここに示すように、日本は国連の人権に関する規約や条約への批准はそれぞれの条約発効後と遅かったのですが、FCTCに限っては十九番目に批准し、その後、条約が発効しました。これにより、次に述べる条約第八条の履行義務が二〇一〇年と時限的に定められたのですが、締切りはとっくに過ぎています。今回の健康増進法改正で第八条の履行義務が果たせたとしても、二〇二〇年の施行では実に十年遅れなのです。
 重要なことは、これらの国連条約では到達可能な最高水準の健康を享受する権利が認められていることです。
 スライドの三ページ目を御覧ください。
 これは、FCTCの履行を補完する六つの政策パッケージとしてWHOのMPOWERという監視評価プロジェクトができているのですが、そこから抜粋したものです。これは、定期的に各国の政策達成度を測定し公表する言わば政策通信簿で、WHOの全加盟国からデータが集められています。日本は決して優等生とは言えず、特に受動喫煙防止のP、メディアキャンペーンのW、広告禁止のEなどは最低ランク、すなわち不可の状況です。今般、厚生労働省が健康増進法改正により一ランク上がると説明しているのはこの成績ですが、厳密に言うと、喫煙所が全てに認められる規制では不十分と言えます。
 WHOは、これらの六つないし七つの政策を包括的なパッケージとして実施することでたばこ消費を有効に減らせるとしています。このように、日本のたばこ政策が遅れているのは、受動喫煙対策だけでなく全ての対策で最高水準に達していないために喫煙率も下げ止まりとなっているのです。逆に言えば、二〇一二年に閣議決定されたように、喫煙率を下げることが政策目標であるならば、MPOWERのいずれも怠らず包括的に実施する必要があるわけです。
 次に、スライドの四ページ目を御覧ください。
 これは、お手元に二つの縦長資料もございますけれども、条約第八条ガイドラインの抜粋で、全文はお手元にございます。
 特に強調すべきは、基本的な留意事項にあるように、全ての人を対象にしたもので、一部の人々に限るものではないということで、だからこそ真っ先に履行することが求められました。ここでは喫煙者と非喫煙者の区別すらなく、子供や妊婦、患者さんなど有害物質に対する感受性の高い集団の存在を鑑みますと、これまた区別することなく、最も弱い集団を基準にした規制の在り方の前提となるものです。
 次に、スライドの五ページ目を御覧ください。
 ここからは、健康増進法改正案の問題と解決案について、五項目に絞り述べさせていただきます。
 まず、受動喫煙、望まない受動喫煙と表現について。突然後者を目にしたときに大変違和感を覚えました。かつてインボランタリースモーキングという英語表現が使われ、不随意喫煙とか意に反する喫煙などと訳したことがありますが、最近ではセカンドハンドスモークという言い方が主流です。そもそも、たばこ煙に含まれる有害物質から保護することが目的なのですから、望むと望まないとにかかわらず、あらゆる暴露から守ることが本質であったはずです。かつてたばこ産業が好んで使った言葉がインボランタリースモーキングだというので、その日本版だとしたら、一体誰が導入したのでしょうか。
 この状況に対する解決策としては、これを逆手に取って、最大の被害者になり得る喫煙者も含むあらゆる人が受動喫煙を望まない社会通念をつくり上げるしかありません。先ほど登壇された長谷川一男さんがよくおっしゃるように、受動喫煙により身近な者同士が加害者と被害者になってしまうことを避けなければなりません。
 たばこ会社のスポンサーシップもありますので、マスメディアキャンペーンは難しいかもしれませんが、ソーシャルメディアを使ったキャンペーンであらゆる人が受動喫煙を望まない空気をつくっていくことはできると思います。
 喫煙所が不可避なのであれば、反喫煙、すなわち禁煙支援の広告展開も禁煙を望んでいる喫煙者の方々へのアプローチとして有効でしょう。日本は禁煙外来の制度があっても、それ以外の禁煙支援のセーフティーネットがほとんどなく、喫煙者が容易に禁煙できる環境が整っていないからです。
 次に、スライドの六ページ目を御覧ください。
 東京都受動喫煙防止条例では面積ではなく人で分けるとしましたが、百平米にしても三十平米にしても、面積による規制の有無は、スペインで一度実施され、後に失敗と評価された旧スペインモデルの踏襲です。なぜ外国で失敗と分かったことを今、日本で実施するのでしょうか。
 その弊害については、ドイツがんセンターのシュナイダーらの論文で列挙されたとおりですが、特に例外規定による空洞化、不当競争、遵法意識の低下、地域格差、従業員の健康、社会的対立などの問題が生じ得ます。先行した神奈川や兵庫の条例でも罰則規定があり、違反者がいるにもかかわらずまだ一件も摘発されていないので、国の法律でも同じことが起こり得ます。
 もちろん、面積規定の撤廃が望ましいところですが、きっちり政策評価をし、改正に向けた明確なロードマップを示すべきです。失敗が分かっているので、五年も待つ必要はございません。
 次に、スライドの七ページを御覧ください。
 改正案では喫煙専用室などについて細かい規定と要綱が定められていますが、国際社会も日本社会も長い間掛かって喫煙をデノーマライズ、普通でないこととしてきたことに完全に逆行しています。
 たばこ産業は、これまで二十年以上にわたり、喫煙室や屋外喫煙所の研究をしてきました。特に、機能だけでなくデザインにも注力し、魅力的な喫煙所そのものが広告効果や喫煙誘引効果まで発揮するようになりました。喫煙者は喫煙所がある限り吸い続けるので、職場においても社会においても喫煙所は喫煙率低減の妨げとなります。また、子供の目に触れることにより喫煙行為が美化されるおそれがあります。
 解決案としては、たばこのリスクの本質にふさわしい扱い方をするべきで、喫煙所のデザインについては、広告宣伝が許されるので極めて注意する必要がありますが、むしろたばこのプレーンパッケージのように内装、外装とも制限を掛け、さきに述べたように、たばこのリスクを知らしめるメディアボードとしての活用も検討できると思います。喫煙者の自由は保持されたままです。
 次は、スライドの八ページ目を御覧ください。
 喫煙所設置に対する補助金の問題です。既に平成三十年度予算として合計五十五億円、うち喫煙所設置三十三億円が計上されていますが、より望ましい全面禁煙への誘導ではなく、喫煙維持のための喫煙所設置を補助することは分煙の固定化にほかなりません。さらに、将来的な禁煙化の妨げになります。申請や設計は複雑なので、既に活躍しているたばこ産業のコンサルの協力が不可欠となった場合には、明らかな条約違反になります。
 バランスを取るには、新たに全面禁煙に踏み切る当事者にも同等の補助金を交付できるように要綱を改定、追加すべきだと思います。時限措置にすることにより、禁煙化が速やかに進みます。また、補助対象外のコストが大きいことも示すことで、禁煙化への判断が容易になります。さらに、規制以上の取組をしても構わないというので、民間の力、特に投資家の力を借りて全面禁煙への誘導をすることも大きなインセンティブとなると思います。
 最後に、スライドの九ページを御覧ください。
 いわゆる加熱式たばこなど、法律では指定たばこという分類です。当分規制緩和の対象ですが、この経過措置により飲食可の加熱式たばこ専用ラウンジなどが増えていく可能性があります。国際的にはたばこ製品とみなして同様の規制を行う考え方がありますが、日本は新しいたばこの世界最大の実験場になっているにもかかわらず容認してしまっています。たばこ産業は現在三社がそれぞれ独自の製品を投入していますが、今後はバリエーションも増え、研究も対策も実態から置き去りになる可能性があります。
 このため、指定たばこという新しい概念を明確に整理し、たばこ産業の動向を監視しつつ、国としての政策形成の原理原則を定める必要があります。
 最後に、本国会での健康増進法の改正に対しては、国際水準に照らし合わせても、これまで述べてきたような様々な問題点を勘案しても、現行案はいずれも不十分であると言わざるを得ません。しかし、これを一歩とみなすためには、それにとどまらず更なるゴールを明確に定めて、次の一歩、二歩、三歩と間断なく進める必要があります。命の政策形成には、当事者としての市民社会への参画こそ不可欠です。今後は、監視力や実践力の提供も含めて、一日も早く世界に誇れるたばこ政策を実現して、デスクロックを止めたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 望月友美子

speaker_id: 18679

日付: 2018-07-10

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会