西村直之の発言 (内閣委員会)

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○参考人(西村直之君) それでは、ギャンブル等依存症対策基本法及びギャンブル依存症対策基本法に対する意見を述べさせていただきます。
 本法案は基本法ですので、この問題に必要な対策、全体を俯瞰しますと過不足と感じる内容はありますが、このいただいた時間の中では、今後、この法案、この基本法がより有効に機能するために重要と思われる課題について取り上げさせていただきます。
 まず初めに、法案で用いられているギャンブル等依存症及びギャンブル依存症の用語に対する医学的な見地からの問題を述べさせていただきます。
 両案とも、ギャンブル等またギャンブル依存症と、依存症の用語が用いられております。精神医療の現場で用いられることはこの用語あるのですが、実は医学的診断名としてはギャンブル依存症は通称や俗称というものであって、WHOが作成した診断分類ICD11においても、アメリカ精神医学会が作成した診断分類DSM—5においても、ギャンブル依存症という用語は現在存在しておりません。両者においては、ギャンブリングディスオーダー、日本精神神経学会はギャンブル障害と訳した診断分類名となっております。
 このギャンブル障害、ギャンブリング障害の包括する範囲は、いわゆる依存症、病的な依存にある人たちよりも幅広く、これをそのまま依存症と読み替えて同一視することには問題があるというふうに考えます。政治用語としての依存症と医療用語のいわゆる依存症の混同や混乱というのは、既にこれは問題として起こっており、このことは冷静で建設的な対策についての議論を阻害しかねないものと危惧しております。諸外国においてもこの名称が約二十ぐらいに分かれておりまして、この用語の統一がいまだになかなかなされていないという混乱が対策の支障になるというふうに聞いております。
 アルコールや薬物においても、診断分類から既に依存症、ディペンデンスという用語はなくなっておりまして、これから十年後、二十年後の日本の未来と世界最高水準の対策を担う新たな法案として依存症の用語を用いることは、世界の研究者、対策者に対してどのように映るのかについて、これもやはり考えておかなければならないと思います。まあ、今後の問題ですので、この法案の充実とともにこの問題が解消されるように希望します。
 さらに、法案の用語としてギャンブル等依存症とギャンブル依存症の定義がそれぞれ異なっているという問題を指摘させていただきます。
 この用語が、先ほど言いました医学用語であれ政治的な用語であれ、定義の明確化は、これは必須の課題というふうに思います。どちらが正しいという問題では、これは定義ですのでないと思いますが、その定義の違いというのは、対策の基本骨格、それから具体的には対策の対象となる人たち、それから支援対象になる人たち、その家族の範囲、そしてそのまたボリューム、人数の違いにつながってくるので非常に重要な問題だと思います。
 この法案を見ますと、ギャンブル等依存症対策基本法では、ギャンブル等依存症は、ギャンブルののめり込みにより生活に支障が出ている状態というふうに、これは状態定義になっております。これは海外の対策でいう標準的な対策標的になっているプロブレムギャンブリング及びプロブレムギャンブラーですね、問題あるギャンブリング、いわゆる問題あるギャンブラーという定義とほぼ同じような範疇になっております。この定義ですと、医学モデルよりもより広い公衆衛生的な生活障害モデルの視点に近い定義というふうになっているというふうに思います。
 一方、ギャンブル依存症対策基本法を見ますと、特定原因行為に関する依存症の定義の下、対策支援対象は依存症の患者(その疑いのある者)及び患者であった者並びにその家族というふうになっております。この定義は、疾病として捉える医学的モデルにより近い定義、対策案となっております。
 この違いは、やはり今後の対策の根幹を公衆衛生のモデルを主軸にするのか医療モデルを主軸にするかの違いにつながって、対策の実施、費用、対策の費用効果等に大きな影響を与えるというふうに考えております。世界の標準的な対策は予防を中心とした公衆衛生モデルに向かっております。私自身もそういうふうにあるべきではないかというふうに考えております。
 その公衆衛生モデルの中では、依存症であるかないかの線引きやギャンブルが原因であるかないかなどの因果関係よりも、今ギャンブルの問題を持っている人を早期に把握し、より早く介入する地域の公衆衛生対策を総合的、戦略的にプラン化させて実行する、近年これは海外ではレスポンシブルゲーミングという戦略になっておりますが、この戦略にのっとった国や地域の対策の流れというのが、これがやはり世界の流れになっておりますので、これを踏まえると、あえてより狭い医療・医学モデルにこだわるよりも、より広い公衆衛生的なモデルですね、生活障害の視点で対策を議論する方がやはり有用だというふうに考えております。
 特に、世界最高水準の対策を掲げて、医療・医学モデルに重きを余りにも置く対策の方向性については、これは私の交流しております北米や欧州の対策に関わる研究者や施策者から、なぜかと、度々奇異であるということを指摘を受けます。日本の皆保険制度ということのある恩恵ということもこれはやはりありまして、医療がかなりの担保になっている事実はありますが、とはいっても、やはり方向性については答えをなかなか率直に返せないというふうに窮しております。
 やはり両法案とも、既に発生した問題と、どちらかというと重症者対策に重きが置かれまして、予防に対する対策戦略の重点化と拡充というのがやはり全体として薄いように思います。この部分の拡充というのが、基本法から実際に展開していく中ではしっかり行われていくべきではないかというふうに思っております。
 ギャンブリングに参加している、ギャンブルの参加者の中に、実際、病的な依存状態に陥る、本来の医学的水準の依存症レベルという人たちが存在していることは、これはもう間違いない事実で、しかし、この比率というのは、実はギャンブルの習慣を持つ人たちの一から三%程度ではないかというふうに大体世界のところでは言われております。
 一方で、自己制御を行いながら、ギャンブルの習慣による問題を抱える人たちというのは、その参加者の大体五%から一〇%、多くても一〇%程度ではないかというふうに言われております。この群は、問題ギャンブラー、プロブレムギャンブラーと呼ばれておりまして、この問題ギャンブラーは、必ずしも問題があるからといって病的な状態に移行するわけではないわけですね。問題を抱えながらも、自分なりに調整又は何らかのきっかけでかなりの割合の人が自己回復又は自己制御しているというふうに言われております。
 世界の対策の黎明期というのは、より重篤ないわゆる依存症レベルの治療介入を標的として、やはり医学モデルを中心として始まったんですが、だんだん対策が進むにつれて、問題ギャンブラーへの早期介入と依存症水準に進行させない自己制御の支援というふうに変わり、さらに現在は、問題がないプレーヤーの問題化防止ということが対策の中心になってきています。これが統合的にパッケージ化されてきているというのがやっぱり世界の流れで、基本法もそのような形に本来なっていただきたいというふうに思っております。
 AMEDの調査の中で問題がある依存症の可能性という人たちが七十万人ぐらいというふうに出ておりますが、これは実際は問題ギャンブラーに相当する人たちを指しているというふうに思いまして、いわゆる病的な依存状態にある重症のギャンブル障害の人たちがこのまま七十万人存在しているわけではないというふうに思います。その一部としても数万人の深刻な問題保有者がいることというのは歴然たる事実で、その方々の介入とケアは早急かつしっかりと対策されるべきではあります。ただ一方で、むしろ病的な依存症レベルではないその数十万人の問題ギャンブラーを、これをいかに増やさないようにするか、それから、いかにこの問題ギャンブラーを病的な依存状態に進行させないかというふうに考えた予防対策がより重要だというふうに思います。
 シンガポールにおいても、このような視点で予防対策を重点化して、問題ギャンブラーの絶対数をまず減らして、その上で、やはりどうしても重症化すると治療効果が薄いので、その方たちの対策に、その絶対数を減らした上で対策に力を注ぐという、そういう方向を取って効果を上げているというふうに聞いております。
 問題ギャンブラーの場合、初期段階であるほど本人の援助を求める行動が期待しやすく、相談窓口の工夫によって敷居を下げることが可能です。私が代表を務めているぱちんこ依存問題相談機関リカバリーサポート・ネットワークでは、年間五千件ほどの相談を受けております。その八〇%が本人です。相談者の約七〇%は過去に相談経験がありません、この電話相談が初めてですね。つまり、電話相談やチャット相談など簡易介入というのは、結構有効性が高くて費用効果が高いということが分かっております。また、問題行動の修正効果も、これも期待できるということが分かって、こういうことは海外の調査で明らかになっています。このように、もっと多様で、エビデンスに基づいた多様な早期介入のプロジェクトの展開というのは重要な対策項目だというふうに考えております。
 また、諸外国の研究では、ギャンブリング問題の発生、ギャンブルの問題の発生には、その習慣ができる前から持っている先行する併存障害の影響が大きいということが明らかになっております。極論すると、ギャンブルへの依存が重篤なケースほどギャンブル以外の精神医学的要因の影響が大きいと、ギャンブルを止めても生活障害が改善しにくく、再発しやすいということが言えます。
 海外の調査で、問題ギャンブラーが問題ギャンブルに先行した障害を有する率は極めて高いということが明らかになっております。つまり、依存症的であればあるほど、重複障害が、併存する障害が多いため、依存症の治療では十分な改善が難しく、むしろ先行又は併存する他の精神医学的疾患の除外や同定、治療を行い、問題行動との関連を明らかにし、その後の生活障害を軽減し、安定した福祉、生活支援につなげていくことが医療の重要な役割だと思います。その点では、本来、精神保健を支える医療という枠組みがありますので、その中でしっかりと、ギャンブル依存だけの問題が特別化されるのではなくて、その枠の中でしっかり見ていくということが大事だというふうに思います。
 自助グループの重要性については、もうこれは議論すべき余地はありませんが、一方で、これまで精神保健の相談や医療機関が、やはり依存症という名前が付くと、自助グループの紹介、回復施設に紹介という形で極めて短絡的なパターン化に陥って、その多様な援助や個別支援の質的な向上が図られてこなかったりということがやはり事実としてあります。やはり、それゆえに世界の依存問題対策と乖離してしまっているということは大きな対策の課題だと思います。それぞれの機関の特性や適応、限界などを踏まえた連携が図られなければならないと思います。
 最後に、そのカジノの是非は置いても、諸外国のゲーミング産業の発展によってこれらのエビデンスが蓄積されてきたという、これはもう間違いない事実です。この蓄積されたエビデンス、知見、それを支える研究者の知の蓄積に対しては、学ぶものは学び、日本に適した対策の活用は積極的に行うべきだというふうに考えております。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 西村直之

speaker_id: 3521

日付: 2018-07-03

院: 参議院

会議名: 内閣委員会